軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4-25.沼の苔 〈ナーガ視点〉

〈ナーガ視点〉

グラノスがいないため、俺が夕食を用意することにして、レウスとアルスにも手伝ってもらった。クレインに任せると作業が終わってから作り始めるため、遅くなるのが目に見えているのもある。

食事が出来たと呼びに行くと、ちょうどクレイン達も試作品ができたところだった。大家さんと師匠、あとクロウも一緒に食事をすることになる。

師匠は顔色があまり良くない。食事についても、以前より食べれていない気がする。ただ、クロウもクレインも気付いているが何も言わないようなので、黙っておく。師匠はアルスやレウスとも楽しそうに話をしているので、邪魔をするべきではないだろう。

大家さんは酔ってるのか、楽しそうに錬金について語っていて、クレインが話を聞きながらメモを取っている。独学に近いため、参考になるらしい。

にぎやかで楽しく食事会を終えた後、クレインから話があった。

「……緑の沼の苔?」

「そう。大量に欲しいのだけど……オリーブに採ってきてもらうとか、できるかな?」

「……わかった。明日、行ってくる。クロウもいいか?」

「俺もかぁ? いらないだろう」

「いや、だって、俺ら鑑定できないから、同じものじゃないと困るでしょ?」

クロウは面倒くさいと顔に出ていたが、レウスの鑑定できないという言葉に仕方なく頷いた。

鑑定か。だいたい、どのパーティーでも出来る奴がいる。

鑑定できないなら、アーティファクトを購入することもあるというが……どうするか。クレインの素材採取をメインの仕事にするのであれば、必須だろう。

「そういえば、3人はダンジョン踏破したとき、アーティファクト手に入れなかった? ダンジョンの初踏破で必ず一つ手に入るはずだけど」

「微妙! 鑑定できるアーティファクトとかが欲しかった!」

「う~ん。使い道がわからなくて……」

「……これだ」

クレインが覗き込んで、ちょっと眉を下げた。

これ以上、テイムをするつもりかと言われそうなので、軽く首を振っておく。少なくとも、新しい土地に行くまではテイムはしない予定だ。……多分。

「鑑定できるアーティファクトを買うのもありかな……鑑定して、採取してもらえるならすごく助かるし、お金に余裕できたら購入を検討しようか。私、兄さん、クロウの誰かが一緒に行ければいいのだけどね」

クレインの言葉にクロウも、頷いていて、金をだしてもいいという立場。よほど、自分が連れ出されるのが嫌らしい。だが、アーティファクトよりもクロウの方が優秀だ。

翌日、クロウを連れて、テイマーギルドに行くと、キャロもロットもふんふんとクロウの周りで匂いを嗅いでいる。何か気になることでもあるのだろうか?

よく見ると、普段はクレインが腰から提げている魔法袋をクロウがもっていて、その匂いを嗅いでいる。

「すまんな。今回は俺が代わりだ。クレインが欲しい素材があるそうなんだが……事情があってな、今回はクレインにゆずってくれないか?」

「ぷぷ~」

キャロが拒否するような鳴き方をしているが、「代わりの餌は用意しよう」というと仕方ないなと引いてくれた。

俺も「すまんな」というと、何か抗議のような鳴き方をされた。

「怪我して、しばらく顔をだしてないもんなぁ。心配なんだろう?」

「ぷぷっ!」

別に! というようなキャロの鳴き方に、頭を撫でておく。クレインが怪我をしていることは、グラノスが出発する時にキャロとロットにも伝えていたらしい。クレインが目を覚ましたことは伝えたが、まだ安静にさせているからな。いや、安静にしてない。調合を長時間している時点で、ダメだ。

