軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5-28.死別

ドラゴンに乗せてもらって、出立から3日目の夜には開拓地についた。

予定よりも2日早い。長旅だったのでゆっくりと体を休めたいと思ったけど、それどころではない。

異様な雰囲気を感じる。

ナーガ君も感じ取っているのか、こくりと頷く。

異変……。夜なのに、明かりが私達の家しかついていない。外の宿も人が使っている気配がなかった。

レオニスさんとディアナさんが住んでいる家も、レウス達が住む家も、ルナさん達が住む家も……。まだ、誰も帰っていないにしても、何かおかしい。

いや、レオニスさん達が私達の家を使っているならそれでいいんだけど。

でも、すごく……嫌な予感がする。

大丈夫だと思っていたのに……私はまた失うのだろうか。

「クレイン……行こう」

怯えて、後退る私の手を繋いで、ナーガ君が家へと歩き出す。

「……帰ったのか。すぐに婆さんに会ってやれ」

家に入ると、ダイニングにしている部屋に、暗い表情のレオニスさんがいた。よく見るとルナさんもテーブルに突っ伏して寝ていて、リュンヌさんがいる。

視線を送ると、首を振られた。ルナさんに声をかけるなということだろう。

「師匠は?」

「……こっちだ」

レオニスさんが案内するのは、師匠の部屋。

そこにはディアナさんがベッドの横に座っていて、ベッドには師匠が寝ている。

「……かえったのかい」

「師匠。帰りました……すぐに、薬を」

「いいよ……くすりならグラ坊がおいてったよ……」

赤い液体が入った薬が枕元に置いてある。師匠が普段飲んでいる薬ではない。

だけど、そんなことよりも……師匠の顔色が悪い。

いつもよりもずっと……息も絶え絶えに、ゆっくりと言葉を発しているけど……やつれて、もう限界なのだとわかる。

「……もっと、げんきなじょうたいでむかえたかったんだけどね……ナー坊もおかえり」

「……ああ。いま、かえった……」

師匠の様子にショックを受けたナーガ君も声を震わせながら、答えた。

「師匠っ……」

「ああ、みやげばなしをききたいとこさね……でも、まずはきがえておいで」

「クレインちゃん……汚れた状態は良くないわ」

「……はい」

師匠とディアナさんに促され、部屋を出て、急いで着替えて戻る。

師匠の部屋に入る前に、腕を組んで入口に立っているレオニスさんに視線を送る。

「レオニスさん……何が?」

「ディアナが目を離した隙にな……クロウが攫われた。その時、犯人が婆さんを傷つけてな。それが発端なのか、発作がおきちまった。ディアナがすぐに回復魔法をかけたんだが……ばあさんも歳だからな」

レオニスさんは一度言葉を止めて、深いため息を吐いてから、ぐっと拳を握り、再び言葉を発した。

「回復魔法で体力を消費したのか、それからはずっと寝込んでる状態だ。ばあさんが起きてる時間は少ない。俺との話はあとにしろ」

「……はい」

師匠の部屋に戻るとディアナさんが座っていた椅子を譲ってくれて、部屋を出て行った。ナーガ君は私の横で立っている。

「師匠。ドラゴンに会ってきました」

「……そうかい。グラ坊はたいじしたといっていたけど、あんたたちはどうだったんだい?」

「兄さんの行いが伝わっていて、ドラゴンが怯えていて、協力的でした」

「ほんとうかい?」

私の答えに、師匠がナーガ君に視線を送り、確認する。ナーガ君も苦笑しつつ頷いた。

「……だが、クレインも歯向かってきたドラゴンに巨石を落として怪我させていた」

「やんちゃな子さね……危なくなかったのかい?」

「……ああ。ドラゴンも強さは様々だった」

「そうかい……楽しかったかい」

師匠にドラゴンの話をして……そのうち、師匠は寝てしまった。

楽しそうに聞いてくれていたけど、顔色は悪く……薬を……兄さんが作っていった霊薬・ドラッヘンを飲んでもこの状態なら、もう……厳しいのだろう。

起こさないように、静かに部屋を出ると泣き顔のルナさんが抱き着いてきた。

ルナさんを抱き留めながら、レオニスさんに視線を向ける。

「レオニスさん」

「ああ……そうだな。まず、お前たちが出立して6日後。クロウが攫われた。相手は王都からの使者を名乗る騎士小隊だ。最初からクロウ狙いだったようだが、ばあさんもその場にいてな。クロウはばあさんを傷つけないことを条件に大人しく従おうとしたんだが……」

「相手は、師匠を傷つけた?」

「ああ。調合できない薬師に腕などいらないはずだ、そんなことを言ってばあさんの手の甲をナイフで刺したらしい」

クロウはそのまま攫われたらしい。ラズ様には伝えたが、現状ではラズ様には手立てがないらしい。ただ、たまたま王弟殿下が王都に向かっていたところで、クロウのことを伝え、お願いしてくれているらしい。

私が命の危険はないと思っていたのが間違っていた?

