軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

主教サマのリドル その1

【遠山鳴人保有秘蹟。" クエストマーカー(BADEND好き) "】

【運命を俯瞰し、進むべき道を知ることが出来る。矢印の導きにより、運命をクエストへと変換し、乗り越えた運命を報酬として昇華する。また運命の中で重要なものを知らせる矢印を可視化することが出来る。遠山鳴人のクエストマーカーの案内人は現在パン文書館の主人としてその本性を歪曲されている】

「はあ? クエストマーカー!? 何そのデタラメな秘蹟は? つまり、何? アンタは自分がその時何をすればどうなるのか、とかそういうのが全部分かるってわけ? 運命……って、キッショ!」

【カノサ・テイエル・フイルド保有秘蹟。" 十字星(ザ・スター) "】

【星の知る未来をあなたは覗き見ることが出来る。知ることの出来る未来、タイミングをコントロールすることは出来ない。また見ることの出来る未来は星が見たものである、人の尺度で見ると理解不能なイメージになることもある。十字星の見る未来はしかし、これから確実に起こる事実である。基本的に未来を変えることは出来ない。過程を変えようとも、結果は収斂される】

「おま、十字星って。未来をガチで見れる? ……待てよ、ドラ子がなんか最初、アンタの予言がどうのこうの言ってたの、これのことか?」

互いに互いの手札がモロ見えのこの状況。遠山とカノサ、2人がうーむと首を傾げ、腕組みしつつ。

「「ずっる!! はあ!? どっちが!?」」

同時に同じことを叫ぶ。

細いキツネ目と糸のような細い目がじっと、互いを睨つ。

「……」

いいわね? 次は、私が先に話す、アンタは喋るな? とジェスチャーをカノサが。

「…………」

遠山がコクリ、素直に頷く。

「ふー、いいわ、話を整理しましょう。今、私たちの秘蹟はなんらかの要因によって混ざり合っている。私の未来を見通す秘蹟、そしてアンタの……そうね、運命を俯瞰して確認出来る秘蹟が」

