軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第296話:待ち人来る

「ふんふんふ~ん」

ムッスが食客のために提供している館の二階の一室で、鼻歌を歌っているのは、『剣舞姫』ことクラウディア・バルリングである。

クラウディアは自分の胸を両手で抱え――るほどはないので、よせては姿鏡で入念にチェックをする。

「うーん。そろそろ効果が出始めてもおかしくないんだけど、どうなってんのよ」

ジロリとクラウディアが横目で見た先のテーブルの上には、怪しげな薬瓶や食材に書物などが散乱するように置かれている。

「やっぱりエッダに相談を……ダメッ! あんな女に弱みを握られたらどうなるか――ん?」

なにやら音がするので、クラウディアが音の発生源へ目を向けると、ドアノブが動いているのが目に入った。誰かが部屋に入ろうとしているのだが、部屋のドアには鍵がかけられていた。この秘め事を、クラウディアは誰にも知られるわけにはいかないのだ。だが、この訪問者は鍵がかかっていることに気づくと――ドアをぶち抜いて入ってきたのだ。分厚いドアの木々が部屋の中に飛び散る。

「入るぞ」

そう言いながら、ジョゼフはドアを壊したことを悪びれもせず、部屋にズカズカと足を踏み入れる。

「ちょっ!? なに乙女の部屋に許可もなく――きゃああああっ!!」

文句を言おうとしたクラウディアは、ジョゼフの顔を見た途端に悲鳴を上げる。その恐ろしいジョゼフの形相は、クラウディアのもっとも嫌いなものであった。ジョゼフがユウに出会ってからは、鳴りを潜めていたので、クラウディアもどこか安心していたのだ。

「なに? なにっ! なにっ!? なんで怒っているのよ。わ、私はちゃーんと、ロイが来たことも、ロイが帰っていくことも教えてあげたでしょうがっ」

「そのロイだ。あの野郎、やっぱり俺に嘘をついていやがった」

長年のつき合いであるクラウディアが、まともにジョゼフと目を合わせることができない。それほど今のジョゼフは危険な空気を漂わせているのだ。これほどジョゼフが激怒するということは、ロイの目的がなんなのかをクラウディアは察する。

「ユウの居場所を捜してくれ」

やっぱりと、クラウディアは心の中で呟いた。

「無理よ。前にも言ったでしょ? あの子に関しては、私がお願いしても精霊があまり協力してくれないのよ」

「ユウはどういうわけか精霊に好かれている。カマー周辺で精霊の動きが活発だった場所があるはずだ。その痕跡を辿れ」

普段はちっとも頭を使わないくせに、こういうときのジョゼフは異常に頭が回るうえに、勘も予知かと思うほど冴えているのだ。早速、クラウディアは風の精霊の力を借りて調べると、すぐさま精霊の動きが激しい場所を見つける。その流れを追っていくと、カマーの南門から街道へと続いており、その道の途中で痕跡が途絶えていた。

「南門から外に向かったようだわ」

「じゃあ、南は違うな」

「あんでよ?」

「精霊の動きは途中で終わっていなかったか?」

「う、うん」

「ユウはわざわざ南門から道沿いに進んでから、時空魔法で移動したんだろう。どうしてそんな面倒な真似をする必要がある。それにロイは北へ向かっていた」

クラウディアがチラリとジョゼフの顔を窺うと、憤怒のなかに焦りを感じられた。事実、ジョゼフは焦っていた。ユウが南に向かったと思わせておいて、本当に南へ移動している可能性もある。いや、ユウの性格を考えれば、すべてが偽装の可能性があり、またすべてがほんとうのようにも見えてくる。ユウはニーナに日が沈むまで屋敷に戻らぬよう仕向けたが、ロイと夜に会うとは限らないのだ。

「お前のグリフォンを貸してくれ」

答えが出ぬまま、ジョゼフは北に向かったロイのルートを辿って捜すことにする。そしてクラウディアの所有するグリフォンを貸すよう頼んだのだ。グリフォンとは鷲の翼と上半身に、獅子の下半身を持つ魔物である。気性が激しく獰猛な魔物なのだが、空を駆けるその機動力は馬などとは比べ物にならないほど高いのだ。

