軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第78話:変態ではない

ユウ達が助けた親子を見送りジョゼフ達の元へ戻ると、そこには巨大な蟻の死骸が横たわっていた。

「ワークアントだ。まだ辺りに潜んでいるかもしれない」

周りの者へ聞こえるように呟きながら、ラリットはワークアントを解体し、討伐証明の触覚と加工すれば防具にもなる甲殻を回収する。

ラリットの呟きにドッグ、サモハの顔が真顔になる。ユウが戻って来るまでに三度ワークアントの襲撃に遭い、ワークアントの強固な甲殻にシャム達の剣は歯が立たず、メメットの魔法とエッカルトとアプリの武器で叩き潰してやっと倒すことができたからだ。

因みにワークアントは集団で行動するのが特徴で、ドッグとサモハの顔から余裕が無くなるのも無理はなかった。

「よし。ユウ達も戻って来て日も暮れそうだし、今日はこのまま野営だな! お泊りなんてワクワクするな」

空気の読めないジョゼフの発言にドッグとサモハの二人がギョッとする。

「ジョ、ジョゼフさん、冗談ですよね? こんなランク4の魔物が彷徨いている場所で野営なんて」

「ドッグの言う通りですよ。こんな危険な場所でシャム様に野営などさせるわけにはいきません」

二人の発言にラリット、エッカルト、アプリ達は呆れ顔を浮かべる。

「ハッハッハ、面白いこと言うなよ。冒険者であれば一旦迷宮に入れば数日は潜り続けることだって珍しくない。この程度でビビってるならクエスト放棄して帰るんだな」

「ジョゼフさんの言う通りだ。この程度で諦めるわけにはいかない。ドッグ、サモハ、野営の準備をするんだ」

シャムにこう言われては反論するわけにもいかず、二人は野営の準備を進めていく。

さすがにシャム達は貴族だけあって、アイテムポーチも5級の中でも上位の物を持っており、その能力に見合った品物を持ち込んでいた。簡易な椅子に机、食器は全て銀で統一されていた。

「ふん。さすが貴族様は持ってる物があたし等とは違うね」

「良ければ一緒にどうだ? ジョゼフさんも宜しければこちらへどうぞ」

「折角のお誘いだけど、私達も野営の準備くらい持っているから遠慮しとくわ」

アプリ達はシャムの誘いを断ると野営の準備を始めていく。ユウ達も少し離れた所に場所を確保すると土魔法で椅子と机を創っていく。マリファは土で出来た椅子の上に絨毯を敷く。机には純白の布を被せると見栄え的には悪くなかった。

「へぇ。土魔法で椅子と机を創るなんて考えてるよね。あれならアイテムポーチに入れる道具も節約できるし、あたしも土魔法覚えようかな」

メメットはユウ達の方を観ながら食事の準備を進めていく。

「そうね。メメットが覚えてくれれば助かるわ。それにしてもあのシャムって貴族は装備もさすがね」

シャムの装備は全身を白銀で統一されていた。見るからに金の掛かっている装飾も施されており、冒険者というよりも騎士のイメージが強かった。

「これだから貴族は気に入らないんだよ」

「貴族の装備は確かにすごいけどあっちの方はもっとすごいよ」

干し肉を囓りながらメメットはアプリへと視線を向ける。

「ニーナって言ったかしら? 鬼の腕輪に竜の腕輪、耳のピアスは妖精のピアスね。武器もミスリルにダマスカスのダガー。レナって子はミルドの杖にミスリルのローブ、指輪は岩石竜の指輪ね。とてもDランクの冒険者が身に付ける装備じゃないわね。装備だけでならBランクよ、パトロンに大物貴族か商人でも居るのかしら?」

「ふん。冒険者の実力は何も装備だけで決まるもんじゃないよ」

不機嫌そうにモーランは固いパンを噛みちぎる。

「ユウ、俺とエッカルトも混ぜて貰っていいか? 1人で食べる食事ほど不味いものはねぇからな」

「好きにすればいい」

「ユウ、ありがどう」

エッカルトがいつもの人懐っこい笑顔を浮かべながら椅子へ腰を降ろす。ユウは鍋を火に掛けると、ビッグボーの内臓脂から抽出した油を鍋に引いていき、ビッグボーの肉を焼いていく。

すぐにビッグボーの肉の焼ける匂いが辺りに充満する。次に野菜を入れてたっぷりの香辛料と水を入れていく。

マリファはその間に食器の用意をし飲み物を注いでいく。皿には都市カマーでも人気のパン屋、ムーンで購入したバターを惜しげもなく使用したバターロールを、新鮮な野菜で作られたサラダにハムを和えて見るからに食欲をそそった。

