軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-33.スタンピード4日目(1)

4日目の朝。

クロウ達が帰ってしまったため、私がメインでユニコキュプリーノスの数を減らすことになるのだけど……最初の3日に比べ、かなり数が減っている。

引っ切り無しに狩場へとやってくる様は、お盆や年末年始の高速道路の交通渋滞のようだったが、今日は平日の昼間の一般道並み。まだ狩場に入ってくるけど、だいぶ数が減っている。

私は基本的にはダムの上に雷壁〈サンダーウォール〉を展開しておき、張り直し作業のみ。

時間があるので、昨日までに狩ったユニコキュプリーノスを解体しつつ、捌いて干している。

ちゃんとした鰹節にするためには、なにか菌を付ける必要があるんだっけ? 煮干しとかは煮立たせてからそのまま乾燥だった気もするし、適当でも大丈夫だろう。

そもそもの量が多すぎるから、全部を持ち帰る気もないしね。最終手段は魔石取り除いて放置すれば勝手に消える。

でも、保存食にしておけば、それなりに日持ちするはず。

作業をしている横で、楽しそうな声が聞こえる。

「レウス、気を付けてね」

レウスは、川のあちこちに島のように足場を用意しておいたのを飛び移っては、槍を振り回しながらユニコキュプリーノスを狩っている。

ユニコキュプリーノスは、数こそ減ったが狂暴になっていて、昨日よりも飛び跳ねる力が増している。昨日ほとんど届かなかった魔法の雷壁に当たるのが普通になっている。たまに、それすらも飛び越えてくるので兄さんが弓で仕留めていたりする。

「これ楽しいんだけど!」

「まあ、無茶しないでね」

「わかってる! 平気、平気!」

足場にレウスが立つとユニコキュプリーノスは飛び掛かってくるので、それを叩き落して討伐……昨日までは、こちらが狩るのみの作業で相手からは何もすることがなかった。今日は、相手が飛び掛かってくるのが楽しいのか、嬉しそうに倒していく。

若干……保護者がいなくなったので、はしゃいでいる気もする。

ナーガ君とアルス君は、弓の練習中。弓術を持っていても、飛び跳ねる魚を射抜くのは難しい……はずなんだけどね。兄さんは百発百中、二人は悔しいらしい。

「楽しそうだね」

「緊張感が無くてすみません」

「いいよ。でも、暇だから少し話をしない?」

「……兄さんも一緒でいいですか?」

「構わないよ」

スペルビア様が近づいてきたので、兄さんに合図を送ると、持っていた弓をアルス君に渡してこちらに向かっている。ナーガ君達には大丈夫と手を振っておく。全員に聞かせることでもないだろう。

どうやら兄さんの代わりに双子弟のシュトルツ様が、弓を教えてくれるようなので大丈夫だろう。レウスには足場に乗ったまま、上流に逃がさない様に待機するようにお願いしておく。

「それで、解毒治療についてかい?」

「そうだね。君達の方で、結論は出たかな?」

兄さんとは昨日の夜に相談をしている。兄さんとしては私の好きにしていいとは言われている。

「……私が解毒したとして、そのことを秘密裏にすることは?」

「完全に隠すのは無理だろうね。君達が何をしているか、そんなことはそれなりの貴族なら調べられる。僕らの母が病気治療から回復して、社交界に出ればすぐに広がるよ」

解毒治療が出来ることは知れ渡る。そこを隠すことは出来ない……だいたい、解毒するってことは、毒をもった側とは敵対するってことになるわけで……。

敵を作れば、それだけ危険になる。出来ることなら避けたいけど、必要な素材であり、ラズ様からも言われているのでここでお断りしますは出来ない。

「スペル様はラズ様を通して依頼し、私はラズ様から頼まれたから手を貸した。そういうことは可能ですよね?」

「いいよ~。もともと、ラズからの交渉に応じた訳だからね。ラズの頼みを聞く代わりに、君が派遣されて、十分に成果を上げてくれたからね」

「わかりました。では、次に…………私を、薬師を消そうとしますか?」

クヴァレ侯爵家での薬師の不審死について。

私が治療する間に命を狙われるのは困るので確認をとる。

「あれは父がやっていることだね。母を治療させたくないから、この地に入ってきた薬師を事故に見せかけて殺している。言っておくけど、僕らが治療のために呼んだわけではないよ。みんな、とばっちり。疑心暗鬼で領地に入った薬師を殺しているあたり、父も大概おかしいけどね」