「言っとくけど、私のグリフォンは主である私以外は乗せないわよ」

その言葉にジョゼフがジロリとクラウディアを睨みつける。

「わ、わかったからっ。そんなに睨まないでよね!」

クラウディアはルーフバルコニーへ出ると、指笛を鳴らす。すると、指笛に応えるように鳥の鳴き声とともに、空からグリフォンがルーフバルコニーへ降り立つ。クラウディアに頬ずりして甘えるグリフォンの鞍へジョゼフが手をかけた瞬間に、グリフォンが 嘴(くちばし) を大きく開きジョゼフを威嚇する。

「ほらね? だから言っ――」

「急いでんだ。あんま手間を取らせると――殺すぞ」

「――ごめんなさい」

自分に対して言われていないとわかっていても、思わずクラウディアは謝ってしまった。ジョゼフの殺気をまともに受けたグリフォンは身体を震わせ、足元が濡れていた。獰猛で知られるグリフォンが、恐怖のあまり失禁したのだ。

「ロイを見つけたらどうするの?」

クラウディアが、主以外は乗せないと言っていたグリフォンに跨るジョゼフへ問いかける。

「ことと次第によっちゃあ殺す」

空へ向かって羽ばたいていくグリフォンを、クラウディアは見送った。

「あ~っ! なんでこの私が、お掃除なんてしなくちゃいけないのよ!」

ルーフバルコニーを掃除しているクラウディアが文句を垂れる。

「なにしてる?」

クラウディアの背後から声をかけてきたのは、『魔剣姫』ことララ・トンブラーである。

「ちょっと! あんたねえっ! なにノックもせずに人の部屋に入ってきてんのよ!」

「ノックしようにもドアがない」

「うっ……」

クラウディアの部屋のドアはジョゼフが壊したために、ぽっかりと空いたままである。

「ジョゼフがどこにいるか知ってる?」

ブスッ、とした顔のクラウディアは、ジョゼフとのやり取りをララに教える。

「わかった?」

「わかった。クラウディアがお漏らししたから、掃除をしている」

「ぜーんぜんっ! わかってないじゃないの!!」

「そんなことよりも、私たちもジョゼフを追うべき」

「あんでよ?」

「嫌な予感がする」

「大丈夫よ。今のジョゼフは超怖いんだからね! あんた も(・) 会ったらちびるわよ」

「も?」

「うるさいっ!」

誤魔化すようにクラウディアは大声を出した。

「ジョゼフとロイが会う前に、ジョゼフは 華(ブロソム) と揉めている」

「揉めたって言っても、ジョゼフの相手にならなかったんでしょ?」

「ロイだけならジョゼフが負けるはずがない。でも、ジャーダルクがかかわっているなら話は別」

呑気に掃除をしていたクラウディアの手が止まる。

「ジャーダルクはジョゼフの力をよく知っている。ロイの目的がユウで、そこにジャーダルクが暗躍しているのなら……」

クラウディアはデッキブラシを放り投げると、慌てて武具を身に着ける。

「すぐに追うわよ!」

無言でララは頷くと、召喚魔法でヒポグリフを呼び出す。ヒポグリフとは、グリフォンと牝馬の間に産まれる魔物で、上半身はグリフォンと同じ鷲なのだが、下半身は馬である。ララとクラウディアはヒポグリフに跨ると、ジョゼフが向かった方角にヒポグリフを飛ばすのであった。

