軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第398話:流言③

屋敷の自室でレナが悔し泣きをしている頃、アガフォンたちはというと。

「おっ。ここだここ。この店が美味いんだ。な? エッカルト」

「ここは美味かっだど」

フーゴとのトラブルでレナとニーナは不在となったものの『腐界のエンリオ』の探索が無事に成功したお祝いをするつもりだったので、ラリットとエッカルトのお勧めの店に行くことになったのだ。

「ここっすか」

「高そうにゃ」

「ふーん。まあまあ綺麗な店じゃない」

「は、早く入って食べようよ」

「ベイブ、少しは落ち着きなって」

低ランクの冒険者では気軽に入ることができなそうな佇まいの店に、アガフォンたちは少し臆する。

普段、アガフォンたちが行くような飲食店は道端で立ち食いするような露店や、服装を気にせず気軽に入れるような店ばかりである。

今回のようにドレスコードが必要そうな店など訪れるどころか入ろうと思ったこともないのだ。

「心配すんな。ここには俺もエッカルトも何度か来たことがあるんだ。服装の心配をすることもないぞ。個室を用意してもらうからな」

「マジっすか!?」

ラリットはカマーでもそれなりに名の知れた斥候職であるのだが、それでも目の前にあるような高級店で融通を利かせれるほどかというと、心配になるアガフォンたちであったのだが。

「大丈夫だど。ここだけの話だけどな? この店はユウの世話になっでるから、多少の融通は利くんだど」

「ばかっ! 俺がカッコつけてるところだろうがっ」

ネタバラシをされたラリットが顔を赤くしてエッカルトに抗議する。一方のアガフォンたちはというと。

「ユウさんの? それなら安心だぜ」

「だからって盟主に迷惑をかけるような真似はしちゃダメだよ」

「わかってるって。モニクは俺をなんだと思ってんだ」

「どの口が言うのよ」

ユウと関係がある店とわかるなり笑みを浮かべる面々に、モニクが羽目を外さないように注意をする。

「美味っそう!! げっ!? ベイブ、もう食ってんじゃねえかっ!」

「慌てなくとも、これだけ料理があるというのに。ベイブには困ったものだ」

「俺たちも食べよう」

心配していた個室の手配は、事前に予約していなかったにもかかわらず二つ返事で、それも支配人から直接許可を得ることができた。支配人が出てきたときは、ラリットの顔が引きつっていたのをアガフォンは見逃さなかった。

また部屋への案内も支配人が担当するという、逆にラリットやエッカルトが恐縮する事態になる始末。またその際にさり気なくユウへの感謝の言葉を告げてくるのだから抜かりがない。

少しすると、店の格式に相応しい様々な料理が運ばれてくる。

大きなテーブルに所狭しと並ぶ料理の美しさや匂いに、アガフォンたちの喉が自然に鳴るのとベイブが食べ始めるのは同時であった。

「な、なんじゃこりゃ!? 美味いなんてもんじゃねえぞっ。なにしてんだ。アカネも早く食えって」

「わ、わかってるわよ」

切り分けた肉や魚などを小皿に移してアカネに早く食べろと、アガフォンが促す。

「これ海の魚にゃっ」

「よくわかったな。わざわざ ネームレス王国(ユウ) のところから仕入れてるそうだぞ。そのおかげでこの辺じゃなかなか食べれない海の魚、それも珍しいものばっかりで、この店の評判はここいらじゃ頭一つ抜けてるそうだ」

「う、うっ、美味いにゃあぁぁっ」

ラリットからの説明を聞きながら、フラビアは新鮮な海魚を一流のシェフが調理した料理に舌鼓を打つ。

「ナマリもモモも、こっちに着いで来だんだな。でっきり、あのままユウに着いで行くかと思っでだど」

切り分けてもなお大きな肉の塊を口の中に放り込みながら、エッカルトが行儀よく食事をしているナマリとモモへ話しかける。

「うん。オドノ様が、こういうのは最後まで付き合うのが礼儀だって言ってた」

「そうか」

一通り料理を食べて腹が膨れたからだろうか。

「ラリットさん、Aランクってどのくらい強いんですか?」

皆が聞きたかったことをアガフォンが代表するように尋ねた。

「Aランク? そうだなぁ。冒険者ギルドは各ランクの基準や昇格に関しては公表してないって前提で話すぞ」

皆の手が止まる。

食いしん坊のベイブですら手を止めて、ラリットの言葉へ耳を傾けていた。

「冒険者間で行き交う情報から、Aランクになるにはまず膨大なクエストをこなさなきゃならねえ。言っとくがユウは例外だぞ。あんなのがそこかしこにいるわけがないからな」

「確かにな」

「グシシッ」と笑いながらエッカルトが同意する。

「特に貴族関連の依頼をこなすのが近道だって言われてる。実際『赤き流星』のデリッド・バグはそういった依頼を優先して、盟主のトロピを超えてAランクになってるからな」

「そうなんだよねー。困った副盟主がいたものだよ」

エッダから逃げるためなのか。ドサクサに紛れて、この場にはトロピの姿もあった。そして当然のようにアガフォンたちと一緒になって食事までしていたのだ。

アガフォンたちに注視されると、トロピは舌をぺろっ、と出して、ラリットに話を続けるよう促す。

「でだ。Aランクは最低でもレベル40は必要だ。これはまず間違いない。これまでAランクになった連中は前衛や後衛なんか関係なく、 最低(・・) でも三つはジョブに就いているからな」

