軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第252話:オークション

「予定どおりに到着してよかったよ」

ユウたちが宿泊しているコンコンラッド・バリルに勝るとも劣らない高級宿の一室で、ムッスが執事のヌングへ話しかける。

現在、部屋にいるのはムッスとヌングだけである。伯爵の爵位を持つ貴族の身の回りを世話する者が、わずか一名とは驚くほど少なく、また不用心であった。護衛の一人である食客のマーダリーの姿が見えないのは、この宿を見張れるどこかに溶け込んでいるからである。

そもそもムッスですら、マーダリーの姿を見かけるのは年に数回もあればいいほうである。

都市カマーから王都への向かう道中も、マーダリーはムッスの乗る馬車へ同乗せずに単独で移動していた。

「道中なにもなく、無事に王都へ到着できてホッとしております。ですが、監視はついているようで」

ムッスのジュストコールを脱がせながら、ヌングは部屋の窓へ視線を向けずに伝える。

「マーダリーが排除しないということは、その程度の者ってことさ。気にする必要はない」

「わかってはいても、ムッス様を監視する者たちを放置するというのは、なんとも言い難い不快感があります」

「それもあと少しの辛抱さ。

それより、このあとはユウたちとサザティーズで合流する」

新しいジュストコールをムッスに着せながら、ヌングは思案顔である。それを察したのか、ムッスが語りかける。

「大丈夫、きっと上手くいくさ。

今日の出来事は数百年を誇るサザティーズの長い歴史の中でも、いやウードン王国の歴史に残るような面白い見世物になるだろうね」

「あ~っ! ユウ、笑ったでしょ!!」

Aランク迷宮『悪魔の牢獄』の中層にいるとはとてもではないが思えないほど、ほのぼのとしたニーナの声が辺りに響く。

「笑ってねえよ」

やたらと絡んでくるニーナを見れば、全身ボロボロであった。それはクロを除く皆に言えることで、心身ともに疲弊しきっているのがありありと見えた。

そんなニーナの相手をするのが面倒なのか。ユウはコロとランの毛についている砂埃を手で払うと、頭や顎の辺りを撫でて労っていた。

「レナ、見てたよね? ユウが鼻で笑ってたのっ」

腕を上下に振りながら、ニーナが同意を求めるようにレナへ話しかけるのだが。

「……今は喋りたくない」

平静を装ってはいるが、レナの足元を見れば生まれたての子鹿のように震えていた。

「で、何層まで攻略できたんだ?」

「四十八層ですな。一度は四十九層まで進んだのですが、階層主がいたので、一旦四十八層に戻ったところでござる」

「そのござるってのやめろよな。

それにしても四日で五層しか攻略できてないじゃないか。どうだ? 一人のときと違ってお守りをしながらだと大変だったろ」

「主の言うとおり、某だけなら階層主に挑んでいたのですが、むう……。冒険者というのは難しいものでござるな」

「この迷宮の階層主は、どれも特殊なスキルや魔法を使うから、挑んでいたらクロもニーナたちも死んでいた可能性は高いだろうな。戻って正解だよ」

ユウの言葉に、ニーナが頬を風船のように膨らませる。横ではマリファが主であるユウの言葉に反論するはずもなく、ただ黙して控えていた。いつもならそんなことを言われればすぐに反論するレナも、今は必死に呼吸が乱れているのを悟られないように、小刻みに不自然な呼吸を繰り返していた。

「ほら、これ見てよ~」

自らの功績を誇るように、ユウに向かってニーナが巨大な皮を拡げてみせる。

「おっ」

ほぼ傷もない皮はアークデーモンのモノである。

強大な魔力と再生力を誇るアークデーモンと戦うということは、即ち互いの存在を、生死をかけた激戦になる。

結果、勝利を手にしたとしても自身はもちろんアークデーモンの損傷も凄まじいこととなる。そのアークデーモンの皮を綺麗な状態で手にすることがどれほど困難なことかは、冒険者であれば誰もが知っているところである。

ユウの驚いた反応に気を良くしたニーナは、さらにユウのもとへじりじりと近づくと、「どう?」と言いたげに身体をスリスリと擦りつける。

「ぬふふ~。凄いでしょ?

