軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6-14.四十九日を終えて

四十九日を終えた翌朝、朝からカイア様に呼び出された。

「おはようございます」

「うむ、おはよう。昨夜は良く眠れたか」

「はい、まあ……」

疲れていて、そのままベッドにダイブしたため、ソロル侯爵の件についての報告はしていない。

暗にそれを責められているようで、肩身が狭い。

「だいぶ、ぐっすり寝てましたからねぇ」

どうやら、ネビアさんが呼びに来たが、全く起きなかったらしい。

そして、朝食を共にというお誘いを受けて、この場にいる。

ラズ様とフォルさんは昨夜のうちにマーレに戻ったらしい。

ここに滞在できない貴族達がマーレに行くので、放置も出来ないとのこと。

ツルギさんはソロル侯爵の相手をしているとか。

「さて、ソロル侯爵とは話をしたのか?」

「薬を作って欲しいそうです。私は作れないので、クロウに頼むようにと言いました。あと、薬師であれば見逃すけど、愛人になるなという感じですかね」

「なるほど。了承したのか?」

「断れる胆力はありません。ついでに、セルフィス家のことを出しておいたら、昨日、庇ってもらえましたね」

正直、お断りしますとはっきりと口に出せるわけがない。

まあ、ラズ様との関係を進めないなら敵対はしない。

さらにセルフィス女伯爵については、あちらも困るのだろう。

昨日の件を見ても、社交界の方で潰してくれそうな気はする。

「ふむ。今更あの家に大きな顔はさせたくないだろうからな。任せてよいだろうが、薬についてはあまり勧められん」

「流行り病、結構深刻なのでは?」

私の問いに対し、ネビアさんが資料をくれた。

国境沿いではすでに、王国内でも被害が出ているらしい。

「王が変わる時期に騒動は起こすわけにはいかぬ」

「……つまり、表立って支援できないということであってます?」

支援をすれば、問題があったと認めることになる。

旧国王派を黙らせるためにも、支援は難しいのか。

「政治的な部分が大きいのでな。侯爵に全てを話すことも出来ぬ。薬自体はツルギの方で、それなりの数の薬を用意できる。メディシーア研究所の方で手配する旨、父が説得したのだが」

「実績がある方がいいってことですね?」

利権がらみがあり、師匠の研究記録はあっても引退間近のじい様達ばかりが名を連ねる研究所に任せ、領民に何かあってはいけない。

そう考える辺りは、真っ当な領主なのだろう。

「研究所には私とクロウも名を連ねるので、研究所への依頼であれば作り手に含まれることを明言したらどうですか? 製作者は明かさないことになっているとして」

「それが良いだろうな」

薬とか、被害拡大を防ぐための石鹸などの物資は今ある在庫は渡すけど、あとは研究所経由にする。

それで問題はないのだろう。

「なんで、そんなにラズ様への敵意があるのか知らないですけどね」

「うむ。あの御仁は例外を作ることを嫌うのでな。俺のように体調不良で休みがちであっても学園に通わせるものだからな。もう片方の当事者は無傷であったこともな」

「それだけで?」

「貴族の間の評価ではな……ラズが未熟であったことは事実。だがな、伯爵家程度に馬鹿にされるいわれなどない」

カイア様の目が怪しく光る。

大切な弟であり、本気で言っていることがわかる。

ラズ様に今さらちょっかいをかけてきたことを怒ってるよね。

ラズ様が泥をかぶっていたのを掘り起こして、自分達だけ得をしようとしているから当然だろうけど。

「ソロル侯爵はどうするつもりですか?」

「なにもすることはない。貴族とはああいうものだ。利があれば動く。だが、昨日のように動いてくれるだけましだろう。俺やラズでは駄目なのだ」

「複雑ですね」

カイア様と気が休まらない食事を終え、石鹸などを詰め込んだ箱をもって、ソロル侯爵が泊まる外の宿へと向かう。

「こちら、石鹸とうがい薬、あと軽い風邪に効く薬などが入っています」

「うむ。ご苦労だった。謝礼だが」

「不要です。代金はラズ様に請求しますので」

「……こちらで払うが?」

「それをすれば、今後、直接私に命じてくる方が増えます。私はラズ様からしか受け取りません」

ソロル侯爵とその従者らしい人が、じろりとこちらを睨んだ。

しかし、同じようにこちらも視線を合わせるだけで、何も口にしない。

「……徹底するのだな」

諦めたように呟いたので、頭を下げておく。

徹底しないと好き勝手に平民を利用しようとするのが貴族だろう。

「なぜ、今更、頭角を現したのだ?」

「ラズ様ですか? ただ、家族を救いたかった。それだけでしょう? 王弟殿下とセレスタイト様、カイア様が王城に囚われたのに、時が解決するとでも?」

他に旗印になれる人がいないからやった。

それだけでも、警戒し、牽制をするのは面倒ではあるけど。

「何もしなかった方に責められる謂れはありませんよ。私も兄は死んだと言われ、呼び出された側です。ラズ様が仕方なく腰をあげたことに文句があるならその場で抗議するべきだったのでは?」

