軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-20.ローブ屋

「じゃあ、お姫様を借りるぞ」

「おう。街中なら大丈夫だと思うが、一応気を付けてやってくれ」

「いやいや、いつも一人で大丈夫だからね? 何に気を付けるの?」

「……いつも行く場所じゃないだろう。狙われてる可能性がある……」

クロウと出かけるにあたり、なぜか二人とも心配している。

冒険者が増えているとはいえ、一般人が増えているという話はないし、向かうのは冒険者達が出入りする東側の店ではない。中央にある高級店だったりする。

魔導士用のローブ専門店として、レオニスさんに教えてもらった。

「行ってくるね」

「ひよっこ。持っていきな」

師匠から推薦状を渡された。着替えている間に作ってくれたらしい。なんだかんだと心配されているけど……それこそ、私は直感でわかるから一番危険が少ないと思うんだけど。

師匠から推薦状を受け取って、クロウとともに商業ギルドへ向かう。

「ここで、どうするんだ?」

「先に商業ギルドでレシピの登録をしてからでもいい? 例のドリンクを改良したから、早めに登録して作成に動かないとだから。スタンピード前に登録しておけば、私がいなくても作れるから」

「なるほどなぁ……味はなんとかなったのか?」

「兄さんが改良したから」

「それなら安心」と一言こぼしたクロウをにらむと手を挙げて、降参のポーズをしている。

シロップだけ大量に納品しておけば、混ぜるのは薬師でなくても可能。まあ、レシピを購入する必要はあるのだけど……。レシピ登録も安全性とかの確認はあるだろうから、当日に出来ない可能性もあるしね。

受付にレシピ登録をしたいと伝え、担当の人へとつないでもらう

「なるほど。こちらを商業ギルドに登録ということですか。こちらが推薦状ですね?」

「はい。こちらのギルド会員であるパメラ薬師と冒険者ギルド長ヨーゼフ様から推薦をいただいています。素材には薬師が調合する〈シロップ〉が必要となっています」

薬師しか作ることが出来ないという言葉に少し眉間に皺をよせた。

まあ、薬師しか作れないとなると利益が減るからね。だいたい、シロップって何? と思うかもしれない。

「これが、シロップです。ちなみに、こちらは果実のシロップ漬け。甘味が少ないので、これだけでも売れるかなと思います」

「ふむ……」

見本に持ってきたものを出して、試食してもらう。担当としても、少し心を動かしたらしい。難しい顔をしつつ、頷いている。普通のドライフルーツより甘くしてあるからおやつに良い感じ。

この世界の果物、どうしてもすっぱかったり、えぐみがあったりと……そのままフルーツとして食べるにはちょっとね……。

「混ぜることで新しい効果が出るわけではありません。なので、シロップさえ調達できれば、作成は誰でも可能です。この商品の目的の第一は、冒険者が戦闘後など、汗を掻いて不足しがちの塩分を補うことです。スタンピード前でもあるので、連戦による水分補給を出来る限り素早くできるように飲みやすく味付けしています。商品登録後は冒険者ギルドで販売したいと考えています」

冒険者ギルドとしては、早めに用意しておきたいので、認可を急いでいる。ついでに、私がラズ様との関係で町を離れることが確定しているということもある。

「しかし……いくつかレシピがあるようですが」

「はい。用途として、まず冒険者のための飲み物だったのですが、師匠……えっと、パメラ薬師と相談して、風邪などで食事がとれないときの栄養補給、子供が薬を飲めない場合に混ぜて飲ませるなど、他の用途にも使えるのではという話になりまして……それぞれ用途ごとに味付けも変えて、登録をしようかと思います」

ついでに、基本的な材料はそのままだけど、季節ごとに入れるフルーツも記載してある。どうせ、似たようなものは発売されるだろうということで、色々と詰め込んである。

「なるほど。シロップだけ、急ぎ納品可能ですか?」

「え?」

「こちらは研究用に在庫はあるが……そちらで試作するためにはどれくらい必要なんだい? 今日はこの後予定がある。明日であれば300くらいは用意できると思うが、どうだい?」

シロップの納品を頼まれたことに驚いたが、クロウがあっさりと提示をした。研究用に在庫……そんなにないよね? 多少あるけど、むしろさっきまでの兄さんと師匠の会話中にも開発というか、使っていたからほぼないのではないだろうか。

