軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

55話 たのしい夜遊び、ラン・RUN・竜

「とは言ったものな、ナルヒト、ストル。一つ言っておかなければならないことがある」

「んあ?」

「ディス?」

ラザールの言葉。モテモテ大作戦(各個に別れて手当たり次第にナンパしまくる)を始めた矢先のことだ。

「正直、このやり方だと、あまり俺は役に立てそうにない。悔しい話だが、リザドニアンという種族はやはり、嫌われ者でね」

少し悲しそうなラザールの声。尻尾がへにょんと萎んでいる。

「ディス…… たしかにラザールの人柄を知らない人間からすれば、リザドニアンというのはあまりみんなに受け入れられる種族ではないディスね」

ストルの言葉も、今の遠山にはよく理解出来る。この1週間、冒険都市で過ごしていて肌身で感じていた"リザドニアン"という種族への差別や偏見は根深い。

今でもチラチラと上等な服に身を包んだ客からは不躾な目線を感じる。

「心配すんなよ、ラザール。何も問題ねえ」

チラチラ見てくる視線を睨み返して追い払いつつ、遠山は、言い切った。

「ナルヒト?」

「お前の種族と、お前個人のことはなんも関係ない。少なくともここに2人、お前がいい奴だって知ってる人間がいるだろ?」

遠山が自分と、それからストルを交互に指さす。ストルもまた顔色を変えずに小さくピースサインで答えた。

「ナルヒト…… ストル……」

「お前の出番はここより次。パン屋を開業した後だ。人には向き、不向きがあるからよ。美男美女を口説くのは俺とストルに任せてどっしり構えといてくれよ、店長」

「ナルヒト……!」

ラザールの肩をたたき、精一杯に爽やかな顔を作る遠山。本人的には完全に決まっていた。

「なあ、ストル」

そう、適材適所というものがある。ラザールがこの作戦で結果を出さなくても、彼の本番はここより先、パン屋を開業してからの話だ。

遠山はストルに同意を求めてーー

「……う、うーん、まあ、うん、そう、ディスね。……うーん……」

「あ、どうした?」

「いや、なんというのディスか。私、賢いのでこの先の未来がわかってしまったというか、なんというか」

何故かしょっぱいものを口にして、飲み込むかどうか迷ってるような愉快な顔をしたストルが口をモゴモゴさせていた。

「何言ってるんだ、お前。よし、それじゃ、1時間後、またこの噴水で。いいか、これはお遊びじゃない。仕事だ。必要経費として1人金貨5枚渡しとくから各自の判断で使うこと。領収書もらえたらもらっといてくれ」