「ああ、間違いないと思う」

互いに丸テーブルを挟み、椅子に座り向かい合う。

カノサの華奢な手つきが、テーブルのティーセットを音もなく動かす。ガラスのティーポット、茶葉がくるくると風に舞うように揺蕩う。

「OK。もう今はその認識共有だけでいいわ。もう今回は何故こんなことが起きたのか、とかは置いておきましょう。今、重要なのは」

【紡がれたバスケットに気をつけた方がいい。

枯れた木の枝に気を付けた方がいい。

決して疲れぬ死者の馬に気を付けた方がいい。

あなたはそれらに追い詰められる】

「これがなんなのか、だな」

「ええ。未来を見通す秘蹟と運命を俯瞰する秘蹟が混ざり合った結果、ポエムが見えるようになりました、ってわけじゃ無さそうね」

「まあ、大体予想つくけどな」

「ああ、やっぱり? 未来を知ることの出来る秘蹟と運命をメッセージとして明文化する秘蹟、それが合わさったんだとしたら、これはーー」

審問官と主教。2人が同時にそれぞれ指を一本立てて。

「「未来の運命、予言を示す秘蹟」」

容易に答えにたどり着く。互いの言葉に迷いはない。

「……これ、俺とアンタ同じものが見えてるんだよな」

「ああ、たしかにその共有も必要ね。アンタが今見えている奴、全部読んでみてよ」

遠山の言葉に主教が、祭壇の辺りを指差す。そこにもメッセージが浮かんでいて。

「……竜の祭り、あなたの一つ目の死は幸運によって訪れる。

死を避けることは出来ない

あなたはそれを恐れてはならない。

あなたは止まった鼓動を雷によって動かす術を知っているのだから」

遠山がスラスラとそのメッセージを読み上げる。

「OK、同じね。じゃあ、あそこのは?」

「祭りの日、あなたの死は英雄によってもたらされる。

死を避けてはならない。

最後の切り札すら封じられたその後に、分水嶺は訪れる。

手綱を握るのはどちらか、決める時が来るだろう」

「同じ、ね。トオヤマナルヒト、これ、どう思う?」

「……ロクでもない内容だとは理解できるな」

「ええ、それは同感。だけど今アンタに考えて欲しいのはそこじゃないわ。……あそこに、いくつかメッセージあるわね」

カノサが示す方向に、遠山が視線を向けて。

【祭りの日、あなたは2択を強いられる。友か、未来か。

どちらを選んでも構わない、迷うことは許されない。

怒りを優先するもいいだろう、義を優先するのもいいだろう。

二兎を追わない者に、二兎を得る機会はない】

【祭りの日、あなたの手札は幸運により削られる。

選択肢は少なく、しかし相手はコールを待ってくれない。

だが手札の損耗を恐れる必要はない。

あなたの築いた関係はそれでもあなたの優位を守るだろう】

【あなたは気付いているだろう。自分が詰んでいることに。

あなたは気付いていないだろう。挽回の鬼札に。

思い出もダメだ、取引もダメだ、探究もダメだ。

あなたは己の手綱を誰にも任せてはならない】

「あるな。ん……待てよ、主教サマよ、これもしかして」

遠山がそのメッセージをみて、あることに気付いた。それはめちゃくちゃ厄介なことで。

「ああ、気付いた? そうよ、この予言、 ア(・) ン(・) タ(・) の(・) も(・) の(・) な(・) の(・) か(・) 、(・) そ(・) れ(・) と(・) も(・) 私(・) の(・) も(・) の(・) な(・) の(・) か(・) の(・) 区(・) 別(・) が(・) つ(・) か(・) な(・) い(・) 」

「全部、主語が"あなた"なんだよな……」

遠山が唸る。これではどの予言のメッセージが誰の未来を言い表しているのかが分からない。

予言の主語が、主教か、それとも自分か。それを判断する材料が乏しい。

「厄介ね。しかも面倒くさいことに、一つの予言の中に"あなた"っつー主語が複数ある場合もある。……元々の秘蹟の持ち主がひねくれてるのね、きっと」

「自己紹介ご苦労さん。てことはこのポエムを正しく理解するには、そもそも、これが俺の未来についての予言なのか、それともアンタの未来についての予言なのか、その区別が必要ってことか」