ブエルコ盆地。

ジンバ王国内にある盆地だ。周囲を山と森に囲まれた平地の中心には氏神を祀った小さな祠が建てられている。

西の空を見れば、雲間からわずかに姿を残す夕日が見えた。あと十数分もすれば日は完全に沈み、光から闇の支配する時間になるだろう。

「いまだ勇者ロイに動きはないもようです」

『鉄壁』のバラッシュに仕える従騎士の青年が報告するも、肝心のバラッシュは舟を漕いでいる。

「バラッシュ様っ」

「ふむ、ふむ。儂は寝ておらんぞ」

カッ、と目を見開いたバラッシュがそう告げるも、従騎士の青年は小さなため息をつく。よくこの状況で寝れるものだと。

「『漆黒の第七天魔王』は来るでしょうか?」

「来る」

従騎士の青年からの問いかけに、バラッシュは断言する。

「――というよりも、来てもらわねば儂が困る。此度の軍事作戦にどれだけの金が動いておるか、お主は知っているか? 各国へ知られぬように情報統制を敷き、人材に武具や物資の調達から根回し、考えるだけで頭が痛くなってくるわい。もしこれで『漆黒の第七天魔王』が来ねば、儂の首が飛ぶどころでは済まんわ」

従騎士の青年は具体的な金額までは知らなかったが、バラッシュの言葉から金額を推測するだけで、作り笑いすらできず真顔になる。

「『漆黒の第七天魔王』は、どれだけの配下を連れてくるでしょうか?」

万が一にもユウが来なかったときのことを考えると、従騎士の青年は胃が痛くなってくる。その考えを追い払うかのように、バラッシュへ別の話題を振る。

「うむ。お主が心配するのももっともじゃが、そこは心配する必要はない」

「軍勢を率いることはないと?」

「『漆黒の第七天魔王』は狡猾でありながら、群れるのを好まない。連れてくるとしても、ラスやクロと呼ばれるアンデッドくらいじゃろう」

たった二匹とはいえ、高位の魔物である。バラッシュの「心配する必要はない」という言葉を真に受けることは、従騎士の青年にはとてもではないができなかった。だが、たとえ高位の魔物であるラスやクロ、さらにパーティーメンバーであるニーナたちが来ようとも、人類の存亡がかかった作戦――否、聖戦である。失敗するわけにはいかないと気を引き締める。

しかしバラッシュの立てた作戦に、一つだけ不可解――というよりも納得しかねることがあった。

「ジョゼフ・ヨルムですが――」

「たとえジョゼフが来ようとも、作戦に変更はない」

今回の作戦にあたって、バラッシュはいくつかの不確定要素――懸念を大隊長以上の者たちへ伝えていた。ユウが群れるのを好まないとはいえ、ユウと深い繋がりがあるムッスの保有する食客、都市カマーの冒険者クラン『赤き流星』、ネームレス王国と対等の同盟を結ぶウードン王国の動向である。

言わずと知れた人誑しの『蒐集家』ムッス・ゴッファ・バフが抱える食客は、それぞれがAランク冒険者、またはAランク冒険者に匹敵する戦闘力を持つ者たちである。ゴッファ領の防衛面から考えて、すべてが参戦することはないだろうが、それでも半数でも参戦すれば小国の軍隊を相手にするようなものである。

『赤き流星』はトロピ・トンが盟主を務めるクランであるが、以前に比べて規模が縮小したとはいえ、十人近くの高ランク冒険者に百を超える冒険者が依然として在籍しているのだ。その戦力は並みの騎士団など比較にはならない。いくら親交のあるユウのためとはいえ、クランを動かすとは考え難いが、それでも注意を払うにこしたことはないだろう。

そしてもっとも注意を払わねばいけないのがウードン王国である。今回の軍事作戦は細心の注意を払って進めているのだが、それでもウードン王国がどこかしらから嗅ぎつけて、横槍を入れてくるようならば非常に厄介なことになる。『ウードン五騎士』ならば対応できるだろうが、『大賢者』が来るようなことがあれば、どれだけの損害を覚悟せねばならぬのか。

「ええ、確かにバラッシュ様はそう仰いました。ですが、あとにこうつけ加えました。ジョゼフが 槍(・) を持って現れた際は、作戦の中止並びに撤退も考えねばならん、と」