「え? あ、はい。それだけ納品いただけるなら十分です」

「確認だが、試作・研究のためで、販売用ではないよな?」

「え、ええ。ただ、今後売るための試作品として提供などは……もちろん、登録料・使用料はお支払いいたしますので」

クロウがにっと笑って、そのまま話をつづけた。

そうか。本当に薬師以外で作れるかとか、試作をする必要があるなら、材料をちゃんと用意しておくべきだったかもしれない。

「300も、明日、大丈夫ですか?」

「シロップは素人に毛が生えた程度でも作れるものだからな。この子の兄だって作れるんだ。材料も手軽だしなぁ」

「え、うん。そうだね? えっと、明日、持ってきます」

「お願いいたします。こちらもそれまでに準備しておきます。他に御用はありますか?」

「えっと……大丈夫です。ありがとうございました」

よろしくお願いしますと伝えて、建物を出る。

いや、明日までにシロップを300個作らなきゃいけなくなったんだけどね。他にしたいことあったのだけど……まあ、急ぎの件だからやるしかない。

そう思いながら、渡された納品依頼書を、素早くクロウが取っていった。

「あんたが作る必要はないさ。俺とグラノスで作る。あっちの試作用を用意するくらいは構わないだろう。それくらいは助手として働こう」

「えっと、どうしたの? なんか、やる気があると怖いんだけど」

「あんたなぁ……働かないとまずいと思ってな。小遣い稼ぎだ」

クロウに助手になってもらったのは、その鑑定・解析能力が目的だったんだけど……薬師としても助手になるらしい。いつの間にか、兄さんと一緒に師匠の弟子になり、弟弟子になっていた。

まあ、器具がないからうちで調合するしかないから、いつもやってるわけじゃないけど。

「? お金入ったのに?」

「自分が何もしてない不労所得ってのは、怖くならないか?」

「まあ、わかる気はする」

お金って、急に手に入ると怖くなるよね。ぽんっと宝石を沢山渡されるとだいぶ怖くなる。まあ、そのお金で装備を新調するんだけどね。

宝くじに当たったと考えるべきなんだろう……レアボスの中でも、あれほど稼げるボスはいないと聞いている。まあ、運がいいのは良いことだと思うけど、地に足がついてない感じがしてしまう。

魔導士が装備できるようなローブを扱ってる店に行く。

「いらっしゃいませ……初めてですか?」

「はい」

「……ごゆっくり」

店員さんはこちらをじろじろと見た後に出て行ってしまった。相手をする気がないということだろう。まあ、私もゆっくり商品を見るのは好きだけど、声をかけられるのは苦手なので助かる。

「なんだ?」

「う~ん。一見さんお断りか、もしくは冒険者っぽくないからかな?」

「しかし、いいお値段だなぁ……ティガ達の装備とずいぶんと値段が変わらないか?」

「そうだね。そもそも冒険者で魔法系って結構少ない。一つのパーティーに一人くらいかな。さらに、通常の防具で使う鉄とかはこの町では有り余ってる。レウス達の装備は、たまたま中古で安く手に入ったのもあるけどね」

装備が違うので、金額も変わるのは仕方ないと思う。

高いというのはその通りだけど、ここはすごく良い装備を取り扱っている。布自体に付与がかかってる物もあるし、装飾の銀や金に付与入ってたり、宝石とかも……すごく参考になりそう。

「やれやれ」

「専門の店でちゃんとしたローブ買った方がいい。ほら、これとか……ドラゴンローブ? 防御力も高いし、属性耐性もすごく高いよ」

「まてまて、それ、この店で一番いい装備だろう。というか、そこまでの金ないだろう」

「ないよ。でも、ここのローブ一枚持っていれば、だいぶ装備はよくなるでしょ?」

店の目立つ場所に飾られているローブ。ただ、これは冒険者用にするには煌びやかな装飾がされていて、貴族とかが身に着けそうなローブ。

ただ、他にも置いてある品物は一級品に見える。布一枚でも、かなり防御力が上がる。

「それで、どんなものを探すんだ?」

「私は耐性が高めのフード付きローブか、フード付きコートかな」

「フード付きに拘りがあるのかい?」

「モモが緊急避難できる場所が必要だから」

「……なるほどなぁ」

え? 今の間はなに? なんか変なこと言ったかな?