鍋が出来ると皿に盛っていくが、どこを掬っても具沢山の猪鍋にラリット、エッカルトは思わず唾を飲み込み音を鳴らす。

「待たせたな。量はあるから好きなだけ食べればいいよ」

ユウが椅子に座ると素早くニーナが隣を確保する。反対側にレナが座ろうとするが、一瞬速くジョゼフが座り込んだ為に弾かれる形になった。

「おお、うまそうじゃねぇか。俺もこっちに混ぜて貰うぜ。ん? ちっパイ嬢ちゃん悪いな」

「お前はあっちの貴族と食事しろよ。大体、野営するって言ったお前がなんで何もしてないんだよ」

「俺は荷持は持ち歩かない主義だ。あと、こっちの飯の方がうまそうだからな。絶対にこっちで食事をする」

「お前……嘘だろ、何の用意もせずに来てるのか?死ね」

マリファはユウの後ろに立っていたが、ユウが席に着くよう促すと畏まりながら席に着く。

食事の要らないクロはスッケとコロにビッグボーの肉を与えている。

ジョゼフに弾かれたレナは、コロンッと転がってコロにぶつかって止まる。

それを見ていたマリファが鼻で笑うと、レナは何事もなかったかのように立ち上がり、ローブに付いた土を手で払う。

「……小賢しい。この程度で私を阻めると思っているとは」

レナはユウの前まで行くと膝の上に座る。チラリとマリファを見ると勝ち誇った顔をする。煽られたマリファの耳がピクピク動くが、ユウの手前暴れるわけにもいかず我慢する。

「ああ~レナ、いいな、いいな~」

「……ニーナ、覚えておくといい。これが王者の取るべき姿」

「邪魔なんだが……」

ユウが鬱陶しそうに膝の上に座っているレナを見るが、退く気はないようでそのまま食事を再開する。

「う、う、うめぇっ! なんだこの肉。メチャクチャ柔らかいし一緒に煮込まれている野菜もうまい! 何杯でもいけるな」

「ごんなうまい食べ物、初めでなんだな。パンも柔らがいじ、バターの匂いがまだ食欲をそぞるんだな」

ラリットとエッカルトは絶賛しながらも食べる手は止まらずに、どんどんおかわりをしていく。その様子にシャム達やアプリ達が羨ましそうに視線を送る。

「ユウ、こうして食事をしていると家族みたいだな?」

「んな訳ねーだろ。横にゴリラが居ると食欲も無くなるな」

「ガッハハ! こいつ照れてやがるな。わかったわかった。俺が家族の良さを教えてやるからな」

「死ねばいいのに」

終始、空気の読まないジョゼフがユウに絡みながらの食事となった。

火の番に関してはそれぞれのパーティーが、各々ですることで話はついた。

夜も深まると談話をしていた各パーティーも交代で就寝していき、辺りは薪の燃える音と夜の静寂が包み込んでいた。

「どこに行かれるので?」

睡眠が必要ないクロが起き上がったユウへと声を掛ける。

「風呂に入って来る」

スッケとコロが眼を開きユウを見るが、ユウが目線で合図を送るとまた眼を閉じてお互いに寄り添いながら眠る。

暗闇の中へ消えて行くユウをクロも追い掛けて行く。

ユウはこの時間を利用して、この辺りの魔物からスキルを奪いたかったが、思わぬ邪魔が入った。

「どこまで付いて来るんだよ」

「ご主人様、私のことは気にしないで下さい」

クロだけならよかったがマリファまで付いて来ていた。

仕方がないので当初の予定を変更して、土魔法で創った浴槽に水と火の魔法を組み合わせてお湯を注いでいく。

ユウが服を脱ぎ始めると、服を預かる為にマリファが側に寄ってくるが、ユウの身体を見て固まる。

「マリファもあとから入るか? お湯はちゃんと入れ替えるぞ」

マリファからの返答がないので、ユウが再度声を掛ける。

「どうした?」

「な、なんでもありません」

マリファは顔を上に向けて返事をする。そうしなければ涙が零れ落ちてくるからだった。

クロは少し離れるとマリファに伝えると、森の中へ姿を消した。

暗闇の中を歩く1人の男が居た。その前を立ち塞がるようにクロは仁王立ちしていた。

「そこで止まれ人間」

「あ? ユウのところのゴブリンか。この先で風呂に入ってんだろ? 男同士、一緒に入ろうと思ってよ」

ジョゼフは何が楽しいのか、そのままクロの横を通り過ぎようとしたがクロの戦斧が行く手を阻む。

「ここを通すわけにはいかない」

「なんで?」

「お前のような変態を通すわけにはいかない」

