作品タイトル不明
137話 ジャイアント・ハッピー・キリング
「本当に食べてしまったんですか?」
やってしまった。
わたくしは、ついにやってしまった。
「……」
斃れるは、竜殺し。
頭を強く打ったのでしょう。血が流れています。……なんか白いのが混じってるのは、まあ、いいでしょう。
【メインクエスト"竜狩り"が進行します】
【オプションクエスト・竜殺しの無力化進行】
【蒐集竜の執着対象に手を出しました。貴女はもう彼女と共にあることは出来ません】
もう戻れない。もうやり直せない。もうどうしようもない。
ああ、なんてことをしてしまったんでしょうか? わたくしを救ってくれた竜を、わたくしを見てくれた竜を。
何よりも美しく強く素晴らしく、そしてーー
「……ナルヒト?」
愛おしい貴女をわたくしは、
「ど、どうしたのだ? ナルヒト?」
進むべき道がある。わたくしはこの先に進みたい。
始まってしまったの。始めてしまったの。やってはいけないってわかってる。やらない方がいいってわかってる。
でも。
「幸運にも、竜殺し様は、眠れる方のお菓子を口にされたみたいですね。フフ、苦しまないように逝けたのはかのものも、やはり、幸運なのでしょうね」
「フォル……?」
でも、仕方ないじゃないですか。そうしないと進めないんだもの。それをしなければどこにも行けないんだもの。
そして、何より。
「ごめんね、アリスお姉様」
わたくしはみたいのです。
「わたくし、決めたんです、もう」
この先にあるものを。
冒してはならないものを冒しましょう。
壊してはならないものを壊しましょう。
進んではならない所へ進みましょう。
届かぬものに手を伸ばし、誰も見たことないものを見に行きましょう。
わたくしは、進むだけ。
生まれた時からきっと、こういう生き物だっただけ。
前へ。運命の外側へ。
「大好きです。尊敬しています。感謝しています、ずっと忘れません、でもね、だからこそ」
さようなら。わたくしのーー。
「ここで死んでください。わたくしの竜よ」
【警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告】
「遺言は、それでよろしいのですかな」
ぞっ。
毛穴の全てが開き、裏返るような感覚。身体の全てが異常事態を感知します。
頭上。
ははっ。当たり前のように人が空を歩いていて。
「あの、竜でもないのに空を歩くのはどうなんでしょうか?」
「何、ちょっとしたコツです」
ベルナル・オドニアス。
鬼人。
御伽噺の中の存在、世界を燃やし尽くす最強の竜、炎竜と並び讃えられる伝説そのもの。
彼が消えたと思った瞬間、わたくしの目の前へ。
手刀が、振り下ろされる。
あ、これ、普通に死にますね。すごくゆっくり全てが動いてる。走馬灯、本当にあるんですね。
えーっと、どうしましょう。ふふ、やっべ。色々考えていたのにどうしていいかわからないです。
多分、わたくしがあの手刀に脳髄ごと縦に体を2分割されるまで後、1秒もありません。ああ、どうしましょう、どうしましょう。
「お願いします、わたくしの"力"」
「ッ!?」
「テメェはヨオオオオオオオオオ!! ほんっとにヨオオオオオオオオオ!! 打ち合わせに無いことをいきなりしてんじゃあねえ!!」
めききききききき。
赤い風が鬼人の振り下ろされる手刀を受け止める。
ミシリ。
赤い風、わたくしの力であるウィス・ポステタスヘロスの足元が地面に食い込んだ。
「これは……」
「アッギャァ!? なん、だ、この力ァ……!? ギャ、ハハハハハハハハハハ!! 腕と足、折れちまったぞォ!!」
「……惜しいな。若造、だが殺す」
「うお、ヤベッ、あ、これ死ぬわ、悪ィ、バカ姫」
鬼人の次の一撃は、わたくしの力を粉々にするでしょう。
鬼人の次の次の一撃は、わたくしをミンチにするでしょう。
「羽虫どもが」
鬼人の目。あらあら、ふふ、ようやくわたくしたちを見ましたね。
死。
あはは。当然です。わたくしたちが今、挑むのは竜とその従者。
天使の去ったこの世界で最も強く、最も偉大な超越者たち。世界に蓋をする世界の守護者たち。