戦闘中だと、魔法に巻き込まないようにとか考えると、うろちょろされると邪魔になるんだよ? モモがどこに行ったか探すことになるより、フードに入っててもらう方が助かるんだけど。

まあ、私の場合は、胸当てとか、グローブとか、急所は別で防具をつけている。

基本的には、軽装だけど斥候系と変わらない装備にローブを羽織っているので、魔導士よりも耐久力がある。

だから、ローブがどうしても必要というわけではないけど……師匠も薬師っぽいローブを普段から身に着けていて、とても威厳があるので、形から入ろうと思う。

ちょっと高そうなローブで薬師っぽさをアピールしたい。

「う~ん。シーサーペント、アーヴァング……あ、このユニコーンのローブも良さそう」

ここら辺が良さそうかな。

シーサーペントやアーヴァングは水耐性がすごく高い。スタンピード対策には良さそう。

シーサーペントのマントは海のような色をしている。とてもきれいな色……目立つのがちょっと微妙かもしれないけど、水属性の攻撃を50%減とかなり良さそう。

アーヴァングのコートは、灰青色というか……ちょっと色はきれいではないのだけど、触り心地が一番いい。シーサーペントほどでなくても、こちらも水耐性が上がるので悪くない。

ユニコーンのコートは、白くて綺麗。これは、光沢があってすごく神秘的な布で出来ている。これは、全耐性が上がるので、汎用性が高い。

「う~ん。お値段的には……手頃、かな……いや、でも、高いか……」

「なあ、俺はどんなものを探せばいい?」

「クロウは防具がローブだけだからこそ、軽くて丈夫……防御力が高い物かな。おすすめ……ねぇ?」

「うん? なんだ?」

ある程度……ティガさんやレウスの防具については、パーティーの予算内で出している。必要最低限であるし、値段的には中古で安かった。でも、クロウの防具はどうしても値段が高くなる。それでも、パーティー予算から出そうかなと思っていたのだけど……。

オススメを聞かれて、私自身の予算ではなく、クロウにとなると、どれがいいかなと店全体に視線をおくる。そこで、奥に飾ってあるローブが目に入った。

黒い光沢があるローブ。漆黒の布が揺れて光が当たると虹色に輝く。よくよく見るとラメのような粒子が一面にあり、何とも言えない美しさがある。触れてみると素材は軽い。それでも、私が攻撃しても傷もつかないことを確信させるくらいに防御も魔防も高そう……それに、強い風の加護を受けているのがわかる。

「それがいいのかい? あんたにはでかくないか?」

「私じゃない。これ、クロウにいいと思う。値段の上限は? 借金増やしても、買う?」

風魔法の加護は、鳥人のハーフのクロウにはちょうどいい。それに背丈や肩幅もこのコートなら問題は無さそう。

シームルグのコート。

二重マントとか、インバネスコートとか言われる男性用のコート。

襟元の部分に着けられた宝石は、ムーンストーン? これは……私が使えない魔法、闇魔法が付与されてる。闇……吸収系が付与されている?

宝石部分に触れるとわずかにMPが吸われた……。魔法攻撃の一部を吸収する、のかな? なんだか、すごく高度な付与がついてる。

布にも付与がついてるっぽいんだけど……わからない。でも、INTの補正も入っている。

持ち帰って、解析したい。付与がどうなってるのか、もっと詳しく見たい。ど真ん中に飾ってあるドラゴンローブより、こっちの方が、技術がてんこ盛りな感じですごい。

興味津々にコートを確認していると、奥から声が聞こえた。

「お嬢ちゃん、それを選ぶ目はいいが、払えるのか?」

払える?

お値段を確認すると……高い。めちゃくちゃ高いよ。さっき、私が見てたコートに0が一つほど追加されてる。

私のほぼ全財産に匹敵してしまう……いや、でも全財産と言っても、2か月でこれだけ稼げたから……なんとかなる?

「…………ぎりぎり。でも、分割で3回くらいに分けてもらえると助かるんですけど」

「おいおい、まてまて! いくらするか、あんたわかってるか? そんな高いもんを買ってどうする!」

「いや、だって……一番防御力に心配があるし、これいい品だし、多分、クロウと相性もいいよ」

「ほぉ……兄ちゃん。着てみるといい」

さっきの店番の人ではなく、店主? らしき人が奥から出てきた。若いのに偉そうな口調だけど、よく見ると耳がとがっている。エルフのようだから年をいってるのかもしれない。いやでも、口調……エルフよりドワーフっぽい口調だけど。

