軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第416話:やり遂げた男

模擬戦が無事に終わると、出場者たちが試合場に呼び集められる。これは勝敗にかかわらず、急な催し物に出場してくれた者たちを大勢の観客の前で労うためだ。

とはいえ、勝者も敗者も重傷を負っている者が多いために、集まったのは全体の三分の二ほどだろうか。他にもこれ以上は恥を晒したくないと辞退した者や、勝者であるにもかかわらず、いつの間にか姿を眩ませていた者などがいた。

それでも冒険者ギルドが抱える回復魔法の使い手たちによって、命を失う者は一人としていなかったことは誇れることだろう。しかし、試合場に並ぶ者たちはどこか負傷をしていた。

「オドノ様、あそこにレナがいる! えっらそうにしてるんだぞっ!」

一堂に会する出場者の中にレナを見つけたのだろう。ナマリとモモが一生懸命に指を指してアピールする。

「本当だな」

(少しは成長したのかと思いましたが。まったくレナは……)

真ん中で一番目立っていたのがレナであった。観客――――『レナちゃんファン倶楽部』の面々から声援が飛ぶと、レナはその度に一々なんともカッコのつけたポーズをとってはナマリやモモ、それに一部の観客は大いに盛り上がっていた。

その姿にユウはしょーがない奴だなと、半ば諦めにも似た目を向ける。ユウのすぐ後ろに控えるマリファなどは顔にこそ出さぬものの、もっと真面目に振る舞えばユウの評価も上がるのに、と。それにレナ自身の評価も、と嘆いた。

司会進行役の冒険者ギルド受付嬢モフが、出場者の経歴を丁寧に説明していく。これはこの場にいる貴族や富裕層へのアピールである。これくらいの役得がなければ、出場者にとってあまりにも割に合わない催し物なのだ。

当然、試合を観戦していた貴族たちの中には勝者だけでなく、敗者の中にも有能な者については、なんとか雇用できないものかと考える者たちもいた。冒険者や傭兵ではなく、貴族に直接雇用してもらうなど、一般的には勝ち組と言っても過言ではないだろう。

『それでは最後に出場者たちに、盛大な拍手をお願いいたします』

モフに言われるまでもなく。皆が惜しみのない万雷の拍手を出場者たちへ送るのであった。

さて、このままユウたちは祝勝会――――とはならなかった。なぜなら見た目は元通りでも、内部に蓄積したフーゴの魔力によって、レナの調子が今ひとつであったからだ。

それに祝勝会を後日に回すのであれば、その費用を負担させてほしいと申し出てきた一団があった。そう。例の『レナちゃんファン倶楽部』である。

屋敷で祝おうとしていたユウであったのだが、それだけレナを慕う者たちがいるのなら、場所や料理の選定から用意は任せると丸投げした。

彼らがユウに礼儀正しく願い出たのも良かったのかもしれない。ユウから二つ返事で許可を得た『レナちゃんファン倶楽部』の面々は、その場で飛び上がらんばかりの喜びようで、数日後には大勢が入れる場所を貸し切って盛大な祝勝会を開く。

「うおぉっ。この肉やたらとうめえな!!」

「グシ……ぐっ」

「おいおい。エッカルト、まだ傷が癒えてないんだから、無理すんじゃねえぞ」

「ちっ。巨人族のくせに情けねえな」

ラリットの横で肉を頬張っていたエッカルトが、脇腹を押さえて苦悶の声を漏らす。横で同じく肉を頬張っていたノアなどは、軟弱なと厳しい声を放つ。

レナの祝勝会には、ラリットやエッカルトなどの冒険者仲間に、冒険者ギルドのコレットを始めとする職員から、よく利用する書店の店主などの知人まで幅広く招かれていた。

「……まだまだある。慌てず食べるといい」

「だってよ」

「レナ、感謝するど」

自分が費用を負担したわけでもないのに、レナは満足そうに頷くとその場をあとにする。

「ユウ兄ちゃん、これ美味しいよ?」

フォークに刺した鳥の肉を「あ~ん」と、ユウの口元へ持っていこうとしたトロピとユウの間にマリファが割って入る。

「なんの真似ですか」

トロピの手首を握り締めながら、マリファが問いかける。

「こわ~い。ボクはただ、ユウ兄ちゃんと仲良くしようとしただけなのにー」

互いに涼しい顔をしているのだが、両者の間では凄まじい力の応酬が繰り広げられていた。その証拠に、トロピが握るフォークが常人を遥かに凌駕するトロピの握力によって、ひしゃげていくではないか。