遠山が懐から小袋を取り出して、それぞれにちゃりんちゃりんのぴかぴかの金貨を渡していく。

ティタノスメヤ狩りであぶく銭を得ていたので今のところまだ余裕はある。ただ、この冬までに教会との契約、白金貨50枚を払わなければ全て終わりなのだが。

「ああ、了解だ」

「ディース」

「よし、行くか……!」

ストルはあの顔面偏差値だが、バカだ。あのイケメンに口説かれてたのは多分ラッキーパンチだろう。

そしてラザール。いい奴だが、差別や偏見てのはどこの世界でもあるものだ。気に入らないが、それを覆す為にも、この店でモテる必要がある。

「俺が要だ。俺が頑張らねえとな」

静かに1人、闘志を燃やす遠山。

そんな遠山を頼もしそうに見るラザールと、どこかしらっーとした目で見つめるストル。

それぞれの熱意を胸に、3人が噴水広場を後にした。

…………

……

〜1時間後〜

「……わたし、貴方たちのこと、リザドニアンのこと誤解してたみたい。貴方のような方もいらっしゃるのね……」

絶世の美女。

女性らしい膨らみ、括れた腰。完成された身体を黒いドレスで包んだ黒髪の美女が、瞳に熱を灯す。

「過分な言葉さ、ミス・ハロト。ああ、でも貴女にそう理解してもらえたのならこれほど光栄なことはないかな」

その瞳をまっすぐ見つめ返し、パチリとウインクをする男。その爬虫類の顔には穏やかな表情が浮かんでいる。

「ふふ、謙虚なのね。貴方みたいなヒトは始めて…… ねえ、私、今、貴方のことが気になってるわ」

「俺は初めから貴女のことを知りたかったよ」

さらりと良いのける色男、いや、色トカゲ。歯の浮くようなセリフもしかし、完全に自分のものとしている。

「あら! もう、ふふ、イケナイ人ね」

「あ、ちょっと、ちょっと! 抜け駆け禁止! ラザールさんにはじめに声かけたのウチなんですけど! ねーさん、最初はリザドニアンは怖いとか言ってたじゃん!」

暗い雰囲気の美女と対照的な明るくて元気な声。肩までのショートボブ、少し癖っ毛気味の茶髪の美少女が2人の世界に割って入る。

見ていると存在しないこの子との幼馴染としての記憶が湧いてくるそんな美少女だった。

「ふふ、なんのことかしら。ごめんなさい、ラザール様。あの子、まだ子どもだから」

「そんなことはないさ。ハイネ、君のその純粋な心はとても綺麗だ。君から話しかけてくれた時、俺は嬉しかったよ」

「あ、う…… あ、ははー! いやいやいやー、そんなウチなんか真っ直ぐ見つめちゃってー! てか、ごめんね、ハロトねーさんと2人きりの方がいいよねー」

快活な少女だ。コロコロと表情を変えながら明るく少し、自信なさげな雰囲気。自虐めいたことをモジモジとつぶやいて。

「ふ、気を惹くのが上手いんだな、ハイネ。俺は君とも一緒にいたい。嫌かい?」

「あ、う、ううん、そんなわけ、ないじゃん…… はい…… 私なんかで、よろしければ…… おそばに……」

色トカゲの声に、声を小さくしながら頷く。その顔は食べごろのりんごよりも赤く。

「あら、ハイネが本気で照れる姿なんか久しぶりに見たわ。ふふ、ラザール様、罪なお方ですね」

「2人の花に囲まれるのなら、罪人と誹られようとも構わないさ。つい最近まで、冒険奴隷だったと言えば君たちの気を惹けるかな?」

「まあ、面白いお話! ねえ、ラザール様、聞かせてくれないかしら」

「あ、ウチも、ウチも聞きたい! ラザールさん、お話しよ!」

1人のトカゲに、美女がしなだれ微笑む。美少女が声を更に高くしてキラキラした瞳を1人のトカゲに向けている。

「……………うそやん」

遠山鳴人は、今深い絶望の中にいた。海よりも深く、マグマよりも濃い絶望の中に。

そのソファ席の周りには人だかりが出来ていた。

「お、おい、見ろよ。リザドニアンが、あのアイザール姉妹を口説いてる…… なんか、いい雰囲気だぞ」

「嘘だろ? さっきメロウ商会の倅と帝都の貴族が口説いても相手にされなかったの見たぜ?」

「マダム・ハロトが女の顔してるぜ。あのリザドニアン、レイン・インの女主人を堕としやがった……」

「ああ、ハイネ…… 俺には見せたことのない雌の顔をしてる…… 脳が……」

「あのリザドニアン、凄え」

「声かっこいい……」

モテにモテている伊達男、伊達トカゲを一目見ようと集まる男たち、ある者はおののき、ある者は失恋し、ある者は脳を破壊されていく。

圧倒的なモテ力の前に、モテない男たちはただ、ざわざわするしかない。

遠山もざわざわする人間の中の1人だ。恐怖と絶望のあまりにガチガチと歯を噛み合わせていた。

「ま、まずい、このままじゃ、俺がまるで自分がモテないことを自覚すら出来ていなかったすごく痛い奴になってしまう…… はやくーー」

この1時間、遠山とて遊んでいたわけではない。好みの女の子に声をかけて話をしようとしたが、全敗、全て敗北だ。

一言、二言、言葉を交わした途端にみんな目を伏せてそそくさと去ってしまうのだ。初めはみんな恥ずかしがり屋なのかな? と、おおらかな感じだった遠山も、5人目くらいから焦り初めていた。

15人目に振られた辺りで、時間が近かったので待ち合わせの噴水の近くに戻ってみれば、これだ。

「ふふ、もう、ラザール様ったら、ほんとなんでしょうか?」

「あはは、ラザールさんおもしろーい! 私、もっとお話ししたいな!」

「光栄だ。君たちのような美しい花と語れる時が俺の人生に訪れるとは。例えこの時間が一夜の夢に過ぎないとしても、俺はこの時を決して忘れないだろう」

「ふふ、キザな方……」

「あ、はは。やだ、もう、えと、そんな目で見つめられますと、その……」

ラザールが、モテにモテていた。

しょんぼりトカゲではなく、モテトカゲだ。これでは。

「やべえ」

モテにモテている友達への殺意を押しつぶし遠山が、見られないようにその場を離れようとして。

「あー…… やっぱりこうなったディスか。ラザールはそりゃこういう店の女の子にモテますディスよねー」

「ゲ」

ストルの声が背後から。

まずい、まだ収穫ゼロなのがバレてしまった。いや、待て待て待て、ラザールはなんかラッキーパンチが炸裂してあんな感じになったのだろう。

だが、ストル、ストルは大丈夫だ。だってガキだ。まだ14歳、いわば中2。人生で1番モテない年齢の筈(遠山体験談)