クロちゃんなんてね。倒した魔物がぜ~んぶ、ぐしゃぐしゃだから、皮も牙も角も剥ぎ取りができなかったんだよ~」

「むむ……。ニーナ殿、それは内緒にと申したはず」

「それにね。宝箱だって三個も見つけて、私が罠を解除したんだからっ!」

宝箱から手に入れたであろう黄金のランプや貴金属を両手に抱えながら、ニーナはユウの周りを「ほらほらっ」と言いながら回り始める。

「あー、凄い凄い」

明らかに棒読みのユウの言葉にも、ニーナは嬉しそうに笑みを浮かべる。

「えへへ~。レナ、マリちゃん、やったね! ユウも認めてくれてるよ~。

あれ? ところでユウはなにしに来たの?」

「なにしにって、四日後にオークションがあるから迎えにくるって言っただろ」

「ええ~っ!? もう四日も経ってたの?」

「経ってたんだよ。

このまま宿に戻るから、すぐ風呂に入って飯を食べたらオークション会場に向かうからな」

風呂と言われて、レナが自身の匂いを確認する。冒険者とはいえ、まだ花盛りの少女なのだ。

「やあ、待っていたよ」

宿で身体の汚れを洗い流し、食事を終えてサザティーズオークション会場に訪れたユウたちを待ち構えていたのはムッスであった。

いつもの飄々とした態度で、ムッスがユウたちに挨拶する。その後に続いてムッスの後ろに控えるヌングが頭を下げると、ユウはムッスではなくヌングに向かって頭を軽く下げた。

「これがウードン王国で、いっちばん大きなオークション会場なんだ~」

口をポカーンと開けたまま、ニーナとレナがサザティーズを見上げる。

「伯爵である僕を無視してヌングへの挨拶を優先するなんて、さすがに驚きを通り越して呆れてしまうよ」

「なんだいたのか」

「見えてたよね。まあいいさ。今日は面白いモノが見れそうだしね」

そう言いながらムッスはサザティーズの入り口にいる一団へ視線を向ける。

大勢の王族や貴族に名のある商人たちが続々とサザティーズの中へ吸い込まれるように入場していくのだが、その中でも一際に目立つ集団がいた。

集団の中心にいるのは、ウードン王国どころか他国にまで名を知られているレーム大陸一の財力を誇る男――バリュー・ヴォルィ・ノクスである。

普段のムッスらしからぬ剣呑な雰囲気を感じさせる目であったが、ヌングの垂れ下がった瞼の奥には、それ以上の苛烈な力が目に込められていた。

「ユウ、会ってそうそう悪いが、僕とヌングは財務大臣へ挨拶してくるよ」

「ユウ様、では後ほど会場で」

ヌングは深々とお辞儀をすると、ムッスを追いかけていく。

「ムッスさんたち、行っちゃったね」

「……私は早くオークション会場に行きたい」

「レナ、まだオークション開始まで時間はあるから、そんなに焦らなくても大丈夫だよ~。

あっ。でもユウ、コロちゃんやランちゃんを連れてきたけど、どうするのかな?」

ニーナに見つめられて、コロが「どうしたの?」と言いたげに小首をかしげる。一方のランは大勢の人々を警戒するように、周囲へ気を配っていた。

「心配しなくても、ここには従魔を預かる獣舎がある。餌も従魔に合わせて上等なモノを与えるそうだぞ」

「へえ~、そうな――いだだっ。コロちゃん、尻尾がお尻に当たって痛いよ~」

上等な餌という言葉を聞いて、コロが興奮して尻尾をブンブン振り回すと、ニーナの尻に鞭のように叩きつけられる。ランはコロを見下すように冷めた視線を送るのだが。

「……ラン、涎が垂れてる」

「コロ、ラン。ご主人様の前で、私に恥をかかせる気ですか?」

声を荒らげたわけではないが、マリファの凍てつくような目に見つめられると、コロもランも慌てて堂々たる佇まいをとった。

「バリュー財務大臣、お久しぶりです」

「これはこれは、今日も良い品はすべて落札するおつもりなんでしょう?」

「なんでも今回の目玉は、過去に類のない逸品との噂ですぞ」

「ヴォルィ様、先日は当店の品をご購入いただきありがとうございます!」

「他国の商人を相手する際でも、財務大臣のお名前を出すだけで相手は頭を垂れるのですから、他国にまで誰がウードン王国でもっとも偉大な貴族なのかが知れ渡っているようです」

