軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

捕食者の狩り

………

……

〜そして時は戻り、冒険都市近郊 平原地帯北部の森林にて〜

ソレは違和感を覚えた。

ソレにとって今日は良い日になる筈だった。土は湿っており、風はそよぐ。天高く雲が空を泳ぎ、日差しは柔らかで。

おまけに狩りはこれ以上なくうまくゆき、大物を丸呑み、お腹も一杯、文句なし。

それでもソレは違和感を覚えた。

「……………….」

振り向く。

何も、いない。エサやテキの中には身を隠すのが上手いのもいることをソレは知っている。

だが、身を隠してもソレには無意味だ、ソレは生まれた時から己の体の性能を知っている、色を変えても暗がりに潜んでも、ソレはエサやテキの居場所がわかる。

あたたかいのがわかる、そこにエサがあることをソレは卵から這いずり出た瞬間に知っていた。

「…………?」

もう一度、振り向く。

何も、いない。見えないし、ミエナイのだ。だから何もいないはず、ソレは自分の違和感を気のせいだと結論づけた。

地面の温度が下がった。照りつける日光はソレの住処である森林のけやきたちに遮られる。

「………♪」

ソレには家族がいる。

まだ狩りに出られぬ、卵から出たばかりの幼い個体、そして共に家族を支える伴侶がいる。

未だ腹の中で消化しきれぬ大物、これをまず半分吐き出して伴侶に授ける、そして残りの半分を幼体、子供たちへ分け与える。

「……………」

穴蔵。ソレが身を捩り、父母へ作り方を教わった己の巣へ身体を忍ばせる。

地面を掘って、地下に広がる空間はソレの家、狩場にも繋がっているセーフハウスでもあり、中継地点でもあるのだ。

「♪♪♪」

「♡♡」

「♪」

家族がいた。ソレの群れがソレの帰還を歓迎する。

ソレの群れは皆、肥えて体も大きかった。ソレが狩りを得意としていたおかげだろう。

才能があった。無慈悲で、残酷で、強靭で、的確だった。

エサ、平原の黒い牙をもったヤツ、ちいさい茶色のけむくじゃら、すばしこくてつかまえるのが楽しいヤツ。

テキ、空を飛ぶ大きなヤツ、牙と爪を持つ四つ足のヤツ。

エサとテキ、両方。

2本足のきみょうなサル。弱いヤツと強いヤツ両方いる。弱いヤツはエサで強いヤツはテキ。

ソレはその2本足のサルの弱いヤツを殺すのが好きだ。

狩る時にわざと、すぐに仕留めないことがある。ソレの鱗と筋肉で覆われた身体でゆるゆる絞め殺すのが好きだ。

弱いヤツの爪は弱い、ぺしり、ぱしりと締め付けるソレの鱗を削ることすらできず、それにパニックになって騒ぎ始めるのを見るのはとても面白い。

タスケテー、オカサアーン、オトウサーン、テンシサマー。しめ殺している最中、似たような鳴き声がか細く消えていくのを聞くのも好きだ。

大口を開けて、今から呑み込むぞ、食い殺してやるぞと脅かすと身体中から余計な水分が消えて食べやすくなるのも好きだ。

「♡♡」

伴侶がソレに尻尾を絡めてくる。美しい伴侶、ここらの縄張りで1番美しく、強い子どもを産むメスだ。何匹ものオスと取り合いをして手に入れた自慢のメスだ。

「♪」

「♪」

「♪」

エサとテキ、その全てに勝利してきた。奪い、殺し、手に入れてきた。

ソレは今、絶頂の中にいた。数多の血を流し、肉を食らい、生命を乗り越え、勝利し、たどり着いてきた。

これからもそうだ。自分はずっと奪う側なのだ。ソレは信じて疑わない。

強者としての立場、生命として、捕食者の地位、それはこの先も永遠に続くものだと本気で信じ込んでいた。

明日は何を狩ろうか、そうだ、久しぶりにサルを狩りたい。弱いヤツがいい、メスがいい。肉も柔らかく、飲み込むときの喉越しも絶妙、そしてなにより、鳴き声が素晴らしい。

殺すのはたのしい、狩るのはたのしい。

「…………♪♪♪」

ソレは紛うごとない強者である。生来の 捕食者(プレデター) ある。

その体の機能は狩り殺すために遺伝子により設計されている。

その心は狩りを好み、残酷で、冷徹であった。

ソレは強く、しかし、少し強すぎた。テキはいた、しかし命を懸けた戦いはなく、あぶなげなく勝利を重ねてきた。

重ねてきてしまった。

故に、ソレは知らない。

己より狡猾で、己より、残酷で、己より、冷徹な生き物のことなど想像すら出来なかった。

ああ、そうだ、想像できなかったのだ。自らを脅かす外敵を認識することすら出来なかった。

それが、ソレとソレの家族の運命を決めた。

「………?!!」

まず、体の小さい子が死んだ。突如、身体から血を噴き出し、身体の中から切り刻まれて死んでいく。

少しでも想像するべきだった、己よりも優れた捕食者の存在を。

「?!?!!?」

次に、伴侶が悶え苦しみ始めた。身体から血を流し、半狂乱になった伴侶が穴蔵から、何より安全な筈の家から抜け出す。

嗚呼、しかしそこは死出の道。出口に待ち構えるは、影の外套に身を潜め、知識による業によって全ての準備を終えている捕食者の狩場。

『アアアアアアアアアアアア?!!?』

ソレにしかわからぬ伴侶の悲鳴が、外から聞こえる。その悲鳴、鳴き声はまさにソレがよく聞いていた鳴き声だ。

獲物が、最期にあげる情けない断末魔ーー

「?!!!」

いたい、くるしい、いたい、張り裂ける、裂ける。

そして、最期に残ったソレへ、捕食者の牙が突き刺さる。嗚呼、なんとあっけない。生来の強者であったはずのソレは痛みと恐怖の中、安易に伴侶と同じ選択をした。

住処を抜け出し、地上へ、出口へ。

逃げたのではなく、炙り出されたこと、それすらに気づくことはなく。

『ヒヒヒヒヒヒヒ、いらっしゃい』

ソレは声を聞いた。穴蔵から出る最中、出口から響いた声を、確かに聞いた。

サルの声、しかし、今まで聞いたことのない声だ。

恐怖でも、絶望でもないその声。

出口にて待ち構えるだろう、どこか楽しげな捕食者の声を、ソレは聞いた。

『殺せ、キリヤイバ』

とても、冷たく、とてもたのしげなその声。

ああ。

生まれて初めてソレは、被食者の恐怖を最期に知った。