大丈夫、はい、絶対ストルも収穫ゼロ。中2のガキに靡く男なんざいるわけがーー

遠山が恐る恐る後ろを振り向いて。

「ディス?」

ストルが、いた。

4人のイケメンが担ぐ神輿みたいな台座の上に寝転がっていた。

「どういうモテ方??!?!」

1番モテなかった悲しい男を眺めてストルがすぴーとため息をついた。

「はあ、やーっぱりトオヤマは収穫無しディスか。なんとなーくそんな気はしてましたディスけど」

「いやまて、もうお前は何をどうしたらそうなるの?」

遠山が恐る恐る台座に寝そべったままのストルへ声を向ける。

イケメンに担がれている顔だけはいい美少女、見ているだけでバカになりそうな光景だ。

「うん? なんか普通にしてたらこうなってたディス。貴方達、嫌ディスか?」

ストルがあくびをしながら気怠げにイケメン達に声を向けて。

「いえ、控えめに言って最高です……」

「小さくて可愛くてバカ強い少女騎士とかご褒美です」

「ナチュラルに無神経で傲慢なところも可愛い」

「存在が性癖です」

ぽっと頬を赤く染めて、うっとりとした顔つきでストルを担ぐイケメンたち。

「おいたわしや、イケメン達……」

一体バカ騎士に何をされてしまったのだろうか。遠山は静かに口元を覆って彼らを憐れむ。

「少し調子に乗ってそうなイケメン達でしたので少し躾したらこんな感じになりましたディス。私の取り柄は顔が良くて強いだけディスが、今回は役に立てたましたか?」

にへーっと、うつ伏せになり頬杖をついて足をぷらぷらさせるストルが遠山に意地の悪い笑みを向けた。

「うん、誰が1番調子に乗ってるんだろうね。それはそれとしてお前またなんか意味わからん方向にこじらせ始めてる?」

遠山が重くなる頭を揉みながら答えると。

「あ、ナルヒト、ストル! おーい、こっちだ、こっち」

こちらに気づいたらしいラザールが手を振っている。ラザールにまでバレてしまった。

「あ、モテトカゲが呼んでますディスよ。モテない男」

「お前やっぱり今からでもあの時の決着つけるか? ん? 中2でも容赦しないよマジで」

イケメン達に担がれた美少女とメンチを切りながら遠山がラザールの席へと足を運ぶ。

周りの人だかりも、遠山達からすっと離れていく。天敵に散らされる小魚の群れみたいだ。

「ストル、君はまた、その…… すごいな。なぜそうなるんだ? おや、ナルヒトは1人かい?」

ラザールが苦笑いを浮かべて、キョトンと。本当に不思議そうな顔で遠山を見た。

「ラザール、ちょっとこっちへ」

「うん?」

「お前とのこれからの付き合いを続けるために一つ言っておきたいことがある。恥を承知で友人としての忠告を伝えたい」

素直に立ち上がり側に来たラザールの両肩を遠山ががっしり、正面から掴む。

じっと、そのトカゲヅラを正面から見つめて。

「あ、ああ。ど、どうしたんだナルヒト。顔が怖いんだが」

戸惑うラザール、何故かストルがゴクリと喉を鳴らしていた。

遠山が、口を開くーー

「ラザール、俺より安易にモテるな。頼むから」

「ほんとに恥を承知してるか?」

史上最強に恥まみれの発言をかました遠山に、淡々としたラザールの声が突き刺さる。

「ラザール、しかたねーのディス。もう遠山は人間性が変わる歳を過ぎていますディス。このままモテない悲しいモンスターとして生き続けるんディスよ」

「言い過ぎじゃない?! たまたまだからァ! 俺だってモテる時あったからさあ! 高校の時、2、3回告られたことあるしぃ!」

「ナルヒト……」

中2、14歳の少女の言葉に本気で言い返す成人男性、残念ながら年を重ねただけでは大人にはなれないらしい。

「…………フン、物好きもいたものディスね。………なんディスかそれ、つまんない。……その女達とは交尾したのディスか?」

すんっと、ストルが表情を失くした。顔の造形がいいぶん無表情がとても、冷たく、怖い。

「いや、その時の俺はそういうの断るのがかっこいいと思ってたから全部断った、てか交尾とか言うのやめてくんない? 犬かなにか?」

遠山は少しビビったことを押し隠し、平然とした素振りを続ける。

「……! フフーン。そうディスか。プププ、トオヤマは残念な男ディスね」

「てめえ降りてこいや。イケメン達の上からのメスガキムーブはマジでやめろ」

ぱあっと、朝日が差すように笑うストル。

「ストルさんが生き生きしてる……」

「推せる……」

「俺たちへの態度と違う…… これがBSS……」

何故かストルを担いでいるイケメン達が涙ぐんでいて。

「まあいいディス。貴方達、ご苦労様ディス。もう降ろしてくれて結構ディスよ、ご褒美に後で貴方達のうちの誰かのお部屋に遊びに行ってあげますから、誰のお部屋に行けばいいか、決めておいてくださいね」