貴族や商人たちが、バリュー財務大臣を取り囲んでご機嫌とりをしていた。

「はっはっは。今日は皆様方も私のライバルですな。落札品が被った際は何卒ご容赦を」

「ぬははっ。バリュー卿がそれを言いますかっ」

「そのとおりですな。

私たちなど歯牙にもかけないほどの財力をお持ちでらっしゃるのに」

皆の目的は一つである。

バリュー財務大臣と友好関係あるいは繋がりをもち、少しでもバリュー財務大臣のもつ利権に関わりたい、またはおこぼれに与りたいのだ。

「ふははっ。世辞が上手いですな。

こんなところでいつま――おおっ、ムッス伯ではないか」

「ヴォルィ卿、お話し中に失礼いたします。お顔が見えたので、挨拶だけでもと」

ムッスはバリューを貴族姓で呼んだ。

ウードン王国では交流のある貴族を名前で呼ぶのだが、あえて貴族姓で呼ぶことで、ムッスとバリューの関係を明確にしたのである。

「ヴォルィなどと他人行儀な。

ムッス伯も我が派閥に加わるのだ。これを機に遠慮なくバリューと呼んでいただきたいものだ」

「私のような浅学非才な者に過分な評価をしていただき光栄です。ですが、私はヴォルィ卿の派閥に加わる件は、まだ返答しておりません」

先ほどまであれほど談笑が弾んでいたのに、ムッスとバリューの周囲があっという間に静まり返った。

バリューからの勧誘に対して返答を保留しているなどと、公の場で言ったからである。

これはバリューの顔に泥を塗るのと同意であり、ウードン王国の大貴族を敵に回したようなものなのだが。

「いいや、ムッス伯は私の派閥に加わるだろう」

「面白いですね。どうしてそう思うのかをお聞きしても?」

「簡単なことだ。私は今まで自分が欲しいと思ったモノは必ず手に入れてきた。今までに例外はない」

誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。

貼りつけたような微笑で会話するムッスとバリューの両名から発せられる圧力が、周囲の者たちを否が応でも緊張させたのだ。

「ムッス様、そろそろお時間のようです」

緊張を破ったのはヌングである。誰も言葉を出せないような状況で、何事もないかのように主であるムッスに話しかけたのだ。

「有意義な話でしたが、どうやら時間切れのようです。会場でまたお会いしましょう」

去っていくムッスとヌングの姿が見えなくなると同時に、周りの貴族や商人たちが騒ぎ始める。

「なんと無礼な! これだからムッス伯は田舎貴族と呼ばれるのだ!」

「まさにっ!! 若輩者の分際で、バリュー卿に対して敬意の欠片もないとは!!」

「ムッス伯爵は少し治める領地経営が上手くいっているからと、なにか勘違いしていられるご様子のようで」

「謀反人の息子がっ。バリュー様の尽力があったからこそ、その爵位にいられるのをお忘れなのか!」

口々にムッスのことを罵る者たちの中で、バリューだけは黙ったままムッスが去っていった通路を見つめていた。

「ひろ~いっ!」

「……ここが会場」

「このような広い場所で、いったいどのように競売を進行するのでしょうか」

ニーナたちがオークション会場に入るなり、その広さに圧倒される。

サザティーズオークション会場の二階、円形状に観客席が設置されており、他国の王族や貴族に商人たちが次々に着席していく。

中央のステージには、オークションの司会進行を担当するスタッフが慌ただしく動き回っているのが見えた。

本日開催されるのは、年に一回の特権階級を対象としたオークションである。通常なら一介の冒険者であるニーナたちでは入場することすら叶わないのだが、ユウがいることで入場する際は呼び止められるどころか会釈すらされたのだ。

「サザティーズが月一で開催するオークションは一階で、それも競売品の種別ごとに部屋がわかれて行われる。でも、年に一回のオークションのみ、この二階の特別会場で開催される。種別も関係なしにするんだから、これくらい広くないと客が入りきらないんだとさ」