「うむ」

バラッシュは重く垂れさがった瞼をわずかに見開き、従騎士の青年に頷いて同意する。

「愚見を申し述べることをお許しください」

「ふむ」

従騎士の青年が意見するなど、バラッシュに仕えて七年の間でも片手で数えるほどである。

「たとえジョゼフ・ヨルムが槍を携えて現れようと、作戦を――聖戦は遂行すべきです」

ロイを監視中のためなのか。大きな声ではなく淡々とした物言いであったが、声には強い意志が込められていた。

「お主はジョゼフのことを知らぬからな」

バラッシュは宙を見つめながら、物思いにふける。

「お言葉ですが、私は第三次聖魔大戦で従軍経験があります。その際にジョゼフが戦っている姿も拝見しています。そのときは、なるほどデリム帝国のみならず、近隣諸国が畏怖するのもわかるほど凄まじい強さと恐ろしさを兼ね揃えた男と思ったものです」

従騎士の青年の言葉を聞いて、バラッシュはゆっくりと首を左右に振る。そして――

「なにもわかっておらん」

なにか言葉を発しようとした従騎士の青年を、バラッシュは手で抑える。

「ジョゼフは神を倒しておる」

「そんな馬鹿なっ!?」と、従騎士の青年は口を大きく開いたまま絶句する。

「ワルプルギス教団を知っておるか?」

「邪教ワルプルギス教団が、五大国の連合軍によって滅ぼされたことは知っています」

「ふむ、その程度か。無理もないことじゃな。聖国ジャーダルク内でワルプルギス教団の話をすることは、関わった者たちの間では暗黙の了解で禁止されておるからな」

「禁止されている……のですか?」

「うむ。ワルプルギス教団はどこぞの邪神を崇拝する教団じゃった。有象無象にある宗教団体の一つで、そこまで警戒するほどのものではなかった。じゃが、あるときを境に急激にその勢力を拡大し、信者を増やしていった」

「あるときとは?」

「教団の中枢にカンムリダ王国の血を引く者たちが喰い込んだのじゃ」

「カンムリダ王国といえば、はるか昔に滅びた国では?」

「その滅びた国の残党とでも言うべき者たちは、今でも暗躍しておる。よいか? 国が滅びるということは、言葉で表すほど簡単なことではない。特にカンムリダ人の性質は――まあよい。とにかく、ワルプルギス教団は『聖の祝福』『魔の祝福』を持つ子供たちを集めておった。拐われたなかには幼きテオドーラ殿も含まれており、そこに至ってようやっと聖国ジャーダルクも重い腰を上げたんじゃ」

「『三聖女』様がっ!」

『三聖女』の一人、テオドーラが拐われたなど、従騎士の青年は初耳であった。暗黙の了解とはいえ、当事者の間で口を噤むのも当然だと理解する。

「じゃが、動くのがあまりにも遅すぎた。五大国が動き出した時には、すでにワルプルギス教団はレーム大陸中から多くの贄を集めておった」

ここまでのバラッシュの話で、従騎士の青年にも結末が見えてきた。

「つまり復活した邪神を、ジョゼフが倒したということでしょうか?」

「違う。それではテオドーラ殿は死んでおるではないか。ワルプルギス教団の討伐は五大国の連合軍で進めたんじゃ。なぜかわかるか?」

「中小国家にも、カンムリダ王国の残党が入り込んでいる可能性があったからでしょうか?」

従騎士の青年の言葉にバラッシュは満足げに頷く。

「その通りじゃ。鼠を捕り逃すわけにはいかん。こちらの動きを知られぬよう進める必要があった。邪教どもの根はこちらの想像よりも深く、各国の中枢まで張り巡らせておった。儂ら連合軍はわざと逃げ道を残しつつ、ワルプルギス教団の拠点を一つ一つ潰していった」

「一網打尽にするためにですね」

「うむ。そうやってワルプルギス教団の本部に追い込んで、連合軍が総攻撃を仕掛け、拐われた子供たちを助け出そうとしたんじゃが。追い詰められたワルプルギス教団は邪悪な儀式を強引に始めたんじゃ」