その場にいたのだから。

わかりやすくじっと見つめるとため息とともに「その通りだ」と返事がきた。

「だが、貴族にならぬと家を出たのなら、その通りにするべきだ。今更、後継ぎに名乗り出るのが悪いと思わぬか?」

「ラズ様、別に後継ぎになる気もないですけどね」

「口では何とも言える」

「それはそうですけど……13歳の少年が、婚約者から必要なのは種だけって言われて、そんな女と婚姻したくないと家出する。これ、割と本人としては本気で嫌だったんでしょう? 王族として、それ以外に破談に出来ないってわかっていたから、貴族として生きることすら辞めるために学園に行かなかった。その後もそれがトラウマで女性と関係もてない。割と自分でやったことに責任はとってると思いますけど」

正直、女は無理って、ラズ様言ってるしね。

もう、元婚約者と冒険者時代の女性関係で、そっちについては枯れてる。

「……愛人では?」

「その方が保護する理由に困らないので」

ソロル侯爵は何とも言えない顔をしている。

名ばかりの愛人ですよ。薬師として仕えるだけじゃ、説得力がないからね。

「カイア様もラズ様も、セレスタイト様が継ぐことも、その息子が王弟殿下が治めていた公爵領を継ぐことも承知してますよ? ただ、今すぐに渡せないから、その間の代官やるだけで」

「その通りだ。侯爵。そなたの孫がこの地を継ぐことは確定しておる。ただ、長男は王位を継ぐことになるであろうから、生まれたばかりの次男となるだろうがな」

カイア様が部屋の入口にいた。

いつの間にとも思うけど、横にツルギさんがいるから呼びに行ったのだろう。

カイア様のせいもあると思うんだよね。

病弱でベッドから出れなかった人が快癒して積極的に動くから、警戒する。

そうすると弟のラズ様も警戒対象だろう。

だから、セレスタイト殿下が王太子となることも確定しているし、子どもがこの地を継ぐのも間違いはないとカイア様がこの場で公言する。

敵対行動をするなということなのかな。

「文書として残すことはまだ出来ぬがな。俺は子を作る気はなく、ラズは爵位を得ることは無い」

「セルフィス家のような家が持ち上げようとするのでは?」

「うむ。そなたが潰してくれるならば助かるな。ラズは社交界には出ぬとはいえ、流石に父上の戴冠式には出るのでな。平民の愛人が出席することは出来ぬ」

頷いておく。私を巻き込まないで欲しい。真剣に。

カイア様の言葉に寒気がしてきた。

少し不快そうにしつつも、ソロル侯爵も最終的に頷いた。

「セルフィス家は諦めてくれる気がないようですけど」

「しばらくは身辺に気を付けるとよいぞ」

他人事ですか。

いや、まあ、気を付けるけどね。

「犯罪に手は染めておらぬが、お主を攫うことがあれば別だろう。囮となってくれても良いぞ」

「やり過ぎた場合、どうなります?」

「さて、どうなるだろうな」

カイア様は首を振った。貴族とのあれこれに対し、安易に保証はできないのか。

でも、安全保証がないなら、囮は無理かな。

「囮にならないように気を付けます。あと、今後はソロル侯爵様にもこれ以上は何もしません。メディシーア研究所に納める分はしますけど」

ちらっとソロル侯爵とカイア様を見る。カイア様は頷いたが、侯爵は不服そうだ。

「人材は確保しているから、ソロル侯爵家への薬に不備はない。負担はかけぬ」

「確認ですが……セルフィス伯爵家へは支援はしないということですかな?」

「ソロル侯爵。国や領地の境に、病が関係ないことはわかっておる。広げたいわけではない。だがな、ラズの薬師であって王家に仕える薬師ではない。父が命じることが出来る範囲にクレイン・メディシーア嬢は入っておらぬ」

カイア様の言葉にうんうんと頷いておく。

私に命令権があるのは、ラズ様。まあ、建前であり、カイア様とか王弟殿下に頼まれてもちゃんと作るけど。

「それは……君の意思か?」

「私はラズ様の指示には従いますし、納得すればカイア様、セレスタイト様、王弟殿下の指示にも従いますよ。ラズ様優先ですけど」

ただ、貴族からするとメディシーアの薬関連を王家に握られ、王家の顔色を窺わないといけなくなった。

これって、かなり痛手だろうなとは思う。自業自得だけど。

「他の貴族には?」

「師匠の持病のための素材を奪ったのも貴族で、兄を殺したのは王で? なんで、私が貴族に力を貸すと思うのか、割と不思議です。師匠を救うために動いたのはラズ様だけでした。邪魔をしておきながら……許すと思わないでください」

「心無い貴族がしたことで、全体を語るのはいかがか」

ソロル侯爵がこちらを睨み付けるけど、そんなこと言われてもね。

師匠への嫌がらせをしなかっただけだろう。

助けようとはしていない。だから、こちらも積極的には助けない。

上の命令があったときだけにする。

それでは駄目なら、納得して働く事ができるだけ配慮を要求する。

決定権を委ねるとしたら、ラズ様だけだ。

「それを区別する手立てがないから、貴族は全て信用ならないと平民側が思うのでは?」

今後、どうするかは知らないけど。

私は貴族とは関わりたくはないのだから。

「私は師匠と兄が死んだのは貴族のせいだと思っています。師匠が発作を起こした原因も、隠居するために兄に譲ろうとしたのを邪魔したのも、貴族が手を組んでしたことじゃないですか。それなら、その行為の責任は貴族が負うべきでしょう。……王に薬という生命線を握られたのは、自分たちの行いですよ」

私の言葉に、侯爵は何も返さなかった。

一応、クロウという窓口は残しているし、ラズ様もいる。

自前で薬師を育ててもいいのだから。こちらだけに薬の供給という負担は負わせないで欲しい。