「「「「………! はい!」」」」

音もなくストルを降ろしたイケメン達。ストルの言葉に喜色満面。犬耳のイケメンは耳を平たくして、人のイケメンは顔を赤くする。

しかし、次の瞬間には4人全員で睨み合いが始まり、ホールの隅に睨み合ったまま消えていく。

遠山をして関わりたくないと思わせるほどの殺気が4人の中に満ちていた。

「おい、ストル、アイツら大丈夫か? 4人のうち1人が生き残るまで殺し合うみたいな顔してたけど」

「大丈夫ディスよ。レイン・インのキャスト達ディス。下手なことはしないでしょう、さて、私の方はこれで個室のあるエリアに入れる段取りはつきましたディスが……」

ふふんと、ストルが唇を曲げて遠山に流し目を向けていた。

このガキ、一度やっぱりどちらが上かわからせる必要があるな。精神年齢低めの遠山が本気でイラつき始めていると。

「あら、ラザール様。お友達の方ですか? ふふ、ご紹介して頂けまして?」

よく通る声だ。しっとりと、決して目立つ声ではないのによく届く声だった。

「ああ、ミス・ハロト。すまないね、見ての通り騒がしい連中で」

「あら、そんなことないですよ。彼らを見つめる貴方の目はとても、優しいものでした。ふふ、少し妬けちゃうわ」

ラザールに熱い視線を向ける女、遠山は友人のモテる様をしらーっと見つめる。

「そう見えたかい? だとしたら君を見つめる俺の目は、君にはどう見えているのかな?」

「……いじわるなお方。はじめまして、友人様たち。レイン・インにようこそおいでくださいました。お楽しみ頂けていますか?」

ラザールに寄り添い、いちゃつき始めた美女。

紫色のルージュが、妖しい魅力を醸し出す。カラスの羽に似た装飾、真っ黒なドレス。

魔女みたいだ、遠山はぼんやりと女を眺める。

「ディス、おかげさまで。約1名を除いてはそれなりに満喫させてもらっていますディスよ」

「まあ、可愛いらしいお嬢様…… 不思議な方ですね。とても幼いのにとても逞しいお方のようで」

不思議なものを見るかのように、女がストルを見つめる。黒曜石のようなテラテラとした黒い瞳と、ストルの水色の目が互いを映していた。

「ディス、マダム・ハロト。もう忘れてしまいましたか? お久しぶりディスね。先日はどうも」

「あら! あらあらあらあらまあまあ! ふふ、もしかして、騎士ストル? 貴女なの? ふふふふ、嘘でしょう? すっかり変わっているものだから気付きませんでした」

ストルが腕組みしながらぶっきらぼうに答える。女が眼をパチクリと見開いたのち、口元を押さえて驚きを見せた。

「変わった、ディスか?」

「ええ、憑き物が落ちた、と言うのかしら。貴女、以前はとても難しそうなお顔してらしてたから。今はすごく、たのしそうね」

「……貴女には何が見えてるのディス?」

ニコニコと微笑ましいものを見つめる顔の女と、ぶすっとした顔のストル。

第一の騎士として威圧を含む少女の言葉にも女は動じない。

「おっと、ストルとミス・ハロトは顔見知りだったのか。なら話が早いな。紹介するのは1人で良さそうだ、彼が俺の友人、トオヤマナルヒトだ。ナルヒト、こちらはーー」

「ーーふふ」

「ミス・ハロト?」

ラザールの言葉を遮り、女が笑いをこぼした。ついうっかりコップからほんの少しの水を溢してしまった、そんな笑い方。

「ふふふふ、ごめんなさい。ラザール様。トオヤマナルヒト? 貴方が、もしかしてあの竜殺しなの?」

「知ってるのか?」

遠山が問いかける。美人だが、どこかきな臭い雰囲気を感じたせいか。その言葉に愛想はもうなかった。

「ふふふ、ええ、貴方は有名人ですもの。……まあ! もしかしてラザール様があの"リザドニアンの奴隷"なのでしょうか?」

「あ、ああ。その通りだ。ナルヒトの名前はそんなに広がっているのか?」

「ふふ、ええ、お噂はかねがね。眉唾じゃないのかと疑いたくなるお話も。……ああ、なるほど」

女の黒曜石のような黒い瞳が、遠山を見つめる。鏡のような眼だ。覗きこんでいるとそのうち見えてはいけないものが見えてしまうようなーー

「なにか?」

遠山がその視線を遮るようにつぶやく。

「ふふ、竜殺し様、大変失礼なことを申し上げますが、貴方、ここの女の子に相手にされなかったでしょう?」

「………………ッス」

言葉のナイフをドタマに突き刺された。

お前、モテないだろ。その言葉はつまり宣戦布告、殺し合いが始まってもおかしくない言葉だ。遠山は固まる。

「ふふ、ごめんなさいね。貴方のことをバカにしてるわけじゃないんです。ただ、色々納得したというか、ええ、私にとってはとても面白い謎々の答え合わせをしているというべきでしょうか?」

「……ミス・ハロト。貴女は素敵な女性だが、俺の友を無闇にからかうのはよしてくれないか?」

「ラザール……」

やだ…… かっこいい。遠山はラザールに頼もしさを覚えていた。

「ふふ、相当に竜殺し様に入れ込んでらっしゃるのね。ああ、素敵。貴方達、同じ光景を共有していらっしゃるのね。ふふ、魅せられてしまっていますわね、ラザール様」

「……マダム・ハロト。私もあまり気が長い方でもないディス。トオヤマがモテないのは周知の事実ディスが、他人である貴女がしたり顔で語る内容でもない気がしますディスが?」