緑の沼に到着し、アルスの発案により、奥の空き地がある方へと向かう。

「やれやれ、なんでこんな奥なんだぁ?」

「えっと、うまくできれば、苔が簡単に手に入るかなって……たぶん。そのために、広いところが必要かなって」

「そっか、おじいちゃんの体についた苔! あれなら、オリーブが沼の底にいかなくてもよさそう」

「おじいちゃん?」

クロウが胡乱気な瞳で俺に確認を取ろうとしてるが、首を振っておく。

アルスの言う通り、苔が同じものであればそれを取らせてもらうだけだ。悪くない。

「じゃあ、呼ぶね? ヤトノカミおじいちゃ~ん!」

「ヤトノカミさ~ん!」

沼に向かって、二人が大きな声で叫ぶ。しばらくすると沼に大きな影ができ、こちらに近づいてくる。

『おお! 子らよ、元気にしておるか?』

「うん、元気だよ。今日はおじいちゃんの体、綺麗にしようと思って……どう、クロウ?」

「ああ……その苔で大丈夫だ」

アルスの読み通り、ヤトノカミの体中についている苔をクロウに鑑定してもらうと、目的の苔だった。

これなら、すぐに入手ができる。まあ、掃除をするにしても、毎日だと入手は難しそうだが。この巨体なら、かなりの量が採取できるから問題は無いだろう。

「はぁ……いいか、報告はしろ。お前らが何をするか、自分で決めるのは良いことだ。だがなぁ、ばれたら問題になるようなことなら、報告をする。それくらいはしてくれ」

「……ああ」

本当はちゃんと伝えるつもりではいたが、クレインのことでバタバタしていて伝え損ねていた。いや、言い訳だな。

伝えるべきだったが、グラノスに言う機会を逃した結果、クレインにも他の大人二人にも言わなかった。

『お主は鳥人の子じゃな。名は何という?』

「クロウだ。すまんが、その体についている苔が欲しいのだが、どうだろうか?」

『うむ? わしはヤトノカミじゃ。子らの友じゃ』

「ヤトノカミじいちゃん。俺らが体についた苔を取って、綺麗にするからさ。代わりに、この苔くれない?」

『おお、レウスや。良いのか? すぐに体についてしまって、困っておるんじゃ。たのめるかのう?』

「もっちろん! まっかせて!」

レウスがにこにこしながら、安請け合いをしていることに、クロウはため息をついている。おそらく、経緯は全てクロウからクレインに伝わるだろう。嫌ならさっさと話しておけという視線をこちらに向けている。

「あの、ヤトノカミさん。体、ここの岸辺に出してもらってもいいかな?」

『おおぅ、そうじゃな。アルスの言う通り、体を沼から出すので、お主ら、少しどいておれ』

俺らが岸から離れて、高台の場所で待っていると、ヤトノカミが岸に全身を上げた。ざばぁっと水があたりに広がった後、ヤトノカミの元へ戻る。

「じゃあ、掃除してくよ? 痛かったら言ってね」

『うむ、頼むのじゃ』

ヤトノカミの体についた苔を全員でそぎ落としていく。クロウはやれやれと言いながら風魔法を使って、根こそぎ苔を取っていく。攻撃しないぎりぎりで、表面を広範囲でそぎ落としているようだ。

俺らよりも早く、広範囲を削ぎ落とし、そのまま風魔法で足元に運び回収している。器用だ。

『うむ、うむ。気持ち良いのう。クロウのそれは悪くない』

「クロウって、実は器用だよね。魔法の扱い上手くなってるじゃん。でも、なんか印象薄いんだけどさ」

「魔法攻撃力が段違いだからだろう……クレインと一緒にするな」

「確かに。そういえば、クレインってクロウには嫉妬しないよね。なんでだろ?」

「する必要がないだろ。俺ができる事はあっちもできるんだからな」

レウスの言葉に確かになと思う。クレインは結構、自分に出来ないことは出来る人に任せる。ただ、出来ないことは悔しいのか、結構「いいな」とか口にする。俺のDEFとか、グラノスの視力とかにも言うくせに、クロウに対してはそう言っているのを聞いたことがない。

「え~、でもさ、クロウの鑑定能力ってクレイン欲しがりそうじゃん? なんでだろ?」

「欲しいと思ってないだろ、あれは」

「それが理解できないって話!」

レウスがぷんぷんと怒ったように言うが、クロウは面倒臭そうにため息をついた。

「クレインの〈直感〉、お前らはどう思う?」

「え? 便利、とか?」

「なんか、すごいなって」

「……チート」

「そうだな。俺もそう思う。実際、すごい能力だろう。戦闘でも、普段の生活でも使える万能能力で、リスクはない。一番使い勝手がいいんじゃないかと俺も思ってる」

「だよね~」

クロウの言葉に俺も、レウス達も頷いている。

クレインの直感でどれだけ助かってきたのか、正確には知らないが能力として隙が無く使い勝手がいいのは間違いない。

「俺の鑑定能力を羨むはずがないんだよなぁ。もっといい能力で、その能力を選んだことを悔いていないクレインにとって、『便利だし、使ってくれると助かる』くらいの感覚なんだ。その能力を欲しいと思ってない」

