軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

100話 きんいろ

「………………み、み?」

ふざけているのだろうか?

大抵色々めちゃくちゃなことに巻き込まれ、それなりに耐性がついているはずの遠山ですら、今回ばかりは途方に暮れた。

『………………』

大きな耳。

肉塊の上、大いなる人間の耳、2つつながり合い、揃っているそれが生えている。

うねった模様のような耳穴が、きゅっと縮まりこちらを見下ろしている。まるでそれは表情のようにも見えた。

「………………間違えたかな」

やり方を、違えただろうか。

なんか、完全に思ったのと違う。普通、こんな展開、燃えるような復活劇だった筈だ。

強大な敵に封印された味方勢力を、ギリギリで解放した、筈ーー

「……………味方?」

これが? この馬鹿でかい耳が? いや、なんだこれ。

2秒迷う。どうするか、どうすればいいのか。

遠山が2秒だけ迷って、出した結論はーー

『………………………?!』

キリを耳のもとへ。

すっと、遠山が肉塊を、大きな耳を見つめて。

「もっかい殺してみるか」

『ーーーー!』

何かの間違いだろうから、キリヤイバで取り敢えずもう一回切り刻もうとした瞬間だった。

くわり。そのバカみたいにデカい耳穴が大きく開く。目を見開く、それと似ていて。

ぼおおおおおおおおおおおおおおおおう!!

火を噴いた。耳穴から。

それは遠山に向けられていてーー

「ッ!? ば!? お前、ハアアアアアアアアア!?」

反射的に、遠山がドラ子の尻尾を顕現させ、金色の方を呼ぶ。

火と焔。人の扱う力と竜の使役する力。似ていて、非なる橙色と金色のゆらめく力がぶつかり合う。

「テメエエエエエエエエエエ!! 血迷ったかあああ?! なああに、大恩人たる俺に向かって火炎放射かましとんじゃ! このクソ耳がァ!!」

『ーーーー!!!』

ぼおおおおおおおおおう。

ボオオオオオオオオオオオウ。

橙と金。互いに食い合う火と焔。

耳穴から放り出された火と、竜の尻尾から噴き上がる焔。それがぶつかり、世界を燃やしている。

遠山鳴人のチベスナの目を焔が照らす。

でかい耳の耳穴を火が照らす。

2人とも多分嗤っていた。地獄のような光景だ。

「なんなんだテメエはよおおおお!! 趣味の悪いカルト宗教でも選ばねえようなビジュアルしやがって!!」

『』

びくっと、耳穴が歪む。火の勢いが弱くなり、一気に金色の焔が濁流となって

「あ」

『!!!!??!!』

耳の生えた肉塊をまた、金色の焔が飲み込んだ。

肉の焼ける匂いが、ぷーんと漂う。遠山の唇が、脂で少しベタつき始めていた。

「……やべ、また燃やしちった」

『?!!?!!!!』

身悶えしながら、耳をめちゃくちゃにぶるんぶるんと振り回す肉塊。

「うわ」

遠山がうめく。おぞましいのはその姿ももちろんだが、もっと別のところだ。

治っているのだ。

金色の焔に焼け溶かされつつも、燃えた所から肉が湧き、蠢き、再生し続けている。

なんだこれ、ほんとにこれを起こして良かったのだろうか。

遠山

《たは、たは、タハハ、起きちゃっ、た…… タハ、フフフフフフフ、どうしよ。ここまでやったのに、ここまで揃えて、やっと封印したのに、フフフフフフフフ、なに、これ》

「あ、名瀬」

《鳴人くん…… やって、ほんとに、やってくれたね…… もう、終わりだよ、ほんと。……そうだ、鳴人くん、せめて、フフフフフフフフ、そうだ!! そう! どうせ終わりなら! せめて、貴方も一緒に!!》