「でもマリちゃんも言ってたけど、こんな広い場所でどうやってオークションを進めるの?」

「それは――」

「それはこちらの魔道具を使ってですな」

ユウの言葉に割り込んできたのはビクトルであった。いつものように胡散臭い笑みを浮かべながら髭を撫でている。

「お前、なにしに来たんだ?」

「なんと酷いお言葉っ!? このビクトル、サトウ様の無体な対応に些か傷つきましたぞ。

以前にもサトウ様へ申したとおり、今回のオークションは是が非でも参加せねば、商人として失格ですからな。しかも、隣にはサトウ様がいるなんて、これは切っても切れない縁で私とサトウ様が結ばれているのやもしれませんぞ!」

いきなり現れて怒涛の勢いで喋り出し、さも当然のようにユウの横に座るビクトルの迫力に、ニーナもレナも圧倒される。マリファは表情にこそ出さぬものの、主であるユウの隣に断りもなく座ったビクトルに納得していない様子であった。

「おや? なにやらマリちゃんから殺気を感じるような。ハッハ、私の勘違いでしょうな。

おっと、先ほどのニーナちゃんの疑問ですが、この魔道具をご覧いただきたい」

ビクトルが手でユウの前にあるテーブルに設置されている銀色の長方形の板を指す。板には〇四二九番と刻まれており、黒色と赤色の円形のボタンが見える。

「番号が振ってあるのが見えるでしょう? それにボタンが二つ。通常のオークションでは指の本数や手のひらの向きなどで、競売品の金額を釣り上げていき競うのですが、このような広い会場では司会者はとてもではありませんが指の本数など見えません。そこで、この魔道具の出番です! このボタンを押すと――ほわっ!?」

ビクトルが意気揚々とボタンを押そうとしたそのとき、すでにレナがこれでもかと黒色のボタンを連打していた。

「……なにも起こらない」

ボタンを押しても反応が返ってこないことに、レナはがっかりする。旋毛のアホ毛もしおしおである。

「レナちゃん、あちらを」

「……あっ」

ビクトルが指し示す中央のステージには、巨大な掲示板のような壁が設置されているのだが、そちらに〇四二九番と表示されていた。

「ふははっ、このとおり。こちらの黒いボタンとあちらの巨大な壁と見紛う魔道具は連動しており、押すことによって番号が表示されるのです。そう! 司会者が競売品の値段を釣り上げていくので、落札希望者は黒いボタンを押して落札の意思ありと表示するというわけです。そして、競売が終盤になってくると、司会者の釣り上げ額ではまどろっこしくなってきます。そんなときには、この赤色のボタンを――ぬはっ!?」

レナが今度は赤色のボタンを連打していた。すると、掲示板に表示されている〇四二九番の数字が赤く強調される。

「……なるほど」

『……なるほど』

レナの声が会場中に響き渡る。

よく見れば赤いボタンの横には、無数の小さな穴が空いていた。

「……これは?」

『……これは?』

少し戸惑うレナであったが、すぐに機能を理解する。

「……私の妹は素直じゃない」

『……私の妹は素直じゃない』

「レナっ! なにを遊んでいるのですか」

『レナっ! なにを遊んでいるのですか』

レナがボタンを押したままのため、マリファの声まで会場に響き渡る。すると、オークション会場の従業員が困った顔でユウたちの様子を窺う。それに気づいたマリファは顔が真っ赤になる。

「……やれやれ困った妹」

「ぐっ……!」

叱りたいマリファであったが、レナの手が赤いボタンにかかっているのが見えると、無理やり怒りを抑え込む。

「君たちはなにをしているんだい。オークション会場の従業員が、注意していいのか判断に困っていたよ」

「レナ様らしいではありませんか」

微笑むヌングを伴って現れたムッスは、呆れた顔でレナとマリファを見る。

「お初にお目にかかります。私は――」

深々と頭を下げようとしたビクトルを、ムッスは手で制する。

「自由国家ハーメル八銭が一人、ベンジャミン・ゴチェスターの右腕ビクトル・ルスティグ殿ですね。

貴族制のないハーメルンですが、八銭の右腕であるあなたを爵位に当てはめれば、侯爵が妥当だと私は思いますよ。もっとも 財力(ちから) に限って言えば、中堅国家の王に匹敵するのではないでしょうか」

