軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5-11.王弟〈グラノス視点〉

〈グラノス視点〉

昼間のペット騒動でばたばたしていたが、無事に上級薬師の称号を得た。超級については、クレインと違って、超級のレシピが混ざっていなかったから作っていない。

だが、上級の薬師でも十分だろう。

クレインの超級は、薬師ギルドの嫌がらせのつもりが、盛大な自爆だったからな。

クレインの方もばたばたしたにもかかわらず、しっかりと錬金術師としての認定を受けることになった。ただし、研究レポートなどについては大家さんの方にも相談してから提出する必要があるだろうな。

「ご苦労だったな。グラノスは残るようにな」

テイマーギルドを懲らしめて、これで解散だと思ったが、俺だけ謁見の間に残されるという。

セレスタイトも頷いているので、俺だけに用があるらしい。

「カイア。疲れているんだが?」

「わかっておる。だが、諦めるんだな。父上がお呼びだ」

正装に着替えるよう言われ、クレイン達が宿へ帰った後、俺だけは食事の場に案内された。

予想外に、王弟殿下しかいなかった。カイアもセレスタイトもいない。二人きりでの食事なら、先に言っておいてくれ。

「すまないね、グラノス君」

「いえ、王弟殿下の御呼びとあればいつでも馳せ参じましょう」

「ははっ、楽にしてくれて構わない。話したいことがあってね。ああ、その前に……今日のテイマーギルドの件はよくやってくれた。これで動きやすくなったよ」

「お膝下ですが、問題はないと?」

「ああ、問題ないよ」

キュアノエイデスでの問題であるため、王弟殿下への追及もあるかと思ったが、問題ないらしい。

今更、この程度で揺るがないだけの地盤があるということだろう。

「さて……君に話したいことだが、確認させてほしくてね」

「……確認?」

真剣な表情で、重々しく言葉を紡ぐ。

わざわざクレインを外した以上、厄介ごとである覚悟はしていた。だが、この人がここまで重い雰囲気を作ってまで、俺に確認したいことがわからない。

「先日、クロウ君が『巻き込むな』とカイアに念押しした件でね。君を巻き込ませてほしい」

カイアの治療の件か。

クレインがやらかし、クロウが何かを知り、カイアが口止めをした。厄介ごとであることは間違いない。

クロウが庇ったのはクレインであって、俺ではないだろう。

だが、「俺が知っている」という理由で、攻撃対象となりえることも理解している。それほどまでに大きい問題だから、クロウは俺にも知らせなかった。

そして、カイアが対処できないから、この人が出てきたのだろう。

「……クレインの仕出かしたことの後始末が必要であれば、何でもしよう」

「いや、そうではない。言い方が悪かったね…………王位を簒奪することにした。そのために、君に助力を頼みたい」

はっきりと言葉にしたのは、王となるという言葉だった。

目を見開くが、じっとこちらを観察している瞳は真剣そのものだった。

「マジか……」

「もう、どうしようもないところまで来てしまったからね」

王になるつもりは無いのだと考えていた。

異邦人による混乱がなければ、そのまま兄を支えていたのだろう。

だが、簒奪という言葉を使い、民を巻き込んでも奪いに行くことを決めたらしい。

「理由を聞いても?」

「協力してくれるということでいいのかな?」

「……ああ。俺の力が必要だというなら、協力しよう」

クロウが巻き込むなと言ったのは、これが原因か。

巻き込まれれば、俺らでは対処不可能だから、情報を渡す代わりに安全を要求した。

クロウの意図を汲むなら、俺が関わるべきではないのだろう。

「クレインとクロウは巻き込まないでくれ。俺個人であれば、協力しよう。……そちらも俺個人で動かれると困るんだろう?」

色々と悪評が流されている。ネビアからも情報を仕入れているが、メディシーアの悪評で王弟殿下の足を引っ張るほどの効果はない。

だが、メディシーアの功績は王弟殿下の功績にも繋がっている。

俺が単独で何をするかわからない状況は、今後、王位を望む王弟殿下にとっても困るのだろう。

「その通りだよ。中途半端に動かれて、こちらの動きを乱されると困るのでね。だが、動かないでくれと言っても巻き込まれるようだからね」

「巻き込まれているのは俺じゃないと思うが……」

「君達を責めているわけではない。ヴァルト伯爵家の件で、国全体で冒険者ギルドの体制を見直すことも出来たし、薬師ギルドもパメラ薬師との揉め事で調査の対象になった。今日の件で、テイマーギルドへの調査も行われる」