そこまで言って、バラッシュは大きく息をはいた。眉間を人差し指と親指で揉みながら、二度、三度と小さく頷く。

「救えたのは半分じゃ。ワルプルギス教団は邪神を蘇らせようとしておったが、カンムリダ王国の残党は違った。恐ろしいことに 彼奴(きゃつ) らは、 存在する者(モノ) を召喚しようとしておった」

鳥の鳴き声や虫の音がする森の中で、従騎士の青年が息を呑み込む音が聞こえた。

「じゃが、儀式は失敗に終わった。贄の数が足らなかったのか。それとも儀式に不備があったのか。呼び出されたのは 存在する者(モノ) ではなく――神であった。いや、あれは半神……亜神かもしれんな。儀式の失敗に安堵する儂らを嘲笑うかのように、現れた化け物は見下ろしておったわ。化け物は寒気がするほどの美貌でな? その美しさに負傷していた者や弱き者たちは恐慌状態になって、数万の兵がその場で自害しよった」

状態異常の魅了によって対象を自害させることは可能だが、数万人の、それも兵を自害させるなど、にわかには信じられない規模の力であった。

「嗤っておったよ、化け物は。それはもう愉快で堪らないといったふうにのう。絶望の色に染まる儂らの顔を見ながらな。事実、その場にいた多くの兵は、自分たちが――いいや、世界が滅びると思うた。ここだけの話じゃがな? 儂も内心でそう思っておった。刃を交えるまでもなく、それほどの力を感じたんじゃ。じゃが、絶望しない者が――それどころか嬉しそうに向かっていく者がおった」

「それが」

「そう、ジョゼフじゃ。儂も噂だけは知っておった。若くして『セブンソード』に選ばれた者がいるとな。ワルプルギス教団を討伐する際に、デリム帝国の兵を率いていたのがジョゼフじゃ。撤退を進言する者たちをよそに、デリム帝国の兵たちはジョゼフに続いて突撃を始めよった。儂は自分が恥ずかしくなった。他の将や名のある騎士たちも同様じゃったんじゃろうな。次々に武器を構え追随しだしたんじゃ。十万を超える軍勢が、ジョゼフの背を追う姿はまさに一振りの巨大な剣に見えたじゃろうな」

「お、お待ちください。バラッシュ様、ジョゼフが凄いのはわかりましたが、それは人を率いる将として優れているのであって――」

再度、バラッシュは手で従騎士の青年へ黙るよう制した。

「十万を超える軍勢は、化け物にまったく歯が立たんかった」

「……………………は? それでは……誰が化け物を倒したのですか?」

「無論、ジョゼフじゃ。ジョゼフがたった一人で倒しよった。これがどういうことか、お主にはわかるか? 十万を超える軍勢があらゆる手を尽くしても、さしてダメージを与えることができなかった化け物を、ジョゼフは一本の槍を手に倒したんじゃ。

これでわかったじゃろう? ジョゼフが槍を手に現れれば、撤退も考えねばならぬということが」

いまだ納得できない従騎士の青年へ、別の騎士から合図が送られる。

「バラッシュ様、『漆黒の第七天魔王』が来たようです」

「うむ。それは重畳じゃ。これで儂も首を斬られずにすむ」

「しかし、さすがは『三聖女』テオドーラ様ですね」

そう言って従騎士の青年が振り返ると、そこには聖国ジャーダルクの騎士団が隊列を組んで並んでいた。

「このブエルコ盆地に五万もの兵を隠蔽するとはっ。勇者ロイは我々の存在にまったく気づいていません」

「『三聖女』最強を名乗るんじゃ。これくらいはしてもらわんとな。それよりも『漆黒の第七天魔王』がロイと接触すると同時に、包囲を完成させるの忘れぬよう。あと付与魔法の『 夜目強化(ナイトビジョン) 』、戦技『ブレイブハート』は切らさんようにな」

「はっ」

バラッシュの命を受け、従騎士の青年が素早く周囲の騎士へ指示を出していく。

「待っていたよ、サトウ。一人で来たのかい?」

「お前が一人で来いって言ったんだろうが」

静寂を纏ったかのように静かに佇む勇者ロイと、激しい闘気を放つユウは対照的であった。