そう言うと、ムッスはウードン王国の貴族式の挨拶をビクトルに向けてする。

「いやはや困りましたな。

私ごときを過分に評価していただいているようで、八銭ならともかく、私などが中堅国家のそれも王に匹敵するなどとは、驚きを通り越して笑ってしまいますな」

いつもの胡散臭い笑いを浮かべるビクトルであったが、ムッスは変わらず無表情のままである。人誑しと呼ばれるムッスらしからぬ態度であった。

「どうやらムッス伯爵は、なにか勘違いされているご様子」

「こちらにいてよろしいのですか? あなたが懇意にされているヴォルィ卿の席は向こう側ですよ」

「私はサトウ様とも仲良くさせていただいていますので」

暗に向こうへ行けと言っているムッスに対して、ビクトルも譲らず両者は見つめ合う。

「ユウ、いいのかい?」

「いいも悪いも特例を除いて席は自由だ。好きなところに座ればいいだろ」

「それでこそサトウ様っ! ムッス伯爵、私だって勝ち馬に乗りたいので、ご一緒させてください」

ユウの言葉にムッスの肩から力が抜ける。

緊迫した一幕であったが、ニーナとレナは魔道具が気になるのか弄り回し、分解しようとしたところをマリファに取り押さえられていた。そのやり取りを見ていたヌングは思わず頬が緩む。

「ユウがいいって言うのならいいさ。

さあ、僕もオークションを楽しませてもらおうかな。

さすがはサザティーズの年に一回開かれるオークションだ。あの御大層な騎士たちに護られた老人を見てご覧よ。あれはデリム帝国の皇帝だ。齢八十を超えるのに、いまだ玉座に座って広大な帝国を支配しているのだから恐れ入るよ。あそこにいるのは、セット共和国のマンマ大統領だ。すぐ隣に座っている男は、十二魔屠筆頭のジークムントだね。聖ジャーダルクの教王は見当たらないが、ハーメルンの八銭もどこかにいるんじゃないのかな」

「ええ、ムッス伯爵の仰るとおり。我々の向かい側の席に、八銭のウォーレン様が、あちらにはジョージ様がいらっしゃいますね。まあ、どちらもつまらない御方なんですがね。おっと、これはここだけの話でお願いしますよ」

本気で言っているのか、ふざけているのかはビクトルの表情からは誰も読み取ることはできなかった。

「さて、そろそろオークション開始の時間ですぞ」

オークション会場内が徐々に薄暗くなっていく。出入り口の扉が閉められ、天井に設置されている光を放つ魔道具の光量を絞っているのだ。

「わ、わわっ。ユウ、真っ暗だよ~」

「すぐ終わるから落ち着けよ」

突如、中央のステージが照らされると、司会の男が四方へお辞儀していく。

「大変長らくお待たせしました。ただいまより、サザティーズのオークションを開催させていただきます。皆様、奮ってご参加ください」

司会の男の手には声を拡大する棒状の魔道具が握られており、会場中に声が鳴り響いた。

会場内の客は高貴な身分の者たちが占めるのだが、それでも興奮を抑えきれぬのか。司会の男の開催の合図に会場内がざわついた。

「最初の競売品はこちらになります」

一斉に会場内が明るくなると、ニーナたちは眩しそうに目を細める。

ステージにサザティーズの従業員がワゴンを押しながら現れる。そのワゴンの上に載せられているのは白金のギルドカードである。

「こちらは、かの有名なAランク冒険者『巨人殺し』ことマムルートのギルドカードになります。ご存知の方も多いかと思いますが、マムルートは巨人族でありながら魔物の巨人を優先して屠ることで有名な冒険者でした。