なんて、なんて。
「うざったいんですよ、あなたみたいなのが1番ね」
【クエストが開始されます。貴女はこれまでメインクエストを忠実にこなして参りました。秘蹟がさらに強化されます】
あの時もそうだった。わたくしのこれは進化する。
ヒトの進化とはつまり、いつもこれと共にある。
「もっと」
"死"。
上姉様と老兵。きっと、本来の運命ならばあの方たちがここに立ち、竜へ挑む筈だった。運命と世界はきっと上姉様を求めていた。
でもね、違うの。
【警告警告警告音DEADクエスト警告警告警告】
「もっと」
ここにいるのは、私。たどり着いたのは私。
生き残ッたのは私、勝ったのは私。
ならば。
「死ね、ただ、死ね」
「ッギャハハハハハハハハハハハハハハ!? 悪ィ! 我が王! 先に逝くぜェ!!」
バスターソードは砕け、英雄の右腕が宙を舞う。
力の英雄でさえ、その鬼の前には命を賭けてなお、時間稼ぎすら出来ず。
崩れ落ちるウィス、それをゴミを見る目で通り越し、こちらに歩む鬼人。
「終わりだ、言い残す言葉は……いや、それすらも惜しいな」
「ーーっと……」
「すまんな、遺言を聞く気がなくなった」
鬼が、手を振り上げる。ああ、死ぬ、死ぬ、死ぬ。
でも。
「もっと」
死んでも、死んで。
「私を追い詰めろ」
ーーやるものか。
【フォルトナ・ロイド・アームストロングが諦めずに進む】
【条件を達成しました】
【秘蹟が新たな領域に進化し、"権能"へと変化しました】
【貴女は新たな"眷属"の席に座る資格を得ました】
【"竜"などの上位生物、もしくは"超越者"の魂を魂喰らいなどで保有した状態でヘレルの塔に向かうと、眷属への挑戦が可能です】
「幸運にも」
【権能発動】
ズゴッ。
「ーーむ?」
老執事の、鬼人の体勢が崩れる。足場です、ええ、全く幸運にも、余りに強いその膂力に足場が耐えられなかったのでしょう。
ええ、全くの偶然です。
「よおお、先輩ィ、稽古、つけてくれよォ」
「チッ」
ウィス。
背後から砕けた剣を口で噛みしめたわたくしの英雄が、鬼人へ襲いかかる。
断たれた右腕は、彼の恐るべき筋力により肉が引き締められ、出血もなく。
【権能発動】
ええ、幸運にもこれ以上、ウィスの傷は開かない。
「ーー! ギャッアハハハハハハハハハハハハ!! 身体が、軽いィ!」
「……速いっ!」
バキィン!!
ウィスが噛み締めた剣、鬼人の手刀とかち合い、当たり前のように剣の方が砕けた。
「ギャ!?」
「殺った」
そのまま、鬼人の手刀がわたくしの英雄の首に向かってーー。
「いいえ、そうはならないんですよ」
「ッ!?」
この数秒にも満たぬやり取り。死を間近に浴びるわたくしの心が時間を何倍にも引き延ばしていく。
ああ、これ。この時間が欲しかった。
秒に満たぬ隙間。秒に満たぬ刹那。鬼人の意識が、ウィスに向かった。
「幸運にも、あなたは私を追い詰めてくれた。幸運にもあなたは私達を5秒かけても殺せなかった」
「貴様、危険だな」
「幸運にも。鬼人、あなたは人の心を持っていてくれた」
【権能が発動します】
「ッ」
「これが、わたくしの竜殺しの始まり」
【権能が発動します】
【権能" プロット・アーマー(幸運) 】
「漂竜物、起動。"忘れじの手鏡"」
わたくしは手に持っていたちっぽけなバスケットから、小さな手鏡を取り出す。
さあ、全て使い潰しましょう。
漂竜物。竜にすら比肩しうる可能性のある力持つ物品たちよ。
「幸運にも」
【権能発動・全ての漂竜物の使用権を得ました】
「……!?」
鬼人の踏み込みが緩む。
王家の宝物庫から持ち出した、"漂竜物"。そのうちの一つ。
鏡に写した他人の最も大切な思い出を移す、下らないおもちゃ。
でも。あは。
「老人は思い出が多くていけませんね」
「これ、は!?」
老人は確かに歩みを止めた。ふふ、さて、この小さな手鏡は彼に何を、誰の姿を見せたのでしょうか?
「責めはしませんよ。誰しも柔らかい部分はありますもの。……超越者ぶって、わたくし達を舐めていた貴方、なんて愚か……」
ああ、そうだ。一応試しておきましょうか?