ラザールに言葉を向けた女。諌められてなお、どこ吹く風で遠山とラザールを交互に、黒曜石で出来た鏡のような目で見つめる。

そんな彼女に鋭い言葉を向けたのはストルだ。そして向けたのは声だけではない。苛立ちを含んだ怒気も孕んでいて。

「……姉さん」

「大丈夫よ、ハイネ。座ってなさいな。ストル様はもう変わってらっしゃるわ。あの時みたいなことにはならないですから」

ストルの怒気に反応した連れの女がゆっくり立ち上がる。遠山がちらりと辺りを確認すると、数人のキャストが音もなく、辺りを取り囲み始めていることに気づいた。

「…………お姉さん、何が言いたいんでしょうか?」

遠山が警戒を深めつつ、小さく問う。

「怖い目ですね、竜殺し様。人を敵か、味方かだけで判断してしまえる人間の目です」

「あ?」

「貴方が、このお店の子に相手にされない理由は簡単です。うちの子達はみんな鋭くて、賢くて、そして寂しがりでございますから。自分を相手にしてくれない男の方に靡くことはないでしょう」

「いや、相手にされてないのはこっちなんですが」

「いいえ、竜殺し様。男と女とは互いに足りないものを補うものです。でも、貴方を補える女の子は、ここにはいなかったようですね。……貴方は誰も見ていませんもの」

くすくすと喉を鳴らして笑う女。ラザールに向けていた熱っぽい視線とは違う、もっと何か粘度の高いものを込めた目で遠山を見つめ続ける。

「貴方は欠けています、歪でねじ曲がり、決して 完(・) 成(・) し(・) え(・) な(・) い(・) 器。大凡の人はその足りない部分を他者によって埋めていくものです。それを恋や、愛と呼びます、でも貴方の欠落は愛では埋まらない。貴方がそれをよしとしないから」

「………酷い言いようだな」

社会不適合者と言われてるのと変わらない。だが遠山には女の言葉が響かない。

「ふふふ、ごめんなさい。でも、貴方はまるで傷ついていないでしょう? 貴方にとって私はどうでもいい存在だから。貴方はとても残酷で、とても温かい人なのですね」

「それ両立するもんですかね」

軽く問い返す遠山。女の言葉は当たっている。遠山にとってどうでもいい存在からの言葉は、モンスターのわめき声と大して変わらない。

「ええ、普通はしませんとも。でも、貴方は違う。貴方は決して満たされぬ器をそれでも1人で求め続ける人。他者によってしか埋めることの出来ないそれを、1人で埋めてしまうかもしれない人」

遠山の視線が少しずつ険しくなる。しかし女はそれを愉快そうに見つめ返して唇を紡ぐ。

珍しい絵画や彫刻を目の当たりにして興奮しているかのように。遠山を見つめ続ける。

「本当なら他者が必要なはずなのに、貴方はそれを自分で埋めてしまう。そして気付かぬうちにその在り方は他者へ影響を与えていく。貴方の空っぽを埋めるのは夢…… いいえ、これは、欲望、でございますね」

「アンタ、おかしなこと言うな」

遠山はこの女の目が、嫌になってきた。

「ふふ、人を観察するのが仕事なもので。でも貴方のような人は…… 初めてみたかも知れません。歪で欠けてボロボロなのに、それでも光景を持ち続けている。それでも誰に依ることもなく前へ進み続ける。ああ、ラザール様や、ストル様を魅せたのはその目でしょうか? その舌でしょうか?」

「レイン・インの子はみな、自分を必要としてくれる方を好みます。竜殺し様、シンプルな答えです。貴方がうちの子達を最初から相手にしていないのですよ」

「ひでえな、これでも真剣に緊張して声かけたりしたんだけど」

「ふふ、嘘ですね。貴方はなんの緊張も迷いもしていない。なぜならどうでもいいから。貴方は他人を必要としなければいけない人間のはずなのに、そうなってしまった。貴方を満たせるのは貴方の追う欲望だけ。ああーー」

「貴方に 愛(他人) は必要ないのですね」

ーー消毒液の香り、加湿器の音、点滴が垂れ続けるビョウシツ。

遠山は覚えていないはずの光景を見た。

ーー貴方に愛は必要ないよ

いつかどこか、誰かに似たようなことを言われたことがあるような。

「……そこまでだ、ミス・ハロト。アンタに俺の友を批評する権利はない」

「あら、ふふ、ラザール様、嫌だわ。そんな怒らないでくださいまし。……その目も素敵ですね。でも、いいのですか? 本当に彼についていっても」

「なんだと?」

「彼は辿り着いた後、また次の欲望を追いかけます。なぜなら彼は決して完成しないから。自分の中の空白を、欠けたものを埋めようとして、次へ、さらに次へ。貴方は竜殺し様についていけるのかしら?」