「……ああ、たしかに」

クロウの言葉に俺らは納得する。クレインは〈直感〉を頼りにしているため、確かに、クロウの目が欲しいとは考えるはずがなかった。

「魔法もな。魔導士である俺よりも多種多様の魔法を使える上に、近接などに対応できる。基本的には俺の上位互換だろ」

「でもさ、調合だけじゃなくて錬金もクロウもやるんでしょ? 後から覚えたのに……とか、嫉妬しないってこと? なんで?」

「しないだろ。同じことは自分でもできる。それに、『調合の神髄を極める!』とか、そういうタイプじゃない。生きていくためには技術を持ってる方がいいだけで、国のトップになりたいとかそういうことは考えない。『俺が覚えてくれれば便利』という、単純な考えだけだ。だいたい、あれで技術、すでに国のトップクラスだ」

「クロウ、クレインのこと結構理解してるんだ、女嫌いなのに」

苦虫を噛みつぶしたような顔をするクロウにレウスが嬉しそうに絡んでいる。

確かに、よくわかっているなと思う。クロウが出来ることはクレインも出来るというなら、それ以上を自分自身が望んでいないなら羨むことはないだろう。

「クレインさんって、結構、雑に考えてるとこあるよね」

「……ああ」

「面倒事は極力避けたいし、自分しか出来ない状態だと面倒事が降りかかる可能性があるから、俺にも任せられる状況を作りたいと考えているからなぁ……勘弁してくれ」

「でも、ちゃんと付き合うんでしょ?」

「それくらい感謝もしてるからなぁ……実際、俺が好きで手伝っているだけで、あっちは俺がやらなくてもさほど気にしていない。いなくてもなんとかなってしまう……それでもちゃんとやったことには礼を言ってくるがな」

ぼそりと呟いたクロウの言葉に、レウスと俺は頷いてしまった。アルスは少し困ったように苦笑している。クレインはその気になれば、一人でできる。最初はソロ希望だったのも、自分で出来るようにするつもりだったからだろう。

だが、クロウに色々と頼むようになってるのは、いい傾向かもしれない。

『子らよ、なんぞあったか?』

「ううん、大丈夫! ヤトノカミじいちゃん。ちょっと、絡まってるから思いっきり引っ張るよ」

『うむ、わかったのじゃ』

そのまま、苔を体から落とすのはクロウの魔法に任せ、レウスが跳躍して絡まる水草を採りながら、苔とは別にして、持ち帰れるようにまとめている。アルスは、苔ではなく、張り付いてしまった貝をこそぎ落としている。俺も苔を纏めたりとか、それぞれが行動を始める。