店主に渡されたコートをクロウが羽織ると風魔法がふわっと発動した。着るだけで発動するとは思わなかったけど、クロウの魔力とはぶつかってない。一瞬、クロウの体が浮かび上がって10センチくらい浮遊していたが、音もなく降りた。

クロウも驚いている。ついでに、風の防護壁みたいなものが自動で発動している。

反対していたクロウも、着てみると文句を言わなくなった。

「……こいつは……」

「買います。ただ、分割可能ですか?」

「お嬢ちゃん。払えるんだろうな? 払えないじゃ困るんだが」

「とりあえず、半分。あと、半分は来月まで待ってもらえるとすごく助かりますけど、どうですか?」

どんっと半額分を袋に詰めて渡す。クロウによく似合っているし、やっぱりいい品だと思う。それに、このコートなら貴族の前に出るのも問題ない質だと思う。

でも……このコートのデザイン。クロウにも似合ってはいるけど…………もっと、似合いそうな人が一人思い浮かんだ。

「若いのに金持ってるな? なにもんだ?」

「クレイン・メディシーアと言います。冒険者兼薬師です。あと半額は、その……換金したりしないとないんで、待ってもらえませんか?」

「メディシーアねぇ。薬師として、最近は有名すぎる名前だな。いいだろう。来月だな」

「ありがとうございます!」

「まてまて。これを……換金前だが、これで支払いとしてほしい。原石のままだが、あんたは扱えるんだろう?」

クロウが宝石の原石をばらばらと机に置いた。この前の報酬……この量だと全部かな? クロウが使うものだから、クロウが出すのは正しいのだけど。

……それ全部渡すと、今後の生活費なくない?

「どれ……いい原石だ。磨く前でよかった。このままのが扱いやすいんでな。こいつで支払いだとしたら……お嬢ちゃん、ほらよ」

渡したお金の3分の1くらいが返却された。クロウの宝石と合わせてこれで売ってくれるということだろう。

「いいんですか? ……原石じゃ足りないですよね? 研磨した後の値段では?」

「質のいい原石だ。価値のわからん奴より、俺が使ってやる。それに……コートはお前さんを気に入ったようだからな。大事に使えよ?」

「ああ、大切に使わせてもらおう」

クロウはコートを包んでもらい、お礼を言ってから店を出る。

私もそれに続いて店を出て、クロウについていく。

「あんた、買わなくてよかったのか?」

「う~ん。いや、いいなぁとは思ったんだけどね。クロウみたいに、コレ! というのは、なかったから。クロウこそ、私が勝手に選んじゃったのによかったの?」

「高い買い物だ。足りん分は借金につけといてくれ」

「……一部、私が出すよ。研究用でもあるし……ティガさんよりも、もっと借金多くなるよ?」

「金はいい。どうせ、たいして変わらんさ。借金無くなる方が面倒だろうしな。それより、このコート使うんだろう?」

たった今、購入したコートを渡される。まあ、付与をもっとじっくり見たかったのは事実だけど……いいのだろうか。

「さて、戻るぞ。調合道具を貸してくれ。納品用のシロップをつくらないとだ」

「あ、私が……」

「あんたはそっちだ」

コートを指で差す。つまり、ちゃんと付与を出来るようになれということだろう。

「買った以上、成果を出すんだ……出来ないとか言わないでくれよ?」

「…………やるよ。間に合わせる」

「そうしてくれ。幻滅させてくれるなよ?」

ぐいっと引っ張られて、クロウの腕の中に入った瞬間にいつもよりも低い声で言われた。顔を見ると前に奴隷の話をした時に見た、蔑んだ眼。久しぶりに見た気がする。

これで成果出さなかった時に……幻滅されるのだろうか。

いや、無理やり買わせたんだから、ちゃんとやる。しっかりした成果を出す。でも……むかつく。

「たまに、こっちを試す言動がいらっとするんだけど」

「あんたが甘いことを仕出かさなければ、俺もそんなことをしないですむんだがなぁ。欲しかったからで、ブランド物を買い漁る様なバカな真似はしてくれるなよ?」

「わかってるよ。無理に買わせた分、ちゃんとそれ以上の価値があったと、認める成果だすよ。絶対にね」

コートをもって、自室に引きこもる。このコートに付与された魔法を……再現できるように……ちゃんと結果を出してやる。

今回は私が悪いのも分かっているけど……まあ、どうしても買っておきたかった。

せっかく時間も出来たし、ちゃんと出来るところを見せてやる。