「そうですか……治療して助けた後は、どうなるんですか?」

「ん~。父の爵位が僕に移るね。父は蟄居の上、数年後には病死かな。弟はどうしよう……僕が爵位を継ぐなら、継承権一位になっている末の弟は邪魔だよね」

「物騒な事を吹き込まないでくれるかい?」

兄さんが前に立って、庇ってくれた。うん……本当に巻き込まれたくないし、聞きたくない。

5年前に後継ぎの座を引き摺り下ろされたとはいえ、この人は貴族だ。ラズ様みたいに中途半端な情で動かず、冷徹に、実の父も弟も消せる人だ。

後継ぎを外れていた後、冒険者の真似事をしていて、その実力も確かだけど……ティガさんを邪魔だといった時のあの瞳は、人であろうと邪魔なモノを排除することに戸惑いを持たないものだった。

背中に冷や汗が流れる。それでも、逃げ出すことは出来ない。

というか……聞きたかったのは、治した直後、殺されそうになるのかを聞きたかったんだけどな。

「あはは。面白いから、ついつい。良い反応するから、虐めたくなるよね? でも、安心していい。クヴェレ家が君を襲うことの無いよう、きちんと対処することを約束するよ」

笑顔でにっこりと笑っているのに、ぞくっとする。一歩下がろうとしたところに、兄さんが私を後ろに隠すようにかばっている。

「こちらのメリットは?」

「ん~~? 必要でしょ? 〈安らぎの花蜜〉……あれがないと、パメラ薬師の持病は抑えられない」

「はぁっ?」

「…………」

私と兄さんの表情が変わったが、相手はにんまりと笑っている。

ラズ様が素材を持ち帰るように言った理由。師匠の持病は教えてもらってないけど……師匠が焦っている様子もこれが原因かな。

「〈安らぎの花蜜〉は、帝国のダンジョンでしか手に入らない。入手してから、3か月程度で素材としては使い物にならなくなる。僕が持っているのは、あと2週間程度でゴミになるかな?」

あと、2週間ということは、一の月の初期に採取された素材ということ。まだ、帝国の方でも混乱が起きていない頃だ。

「ラズの方は本来なら2の月に入手した物が手元に届くはずだった。パメラ薬師のために、ラズが手配していたからね。だけど、1の月19の日。帝国では反乱が起き、それどころではなくなってしまった」

「……その後、手に入らなくなったということかい?」

「一部は密輸されたりもしていたけどね。2の月下旬には、ダンジョンのある地域ごと放棄されたよ。異邦人達の拠点がその近くに出来たからね」

それなりに貴重だった素材、今は以前の数倍の高値で取引されている。

お金に糸目をつけないのであれば、共和国にはまだ売られているらしい。あとは、冒険者がダンジョンに採取に行くことになるが……異邦人たちの目を搔い潜って、ダンジョンに行くような冒険者はいなかった。

「そうそう。帝国はすでに崩壊寸前なのは知っている?」

「多少はな。詳しくは聞いていないが」

「皇帝が暗殺され、第一皇子は捕らわれ、第二皇子は公国に亡命。貴族の一部は王国にも亡命してきているね。統治者はいない、スタンピードは放置、ダンジョンから魔物が溢れればさらに事態は悪化する。なのに、異邦人は我関せずと町や村を襲って略奪を繰り返しているそうだよ」

「……最悪」

私の最悪という言葉にスペル様は唇の端を上げた。自分達が治める土地を放り出す皇族もどうかと思うが、好き放題の異邦人もどうかと思う。

「わからんでもないがな……大方、恨み、辛みが重なり正常な判断が出来ないまま、力こそ正義とでも考えたんだろう。あり得ない話じゃない」

兄さんは、帝国の異邦人について、驚きはないという。

クロウ達の話でも、すでに反乱として大規模な争いが起きたと聞いていた。一度、弾みがついた状態であれば、次も戸惑うことはないという予測はあったらしい。

むしろ、止めるものがいないからこその大暴走でもあるのだろう。

「やりたい放題だからね。各国でも対応については困っているのが現状だね。ただ、すでに帝国産の特産品については、今後、入手出来なくなるという噂が広まっているよ」

「……師匠は?」

「あの方は代替品による薬の作成も得意とするからね。〈安らぎの花蜜〉の代替品が見つかればいいとは思っているよ」

見つからなかった時、どうなるか……明言しなかった。

でも、おそらくそういうことだろう……代替品を何とかしない限り、師匠に死神の鎌が当てられている状態ということだ。

今回、スペル様が提供したとしても……次の〈安らぎの花蜜〉はない。

「…………わかりました。いくつか、足りない素材があるのを採取に行っても?」

「こちらで用意してもいいけど?」

「いえ。解毒の素材が広まることが良い結果になると思えないので……こちらで用意した物をつかいます。〈安らぎの花蜜〉以外、解毒薬のレシピ内容はお伝えしませんがいいですね?」

