軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7.衝撃

「この玉、グレイリングの霊山で発見されたものなんです。滅多にお目にかかれない極めて上質な水晶ですよ。人々から神聖視されて、崇拝されてきた山の頂上にあっただけあって、とても強い霊力があります」

ロアンが愉快そうな笑みを浮かべる。

「ほら、異世界人ってなんらかの神の加護を持ってるでしょう? でも、こっちはそうじゃない。だから真っ向勝負の前に、こういった『触媒』を利用して自分の能力を高めるんです。宝石とか古代の遺物とか、代々伝わる聖なる剣とか魔除けのハーブとか」

ミネルバは事前にルーファスから教えられていたので、ロアンの説明を当り前のように受け入れることができた。それでも水晶から放射されている、あまりにも強烈な力に圧倒されてしまった。

「は、はあ……なんとも、まあ……」

宙に浮いて回転する水晶の周りで、青い火花が何度も弾けている。その摩訶不思議な現象を見せつけられて、アントンはひどく困惑しているようだ。

しかし次の瞬間、アントンが顔が真っ赤に染めて悲鳴のような声をあげた。

「い、異世界人? 真っ向勝負? つ、つまり王様と王妃様が呆けたようになった原因と、セリカ様が関連があるということですかっ!?」

ロアンが微笑みを返した。

「どうやらそうみたいですね。扉の向こうに異世界人独特の力を感じますし。小さいけれど、骨も凍るほどの悪意ですよ。異世界人っていうのはね、祝福だけをもたらす存在とは限らないんです」

アントンの顔が蒼白になったとき、再び扉が開いた。中にいる使用人たちの心の準備が終わったらしい。

アントンが前に立って室内に入る。そこは小さな居間で、右と左に美しい彫刻を施した扉があった。つまり国王夫妻の寝室は続き部屋になっているのだ。

「左が王様の、右が王妃様の寝室です。ですがお二人はご結婚以来ほとんど毎晩、左の寝室でご一緒にお休みになっていました。ですので、いまもそのように……」

そう言ってアントンが左の扉を開けた。

ロアンが水晶に全神経を集中させて、己の特殊能力を高めているのが伝わってくる。

寝室に入って周囲を見回したミネルバは、雷に打たれたような衝撃を覚えた。国王夫妻の姿が目に飛び込んできて、医学は素人のミネルバでも彼らが絶望的な状態にあることがわかったからだ。

「キーナン様……オリヴィア様……」

ミネルバは震える手で口を押さえた。

天蓋付きの大きなベッドに、すっかり干からびた国王夫妻が並んで横たわっていた。死人のように青白い顔で、ぼんやりと宙を見つめている。

髪は色を失って真っ白になり、体は痩せこけ、しなびたように小さくなってしまっていた。

「かなりやられていますね」

ロアンが小さくつぶやいた。

生気を根こそぎ奪われた国王夫妻は、まわりで何が起こっているのかまったく気づいていないようだ。

アントンが優しい表情になって身を屈めた。

「王様、王妃様。グレイリング帝国の皇弟殿下がいらっしゃいましたよ。お二人が敬愛なさっているグレンヴィル様のご子息ですよ。可愛がっていらしたミネルバ様もご一緒です。なんとなんと、ミネルバ様はもうすぐ皇弟妃になられるんですって」

アントンがいくら呼びかけても、国王夫妻のうつろな目が焦点を結ぶことはなかった。

ジェムがすっと前に出てくる。ミネルバははっと我に返った。

「それでは診察を始めましょうか。そこの君たち、手伝ってくれるかい?」

ジェムから声をかけられて、おどおどしながら壁際に控えている数人の侍女や従僕が慌てて動き始める。

呼吸や体温。血圧や脈拍といった検査からを始めたジェムを、ミネルバたちは後ろから黙って見守った。

ひととおりの診察を終えたジェムが振り返る。

「体のあらゆる機能が衰弱していますね。このままの状態が続くようなら、近く『老衰死』を迎えるでしょう」

ロアンがふんと鼻を鳴らした。

「じっくり一年かけて弱らせたのは、自然死を偽装するためですかね。彼らの魂に邪悪なものがこびりついてるなんて、普通の医者にはわかりませんし。単なる老衰ならば、グレイリングが調査に乗り出すこともない」

すたすたとベッドまで歩き、ロアンは右手を前にかざした。

「僕たちがここにきて、彼らは幸運ですよ。この世界の人間を危険にさらす異世界人を、黙って見過ごすわけにはいかない。どっかの神の加護を貰って、自分は万能だと勘違いしているやつは大っ嫌いだ。異世界人め、我が物顔で災いをもたらしやがって。国王夫妻がこのまま死ぬのを傍観してなるもんか!」

ロアンの口調ががらりと変わった。大人びていた顔つきまで15歳の少年らしくなっている。

「セリカの力は僕より弱い。一瞬で浄化してみせます!」

ロアンが叫んだと同時に、水晶から目もくらむような青い光の奔流が放たれた。