ラザールを試す言葉、それは決して今日出会った人間が口にしていいようなことではない。

「おい、あんた」

遠山が口の過ぎる女に分かりやすく敵意を向けて。

「無論だ」

「あら?」

遠山が女に詰め寄るよりも先にラザールが答えた。

「無論だ、ミス・ハロト。この男に俺はついていくと決めた。場所はもう関係ない。"竜殺し"がいる所が、"リザドニアンの奴隷"がいる所だ」

遠山がラザールを助けることを決めたのと同じだ。

ラザールもまた自分で決めていた。遠山鳴人の欲望、その軌跡を共に追いかけることを。

その決意は他人の言葉程度で揺らぐようなものではない。

「……まあ、ふふ、本気で妬けそうです。竜殺し様に。貴方の歪な在り方は、とても温かいのですね。愛がなくとも、理解してくれる、埋めてくれる人がいなくても、それでも良いと他者を錯覚させてしまう。優しくて、危険でーー」

「話が長いのディスよ、ハロト。いい加減飽きてきましたディス」

女の言葉をストルが遮る。投げやりで、ため息まじりのだるそうな声、だが有無を言わさぬ迫力があった。

「あら、ストル様。いやですわ、怒らせてしまったかしら」

「別に。トオヤマがイカれてて女の子にモテない男というのはわかってることディスし。私にとってどうでもいいことディス」

「ならーー」

髪の毛をいじりながら、よそ見しつつボヤくストル。女が更に遠山へ視線を向けて。

「部外者のお前がそれ以上、この人を語るな。殺すぞ」

天使教会騎士団、最優にして"正義"に選ばれた序列第一の騎士。その言葉は重たく。

「ーーッ」

「姉さん!!」

「マダム!!!」

わかりやすくストルが女に向けた殺意に、様子を伺っていたキャストの数人が飛び出してくる。

女を庇うように立ちはだかる美男美女たち。それを見たストルは、その年齢からは考えられないほどの酷薄な笑みを口元に。

「おっと、何人か勘のいい奴がいるんディスね。ウイーフック、腑抜けたと思われたままでいるのも癪ディスし、少し遊んでやりましょうか?」

その威圧は変わらない。少し慣れてきたせいで遠山は忘れかけていたが、ストルもまた規格外の存在。

竜にも似た、超越者独特の傲慢な顔を浮かべる。

「……いい、ストル。ありがとう」

「……チッ、お心のままに。審問官殿」

遠山の制止にストルが舌打ちしつつ従う。バカだが最近少しずつ話が通じるようになっていた。いい傾向だ。

「……恐ろしい人。ストル様ではありませんよ。貴方です、竜殺し様。知らずのうちに貴方は他者を侵していく。他者を魅せて、他者を歪ませて、変えてしまう。ああ、でも、だからこそ、あのお方も貴方を気にかけるのでしょうね」

遠山の指示に従うストルを見た後、女がしみじみと言葉を紡いだ。

「……誰のことを言ってる?」

「ふふ、すぐにわかります。ねえ、竜殺し様、レイン・インを楽しんで頂けておりますか?」

「頼んでもねえ人格診断されて不愉快な気分にはなってるな。さて、どうしたもんか」

「あら、それは困りました。ここはレイン・イン。門をくぐったお客様に夢を見せる冒険都市に咲く花園。その中にあって1人たりとも、夢を見ることも、花を愛でることも、花に愛でられることもないなど、許されるはずもありません」

「……えっと?」

「ミス・ハロト、何を?」

「ラザール様、貴方のご友人を語ったことお詫び申し上げます。ストル様、貴方の、大切な方を覗き見たことお詫び申し上げます」

女が、微笑みを消し、一転神妙な顔つきで深く腰を曲げる。

ドレスの裾をつまみ、首を垂れた。

「……なんのつもりディスか?」

「ここ、レイン・インにおいて竜殺し様を満たせる 人(・) 間(・) 種(・) はおりません。ですが、だからと言って、竜殺し様お一人だけ、楽しめないとなるとレイン・インの名折れです。女主人、ハロト・アイザールの名にかけてそんなことは認められません」

「なんだよ、お似合いな女の子でも紹介してくれるのか?」

遠山は軽口を叩いた。叩かなければよかったのに。ハロトがその軽口にさわやかな微笑みで答える。

「……ああ、そろそろ時間です、 お(・) 二(・) 人(・) の(・) お(・) 色(・) 直(・) し(・) が(・) 済(・) ん(・) だ(・) よ(・) う(・) で(・) 。(・) 」