「祝いの場なんだから暴れるなよ」

ご馳走を前にこれでもかと頬張っているナマリとモモの口元を、ユウはハンカチで拭いながら二人に声をかける。

「ご主人様、ご安心ください。この程度の輩に遅れは取りません」

「え~。ボクは困るなー。だってマリファちゃんを倒したら、ユウ兄ちゃんに怒られるもん」

「私に勝てるとでも?」

「ボク、わかんなーい」

氷の微笑を浮かべるマリファと、一見無邪気な子供の見た目のトロピが「えへへ」と、笑いながら見つめ合う。

「ティン、お姉さまに加勢するわよっ」

「ヴァナモが空気を読めなくて、やんなっちゃう」

「おやめなさい」

マリファの一大事だと、加勢しようとするヴァナモにティンが呆れ果てた表情を浮かべ、ネポラがそっとヴァナモの腰帯を掴んで制止する。

「ちょっといいか」

祝勝会が始まって数時間が経過した頃を見計らって、ユウがレナに声をかける。多くの関係者にレナが直接お礼の言葉を述べて、いい頃合いと見たのだろう。

「……告白?」

祝勝会場から少し離れた場所で、レナはなにか期待したような顔で尋ねる。

「なわけないだろ」

即答したユウの言葉に、レナの頭に生えているアホ毛が不思議そうに揺れる。

「……惚れ直した?」

「それじゃ、俺がお前に惚れてるみたいだろうが」

「……?」

ますます理解に苦しむといった様子のレナは、旋毛のアホ毛が不安そうに左右に揺れる。

「……私とフーゴとの戦いを見て、惚れた?」

「なんでお前らの試合を見たくらいで、俺が惚れるんだよ」

「……新鋭のAランク冒険者を倒した」

「試合でな」

それは実戦じゃない、と。ユウの目が物語っていた。

「……遊びじゃない」

不満そうにレナは述べる。

たとえ実戦じゃなかろうと、あの激しい戦いを遊戯扱いには納得できなかったのだ。

「そこまでは言ってないだろ」

「……第9位階を使った」

「『 八魔雷光陣央塵(ギガ・ドーラ) 』な。あれ本来は八つの極大雷を中央の敵へ同時に放つ魔法なのに、なんでバラバラに放った?」

ユウからの指摘にレナの身体がびくりっ、と震えた。レナ自身、あの魔法を成功させたのはフーゴとの戦いが初めてであったのだ。だから精緻な制御ができずに、あのように一見では雷の悪魔が縦横無尽に動き回っているように見えて、実際は好き勝手に動いていた。

「なんだ。あの魔法はまぐれか」

「……ま、まぐれじゃなぃ。これから……極めて…………ぉ………………せるぅ」

どんどんレナの声は小さくなっていく。ユウの聴力を以てしなければ聞き取れなかっただろう。

「それにだ」

「……まだある?」

褒められるとばかり思っていたレナは、予想と違って小言ばかり言ってくるユウにうんざりし始めていた。

「最後までレナはエッダさんの結界を破れなかっただろ」

今度は大きくびくりっ! と、レナの身体が揺れた。そう。あれだけ数々の魔法を放っておきながら、レナはエッダの張った結界を一度も破ることができなかったのだ。もし破れていたらそれはそれで観客に甚大な被害が出ていた可能性があるので、破れなかったのは良かったことなのだが。

「フーゴも結界に干渉して魔法を通り抜けさせることには成功したけど、真正面からはぶち破ることはできなかったな」

そこまで喋ると、ユウは「結局は二人とも、エッダさんの結界は貫けなかったか」と、とんでもない人だなと笑う。

事実、一万人を超える観客を最初から最後まで護り通したエッダの結界は、凄腕どころの騒ぎではないだろう。最終戦ではレナとフーゴ互いに第9位階の魔法まで放っているのだ。