しかし、その勇猛で名を馳せたマムルートもSランク迷宮『 濁魔(しょくま) の大穴』を探索している最中に命を落としたと言われています。

残念ながら亡骸を見つけることはできませんでしたが、同じく探索していた『 雷鎚ミョルニル(トールハンマー) 』の冒険者たちがギルドカードを発見しました。

今回の出品は遺族の希望によるものです。当然ですが、冒険者ギルドから、こちらのギルドカードがマムルートの物であると証明書もあります。

それでは、こちらのギルドカードは百万マドカからスタートとなります」

司会者の合図とともに、掲示板の魔道具へ一斉に番号が表示されていく。

「すご~い」

「……『巨人殺し』の二つ名は私も聞いたことがある」

「本人しかギルドカードからステータスを読み取ることができないのに、どうしてここまで人気があるのでしょうか」

「ハッハ。マリちゃん、簡単なことですな。権力者とは誰も持っていない物を所有したいものなんです。そして、それを誰かに自慢したい。なんとも欲深いことですな」

マリファの疑問にビクトルが答えるが、ちゃんづけで呼ばれたマリファは氷のような瞳でビクトルを見つめるのだが、当のビクトルは「そのように見つめられると、年甲斐もなく照れてしまいますな」と煙に巻く。

「三億二千万、三億二千万となっています。他に落札希望者はいませんか? はい、終了です! 『巨人殺し』マムルートのギルドカード、三億二千万で落札です。おめでとうございます」

司会者の終了の声とともに、会場内から落札者へ祝福の拍手が沸き起こる。

「三、三億二千万マドカっ!? このギルドカードってそんなにするの?」

「マムルートのギルドカードだから、それだけの値がついたんだ。ニーナのギルドカードなら、精々十万マドカもすればいいだろうな」

「ユウ~っ! そんなことないも~ん。きっと私のギルドカードだって、出品すれば高値がつくはずだよ。レナもそう思うよね?」

「……私のなら五億はいくかも」

冗談ではなく大真面目に言っているレナに、マリファの開いた口が塞がらない。

その間にもオークションは進み、次々と落札されていく。

「『清浄なるトーチ』、七千三百万で落札」

「『常夜のランタン』、一億九千四百万で落札」

「『静水珠』、四億六千八百万で落札」

他の小さなオークション会場であれば、メインを張れるような品が次々と出品され、高額で落札されていく。その金額にニーナとレナは驚き目を見開く。金銭に興味がないマリファは、いつもと変わらぬ表情でオークションを見ていた。

そして、次の品が運ばれてくる。

「次は人気高騰で値上がりを続けている品となります。

見たものを切り取ったかのように、紙へ写すことができる魔道具『写眼具』です!」

司会者の説明を聞いていたニーナが身を乗り出す。

「大変貴重な品になります。『写眼具』は等級が低いと白黒、高くなるに連れて色鮮やかになっていきますが、今回の『写眼具』の等級は3級っ! それも一つではございません。その数、驚きの四つです!! これだけの品を、それも複数集めるのはサザティーズでも苦労しました。

千万からのスタートとなります! それではどうぞっ!!」

掲示板に番号が無数に表示される。これまでで最大の落札希望者である。近年、『写眼具』の軍事利用の有効性が各国に知れ渡り、等級が低い物でも騎士団や軍部が金に物を言わせて購入するために、『写眼具』の値段は異常に高騰しているのであった。

「八億、九億、十億――二十億」

徐々に値段を釣り上げるのが司会者の役目であるが、落札希望者の数が一向に減らないために、一気に倍の二十億にするも、それでもなお多くの希望者が掲示板には残っていた。

「私も欲しいよ~」

前々から『写眼具』の存在を知っており、なんとか手に入れることができないかと探していたニーナは、そのあまりの値段に手持ちのお金では落札できないと涙目になる。

「軍事利用のためとはいえ、各国の貴族も落札するために必死だね」

「ムッス伯爵、それも致し方ないかと。なにせ、この会場には高騰の原因である――」

ビクトルがその名を言おうとしたそのとき――

『五十億だ』

バリューの声が会場内に響き渡った。

赤いボタンを押して、金額を司会者に伝えたのだ。その金額に熱狂していた会場内の王族や貴族から商人まで静まり返った。そして、一気に掲示板から落札希望者の番号が消えていく。

『五十三億』

バリューの落札を阻止しようと、小国の王が参戦するが。

『六十億だ』

「なっ!」

直ぐ様、バリューが上乗せした金額を提示する。その小国の王を見る目は、貧乏人が刻むなと言わんばかりである。

『こちらは六十五億!』

『七十億だ』

『七十二億!!』

『八十億だ』

いくら有能性が知れ渡ったとはいえ、『写眼具』一つに八十億という金額は異常であった。それに『写眼具』は全部で四つもあるのだ。バリューも全ては落札しないだろうと皆が思っていた。