「うん?」

遠山がその言葉に固まった。どくん、心臓が跳ねた。

「明かりが……?!」

ぱっと。暗闇。

広間の明かりが一気に消えた。一瞬の静寂、広がる暗闇。火が燃え移るように大きくなる人々のざわめき。

「お集まりの皆様! お騒がせして申し訳ございません!! 数多の花が集う一夜の夢の場。楽しんでおられますでしょうか?」

壇上に光が。

背の高い獣耳のイケメンが、1人その光を浴びている。

「……ナルヒト、なぜかな。少し、嫌な予感が」

「奇遇だな、ラザール。俺もだよ」

「ディス、この感じ…… まさか……」

3人がそれぞれボヤく。だいたい嫌な予感というのはあたるものだ。今夜もそれは例外ではない。

「本日は皆さまに良いお知らせがあります。どうか、お耳を貸して頂ければ幸いです。お客様のお心を乱したこと深くお詫び申し上げます」

「我がレイン・インにおいて咲き誇る数々の花。今宵その花園に、いと尊き二輪の花が、咲くことになりました。それを皆様に分かち合いたく発表させて頂きます」

「竜殺し様、このお店は一夜の夢。辛く悲しい現実に立ち向かうため、人は甘い夢を見る権利がございます、それはお客様もそうですが、何よりレイン・インの可愛い子達も同じです」

人々の注目を浴びつつ、生き生きと身振り手振りで場を落ち着かせていく獣耳のイケメン。

彼のステージを眺めながら、ハロトと呼ばれる女の声が暗闇の中から届いた。

「これだけツラがいい奴らだったら苦労しない気がしますけど」

息遣いすら感じる至近の距離、甘すぎる花の香りが遠山に届く。

「あら、そんなことありません。いくら見目が良くて生まれに恵まれていても満たされない人なんていくらでもいますもの。……誰しもが貴方のように1人で欠落を埋めることが出来る人ばかりではありません」

「竜殺し様、誰もが貴方のように欲望を、夢を持ち続けることが出来るわけではないんです。だから、人は他人を求める。自分だけでは見れない、追えないそれを、他人に埋めてもらおうとするのです」

「……なんとも都合のいい話ですね。人に期待しすぎな気がしますけど」

「それでも人は、人に依ってしまうものですよ、誰しもね。貴方のような人は、本当に珍しい。己の欠損を己だけで満たそうと進み続ける姿。同じ人間からすれば異端としか言えませんが、ふふ、あの方達から見ればその有り様はきっと、とても愛おしいものなのでしょうね」

「…………なんて?」

女の言葉に、遠山がキョトンと聞き返す。

「2輪の花を、貴方に。いいえ、逆、でしょうか。2輪の花に貴方を、ですかね。 どうぞ、ごゆるりと。レイン・インでのたのしい夜遊びを」

「え、ちょ、おい!?」

消えた。気配も、声も。

テレビの電源が消えると同時に、画面が暗くなるように。

「ミス・ハロト? ……いない、完全に見失なった」

「……ラザールが見失なった? あの女何者だよ」

「と、トオヤマ、ラザール。前をみて、あのステージ…… 」

ストルの言葉に遠山とラザールがメインホールの前方、明かりに照らされる壇上を見つめる。

「あの女、いつのまに……」

さっきまで隣にいたはずのマダム・ハロトが気付けば前方、ホールを見渡す位置にある壇上に立つ。どうやってあそこまで移動したのか。種や仕掛けがわからない。

「皆さま、こんばんは。良い夜ですね。当館の主人、ハロト・アイザールと申します。良い夢を皆さま見れておりますでしょうか?」

「ハロトー! 俺だ! 結婚してくれー!」

「マダム! いつになったら逆指名してくれるんだ?」

一気に湧く会場。暗闇から光のある場所へハロトへ向けて男たちが騒ぐ。

「ふふ、皆様お元気そうで何よりでございます。ですが今から少しだけお静かに。ええ、後悔はさせません。今日、この場にいらっしゃる方々は幸運です。お伽話ですら記されることのない光景を目の当たりに出来るのですから」