わたくしの幸運がどれほどのものなのか。
「あなた」
「死ねばいいのになあ」
幸運にも。
【権能発動……"鬼人"への死亡判定……無条件で失敗。"幸運"の判定に失敗。肺の消失……スキル"幸運"により、代償ロールに成功。親指の爪の消失に変更】
「……ッツ……うふふ。強すぎますね。"権能"でも貴方には直接的な影響を与えれませんか……じゃあ、もう当初の予定通りに」
「しまった!! ケルブレーー!?」
「もう遅い。漂竜物"樹海への招き手"」
バスケットから次にわたくしが取り出した、ちっぽけな手のひらの形をした木の葉。
それが、ふわり。鬼人の胸元へ、ひらり。
「マーヤジーアの樹海の攻略、どうぞお楽しみに」
倒せないのなら、殺せないのなら答えは一つ。追い払う、までです。
「……見事、だが」
パシュ。木の葉に触れた瞬間、老執事の姿が消える。
やっ、た。あの鬼人を盤外へーー
「えっ」
ずぐっ。
え、お腹……? 熱……
「フォルトナ!?」
ああ、ウィス。どうしたんです、そんな慌てた顔して。
「あ……れ」
わたくしのお腹に、何か、突き刺さってーー。
手? ーーあは、あははは。
「化け物、ですねえ、鬼人」
まさか強制転移して、なお攻撃を届かせるなんて……
「あはは、自分で手首をちぎって、投げた……? これだから大戦から生きてる連中は、気持ち悪い……」
転移の狭間で切断された手首が1人でに動く。わたくしの命を鬼人の手首が狙って。
「オラァ!!」
ぶちゅ。
ウィスの一撃が、その手首を粉砕した。
「あは、流石、わたくしの……英雄……鬼人であれど、手首だけなら、余裕、ですね」
「喋んな、バカ!! お前、何まともに攻撃喰らってんだよォ!?」
「鬼人が化け物過ぎるんですよ。あそこから攻撃なんて普通届くわけない、でしょう? ふふ、でも、幸運にも、わたくしはまだこうして生きて……鬼人はマーヤジーアの樹海へ……ごふっ」
あは。まだ、まだ倒れることは出来ない。
幸運よ、わたくしの幸運よ。まだここじゃないですよね?
【権能発動・負傷の進行が幸運にも止まります】
「血が……止まっ……あ……」
「あら……まあ、そうですよね」
ウィスが思わず上を。
その視線の先にはそれがいた。
最悪のタイミングで、それが来てしまった。
まあ、そうですよね。そりゃそうですよね。
試練はこうでないと。あー、お腹痛い。死にそうです。死なないけども。
【メインクエスト・竜狩りが進行します】
【目標・人知竜の無力化】
【非推奨・攻略難易度不明】
「悪いが、キミ達を見逃すわけにはいかないねえい」
ふざけた三角帽子に、銀の髪、酷薄な色を帯びた薄い目。
そうですよね、次は貴女ですよね。
「全知、竜……!」
「人知竜だよ、名前を間違えないでくれ。……ご機嫌よう、そして、さようなら」
竜の威。アリスお姉様とは根本から違う魂が凍てつくようならソレをわたくしは浴びる。
あは、あはは。でも、大丈夫。わたくし、今、笑えてる。
だから、そう、笑え。震える指先を誤魔化し、噛み合わなくなる歯を噛み締め。
嗤え、私。
「幸運にも」
切り札が一つなんて誰が言ったのでしょうか?
さあ、わたくしの手や、動け。
バスケットから、それを大きなそれを取り出して。
「それ、は……」
「アハ、考えていないわけがないでしょう? 鬼人の次は、貴女ですよ、古い竜、ええ、わかっていますとも。貴女にとってヒュームなぞ、敵にすらならない弱い存在だと」
全知竜。
語るもおこがましいこの世界の大いなる楔のひとつ。
「あなたはヒトを知らない。表面だけでヒトの理解者ヅラをしている魔術師なんていう眷属ごっこの親玉にすぎない。あなたはヒトを見ていない」
ヒトなぞ彼女にとって、おもちゃかペット。
反吐が出る。理解者ぶるな。反吐が出る。竜としての性欲にも等しい支配欲をさも高潔なものとばかりに振る舞うその業はーー。
「誰かに言われませんでしたか? ヒトを、舐めすぎなんですよ。上位生物」
幸運にも。
フローレンス旅団がたまたま、この街に来ていた。
フローレンス旅団がたまたま、この生き物を飼っていた。
「お前、ソレ……俺様に昨日狩らさせた……」
ウィスに頼んで、狩ってもらったんです。
どのようなサイズのものでもしまえる、取り出せる、わたくしのバスケット。
そこから取り出すのは……うわ、重たい。
「さあ、クダルさん。見せてあげなさいな、かの竜の''未来の姿"を」
『ぱきぱき……」
『素腐腐……』
ぞん。
ぱきり。ぱきぱき。鏡頭の古代種、写したものの未来の姿を教えてくれる。
さあ、おいで。
さあ、来なさいな。
「貴女を斃せる存在なんて、貴女くらいのものでしょう?」
『問いーー解答ーー』
鏡頭から出る、ソレ。ドロドロとした黒い液体と固体の狭間。
腐っているような煤けているような。だけど、それははっきり黒い竜の身体。
ああ、鏡からそのアタマが出てくる、まるで、ヒトの脳みそ――。
「……やられたね」
それを見た瞬間、かの竜が一緒、観客席の方に目をやる。
そして、パチンと自分の指を鳴らして。
「この借りは返させてもらうよ。ヒト」
パシュ。
人知竜と、その未来であるはずのナニカが消えました。よほど、その未来の姿を見せたくない相手がいたのでしょうか?