『九十億』

ユウの声が会場内に響き渡る。

「ユ、ユウ?」

「欲しいんだろ」

「で……でも九十億って」

自分が欲しいと言ったとはいえ、その金額にニーナは腰が抜けて立っていられなくなる。

『百億だ!』

ユウを睨みつけながら、不愉快そうにバリューが金額を言い放つ。

「ひゃ、百億……っ! 現在『写眼具』は百億マドカとなっております。他に希望者がいなければ――」

悔しそうに自分を見る者たちを一瞥し、バリューは満足そうに頷く。自国はもちろん、他国の王族貴族を財力でねじ伏せるとき、バリューはなんとも言えぬ恍惚感に浸ることができるのだ。

『二百億』

「それでは『写眼具』を百億マド――に、に、二百億っ!?」

会場内が一気にざわついた。それはバリューも同様で、ユウの言った二百億の金額に驚きを隠せない。ユウの近くに座るムッスと隣の席のビクトルは、面白そうに口角を上げている。

「二百億……出ました! 二百億です!!」

顔を真っ赤にしたバリューが赤いボタンを押そうとするのだが。

「バ、バリュー様、いけません! 『写眼具』にそこまでの価値はありません!! それに同じ等級の物が、バリュー様の宝物庫にはいくつもあるではないですか。焦らずとも『写眼具』は全部で四つもあるのです。次の物を落札すれば――」

バリューの側に控える執事が、慌ててボタンを押そうとするバリューの手を止める。

「ぐぅっ……。そんなことわかっておるわ!! 手を離さぬかっ!!」

執事の手を振りほどき、バリューは憤然とした面持ちで席に座り直す。

「二百億で落札となります。おめでとうございます! では――」

落札したユウへ祝福の拍手が起こるのだが、半分以上は傲慢なバリューの落札を阻止したことを讃えてである。

『全部だ』

「続きまして二つめの――ふへっ!?」

司会者の男から間抜けな声が漏れ出る。

『全部、購入する』

会場内にいる者たちが、口々にユウは何者だと話し始める。

「ユ……ユ、ユ、ユユ……ユウ~」

「なんだよ。落ち着けよ」

「落ち着けるわけないよ~。だって、全部って二百億が四つで、あわわ~」

頭がパンクしたのか。ニーナは目眩でふらふらである。

しかし、これは始まりであった。

「続きましては、Cランク迷宮『氷炎山脈』の宝箱より入手した未使用の『水の魔導書』――」

魔導書と聞いて、レナの旋毛のアホ毛が激しく揺れる。

「……欲しい」

「自分のお金で買いなさい」

「……私の稼ぎは、全部ユウに渡している」

「駄目です。見なさい。すでに六億を超えているではないですか」

「……それでも欲しいもん」

レナとマリファのやり取りを無視して、ユウは掲示板の番号を見る。そこにはバリューの番号が表示されていた。

『十億』

バリューが落札するかと思われたそのとき、ユウが上乗せした金額で落札する。

「……好き」

「レナ、ご主人から離れなさい!」

ユウに抱きつくレナを、マリファが力尽くで引き剥がす。

その後もバリューが落札しようとする品を、ユウが阻止する。

「――二十億で落札となります」

「『鳳凰の羽根』、三十五億で落札――」

「『ヘーパイの砥石』、十億で落札――」

これではどんな間抜けな者でも気づく。ユウがバリューの落札しようとする品に被せていることに。

「続きまして――」

「待てっ!!」

魔道具を通さないバリューの怒声が、オークションの進行を止める。

「そいつ――その者は金を持っているのだろうな!! あとでないでは済まされんぞ!! 司会の貴様っ! 答えぬか!!」

ユウを指差しながら、バリューが司会者に罵声を飛ばす。相手が大貴族であるだけに、司会者の男もどうしていいものかと助けを求めるように、サザティーズの館長へ視線を送るのだが。館長は問題ないと力強く頷く。