さらに――――

「エッダさんは結界内だってのに、傷一つもついてなかったしな」

そのことを考えないようにしていたレナは、生まれたての子鹿のように両足をガクガクと震わせながら悔しそうに下唇を噛み締める。

「これじゃ誰が勝者なんだか、わからないな」

少しは成長したが、お前はまだまだと言われているような気がして、レナはキッ、と顔を上げてユウを睨みつける。

「これで満足してないよな?」

「……当たり前っ。私はいずれ史上最高にして最強の超天才美少女魔術師になるレナ・フォーマ。この程度で満足するはずがない」

「そっか」

ムキになって一気に喋るレナであったのだが、その様子を見ていたユウがわずかに笑ったかのようにレナには見えた。

「……笑った?」

「馬鹿にしたわけじゃないぞ」

「……わかってる」

ユウには魔力の根源ともいえる粒子についてや、フーゴ戦での学びについてなど、聞きたいことは山のようにあったのだが、ユウの笑顔を見た瞬間にレナの頭の中から消え去ってしまったのだ。

「ところで、あれはどうするつもりなんだ?」

「……あれ? ああ……あれは――――」

レナの口から語られる内容に、ユウはわずかに驚いて目を丸くするのだが。

「わかった。じゃあ、俺が勝手に対応をするぞ」

「……任せる」

もうどうでもいいとばかりに、レナは会場へと戻っていくのであった。

「やあ。待っていたよ」

翌日、フーゴが宿泊している宿の前にユウの姿はあった。その横にはナマリと、その頭の上にはモモの姿もある。

いつ来てもいいように準備をしていたのだろう。フーゴはユウが宿の者に声をかける前にその姿を現したのだ。

「今日は護衛が――――」

メイド兼護衛と思われるマリファの姿がないので、そのことを尋ねようとしたフーゴであったのだが。

「君は冒険者ギルドで会った際も、今と同じように 笑う(・・) のを堪えていたね」

そう。ユウは口元に手を当てて、笑うのを我慢していたのだ。

「それほど私の 演技(・・) は下手だったかな?」

「下手なんてもんじゃない。俺が笑うのを我慢していたことに感謝してほしいくらいだ」

「そうだったのか……」

なぜかショックを受けた様子のフーゴを前に、護衛として気を張っていたナマリは全身から力が抜けるのであった。

「どこで謝罪すればいい」

場所をフーゴの宿泊している一室へと移して、フーゴが問いかける。謝罪とはもちろんレナに対してのことだろう。

「私としては冒険者ギルドがいいと考えている」

冒険者ギルドでレナに恥をかかせたのだ。謝罪するのならば、そこが一番適しているとフーゴは考えていた。

「その必要はない」

意外なユウの言葉にフーゴは焦る。

「それはなぜだろうか? いや、その前にいい加減に笑いを堪えるのはやめてくれ。話が進めづらくて仕方がない」

互いにテーブルを挟んで向かい合っているのだが、ユウはフーゴがもとの喋り方をする度に口元に手を当てて笑うのを我慢するので、フーゴとしてはその度に会話が止まることになり困るのだ。

「もう大丈夫だ」

不思議そうに隣でユウのことを見上げていたナマリの頭を撫でながら、ユウは答える。

「なら話を進めるが、必要ないとはどういうことか説明してくれないか」

「そのまんまの意味だ。レナに確認したら、もう気にしていないってさ」

「そんな…………バカなっ。私は彼女に対して、あれほどの非礼を働いたのは君も見ていただろう?」

「非礼って言われてもな。あんな下手くそな演技で騙される奴なんているのか?」

「なっ!?」

「レナの親父とお前との模擬戦前に、レナが親父の装備を持っていったんだろ?」

どうせレナのことだから憧れてたとかそんな理由で悪気はなかったんだろうがな、と。ユウはエイナルたちに調べさせていた情報から推測する。

「君の言うとおりだ。あの当時は私も若かった。自惚れじゃなく自分には他者とは比べ物にならぬほどの才能があることを自覚していたものだ。

そんなときに貴族同士のくだらぬ諍いから模擬戦をすることになった。その相手が 彼女(レナ) の父親アールネだ。名前だけは私も聞いたことがあるので、期待が半分と自分の力がどれほど通用するかを試したい気持ちが半分だったよ」

「だけど、その期待は裏切られることになった」

「私もあとで知ったよ。一方は完全武装で、もう一方は非武装だ。これで試合になるわけがない――――と、私も思っていたんだが」

当時のことを思い出しているのだろう。

懐かしさや恥ずかしさなどが織り混ざったかのような、なんとも言えない顔をフーゴはしていた。

「俺様を舐めやがって! ぶっ殺してやる! そう思って挑んだのだが、実際は接戦だった。いや、途中で何度も負けたと思ったものだ。勝利を告げられてもいまだ実感の湧かない私に向かって、アールネ さん(・・) は“素晴らしい才能だ”と、褒め称えてくれたよ。それに、その才能を腐らせないようにとも」