「うわ!? 変な覚悟決めやがった!? なんだ、これ、ほんとになんなんだよ! お前らは!」

どろり。

名瀬の闇で構成されていた身体が溶ける。女の身体を象っていたそれの輪郭がぼやけ、地面に染み込む。

《鳴人くん、鳴人くん! ごめんね! ほんとはもっとさっきみたいなムードのある所で溶かしてあげたかったの! ほんとにごめんね! ーー赦さない、さっきまでの良いムードを台無しにした罰、もう一度ぐちゃぐちゃに溶かしてやる、凡人探索者》

「ムード、あったか、あったかな?」

再構成された闇、どろりどろり、顔を隠した衣、闇色の巨大な女神が現れる。

その衣装は白無垢、闇の色をしている。

《鳴人くん、鳴人くん、すぐに溶かしてあげるから待っててね、いや、もう今から溶かす、ああ、でも、ダメ、今ここでやると、あの汚い耳と混ざっちゃう、無理ホントに無理、生理的に無理なの! 消えて! 死んで! なんで死んでないの! ほんとムリ! キモい!!》

『』

闇色の女神の言葉に、耳穴がきゅっと縮まっていた。少し、なんか、ショックを受けているようなーー

前門の肉塊耳、後門の暗黒女神。

愉快な存在に挟まれた遠山鳴人が、目線をキョロキョロさせて。

「探索者、コワー……」

全てを棚上げにした遠山が、ジリジリと互いのうごきを観察する。

指定探索者"名瀬 瀬奈"、上級探索者"遠山 鳴人"、そして、アレフチームの"凡人探索者"。

3人の探索者、全員の目的はただひとつ。

《鳴人くん、鳴人くん、鳴人くん!! 私はまだ、諦めない! 私は私の願いを大切にする! 貴方は私の願いなの! 理想なの! 絶対にドチャクソに、ぶち犯してあげるから!!》

「ヒヒヒヒヒヒ!! 正体現したなあ! 名瀬! 悪いが逆レは趣味じゃねえ!! アアアア!! クソ、後ろにゃあ変態ストーカー! 前には化け物肉塊耳まんじゅう! もうどうでもいい! 俺以外全部きしょいのぶち殺して! 綺麗に全部終わらせてやらァ!!」

『』

全員自分勝手。

ここにいる3人の探索者、それぞれ全員が他人の話を聞かないタイプだ。

他人の話を聞かない人間が3人揃ったらどうなるか、簡単なことだ。

《犯す》

「殺す!」

『』

こうなった。

酔いやら興奮やら、疲労やら。全てが限界状態の遠山が力を振り絞る。

キリヤイバ、最大規模、最強濃度。

一気にキリを広げ、その中に保存している魂を吐き出そうとして

『』

『』

『』

『』

【警告】

【勝てません、殺せません、逃げてください】

「あ?」

『』

ぱくり。

耳穴が、開く。

『カポ大オオオオオオオオオオオオオオオロロロロロロロロロロ、ヴオロロロロロロ! オエエエエエエエエー!!』

「う、うわアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

どろどろどろ、耳穴がなんか、もう色々なものを吐く。

それは骨、それは血、肉、あと泥。

闇の色をしたドロドロを一気に吐いていく。

遠山はギリギリで濁流のようなそれの範囲から抜け出して

『イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!! ムリ、ほんとムリイイイイイ!! 消えて、消えて、消えて! ああ、消えないイイイイイいい! なんでええええ』