師匠が弱っていたから?

クロウも連れ去られたというなら助けないといけないけど、師匠を放っておくことも出来ない。

「クロウが連れ去られた翌日、グラノスがルナを連れて帰ってきた。で、ばあさんと話をしたあと、薬を用意して、王都に向かった。『クロウは救出する、クロウが戻るまでは待機してくれ』これが伝言だ」

兄さんが帰ってきた日は、本来の決行日よりも早い。私がちょうど白の世界で話をしていて、意識がない頃かな。

兄さんも急いで帝国から帰ったけど、間に合わなかったということだろう。ただ、こうなる予測は兄さんの中にはあったらしい。

「……アルスもか?」

「いや。帝国内でアルスとは別行動となり、グラノスだけ先に帰還する予定だったようだ。今、ここにいるのはルナとリュンヌだけだ」

ナーガ君の問いに、レオニスさんが答える。アルス君は別行動……。

件の少女をアルス君に任せたとかかな。協力してくれたこともあるし、殺す必要はないので、逃がすための行動だろう。

私に抱き着いていたルナさんを見ると……顔を上げて、話をしてくれた。

ルナさんは予知夢を見て、出発の前日にクロウに伝えたという。

しかし、クロウは攫われた。

そして、師匠やディアナさんからルナさんが話を聞いたところ、状況は近いけれど、少し変わっているという。ただ、起きてしまったので、無駄だったと感じ、無力感があるらしい。

「ばあさんが倒れたことで……王都の使者も焦ったらしい。クロウを従わせる脅しのつもりだったが、それで死んでしまえば事が大きくなるからな」

レオニスさんの説明を聞く限り、かなり王都の使者が横暴すぎる。

怪我させておいて、自分たちは悪くないとはならないだろう。

「クロウが攫われてから一週間? 早ければ王都に到着してるかな?」

「ああ……クロウは馬車だ。グラノスは1日半遅れてここを発ったが、シマオウに乗っていった。上手くいけば追いついているだろうが……わからん。ラズ経由で王弟殿下にも伝わっているはずだ」