「いいよ。確実に解毒できるなら、今の毒を改良することも出てきそうだよね。次こそ成功するように……知らせなくていいよ」

楽しそうに嗤っている。まあ、そもそも毒素材に別素材をいれて変質させて、改悪しているわけだからね。まだ、解毒が出来ると知らせて、さらに貴重な素材を使われたらお手上げになる。

「兄さん、頼んでもいい?」

「ああ。あの面子だと鑑定できるのは、俺だけだしな。ナーガに頼んで、シマオウと行ってくる。確認だが、今日は、危険はないんだよな?」

「進化するのは明日の昼間以降だと思うよ」

兄さんにいくつかの採取をお願いする。植生からこの近辺でも取れないわけではないはず。

兄さんの採取なら、使えないことにもならない。シマオウに乗ってさくっと取ってくると言っているので任せよう。

「見つからなければ、無理しなくてもいいから。その分は、こっちで何とかする」

「出来るのかい?」

「解毒の場合、素材を打ち消す効果があればいいから……無いなら、他でもいくつか配合すればなんとかなる。……複雑になるけど、失敗はしないと思う。念のためってことでお願いします」

「任せておけ。君も……あいつら、3人だと色々やらかす可能性あるから、油断するな」

うん。ストッパーがいない状態だからね。気を付けておこう。

兄さんを見送りつつ、ダムの上にて待機する。すでに4日目にもなると、慣れが生じていて、どうも気が緩んでいる。

そして、兄さんが予想していた通りに、やらかしが起きた。

上流から現れた、ケルピー。水の馬のような魔物。3頭で現れたが、1頭は親馬、二頭はその半分くらいの大きさだった。

魔物が現れたことで、ダムの上から退避したが、見事に……仔馬の片方が雷の壁に触れて、感電。

死にはしなかったが、親馬が怒り、暴れ始めて……乱闘となる。

「クレイン! アルスがっ!」

レウスの声に川を見ると、ちょうどアルス君がケルピーの仔馬に振り落とされて川に落ちる瞬間だった。

大きな音と水しぶきが上がると同時に、魚が寄ってきている。深さもありそうだし、着衣……防具まで着けた彼が溺れないはずがない。

川岸にいたので、アルス君のいる場所まで、200mといった場所であり、双子も近くにはいない。

「アルス!!」

「アルス君!! 氷結〈フリージング〉!」

川の一部を凍らせて橋にして、そこを走りながら、アルス君が落ちた場所まで行く。

ユニコキュプリーノスが襲い掛かってくるのを盾で受け流しつつ、現場に到着。滑るから危なかったが、近くの足場にて、アルス君の救出のために魔法を唱える。

「土壁〈アースウォール〉」

アルス君の周囲に土壁を出して、底まで周りを覆ったあとに、底の方の土を増やしていき、水ごとアルス君と押し上げていく。

「無事!?」

「ごほっ……」

本人はぐったり、一応意識はあるようだけど、立ち上がれないらしい。魔法で無理やり作った土なので、川の流れや体当たりされると長くもたない。

ぐったりしてるアルス君をユニコキュプリーノスが水中に再び引きずり込もうとしているので、アルス君の服を掴もうとしたら、横からにゅっと手が伸びて、アルス君を引き上げてくれた。

「岸まで戻るよ~」

「スペル様。はい、ありがとうございます」

私の後ろを追ってきてくれていたらしい。

そのまま、俵のようにアルス君を担ぎ上げて、岸の方まで走って戻る。

「ごほっ……ごほっ、けほっ」

「……大丈夫か?」

「けほっ……うん、なんとか……」

川岸に戻るとナーガ君とレウスも駆け寄ってきた。

アルス君はナーガ君の呼びかけにも答えるし、あまり水を飲んだりもしていないようだ。

無事で良かった……。

安堵しつつも、川に向き直るとなんかいる。

おかしいな、目の間には目測5メートル以上ありそうな蛇……もとい、水竜が見えるんだけどな?

明日の昼まで進化しないはずでは? 何が起きている?