為政者からすると職業ギルドは厄介な存在にもなる。反発され、その地域にギルドの支部がないとなれば発展が遅れる。

逆に、しっかりと協力関係を築ければ、強力な味方にも成りうる。だが、近くなりすぎれば不正も横行するから、付かず離れずが理想だろう。

現状、冒険者ギルドと薬師ギルドにはメスをいれており、テイマーギルドも今日の件を皮切りに、他支部も含めて調査が行われる。

弱みを把握している状態であれば、王位を簒奪した後に逆らうということも出来ないだろう。

「よく王国全体のギルド調査することを許したな。基盤だろうに」

「兄では異邦人の対処、他国の折衝だけでも、宰相殿は大変だったからね。平時ならともかく、混乱時に調査はしていられない。あっさりと調査権は譲られたよ。さらに宰相を罷免したせいで統率力も失ったからね」

宰相が暇を貰ったのは知っていたが、簒奪できるだけの舞台が整ったことは、こちらにも都合がいい。

ギルドも、商業ギルドはメディシーアを取り込んだ王弟派には協力的。錬金ギルドも、クレインに依頼をするというくらいには、王弟派に靡いている。冒険者ギルド、薬師ギルド、テイマーギルドは不祥事のせいで大きく出ることは出来ない。

各ギルドが王位簒奪に反発をしようとしても、半数以上は王弟側につく算段がついているのだろう。

「各種ギルドを取り込める見込みがあるから、王位を目指すということかい?」

「そちらはついでだね。問題は貴族間だよ。……カイアが呪われていたのをクレイン嬢が解呪してくれた。その件で、大混乱だ」

クレインがカイアの病気について、何か考えがあったわけじゃないことは本人に確認している。ただ、どんな病気なのか分かれば、自分が病気になるリスクを減らせるくらいの軽い気持ち。

だが、突発的に動いたクレインの行動は、大きな転換点になったらしい。

「クロウ君のおかげで全容が解明できてね。カイアは病気に見せかけ、呪われていた。詳細は省かせてもらうが、王家が主導となった呪いであり、カイアの成長しなかったSPは全て、第一王子のSPに転換されていた……呪詛返しを受け、今、生きているのが不思議な状態だね」

クレインの呪詛返しにより、第一王子は全身に黒い痣が浮かんでおり、自力では体を動かすことも出来ないらしい。

生きているが、常にSPを吸い取られているらしく、回復が出来なくなれば生命力が削られ、遠くないうちに死ぬことが確定しているという。

「それだけではない。クロウ君により、カイアの呪いに関わった者たちは名前が確認出来ているからね。全員、体の一部に黒い痣が出ていたよ。まあ、受け取り手である第一王子と違い、こちらで数人は確保して、余罪も吐かせた」

一番ひどいのが第一王子というだけで、呪い返しを受けた宮廷魔導士もかなり多いため、ひと月以上経ったがいまだに混乱している。

余罪は、カイア以外にも被害者がいるということ。しかも、犠牲者となった子供は王弟派だけに留まらなかった。

「関わっていない貴族の中でも、兄王を支えている宰相の孫が犠牲者にいる。また、呪いに関わっていなかった家も王家を信用できないとこちらに鞍替えすることになっている」

「馬鹿なのか?」

宰相の孫は国王の主導ではない。だが、宰相を目障りに思う家はいくらでもいる。

宮廷魔導士達の暴走……特に、宰相に対して恨みを持つ家の出身の魔導士がやったことらしい。

宮廷魔導士の間でも派閥はあるが、関係ない者はさっさと辞職して逃げている。王は必死に鎮静化を図ろうとしているが、それを出来る宰相がいないため、手詰まり。

隠そうにも隠せない事態となり、宮廷魔導士はすでに機能してない。騎士の方は辛うじて体裁を保っているが、騎士の多くも貴族子息であり、家から情報が入っていれば、王家から距離を取る。