そのドロドロが、名瀬の元に殺到する。

まるで、意思を持つかのように耳穴から溢れ出した耳液が名瀬を絡めとる。

『アアアアアアアアアア!? もうイヤ、ほんとにイヤアアアアアアアアアアアアアアアア!! 汚いイイイイイ!! きえ、てエエエエエエエ!!』

「な、なんなんだよ、コイツ……」

『』

どこか、すっきりとしたように見える耳を眺めて、遠山がぼやく。

ほんとになんなんだコイツ。

【警告 伊奘冉宮における全ての神性が逃げ始めました】

【警告 勝てません、逃げてください。異界の崩壊が始まります】

【警告 "耳男"がやってきます】

『ーーギャハハ』

「ーーは?」

皮膚の裏に氷水を直接流し込まれたような、寒気だった。

それはいつのまにか、そこにいて。

それは、耳だ。

それは、人だ。

それは男だ。

耳穴から、どゅるり。

爪楊枝でほじくりだされたサザエの中身が一気にまろび出てくるように、それは這い出てきた。

「…………ま、じか」

動けない。

それがゆっくりと地面に腕をついて、身体を起こす。

肩幅の広い男の肉体、背丈こそあまり高くないものの、血管が浮き、筋肉の陰影がはっきりわかるそれは確かに戦う人間の身体だ。

すんっと、立ち尽くす男。始めて二足歩行を覚えた猿が、その視界を確認するように、じっと、ただ、男が立つ。

「………み、み?」

耳だった。

男の顔、頭、首から上が、耳。

人間の顔に、人間の耳をそのまま貼り付けたような、趣味の悪い、悪すぎるお面を被っているような。

耳の男。

只、それだけ。

《あーー》

『ギャハ』

ぶりん。

「え」

気付けば、耳の男が、消えた。と思えば、何か柔らかかなものが千切れる音とともに、闇色の女神の首が、外れていた。

『』

《こ、のーー》

耳の男が、巨大な闇色の女神の首を引っこ抜いたのだ。

冗談のような光景、遠山は動けない。呼吸するのもわすれて、ただ、それを見ていた。

【ーー条件達成】

流れるメッセージ、文字すらもう判別出来ない。

首を引っこ抜いた耳の男、それが天を仰いでーー

ンーーギャャアッハッハハッハハッハハッハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ

笑い、そして。

『』

スンっと、黙ってそれから、どうるり。

《ア》

闇色の女神、その首の断面に潜った。

なんか、その姿はすごい。顔面から断面に潜ろうとして逆立ちになっている。

勢いをつけるために裸のまま、足をわちゃわちゃと動かすその姿。

スケキヨが、ブレイクダンスをしているような。

なんだ、これ。

「なんだ、これ」

遠山が、力なくつぶやいて。

【警告 逃げてください】

ぼおう。

それが始まる。

【警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告 "凡人探索者"による"神話攻略"が開始されます。"異界伊奘冉宮"は崩壊します。異界の崩壊に巻き込まれます。速やかに異界の外に脱出してくださいーー】

【警告警告警告 "凡人探索者"により神話回生・伊奘冉が侵食されています。"凡人探索者"の技能、 アレフチーム(神殺し) "により、無条件での神話攻略が進行しています】

「うわ、もう、なに、なんなんだよ、これ」

火、だ。

辺りが火に包まれている。

あの肉塊から生えた耳だ。その耳穴が火をずっと噴き続けている。

目の前には、首をもがれてその断面に潜っている耳の男。背後には、火を吹き続ける耳の肉塊。

「バカなんじゃねえの」

もうそれしか言うことがない。遠山はこの手のつけようのない状況に本格的に疲れた。

「………サウナ入りたい」

もう全てを出し切りたい。こんな今書いてる嫌な汗、血の臭いがする場所でひりだす冷や汗ではなくて、ケロ材の優しい森林の匂いの中で思いっきりサラサラの汗をかきたかった。そうだ、もしかしたらこれは夢なのかも知れない。ほんとの自分はきっと今頃コウベサウナの新しくできたケロサウナの中にいて、これから11.7℃の水風呂に入る寸前なのかも知れない。ああ、あのトントゥがこちらに笑いかけてーー