王都に着く前に追いついていればいいけど……それが間に合わない場合、兄さんではクロウを救出するのも難しいはず。

「……待機だ。状況がわからないなら動くな」

「ナーガ君」

「ああ、俺もその意見に賛成だ。ばあさんも……厳しい状況だしな。今、お前が飛び出していくことは得策じゃない」

「……はい」

師匠は医者に見せたが、「もって、あと数日」と言われているらしい。

ラズ様から派遣された医者であり、兄さんも一緒に確認しており間違いはないらしい。

むしろ、そこから4日目。師匠は頑張って私達を待っていてくれた。だから、私は兄さんを追うなということだろう。

「次に目を覚ますのが最後になるかも、わからない。覚悟はしておけ」

「……私が付き添っても?」

「ばあさんに泣き顔ばかり見せるようなら、そいつと一緒で部屋に入れないからそのつもりでな」

どうやら、ルナさんはずっと泣いてしまって、レオニスさんから追い出されてしまったらしい。

疲れ切った顔をしない、泣き顔も見せない……だから、師匠の最後の時を一緒に過ごしたい。

翌日、アルス君が帰ってきた。無事に、怪我も無く……一人で。帝国にて、少女が住み込みで働ける場所に預け、さよならをしてきたという。

この開拓地を教えることもなく、王国に来れば犯罪者として捕まることも伝えたため、もう会うことはないと本人も言っていた。その日、師匠は目覚めることはなかった。

さらに翌日。レウス達が帰ってきた。

師匠も目覚めた。

「かおをみせておくれ……クレイン」

「はい、師匠……」

「なくんじゃないよ。あたりまえのことさ……ながくいきたんだよ」

「はい……」

「……あんたたちがかえってくるまで、いきれた。かんしゃしないとね……」

師匠は私達が帰ってくるまで生きた。でも、もっとずっと一緒にいてほしい。

「あんたがたちなおれないとしんぱいしていたが、だいじょうぶだね?」

「……わたしが?」

「ぐらぼうがね……まえに、きちんとおわかれできなかったのかい?」

「……事故で。たいせつな人を……あのときの選択が間違っていたから……間違わないように」

「そうかい……まちがってもいいんだよ。それもまたいいけいけんさ。ただしいだけがすべてじゃない。あんたがどんなせんたくをしてもね……わたしがこうていするよ……だから、ちからにたよらずにあんたらしいせんたくをしな……こわがらないでもだいじょうぶだよ」

師匠がゆっくりと私の頬を触る。師匠の指が濡れて、それでも止まらない涙。ゆっくりと、私のことを全て肯定してくれる。

「師匠、ありがとうございます。ずっと……師匠のおかげです」

「さいごにあんたたちとであえて、いいじかんをすごせたよ……ありがとう」

師匠と最後の会話をした後、順番に師匠が全員少しだけ話をして……。

ラズ様も到着して、話をして……最後は、レオニスさんとゆっくりと話をして……再び、眠り……目覚めることはなかった。

その日は泣いても泣いても、涙が枯れることはなく……泣き続けた。

翌日の夜。

「ラズ様……王都より急報が入りました。クレイン様、ナーガ様にも伝えるべきかと……」

急ぎの使いだと現れたフォルさんにより、ラズ様と共に伝言を聞くことになる。涙でぼろぼろで、何も考えたくないのに、フォルさんは必ず聞くようにと言って、場を辞すことを許してくれなかった。

「兄上から?」

「いえ……国王陛下より…………グラノス・メディシーアが反逆し、死亡したため、クレイン・メディシーアに対し、王都にて子爵位を渡す式典を行うと」

「……兄上や父上は?」

「王都にいることは間違いないようです。クロウ殿が王宮にいることを確認し、本日、王弟殿下がグラノス様を伴って謁見を申し込んだようですが……お二方からは連絡がありません」

ラズ様の家族も不明。兄さんは死亡……死んではいない。そんな危険に気付かないはずがない。

それでも……。

ゆっくりと師匠を弔う時間すらもらえないらしい。

兄さんが死んだなら、私がメディシーアとしてやらなくてはいけない。

「フォルさん……師匠の死により、喪に服すため式典は参加しないと返答をお願いします。…………師匠は……一週間後に火葬します。水質汚染や感染症が起きる可能性があるため、土葬はしません。この地に師匠のお墓を建てます。私が、薬師としてのメディシーアを継ぎます。でも、子爵にはなりません……師を殺したのは王家であり、仕えることはない。また、兄についても仔細を問うと……そう、伝えてください」

私の言葉にフォルさんが深く頷いた。

横にいたナーガ君が私の手をぎゅっと繋いできたので、こくりと頷く。

大丈夫。泣いてばかりでは、師匠に半人前のひよっこだと笑われてしまう。一人前のクレインなんだと、ちゃんと言えるように……しっかりしないといけない。

「承知いたしました。ラズ様、よろしいですか?」

「そうだね。伝えて……それから、兄上たちとの連絡も急いで。状況がわからないため、迂闊には動けない。クレインの意思を伝えつつ、何が起きたのかを探って」

「はい。それでは、失礼いたします」

フォルさんは慌ただしく、出て行った。急いでマーレに帰り、手配をするのだろう。ラズ様もここにずっとはいるわけにはいかないはずだ。

「……ラズ様。私に指示することはありますか?」

「ないよ。好きにしていい……ここに引きこもってもいいし、他国に逃げてもいい。でも、もし、王都に行くつもりなら、僕に声をかけてからね。君は僕の専属薬師だからね、僕も見届ける」

「……わかりました。もしものために、護衛は?」

「キュアノエイデスから一師団とはいかないけど、連隊を二つくらい借り受けるよ。兄達の詳細を問うためにも、武装が必要な可能性があるからね」

これからどうするか……しっかりと考えよう。やるべきことを……。

何が起きたかわからないままで、動けない……まずは情報を。クロウについても何も知らされていないのも気になる。

師匠を……兄さんを奪った王家は…………絶対に許さない。