「俺のどこが変態だ。お前の眼は節穴か」

「1つ聞くが人間の間では、深夜に下着姿でブーツだけの成人した男が歩き回るのが普通なのか?」

今のジョゼフの姿はパンツ一丁にブーツだけだった。

身長2メートルはあろうかという筋肉質の大男が、パンツ一丁にブーツだけの姿で歩いている。

都市カマーで歩いていれば間違いなく変態としてぶち込まれる格好だった。

「貴様のような変態は、我が命に懸けても主の元へ行かすわけにはいかない」

クロの全身を『闘技』が覆っていく。

「へぇ……魔物のクセに綺麗な闘技を纏うじゃないか」

「主より、教え鍛えて頂いたこれまでの時間は、今日この日、この時の為だったと確信できる」

元々ランク4のクロがユウより技術を日々学び。更には全身に纏う装備にはスキルが付いている。その実力は既にランク4に収まるものではなかった。

並大抵の冒険者ではクロを止めることなどできない。クロはユウの剣であり盾であった。何人もその強固な城壁を思わせる姿に、恐れ戦くであろうことが想像できた。

クロは握りしめた大地の戦斧に魔力を込め、ジョゼフに襲い掛かる。スキル重力操作により振り下ろされた戦斧の重量は何倍にもなっていた。そこにクロの膂力にスキル付与された各種装備。

人など只の肉塊へと変える攻撃がジョゼフへと迫り来る。如何なジョゼフといえど今のクロに勝つことは――

「ぐああああぁぁぁああああああぁぁ」

駄目でした。

深夜の森にクロの声が響き渡った。

クロを容易く倒したジョゼフが歩みを再開しようとすると、いつから居たのかニーナが立っていた。

「よう、嬢ちゃんも――何て格好してんだ」

人のことを言えないジョゼフだったが、ニーナは下着姿にシャツだけでジョゼフと余り変わらない格好をしていた。

「ジョゼフさん、どこに行くの?」

「どこってユウが風呂に行くって聞こえたから、男同士一緒に入ろうと思ってよ」

「駄目。ここは絶対に通さない」

「駄目って。はは~ん、嬢ちゃんも一緒に風呂に入ろうとしてたんだな。悪いが今回は俺に譲って貰うぜ」

次の瞬間、ジョゼフはその場から飛び退く。ニーナから凄まじい殺気が放たれたからだ。

「私、ジョゼフさんを、殺したくないな」

「嬢ちゃん、その話し方。そっちが本当の嬢ちゃんなのか?」

「本当の私? どっちの私? わか~んないな~」

話しながらもニーナから放たれる殺気は増々、増大していく一方だった。

ジョゼフも、普段のニーナとの違いに戸惑いを隠せなかった。

「ケンカしてんのか?」

「ユウ……」

「ジョゼフに何かされたのか?」

ニーナの後ろにユウとマリファが立っていた。

ユウは風呂上がりの為か、上半身は裸でズボンだけのラフな格好で、首にはタオル代わりの布が掛かっていた。

「違うよ~私とジョゼフさんがケンカするわけないよ~。それより私を置いてお風呂に入るなんてズルいよ~。一緒に入りたかったのに~」

ニーナのユウが現れてからの豹変に戸惑っていたジョゼフだったが、ユウを見ると顔が怒気に染まっていく。

「誰にやられた」

「何が?」

「その……傷だ。戦闘で付く傷跡じゃねぇ。誰にやられたんだ」

ユウの上半身には両親から受けた虐待の跡が残っていた。火を押し付けられた跡が全身の至る所に残っていた。

「どうでもいいだろうが」

「ステラってばあさんか」

「そんなわけないだろうがっ!」

「他に誰が居るんだ」

「……俺を産んだ女とその男だ。どうでもいいだろうが」

ジョゼフから鈍い音が聞こえてくる。歯が砕けんばかりに噛み締めている為に、歯と歯から発せられる音だった。

握り締められた拳からは、今にも血が滴りそうなほど力が込められていた。

(何が家族の良さを教えるだ……どうすればいい。何も思いつかねぇクソッタレが!)

「そいつ等はどこに居る」

「知らない。もう会うこともないだろう。

それよりなんだその格好は? 風呂にでも入りたいならこのまま進めば湯があるから好きに使えばいい」

帰って行くユウの傷跡を隠すようにニーナが抱き付き、その後ろをマリファが付いて行く。

残されたジョゼフの表情からは、何を思い、考えているのかは誰にもわからなかった。

暗闇の中、ジョゼフの後ろ姿からは、普段のジョゼフを知っている者からは想像できないほど小さく見えた。