遠山が頬をつねる。痛い。

「現実かー……」

だめだった。現実だった。

イヤイヤながら今の状況を受け入れる遠山は取り敢えずここを離れようと決める。

耳の男と名瀬がキモい殺し合いをしているのを眺めつつ出口を探ろうとしてーー

かくん。

「あれ」

膝が、折れる。足に力が入らない。初めは何が起きたかわからない。

「あれれ?」

限界だ。

ここに来て、遠山鳴人の身体に限界が、いや、限界などとうに超えていた。

連続の遺物使用、それも最近使えるようになった遺物の拡大解釈。アレフチームとの共闘に、神体内での激戦。

そして、この化け物パラダイスの時間。精神は未だ高揚しているものの、それが逆に肉体の悲鳴を聞き流すことに繋がってしまった。

「うそだろ?」

マジで、身体が動かない。折れた膝を地面につき呆然と呟く。

死というのは、こんなふうに呆気なく訪れるものなのかもしれない。覚悟もなにもしてない時に、不意にやってくるのだろう。

ぼこり。ぼこり。

空間が、焼け崩れていく。

凡人探索者の火と、竜の焔が混ざり合い、辺りをどんどん崩していく。

《アアア、イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! 入っ、入ってくるうううう、ヤダァアアアアア、やめてやめてやめて触らないで、私に入ってこないでえええええ》

『ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』

首のない暗黒女神、その首の断面に潜り込もうとスケキヨダンスしてる耳の男。

ただ、やばい絵面だ。

人間の形をしたアグレッシブな寄生虫が無理矢理宿主に寄生しようとしているような。

まだエイリアンの赤ん坊のほうが慎ましい気がする。

暴れ回る女神と、ノミのように食らいついて離さない耳の男。

彼らの大暴れにもう、世界が耐えきれない。

ボロッ。

「あ」

地面に亀裂が入る。

空間が壊れていく。

動けない遠山の足元に大きく入った亀裂はどんどんその大きさを増していき、そして

「うそ、待て、まっ」

ぱっくり、足元の空間が消えた。

落ちる。

足元から感じるのは、怨嗟の声。刹那の瞬間、下を見る。

手、手、手。

黄泉の主人の身体の中、それは黄泉そのものか。生者を羨む亡者の手が、幾万も覗く奈落があった。

え、これで終わりーー?

落ちて、いく。

落ちる。多分、あれに落ちたらもう戻れない。ここが境界、ここがギリギリ。生者であることを許される彼岸がここ。

あの下はあの世。堕ちたら、元には戻れない。

「まじ、かーー」

ぴゅー。

まっさかさま。遠山は落ちていく。

暗い、とても暗い。

冷たくて、寒くて。

ギャハハハハハハハハハハハハハハハ

上、明るい、そこから聴こえてくるのはほんとに汚い笑い声。好き勝手に、自分勝手に、やりたいようにやる奴の笑い声。

見ればアイツも一緒に落ちている。名瀬瀬奈に落とされたのだろうか。耳の生えた肉塊と、それから這い出た耳の男も、落ちている。

「落ちてるやん……」

よりにもよって、あんな笑い声を聞きながら終わり。

浮遊感の中、数多の黒い手が、耳の男を捕まえた。

『ぎゃっーー」

短い悲鳴とともに、一気に黒い腕に引き込まれる耳の男、闇に溶けていく。

もう、あの笑い声も聞こえない。

同じものが、遠山に伸びる。

名瀬にやられたのとは別。その手は遠山鳴人の生まれ変わりなど期待していない。

亡者、ただ、自分と同じ存在に。ただ、その生とその温度が憎い。

死、そのものが遠山鳴人を包む。

耳の男と同じように、遠山もまた死に捕まって。

【蒐集竜が伊奘冉神体内部へと侵入しました】

ーーート!!!