「ええ、そう。でも、アンタは幸運ね」

「あ? どういう意味だ?」

主教の言葉に、遠山が唸る。

「あん? 決まってんでしょうが。全部、解読するわよ、トオヤマナルヒト」

糸目から覗く、紫水晶の瞳が遠山を映す。

「マジ? でも、主教サマよ、これ、すげえ量あるぞ?」

遠山が、この聖堂の至る所にその剣呑な内容とは裏腹にふわふわと呑気に浮いているメッセージを眺めて。

「? アンタはそんな理由で自分の生き死にを諦めるの?」

きょとん、主教が毒気のない顔で遠山につぶやく。

これまで遠山が見てきた彼女の表情、悪巧みや金勘定や交渉や。この女の有能さに何度も苦渋を飲まされてきた遠山だったが、いまの彼女の顔ほど。

「ーーお、おお。……確かにそうだな。悪い、俺の認識が甘かった」

ーー恐ろしい、そう感じたものはなかった。遠山は主教、カノサ・テイエル・フイルドへの認識を改める。こいつもやはり、化け物の仲間だ。

「アンタの厄介な所って割と素直に反省出来るとこなのよね。もうすこし狭量なら扱いやすいものをさ」

「美点と言え、美点と。厄介とか言うな」

「さて、この予言なんだけど、もう話の前提としてこの予言は全てこれから起こる事実である、という認識で話を進めるわ、それでいいでしょ?」

遠山の言葉を無視し、主教が提案する。

予言の内容の真偽は問わない、この聖堂に広がる秘蹟がもたらした予言は全て真実である。その共通認識の提案に、遠山がうなずく。

「あー、まあ真偽まで考えてたらキリがねえからなあ。でもよ、主教サマよ、これ、その前提で進めると」

遠山が言葉を詰まらせた。予言とはいつも自分に都合の良いものであるとは限らない。

「そ。"あなた"が私とアンタ、どちらを指しているにしろ、その多くが、死という結末について語られている。ということは?」

主教がティーカップを撫でながら、上目遣いで遠山を見つめ。

「俺とアンタはこれから先、死ぬ、ってことか?」

「まあ哲学の話をすれば定命の者である以上、いずれ死ぬんだけど。この予言が言ってるのはそういうことじゃないわよね。そこの予言、読んでみて」

【あなたの2つ目の死は突然、訪れる。

敵は塔の天辺より来たりし汚い嗤い声だけでない。

屋敷には向かわない方がいい。1人にもならない方がいい

黒い嘴は、愛を啄むことをもう我慢は出来ない】

「んー?これって……」

「2つ目の死。このワードから察するに私達のどちらかは何度か死ぬような目に遭うってこと。仮定すると多分、1つ目の死、とやらを乗り越えた後のことを言ってるんでしょうね」

「乗り越えることが前提ってことか?」

「いや、そこまで言い切るのは難しいわ。でも大事なのはこれ、いくつか共通してるワードあるわよね」

「祭りの日。あー、もしかしてこれって」

「そ。ここまで言えば、トオヤマナルヒト。私が何を言いたいか、分かるわよね」

「このあなたが俺とアンタどちらを指していようとも……俺たち2人とも」

「竜祭で死ぬ未来ってことよ。世知辛いわね、ほんと」

「……さっき見たあの映像は竜祭のことなのか?」

「そこまで分からないわ。今、はっきりわかってることは、ただ、目の前に危機が迫ってるってこと。そして、今、私達はその危機が降りかかる前にそれを事前に知れたということ、これは大きなアドバンテージよ」

「つってもこれだけじゃどうしていいのか、分からなくね? いや、でも」

「そ、気付いた? 死ぬということが名言されてある予言、"祭りの日"、"死"というワードがある予言の中には、必ず、"幸運"と"英雄"というワードが存在してる。いい? 私達の今の共通認識、覚えてるわよね」