水面下に国王を降ろす動きが、貴族間で活発化している。王弟が立たなければ、この国は混乱で終了する。

「第二王子は?」

「そちらも駄目だ」

第二王子も一時的だが黒い痣が出ていたため、貴族子女への呪いに関わっていたとみなされている。後継者として認めることはないのが確定しているのか。

「一時的?」

「おそらく、最初に解呪した神父よりも上位の司祭に依頼して、呪詛返しの痣を消してもらったのだろう。もしくは、異邦人を使った可能性もある。治療についてはそこまで詳しく探っていない」

「ああ……聖教国に国ぐるみで呪詛していたことがバレると国としてもまずいか」

「すでに遅いだろうね。カイアの件で痣を消せる術者がいない。本当に優秀だ……証拠を消すためには、第一王子含め、関係者を全て殺すしかない」

呪詛返しをした場合、その術者の実力次第ということか。

カイアの関係者に痣が消えていないのは、クレイン以上の術者がいない……。

おそらく、クレインがやったこともバレてるな。痣を消すために、狙われる可能性があるのか。

「……政権交代はいつ頃になる?」

「今、色々と固めているけど、年内には……君を巻き込む代わりで悪いが、約束をしよう。メディシーア家が王弟派である限り、クレイン嬢とその仲間を保護する。貴族になることなど、本人が望まないことはしないと約束しよう。もちろん、聖教国からも守ろう」

「それは助かる」

「肩書と待遇が王宮薬師となることは勘弁してもらうけどね」

「まあ、それはそうなるだろうな」

薬師を辞めるつもりはないだろう。ラズも王の息子になるのであれば、当然、肩書はそうなるだろうからな。

クレインはラズ専属としての立場であることが変わらないなら、文句も言わないだろう。

「君に対しては、新しい身分を用意する。望むなら爵位を改めて用意するが?」

「改めてということは、グラノス・メディシーアは死ぬということかい?」

「そうだね。君には犠牲になってもらいたい」

「……死ねと?」

「公的に、グラノス・メディシーアには死んでもらいたい」

「他に知っている奴は?」

「カイアが立案だね。他は知らないよ」

やってくれる。友人を殺す提案をするか、普通。そういう奴だとわかっているけどな。

公的にということは、誰もが俺は死んだと認識する状況を作らないといけなくなる。ダンジョンなんかで行方不明じゃなく、はっきりとわかる形か。

「具体的に計画があるということでいいのかい?」

「君は公衆の面前で暗殺者により殺される。それが一番いいと思っているよ」

「国王の命令で?」

「そうだね。誰の目にも、国王が間違っていることが理解できる。国を乗っ取るにはそれが一番手っ取り早い」

水面下で進めているのとは別に、民にわかる形で示したいということだろう。

俺のというよりは、俺の死と合わせて、お師匠さんへの嫌がらせなんかもひっくるめ、被せていくんだろうな。俺らもお師匠さんの名誉は守りたい。

「俺の死を糾弾するだけで、何とかなるのかい?」

「君の死はきっかけに過ぎない。こちらの計画を話してもいいかな?」

「ああ、頼む」

俺の死はパフォーマンス。平民に人気のあるメディシーアが断絶するというのは、平民を味方につけるための行動か。功績があるのに、取り潰した……明らかな失着狙いか。

貴族側はすでに根回しが出来ている。

流石に、国王派も擁護出来ない状況だが、平民に呪いが知れ渡るとまずい。平民にわかりやすく王権が移る理由として……表向きに王家を責める材料とする。

「……わかった。元より、命を狙われることは覚悟していたしな。姿を隠すつもりだったが、はっきりと死んだ方がいいのなら、構わない。本当に殺されるのは勘弁してほしいが」