どこかの誰かを見ている――――いや、誰かのことを聞いているような錯覚にユウは陥る。

「傲慢だった自分の鼻っ柱をへし折られたような気分だったよ」

この言葉をどこぞのアホ毛が生えた少女に聞かせてやりたいと、ユウは思った。

「模擬戦のあとになって真相を知った私は、何度もアールネさんのもとへ訪れようと思ったのだが、どうにも恥ずかしくてね。そうこうしているうちに良くない噂が出回っているの知った。そのことは君も――――」

「知ってる」

そうか、と。フーゴは頷く。

「仕えていた貴族や相手の貴族にも掛け合って、噂は静まっていったのだが、一度出回った噂っていうのはたちが悪い。気づけば他領にまで大袈裟になって伝わっていたんだ。それにアールネさんが雇用を解雇されたのもよくなかった。それが噂により真実感を持たせてしまったようだ」

「別に気にする必要はないだろう」

「そうはいかない。それほど、あの模擬戦は私の人生を左右するほどのものだったんだ。いつか恩返しをしたいと考えながら、アールネさんに言われたとおりに鍛えに鍛えた。自分にできることはなんでもしたよ。後衛職だけではなく、斥候職や前衛の知識を貪欲に学び、ときには実戦形式で師事してもらったりね。

そうこうしていると、アールネさんの娘が冒険者となって活躍しているという声が聞こえてきた。これは我ながら天命かと、歓喜に震えたよ」

「大袈裟だ」というユウの言葉を聞いても、フーゴは首を横にわずかに振って否定する。

「調子に乗って勘違いしていた私が、今はAランクとして冒険者を続けられるのもアールネさんのおかげだ」

どれほどアールネが凄いと言われても、アールネに会ったこともないユウからすればどうでもいい話であった。

「感謝するのは好きにすればいいさ」

そういうと、ユウはテーブルの上に布で包まれたなにかを置く。

「これは?」

「木龍 擬き(・・) の角だ。欲しかったんだろ。あれだけ頑張ってなんの報酬もなしじゃ、あんまりだからな」

「木龍……擬き?」

「ああ。あんたには悪いが、これで納得してくれ。これでもそこらの素材から創るより立派な杖ができるさ」

仕立ての当てくらいはあるだろう、と。ユウは素っ気ない態度である。一方のフーゴは封印の文言が刻まれた布を解いて中身を確認して絶句する。

「す、凄まじい魔力を内包しているっ」

本当に木龍“擬き”なのかと、疑問に思うほどの魔力を角は内包していたのだ。

「俺の用は済んだから帰る」

「本当に謝罪は必要ないのか?」

「レナがいらないって言ってるんだから、あんたが気にする必要はないだろう」

席を立って扉に向かっていくユウの背に、フーゴの言葉が届く。

「そうか…………」

俯いたままどこか納得していない様子のフーゴに向かって、ユウは立ち止まると。

「それほどの戦いだった」

顔を上げたフーゴがユウの背を見つめる。

「きっと、あんたがアールネとやらから得たほどのものを、レナも得たんじゃないのか。それで 十分(・・) だろ」

去っていくユウの背をナマリが「待って~」と追っていく。部屋にただ一人残るフーゴは。

「そうか…………そうかっ」

ポツリと、テーブルに水滴が落ちる。

「私は、私はっ……アールネさんの……娘にっ。御恩を返すことができたのだなっ」

誰に聞かれるわけでもなく。

独りの男が満足げに呟くのであった。

そして、その日の内にフーゴは都市カマーから姿を消す。

「“自分にできることはなんでもしたよ”か」

フーゴの言葉を思い返しながら、ユウは歩いていた。

「オドノ様、どうしたの?」

「俺もできることはなんでもするべきだって話だ」

「どういうこと?」と、モモへ話しかけるナマリをよそに、ユウはアイテムポーチから水晶玉を――――転職するための水晶玉を取り出すと、それに向かって念じる。

“ 螺賦羅磨(ラプラス) ”

4thジョブにユウは『 螺賦羅磨(ラプラス) 』を選択したのだ。

選ぶと同時になにかが自身の身体に宿るのをユウは実感する。

人知れずユウは期待感から『異界の魔眼』で自身のステータスを確認すると。

「最悪だ……」

そう嘆くのであった。