簡単な話です。
ふふ、どう考えても鬼人と人知竜同時の相手なんて無理です。
「え……行ったの、か?」
「あはは。うふふ。見ましたか? 今の顔。何が人を知る竜ですか。ですが判断が早いですね。流石です。少しでも迷ってれば、でも、これで邪魔者はいなくなりました
と言いつつ、あらあら。ふふ。まだまだ厄介なのがたくさん。一級冒険者に、塔級冒険者、そして聖女。
一斉に掛かられても面倒です。ですので、ここは。
【継承秘蹟を複数保有しています】
「秘蹟・号令、"覇王の言"」
上姉様。借りますね、貴女の力、貴女の業を。
『動くな』
「「「「「「「「「っ!!!!!!??????」」」」」」」」」」」」
ずっん。
それだけで、周囲の人々の動きが止まる。覇王たる運命の貴女よ、貴女の業も連れて行きましょう。ヒュームを束ね、いずれ竜へ挑み、世界に覇を唱えるはずだったあなたの業を引き継ぎましょう。
「さて、アリスお姉様、これでようやくゆっくりお話出来ますね」
「……フォル、貴様……」
「ああ、ようやくわたくしを見てくれましたね。ねえ、アリスお姉様、わたくしは貴女にとってどう見えていたんですか?
「……爺やを、どこへ……! ナルヒト、ナルヒトは、……ああ、ああああ……」
お姉様、少しがっかりです。無言で殺しにかかってきてくれるって思ったのに。
人の心配?
……随分とまあ、ヒト臭くなって。
「貴女は見誤った」
お姉さまの蒼い瞳を覗きこむ。わたくしの星型の虹彩がそれに映る。
「貴女はわたくしの野心に気付いていたのに、見誤ったんです。想像と違いましたか? もっと正々堂々と来ると思いましたか? 真正面から向かってきたわたくしを、貴女がいなしまたいつでも挑んでこいとか、そんななあなあで終わると思っていましたか?」
「どうして、ナルヒトが……」
「ああ、それなら簡単です。お嬢様の作ったお菓子。あれコーアの実じゃなくて、カークオの実が混ざっていたんですよ。ええ、偶然です、ええ、たまたまです。たまたま最近、帝国近海の商船が海賊の襲撃を受け沈没。荷の回収の時にカークオの実とコーアの実が混ざったんです。ああ、そしてたまたま、そのカークオは誰にも気づかないまま、流通に乗り、大使館へ届けられた」
「あ――」
「ええ、残念です、こんな事、あの方、メイド長のファラン様さえいらっしゃれば簡単に見分けがついたでしょうに」
「ああ……」
「ふふ、アリスお姉さまはそんな事微塵も考えずに、ずっとずっとずっとお菓子を作り続けたのです。あはは、竜殺しへ向けて、猛毒入りの御菓子を」
「……オレ、は、オレが……」
「はい、貴女が作ったお菓子が彼を殺したのですよ、ええ、でも貴女が気に病む必要はありません。だって、それは」
竜が綺麗な顔をくしゃくしゃにし、己の手で顔を覆い、呻く。
竜の目が揺れる、なんて脆く、なんて、綺麗――。ああ、そうだ、わたくし、こういうのが――。
「運が悪かった、だけですから」
見たかったんだ。
「――」
竜が固まる。あは、やってよかった、本当に心の底からそう思えます。
「さあ、幕を閉じましょう。さあ、始めて終わらせましょう。お姉様」
「お前は、貴様は、何がしたいのだ……」
「なんで、そんな顔を……? フフ、簡単ですよ、わたくしは、わたくしはね、先を知りたいんです、ああ、そうだ、そうなんだ、それだけだったんだ」
そう、環境や世界のせいじゃあない。
世界は嫌いで。人生はクソで。
でも、関係ない。
「ねえ、道の先に何があるか気になりませんか? 山の向こうに何があるか知りたくありませんか?」
「空の上に何があるのか見たくないですか? 大地の果てに何が待つのか会いたくありませんか? あの塔の上に何があるんでしょうか? あの樹海の底には何が潜んでいるんでしょうか?」
「決してやってはならないことをしたらどうなるのでしょうか?」
「竜を殺すってどんな気分なんでしょうか? ああ、そうだ、そうです、冒すんです、未知を! 禁忌を! 常識を! 善意を!」
仕方ないでしょ?