「……この予言は全て本物。実際にこれから起きる真実である、だっけ?」

「そう、その思考の下、結論を出すなら。このポエムはつまりこんな未来を伝えてるの」

主教のきめ細かい白い肌に、ステンドグラスから差す光が7色のプリズムが散らばって。

「私達、2人とも"祭りの日"に、"幸運"と"英雄"とやらに殺される」

「……やっぱそうなる?」

なんとなくそんな予感はしていたが、改めて言葉にされるといい気分にはならない。

うへえ、と遠山が難色を示す。そんな様子をみて主教がクスっと笑って。

「つまり、んー? ねえ、トオヤマナルヒト。アンタは自分を殺そうとしてくる奴のことをなんて呼ぶのかしら?」

糸のような目、しかしその隙間から覗く瞳は笑っていない。

どこか愉快げに、遠山の名前を呼んで。

「はー……。敵、ってことか。幸運と英雄、とやらがよー」

遠山もまた、ため息をついた後笑う。

2人とも人相の悪い笑いがよく似ている。

「さあ、見えてきたわよ。私達の邪魔をするクソどもの存在が。幸運と英雄、アンタ、なんか心当たりある?」

「あー……幸運と英雄……? そもそも英雄っつーのは、まあ分かる。でもこの幸運ってなんだ? 何を差してるんだ?」

「ふむ、確かにそうね。抽象的すぎる……何か他の予言探してちょうだい、ヒントがあるかも」

「まさかの謎解きパートになるたぁなあ……」

「あら、楽しいじゃない、こういうの。リドルを解くみたいでしょ?」

「ミステリーものとかは他人の大事だからエンタメになるんだよ。自分の生き死にを謎解きにされるのは違うだろ」

「へえ、意外。アンタもっとそういうの恐れない奴と思ってたわ。自分の命とかこだわらない方って」

「うっせ。……そういうのは、もう、やめたんだよ」

ーー。

プールのカルキの匂いと、柑橘のような夏の香り、濡れた黒い髪の友人がこちらを眺めて笑ってる、そんな光景を遠山が一瞬思い出す。

「ふうん。ま、どっちでもいいわ。アンタが私の敵にならないんならそれで。フーン、ふむふむ。あ、英雄関連の予言みっけ」

「あー?」

【あなたの永い計略は実を結ぶ。

十字兜は英雄から古い約束を通じてあなたの元へ届くだろう。

十字兜は最初の一歩。英雄に力を示すのだ。

死を、乗り越えることが出来ずとも】

「十字兜……?」

「ふむ、英雄ってワードね。これは多分、さっきの英雄がもたらす死の予言と関連がある予言だわ」

「十字兜ってのがよくわからねえ。それに、この3行目と4行目は?」

「さあ? でもだいたいパターンがわかってきたわ。この予言、積極的に意味を理解していくべきものと、読み流す必要があるものの2つに分けれるわね」

「その区別の方法は?」

「シンプルよ。"死"と"あなた"この2つが含まれている予言は解読する必要がある。なぜなら、"あなた"という主語の区別がいまいちつかない状況では、私とアンタ、両方の命に関わるものだから」

「あー、なるほど。重要度でわけるわけか。じゃあこういあのは流してもいいよな?」

遠山が、側にあるメッセージを指差す。

【進み続ける愚者の行進はついにお互いへ辿り着いてしまう。

その行進の最中、全てを滅ぼした幸運よ。

その行進の最中、全てを蹂躙した強欲よ。

生き残るべきはどちらか、決めるときが来たのだ】

「そう、ね。……んー、いや、待ちなさい。これも幸運とやらのワードがあるわね。それに、強欲……あー、待ちなさいよ、確か……」

【カノサ・テイエル・フイルドの技能" 瞬間記憶能力(カメラアイ) "が発動します】

「あー……これね。"あなたの駒は強欲、金色の竜、黒き竜、銀の正義、影の愛子、聖なる少女"、ここにも強欲っつー二人称があるわね。あー、はいはい。トオヤマナルヒト、"あなた"の判別方法わかったわよ、パターン見えてきたわ、パターン」

「瞬間記憶って……チートすぎじゃん、で、パターンって?」

「この"強欲"ってワードが誰かを特定できれば"あなた"を絞り込めるんじゃないかしら? ほら、他にも強欲とあなたが両方あるメッセージもあるし」

主教がすっ、と近くにあるメッセージを指差す。

【まつろわぬ強欲が最初の一歩を踏み出したならば。

今度はあなたが備える番だ。赤き終わりを滅ぼすために。

教会の底の底に向かえ、古い秘密を暴く時が来た。

パン釜を大切にな】

「なるほど、ああ、わかった。強欲か。そりゃもう1人しかいねえだろ」

遠山も主教の言いたいことを理解する。

"強欲"という言葉、これが誰のことを言っているのか、それさえ理解出来れば、ややこしい"あなた"という言葉と区別することが出来る。

遠山鳴人とカノサ・テイエル・フイルド。お互い似通った思考回路、聡明な頭脳。

頭の回転という能力において、この冒険都市では最優に近い謎解きのエキスパート2人が答えにたどり着く。

「ええ、そうね。そういうこと。これで決まりね。"あなた"という主語の判別はクリアね、強欲が示すのは」

「ああ、この予言の中、"強欲"が誰のことを言ってるかっつーと」

両者が、勝利を確信した顔で似たような悪人スマイルを浮かべーー

「アンタのことね」

「アンタのことだな」

「「あ?」」

いつものチベスナキツネ顔と銭ゲバフェイスが睨み合う。

この2人、能力的には最高の相性だが、シンプルに、人として相性が悪かった。