ハロトの声に、観衆は一気に静まり返る。特異な能力ではない、立ち振る舞いだけでそれを可能せしめている。

「彼女たちは、まさしく我々人間種よりも遥か上位の存在。何よりも美しく、何よりも気高く、並び立つ者なき孤高の存在。大空の支配者、世界の調停者にして、生ける伝説」

あ、ヤバい。

遠山は目をぱちくり。細いチベスナのような目が何度もぱちぱち開いたら、閉じたり。

遠山鳴人は忘れていた。主教のスキャンダルを狙いすぎて、そして久々の悪巧みにテンションが上がって忘れていたのだ。

監視され、見られているのは主教だけではなかったことに。

狩るものは常に、いつでも狩られる者に変わるということ、はしゃぎすぎて忘れていた。

でも、もう遅い。

「それでは本日、とある理由からこの一夜のみの極上の花となって頂ける方々をご紹介致します。それは帝国、いえ、この世界にて全ての羨望と尊敬を集める至高の存在」

灯りが差す。

暗いホール、壇上だけをシャンデリアの光が明るく照らす。

「"竜"のお2人にございますれば」

光、暗闇、煌めき。

壇上の光が一瞬消えたと思えば次の瞬間にはまた光が戻る。

ハロトがこれまでにないほど深く頭を下げて、一歩、二歩と下がっていく。

彼女の両脇に、太陽と月が鎮座していた。

誰しもが、この会場にいる誰しもが、一瞬、まばたきの方法を忘れた、声の出し方を忘れた、呼吸の方法を、忘れた。

「「………………」」

静寂。

誰も気づかないうちに、そこには金と銀。

目隠しの面をつけた長い金髪の女、同じく目隠しの面をつけた銀髪の女が玉座にも似た椅子に座っている。

太陽はふんぞり返って椅子に腰掛ける。豊かな金髪を結いあげ、脚を組んで観衆を見下すように背もたれに体を預ける。

「綺麗だ…… まさか、あれは……」

「なんと堂々たる姿、おお、まさか、この目で拝見出来る時がくるなんて」

その太陽、尊大さですら人を魅せる。下位生物は理解させられる。自分たちよりも上に存在する生き物の格を。近づくことすら畏れ多い枠外の生命。

その太陽に今すぐひれ伏し、恭順の意を示したい衝動がヒトの心に。

「「………………」」

月が静かに、膝に手を置いて首をかしげた。

誰しもが錯覚した、その銀の髪が彼女の静かな動作によって揺れるたび、美しい音色が聴こえたかのように。

その月、存在しているだけで人を惑わせる、下位生物は理解させられる、自分たちはかのモノのおもちゃに過ぎないということを。

その月に今すぐ自分を捧げたくなる。一時でもその興味を向けてほしいと、その為なら己の命すら献上しても構わない、被虐の意がヒトの心に。

「おお………」

「なんと、美しい……」

「綺麗だ……」

「宝石みたい……」

「生き物……なのか?」

そして、何よりその太陽と月は美しかった。

彼女たちを照らす光そのものよりも、眩く、儚く、強くーー

ヒトが、竜の美しさに惚ける。

「ではお2人に早速、この夢の花園の流儀に従い、ええ、"逆指名"を行って頂きましょう。御二方、ご指名をば」

「………」

「………………」

これは、夜遊び。

そしてここは、レイン・イン。

一夜の夢を望む客は選ぶ側ではない。一夜に昇る夢が客を選ぶ社交の場。

たのしい夜遊びの場所。竜たちは遊ぶのが大好きだ。

ああ、金の細く長い指が彼を指す。

ああ、銀のしなやかで白い指も彼を指す。

その指の行先は同じ。誰しもが振り返る、誰しもがその指先を探す。

奇妙な3人組、リザドニアンと水色の髪の少女、その真ん中にいる顔色を現在進行形で悪くし続ける黒髪の男。

2人が、黒髪の男を指差して。

2人が、遠山鳴人を逆指名して。

「……………ヤバい」

「な、ナルヒト」

「あ、あー…… 私、全部わかっちまったディス」

「ふふ、ではお2人に指された貴方、竜殺し、トオヤマナルヒト様、どうか、壇上へ」

ハロトの声はたのしげに。

彼女はこの館の女主人、夜の夢が好きで、そして夢を魅せる花を何よりも愛している。

「レイン・インの今宵だけの花から貴方様へ」

「逆指名"にございますれば♪」

愛と恋が大好物の女、それはもう、いい笑顔。

「「ーーー」」

太陽と月が、わらう。

目隠しの面をつけていようとも、その笑い声は間違いもなくーー

「……………ラザッーー」

遠山が仲間に助けを求めーー

「" 影の導き(シャドウ・ハイチュー) "、幸運を、竜殺し殿」

「貴方の出番ディスよ、竜殺し殿」

どろり。ラザールとストルを影が包んだ。ラザールとストルだけを影が包んだ。

ーー竜殺し"がいる所が、"リザドニアンの奴隷"がいる所だ。

ーー部外者がそれ以上、この人を語るな、殺すぞ。

頼れる仲間の温かい言葉が脳裏に浮かぶ。

自分のために怒ってくれた2人は、ものすごくいい笑顔でぐっと、親指を立て、影に消えた。

「「良い旅を」」「ナルヒト」「トオヤマ」

ラザールとストルが逃げた。普通に置いていかれた。

「………判断が早い!!」

遠山の叫びが虚しく、明かりの消えたホールに響き渡る。

「さあ、たのしい夜をお楽しみくださいまし」

よく通る女の声が、暗闇に広がって。

「ふかか」

「すぷぷ」

すっと、2人の美竜が目元だけの仮面を取り去る。

美しい宝珠の如く瞳、深い海溝の蒼い瞳、底の見えない幽谷の底を移した暗い瞳。

竜の瞳が顕になる。人を魅せる、下位の生物を遍く慄かせるその瞳が。

この会場の誰しもが、上位生物の美に息を漏らした。遠山を除いて。

「…………wow」

よく見知った2人の美竜。

蒐集竜と、人知竜がにこり、微笑んだ。

でも、何故か目だけ笑っていない。すうっと、薄く開かれた眼から、青と暗が覗いていて。

ああ、やっぱり、目が笑っていない。薄目がしっかり開いている。

おめめが、とても怖かった。

ピコン

【サイドクエスト発生

クエスト名 "たのしい夜遊び、ラン・RUN・竜"

クエスト目標 不機嫌な"竜"2人のご機嫌を取れ】

「どうして………」

遠山の呟きを拾ってくれる者は、誰一人いなかった。