レベル40というラリットの言葉に、アガフォンたちに緊張感が走る。アガフォンたちのパーティーで一番レベルが高いオトペでもレベルは30前半なのだ。レベル30から見た40という数字はわずか10でしかないのだが、それがどれほど高みの存在であるかを彼らは理解していた。

そして彼らが顔にこそ出さないが、不安に思っていることがレナのことである。レナは間違いなく強い。それは何度も模擬戦や探索の際に助けられたアガフォンたちがよく知っている。

だが――――

「あのフーゴとかいう奴は強いぞ」

「どうだか。Aランクといっても見掛け倒しかもしれないだろ」

アガフォンの言葉に反論するように、ヤームは否定するような言葉を投げかける。

「匂いでわかんだよ。強者特有の強い奴が放つ匂いってのがな。フラビアだって感じ取ってただろ?」

「そうなの?」

「あいつ……人族のくせに強いにゃ。ソロ専って周りは侮ってたけど、ほんの少しだけ盟主と同じ匂いがしたにゃ」

「おいおい。俺も人族なんだが」

「あっ……ごめんなさい」

ラリットの言葉に、険しい顔をしていたフラビアは思い出したかのように頭を下げる。以前のフラビアならこんな素直に謝罪はしなかっただろうが、カマーに来て過ごすうちに少しは内面も成長しているのだろう。

「あのフーゴって奴のことは俺も耳にしたことがある。単独で二つ名持ちの竜を倒したって話もな。下手するとレベルは50を超えてるかもしれねえ」

「「「50っ!?」」」

レベル50超えもあり得るというラリットの言葉に、アガフォンたちは驚きを隠せなかった。

「あのあと周りの冒険者に聞いてみたんだけどよ。あいつ『食客』のランポゥをぶちのめしてるらしい。詳しいことは知らねえが、ランポゥのレベルは40後半って話だからな。それを倒したとなると……な」

「ナマリはどう思っだ?」

「おいおい、エッカルト。子供のナマリに聞いてどうすんだ」

「俺は子供じゃないんだぞ! 魔人族の戦士なんだからな!」

「そうだよねー。ナマリちゃんは立派な戦士っ! だからしばらくボクを匿ってくれるようユウ兄ちゃんに言っておいてくれないかなー」

「やだ!」

「もう! ナマリちゃんが意地悪でボク困っちゃうっ!」

会話に混ざって屋敷に居座ろうと画策したトロピの願いは、ナマリの拒絶により失敗に終わる。

「俺は少しだけ、ワクワクしてるんだぞっ」

「どうしでだ?」

「これ!」

ナマリがアイテムポーチから取り出したのは一冊の絵本であった。

「なになに『魔法幼女レレルちゃん』第二巻、兄弟子との激闘――――なんだこりゃ?」

「何百年前からある有名な絵本だど」

「そうなんだぞ! ラリットはそんなことも知らないの?」

「はあ? なんで俺が子供向けの絵本を知ってなきゃいけないんだよ!」

「難しい話はわからなかったけど、これと同じ内容だった。レナが主人公のレレルで、兄弟子があのフーゴって人。それで互いの誇りをかけて戦うんだ!」

「けっ、子供向けらしい幼稚な内容だな」

「大人気なんだぞ! それにニーナ姉ちゃんだって興奮してたから、子供とか関係ないもんね!」

「「「へ?」」」

皆がナマリの言葉に注目した。

「ニーナちゃんが?」「ニーナさんが!?」「どうしてかな? ボク、わかんなーい」などなど、その後もフーゴに関する話題で盛り上がりながら食事をするのであった。

「会ってきた? フーゴにですか?」

エイナルはボロ事務所の一室で、一人で尋ねてきたユウの言葉に目を丸くした。

「そりゃなんとも早いというか」

よくマリファが単独でユウが動くことを許し――――いや、ユウの性格からマリファには話を通してないなと、エイナルは予想する。

「それでどうでした? 『聖人』と呼ばれる冒険者は――――えっ? どうしたんですか? 急に口を押さえて」

突然、口元を手で覆い俯いたユウの様子に、エイナルは不審がる。

「お前が思い出させるから」

「な、なにか変なことでも言いました?」

「フーゴに関してわかったことが一つある。あいつは演技が下手――――いや、ド下手だな」

「へー、てことわ。『聖人』って呼ばれてるのは真っ赤な嘘ってことですか?」

「逆だ。本当にお人好しの馬鹿なんだろうな」

ユウの言葉にエイナルの頭は混乱する。

フーゴが噂通りの『聖人』で演技が下手だと、どうして普段は笑うどころか笑みすら見せないユウが、手で慌てて口元を押さえなければいけないほど笑いそうになるのだろうか、と。