「もちろん。それをしたら最後、妹御が反旗を翻しそうだからね。必ず助けるよ」

「承知した」

クレインは俺が死ねば、俺を殺した奴と手なぞ組まないだろう。

ただ、おそらく反旗を翻して戦うほどのことはしない。あの子はラズを含めて見限り、王国から逃げる。

「お師匠さんへの嫌がらせ、貴族間での情報をもらいたい」

「これを。カイア用の〈安らぎの花蜜〉入手を妨害した者達だ」

渡された資料をちらりと見る。王弟派も国王派も関係ないな。カイアが長く生きたため、呪いがバレない様に死んでほしかったのだろうな。

「……糾弾するとまずい家は?」

「君の好きにするといい。フォローはするよ」

俺が何をするかもわかっているのだろう。苦笑しつつも任せるということに感謝する。

今後の報告は今までと同じ、カイア経由で構わないらしい。

二人きりの食事を終えて、用意された部屋へ戻るとすぐにカイアがやってきた。

「よう。……俺を殺すように提案したらしいな」

「ああ。父の予定では、伯爵位に任じるつもりだったからな」

「そうか……功績があるから、あの方が王になればできなくもないのか」

「お主も困るだろう? だから、効果的に使うことにした」

まあ、どうせ行方をくらませるなら活用したいのはわかる。

そこを責めるつもりはないが、事前に話をしてくれればいいだろうに。まあ、セレスタイトにも知らせないつもりだったのだろうし、言えなかったか。

「……気軽に会えなくなるな」

「それなんだが、グラノスとして死んだ後は俺の側近兼騎士になる気はないか?」

「……落ち着くまで人手が足りないか」

「俺はベッド暮らしの方が多かった。ラズも家出をしていて、学園に通っていない。信頼出来る者が足りぬ」

セレスタイトが王を継ぐにしても、支える弟達が側近もまともにいない状態だと……問題はあるだろう。だが、すり寄ってくる奴らも増えるから、そこから優秀なのを引き抜けばなんとかなるだろう。

「ひと月に一度はクレイン達の様子を直接みたい」

「いいだろう。だが、式典などがある時期は諦めてくれ」

「式典?」

「父上と兄上は王都に移る。俺も共に行くだろう。式典へ騎士も連れずに参加は出来ないからな。あとは、ラズがこの地を預かる公爵として封ぜられることになる。ラズとの伝言役や各地の巡察を担う騎士でどうだ?」

「……巡察までさせるのか?」

「例の土地で大人しくしてはおらぬだろう? 共に行く理由にはなる」

確かに。あり得ない話ではないか。

あの子は必要なら自分で採りに行く。それならカイアの騎士でも、自由に他の土地へ行ける身分は必要か。実際そこまでの時間を取れるようになるかは、疑問だがな。

「平民となったメディシーアを守れるんだよな?」

「心配であれば、こちらでも人を用意する。だが、望んでおらぬだろう? あの奥地であれば、調べるにも大変だろう」

「まあな。攻め込まれても大丈夫な準備はしている」

こちらを調べようとしても、忍び込むのも面倒な土地にしてある。さらに、こちらへ喧嘩を売れば、薬以外に素材も苦労する可能性がある。

王弟殿下が王となれば、わざわざお気に入りの家にちょっかい出して機嫌を損ねることはないだろう。

「……5年。君に仕えよう」

「うん? 期限付きか?」

「5年あれば十分に落ち着くだろう。人手不足もな……だいたい、友人に仕えるという立場もな」

「お主は使い分けできるだろう。5年後に何かあるのか?」

「どうだろうな。俺に期待してくれる人もいたんでな……世界各地のダンジョンを制覇するのも楽しそうでな」

「そうか。別に騎士を辞めずとも、そのままダンジョン制覇して構わぬがな。まずは5年。その間に変わることもあるだろうしな」

「……そうだな」

騎士というのは俺に合うと思わないがな。

ただ、信頼できる護衛が必要ということだろう。出来ればクレイン達と一緒に過ごしたいところなんだが……どちらにしろ、世情が落ち着かないと厳しい。

それなら、中枢へ近い立ち位置にいることは、プラスになるだろう。

悪い提案ではない。了承の意味をこめて、ワインを互いのグラスに注いで、乾杯をした。

その翌日、二日酔いからの頭痛で苦しむことになったが、俺が調合などの作業をする必要はないので助かった。

飲むときには二日酔いを緩和する薬ぐらい、そろそろ用意しておくべきだな。