だって。生まれた時から、わたくしは、こういう生き物なんだから。
だってこれは――
「わたくしの冒険なんですもの」
あ。そっか。
「さあ!! アリスお姉さま! 殺してくださいな! わたくしを! 殺し合いましょうな! わたくしと! わたくしを見てください! わたくしを認めてください! 貴女があの時拾った小娘は! フォルトナはここまで強くなりました!! 竜と、貴女と覇を競い合うのはこのわたくしです!」
私を見て。
「上姉様でもない! トレナでもない! 鬼人でも人知竜でもない! 貴女と並び立つのはわたくしです! そう、あの竜殺し! トオヤマナルヒトでもないんだ!」
幸運よ。さあ、わたくしを押し上げろ! わたくしの竜との最高の時間を少しでも早く。
幸運よ、さあ、わたくしの物語を進めろ! わたくしが竜を狩り、わたくしがこの世界を――!!
【メインクエストがシングルモードからマルチモードに切り替わります】
【警告・相手は非常に危険な存在です。警告・敵には非常に恐るべき技能、特性が複数備わっています】
「えっ?」
なに、これ、初めて見るメッセージ……?
「お、おい、お姫さまよぉ、カークオの実、だったんだよな? お菓子の材料はよお……」
「ウィス? どうし、まし……」
ウィスが片腕、残った左手の指を指す、その先には。
【オプション目標・竜殺しの無力化、失敗】
「なんて?」
【カークオの実による毒殺……判定に失敗しました】【混ぜ込んでいたネムネム草の睡眠効果が切れました】
【竜殺しは" ホモサピエンス(頂点捕食者) "です。この惑星においてかの者の食性から逃れるものは存在しません】
「は?」
「あ〜頭、痛え。お、クッキー残ってんじゃん」
【カークオの実のメチルサンチンアルカロイドは無毒化されます】
がりぼりぼりぼり。
男が、地面に散らばった焼き菓子を頬張っている。
そんな訳がない。
――アアアボボボボボボボ、ブオルドナアアアアアアアアアアボボボボボボボァァァァァ……
カークオの実を食べた兄上の断末魔は今でも覚えている。血を吐き、顔を真っ蒼にし、喚きもがき、苦しんで死んだはず。
そんなわけが、ないんだ。
「……な、るひと?」
わたくしの竜がか細く声を。その名前を呟く。
「美味え」
男が、立っている。男がそれを食べ続ける。
「それ、なんで……?」
【警告・竜の創造品は強力な祝福が宿ります。警告・竜殺しに数々の補正がが発生します】
がりぼり。ぼりぼり。
コーアの実の代わりに、カークオが混ぜ込まれたその猛毒の生地を男が頬張り続ける。
「いや、これ、チョコ」
「は?」
ぼう。
一瞬で視界が、真っ白に。何も見えない。何も分からない。
え? なに、これ、これ、なに。
やだ、やだ、え? 幸運――、幸運、幸運――
「ウィスー―」
無意識にわたくしの声、震える、まるで――。
ぼんっ。
キリが晴れる。至近、距離、彼がいる。
【警告・敵技能”頭ハッピーセット”により相手に躊躇いはありません。あなたの”星のカリスマ”による魅了、及び、補正は一切発動しません】
【警告・敵の”クエストマーカー”が干渉しています。敵はすでに運命を掴み、選ぶ、放り投げています。敵の”クエストマーカー??????”は” プロット・アーマー(幸運) ”よりも――】
なんで、なんで、なんでなんで!?
当たらない、当たらない。当たらない!! 死ね、死ね、死ね! なんで!?
幸運がまるで、発動しなっ――
【遥か格上の敵です】
【警告・これから貴女はぶん殴られます。防げません】
あ、え、拳……?
え? 霧?
竜殺し……あ、避けれない、顔面、殴られ――
「チョコレートだろうがアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「ゲッパアアアアアアアアアアあああああああああああああああああ!?」
それが自分の悲鳴だと、すぐに、気づいた。