「ーー?」

薄目を開く。

自分が落ちているのか、浮いているのかもうわからない。

あの汚い笑い声、それすらも届かない闇の中、それでも聞こえた声があった。

「ーーーーあ」

金。

闇の中にぽつんと。今はもう遥か遠くになる上、遥か空の星のように輝く色がある。

金色。

死しかない闇の中、それは光り輝いている。太陽の光でも、星の光でもない。ただ、それが何者の力も借りずに輝いている。

遠山鳴人はその美しい金色を知っている。

己が生まれて初めてその手で殺したヒトを。純粋で恐ろしくてワガママで、だけど、とても綺麗なその色をよく知っている。

そうだ、それは理由だ。

遠山鳴人がそもそも、ここまで来た理由だ。

【蒐集竜が付近の神性を焼き尽くしています】

友人。

そうだ、遠山は彼女を追いかけてここまで来た。自分の言葉で態度で心で踏み躙ってしまった友人と仲直りするためにここへ来た。

「…………きん、いろ」

金色がひどく輝いて見えた。

遠山は感覚のない手を、それでも上へ伸ばす。光を追いかけるように、落下していくまま、それに手を。

また、金色が輝く。闇の中にあってなお、その輝きは眩いほどに。夜を無理矢理に朝へ変えてしまうほどの煌めき。

《《《《《ーーーーーー》》》》》

亡者が、その光に嫉妬する。亡者はその眩い光を赦さない。自分達にないものを憎み、自分達と同じでないものを妬むのだ。

奈落の中、落ちていく遠山を追いかける金色の光。それに向けて万を超える亡者の腕が一斉に伸びていく。

『ガァアアアアアアアアあアアアアアアアアアアアアア!!!!』

咆哮。

腹の底を震わせる大音量が闇に響く。

亡者の腕が、その咆哮にびくりと動きを止める。

みるみるまに大きくなる金色の光、闇を裂く金。

その生き物は、遠山鳴人のいた現代において時に神と並ぶ存在としても描かれた。

不遜なり、神にすら叛逆する悪として、大いなる力の象徴として崇められてもいた。

「おま……」

遠山鳴人は、その生き物を知っている。

それには、翼があった。6枚の大きな翼。

それには尻尾があった。6本のしなやかな尻尾。

それには鱗があった。光を宿すそれ自体が輝く金色の鱗。

それには4本の足と2本の翼腕がついていた。世界を踏みしめ、砕き散らす上位者の肉体。

そして、それは蒼い瞳をしていた。

「あーー」

憧れ。

一度でも空想の世界に、ファンタジーの創作に触れたことのあるものなら誰しもが知っているだろうその存在。

時に災厄として、時に試練として、時に祝福として、そして時には友として。

遠山鳴人のいた現代、ありとあらゆる時代、ありとあらゆる地域において不思議なことに同様の伝説を遺す空想の生き物。

どうしてか、なぜなのか。人間はその生き物に憧憬を感じてしまう。

その生き物ーー

【蒐集竜が救援にたどりつきました】

金色の光は、 竜(ドラゴン) の姿をしていた。

《《《《《「「「「「「」」」」」」」」

幾万の死、定命の時を終え、憎しみと慟哭の中で潰えた亡者がその光に手を伸ばす。

直降下。

翼をたたみ、流星のごとく奈落を降る金色の竜に、幾万の腕が伸びる。

《「「「「「《》

翼に、首に、頭に、足に。

金色の竜の身体にまとわりつき、絡みつく腕たち。

醜い定命の存在が、竜を絡め取る。無限の回生、永遠の生命。不滅で完璧な存在に焦がれるように手を伸ばし

「さ、ワルなァアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

金色の焔が、闇を照らす。

竜の咆哮とともに、その金色の鱗一つ一つが燃え盛る。竜の身体に触れていた黒い腕が溶けていく。

竜が首に絡み付いた腕を振り解き、噛みちぎり、吐き捨てる。絡みつく死を、自らにまるで救いを求めるようにのばされる多数の手を、焼き払い、吐き捨て、踏み躙る。

「ナ、ルヒと」

「ーードラ子」

竜の蒼い瞳。闇の中においてもなお、大空の最も色濃い場所を写し込むその瞳が見つめるのは、ただ1人。

「ッッ!! オオオオオオオオオオオオオオ!!」

竜が吼える。死を踏み躙り、自らに縋る手を払い除け、飛ぶ。

竜がみやるはただひとり。竜が救いにくるのはただ1人。竜が求めるのは、ただひとり。

決して失ってはならない己の友、ただ1人を救いに、金色の竜が多数の死を、哀れな亡者を焼き滅ぼす。

早く、速く、ただ、夙く。

竜が、ついに落ちていく男を、友のもとへ。

その力なき身体のもとへ。

隼のように翼を折りたたみ、ただ、友の元へ。

「……知ってたよ、ドラ子」

落ちていく中、遠山は高揚していた。

「お前がすげえ、カッコいいことはさ」

竜を眺めて、竜殺しが、ぼそりとつぶやいた。