「ここに来たのは少し頼み事があるんだ」

「そりゃ珍しい」

今までユウがエイナル――――『アルコム』に頼み事をするなど、数えるほどしかなかった。しかも、直々にユウが訪れてとなると――――エイナルは内心では緊張しながらも、おどけた調子で相槌を打つ。

「レナとフーゴが模擬戦をすることになった――――のは、お前ならもう耳にしてるだろう」

裏組織で生きるエイナルは素直に頷く。

すでにフーゴがカマーの冒険者ギルドで暴れたことを把握していたのだ。

「ええ。それはもちろん知ってますよ」

「そこで――――」

ユウからの頼み事を聞いたエイナルは我が耳を疑う。

「あ、あの……それって、ほっ、本気で言ってるんですよね?」

「こんなこと嘘をついてどうするんだよ」

「そんなことをして、なんのメリットがあるんですかっ!?」

「できないのか?」

「い、いえ。この程度は容易いことですが……本当にいいんですか?」

「いいんだよ」

ユウの考えが理解できないエイナルは何度も頼み事の内容を確認する。

「すぐに動きます」

「頼む」

部屋を出ようとするエイナルは振り返ると。

「本当にいいんですね?」

再度、念押しするように確認する。

「いいぞ。俺の名前も遠慮なく使ってくれ。というより、積極的に俺の名前を出せ」

「わ、わかりました」

部屋を飛び出すように出ていったエイナルの姿が消えると。

「やるからには真剣勝負じゃないとな」

独りユウは呟くのであった。

「ふうっ……」

高級宿に戻るなり大きなため息をつくと、フーゴはそのままベッドへ腰を降ろす。

アイテムポーチからグラスと革袋製の水筒を取り出すと、そのままグラスへ水を注ぎ、一息で飲み干す。

「もうすぐだ」

悲願が達成される。

そう思うと、フーゴは思わず手に力が入ってしまう。

「それにしても」

冒険者ギルドでのレナのことを思い出す。

「あの若さで」

話術で揺さぶり感情を乱したとはいえ、あの魔力の精密さ、魔力量、魔力の出力、自分が十代のときはどうだっただろうかと考える。

「相手にならないだろう。才能だけなら父アールネ・フォーマを凌駕する。あれほどの才能を持ちながら、驕ることなくさらなる高みを目指すか」

過去の自分を思い返し、自嘲気味にフーゴは笑う。

「素晴らしい才能だ。眩しいほどに、昔の私なら嫉妬していただろう。だからこそ惜しい」

あのわずかなやり取りで、フーゴはレナが独学で修練を積んでいることを見抜いていた。

「これなら私でも十分に役に立てそうだ」

肉体的ではなく精神的な疲労で疲れていたのだろう。

ベッドに横になると、さして時間もかからずにフーゴは眠りにつく。

「連絡を待つのみだが」

翌朝、フーゴは事前準備は終わらせているので、特にすることもなかった。だから、少し都市カマーを散策しようかと宿を出る。

「なにか俺に用か?」

ここが貴族通りに近いからと、仕掛けてくる馬鹿な者はいないだろう――――などと、フーゴは油断していなかった。

「へへっ。そう身構えるなよ」

レザーアーマーに身を包んだ。いかにもな冒険者の男が背後の路地から姿を現す。

「これでも模擬戦を控えた身なんだ。警戒するなと言うほうが無理なものだろ?」

「確かにな。俺の用も、 それ(・・) なんだ」

何人かはこういう馬鹿が出てくるだろうと、予想していたフーゴはすでに戦闘準備を終えていた。いつ、何人で襲いかかってこようが、 穏便(・・) に処理できる自信があるのだ。

「おっと。だから、そう身構えるなって。俺はただ――――あんたが『ネームレス』のユウから、 わざと負けるよう(・・・・・・・・) 言われてるのかを確かめたいだけなんだ」

「なん……だと?」

「もしかして知らないのか?」

「どういうことだっ」

激しい動揺を悟られないようフーゴは声を押し殺して尋ねる。

「こりゃ驚いた。本当に知らないんだな。随分と噂になってるぜ。今度の模擬戦でレナに負けるよう、ユウから圧力を掛けられてるってな」

男の言葉にフーゴは絶句するのだった。