『苔ばかりでなく、すまんのう。じゃが、気持ち良いぞ』

「……苔を調合に使う。十分な量が採れて助かる」

『この沼は魔力と栄養がたっぷりじゃからな。よい苔じゃぞ』

「たしかに……この量があれば十分だろうなぁ」

「ぷ~」

「すまんなぁ。本来は3等分なんだろう? 多めに必要になるんでな、これくらいは分けてやれるんだがなぁ」

クロウが8分の1くらいをキャロとロットに餌として差し出している。また、レウスが採った水草は逆に二匹が多くなるように分配している。

「ぷぷっ」

「ああ、ちゃんと渡すときに話しておく。元気になったら、顔を出すだろ」

「ぷ~」

クロウがクレインに渡すと言ったら、二匹は頷いている。俺に対してよりもきちんと聞いている気がする。

『なんぞ、あったのか?』

ヤトノカミに対し、オリーブが何かを説明している。クレインのことだろうか? ロットも何かを伝えようと鳴いているようだが、何を言っているか分からない。

『なるほど、心配じゃな。ナーガや。昔から、この沼の水も体を癒すというのじゃ。持ち帰っておくとよい』

「……ああ」

昼過ぎには、ヤトノカミの体が綺麗になった。

だが、綺麗にしてもなお、銀色にうっすらと緑に光るヤトノカミの体はきれいだと思う。

「ありがとうございます、ヤトノカミさん」

「ヤトノカミじいちゃん、ありがとね」

『なに、こちらも気持ちが良かったぞ。また、頼んでもよいかのう』

「……ああ。しばらく出かけるが戻ってきたら」

『おお、そうかそうか。待っておるぞ』

「うん、またね」

ヤトノカミに別れを告げて、家に帰る。店側の出口のところで、ちょうど帰るところだったらしいラズに出くわした。

「おかえり~」

「……ラズ? 珍しいな、明るいうちに来るなんて」

「うん。明日の出発のことを伝えにね。君たちも準備をしておいてくれる? 一度、キュアノエイデスに行った後、そのまま獣王国のダンジョンに向かって欲しい」

「……わかった」

ラズの言葉にレウスとアルスを見るが、こくりと頷いている。3人で行くのなら、問題はない。クロウはやれやれという表情だが、どうするつもりなのか。

「俺はクレインの従者として、一緒に行動をしてもいいのかい?」

「うん、いいんじゃないかな? 悪魔の二人も、連れて行くからね」

「はぁ……貴族の思惑は嫌がると思ったんだがな、あいつ」

「まあ、そこはどうでもいいんじゃないかな。べつに、君たちが何を考えていても、関係ないしね。大事なのはクレインの意思と成果だから」

取るに足らない存在ということだろう。

ただ、悪魔の二人を連れていくということは……クレインの身に、危険が及ぶことになるのかもしれない。それでも、領主不在の町に置いておけないということだろう。

「心配しなくてもいいよ。クレインを危険に晒すことはないからね。僕だって、それは困る」

「……ああ」

俺の考えを読んだかのうように、ラズから言葉が返ってきた。

「まずは、代替素材の方が先決だからね。蜂蜜は頼むね、ナーガ」

「……ああ。わかった」

ラズはそのまま、出て行った。フォルも気配を消していたらしいが、姿を現し、一緒に出て行く。なんだかんだと、俺にはお辞儀をしていくのに、レウスとアルスはスルーなのが不自然に感じる。

「ほんと、俺らは眼中外って感じだよね」

「……わざとだろ。接触しないことで、クレインの意思を尊重している。……多分な」

「え~?」

「……俺らが関わってもいいことは無いんだ。気にするだけ無駄だ……」

「まあ、あそこまではっきりクレインさんだけっていうのもすごいよね。でも、明日、出発か……準備しないと」

「たしかに! 俺、急いでギルドで話集めてくる!」

「じゃあ、僕は食料とか買い込んで来るね」

「……薬やポーションを確認しておく」

獣王国のダンジョンに行くと言う話が、いきなり明日だとは思わなかった。まだ二時過ぎだ。準備をするだけの時間はあるだろう。

「やれやれ。ティガには俺から話すのか」

「……任せていいか?」

「わたしが何かな?」

「なんだ、いたのか?」

上の階からティガが降りてきたことに俺もクロウも驚きの表情を浮かべる。そして、その後ろからはクレインもきた。

「ラズ様との話で一緒にいたからね。お帰り、ナーガ君、レウス、アルス君にクロウも」

「……ああ」

「ただいま~」

「えっと、ただいま、です」

すぐに出ようと思っていたが、上から足音が聞こえたと思ったら、ティガとクレインだった。ラズがクレインと話すときにいたらしい。笑顔を浮かべているので、何を考えてるかはわからない。

ただ、クレインが「大丈夫」というので、大丈夫なのだろう。

「……準備するが、何か必要なものはあるか?」

「とりあえず、キュアノエイデスに向かうために乗れる魔物? 5人だと、キャロとロットだけでは辛いからテイマーギルドで相談しようと思って」

ティガとルスト、それに女子二人は馬車に乗るらしい。お客様扱いなのは、魔物を乗るのに慣れてなくて遅くなると困るからだという。

クレインの乗る魔物が必要らしい。まあ、テイマーギルドに行けば、何とかなるだろう。シマオウがいればコウギョク達みたいに呼び寄せてもらうこともできたんだが。

「……いや。わかった……手配する」

「うん、ありがとう、ナーガ君。あ、レウス、これ……獣王国のダンジョンの情報。話を聞きに行くなら、これも参考にして」

「あ、うん。ありがと」

「ミニエラダンジョンよりは難易度高いからね? 気を付けてね」

「オッケー……これ、誰から聞いたの?」

「女性のが甘い物好きだからね。女性の先輩たちからの情報。ギルドにはいないと思うから、そっちも話はちゃんと聞きなね?」

レウスが頷き、メモをチェックし始める。内容を叩き込んだ後に、ギルドでも情報を収集するのだろう。まあ、獣王国に行くと大きな声では言えないと思うが。

「アルス君。塩とか、調味料の一部持っていくといいよ。案内するね」

「え? あ、でも……」

「ミニエラダンジョンよりも、長期間になるから、食料の用意は入念にした方がいいよ」

「うん、ありがとう、ございます」

各自で、準備を始めるので、クレインに採取してきた素材を渡して、俺も準備にかかる。とりあえず、グラノスが帰ってくる可能性があるから、こっちも置手紙も用意しておくか。