「も、問題ありません」

「なっ!? なん……だとっ」

唖然とするバリューであったが、そのとき――

『貧乏人が妬んで難癖つけてくるなよな。ああ、偶然にもボタンを押してたみたいだ』

ユウの声が会場中に流れると。

「わっはっは!! こりゃいい!!」

「そのとおりだ! バリュー卿、ご自分が落札できないからと無理を言うものではない!!」

「レーム大陸一の財力が泣いていますぞ!」

「これで自分がしていたことが、どれほど醜いかご理解したのでは?」

バリューを嘲笑う声で会場が満たされる。この場にはウードン王国だけでなく、他国からも多くの王族や貴族が来ているのだ。その場で大恥をかかされたのだから、この出来事はまたたく間にレーム大陸中に知れ渡ることだろう。

「こ……このっ! 私を、この私を誰だとっ……!!」

そこには傲慢なバリューの姿はなかった。普段見下していた者たちから貶められ、嘲笑され、怒りに身を震わせる男の姿があった。

「バ、バリュー様、落ち着――ぎゃっ」

「黙らんか!!」

執事の顔にバリューの拳が叩き込まれる。周りの取り巻きが慌ててなだめるが、そんなことでは怒りが治まろうはずもなく。ただ、公の場であったことが幸いし、誰かをこの場で殺すような真似はバリューもしなかった。

「殺す。どいつもこいつも殺してやるぞ。それもただでは殺さん。自ら殺してほしいと懇願するような責め苦を味わわせてやる」

声を荒らげずに淡々と呟くバリューの姿に、取り巻きたちが恐怖する。

オークションの進行が一旦妨げられる騒ぎはあったものの、その後は順調に進められていく。

「サトウ様、どこに行かれていたので? いやはや、遠くてよくは見えませんでしたが、バリュー様の悔しそうなお顔などなかなかお目にかかれません。マゴ殿がこの場にいれば、泣いて大喜びしたでしょうな」

席を外していたユウが戻ってくると、ビクトルは嬉しそうに先ほどの出来事を思い出しながら、ユウに話しかける。

「あいつが勝手に絡んできて自爆しただけだろ」

「ハッハ。まったくそのとおりですな。

さて、私もお目当ての物はほぼ落札できましたが、ついに今回のオークションのメインですな! このビクトル、いまかいまかとワクワクしておりましたぞ!!」

「ビクトルさん、あまりご主人様に馴れ馴れしく触れないでください」

「おや? マリちゃんは見た目とは裏腹に嫉妬深いのですな。安心くだされ。このビクトル、マリちゃんのことも好いておりますぞ!!」

「そんなことを言われても嬉しくありませんし、安心もできません」

ユウの太ももに置かれたビクトルの手を、マリファはさり気なく払いのける。いまだニーナは『写眼具』の金額のことでふらついており、レナは落札された魔導書のことで頭がいっぱいである。

「次は本日最後の競売品になります。こちらは出品者様より、現金一括のみでの落札を希望されておりますので、皆様はそのことを留意して、ご参加ください」

これまでと違う慌ただしいサザティーズの従業員の動きに、とてつもないモノが出品されると噂だけ聞きつけていた者たちが、興奮しながらいまかいまかと待ちわびる。

「な、なんだあれはっ」

客の一人が思わず呟く。

いや、皆が同じような言葉を思わず呟いていた。

五十名にも及ぶ高位結界師が強力な結界を維持しながら、 それ(・・) を運んでいるのだ。それが載せられている台にも、複数の封印系の魔導具が施されている。それでも、なお魔力が溢れ出さんばかりであった。

「お待たせしました! こちらが、こちらがっ!! Aランク迷宮『悪魔の牢獄』第七十四層に鎮座する――」

「まさかっ!?」怒り狂っていたバリューですら、怒りを忘れてステージを凝視する。

「古龍マグラナルスの角になります!!」

会場が今日一番の盛り上がりを見せる。

「馬鹿なっ! どのようにして手に入れたのだ!!」

「神話にも登場する龍だぞっ!」

「おい、なんとしてでも手に入れろ!!」

「し……信じられん。本物なのか?」

数多の勇者や英雄を屠り、戦いを挑んだ者で生きて帰った者はいないと言われている古龍マグラナルス――その存在は数千年前から語られており、お伽噺などではなく実在するのが複数の冒険者の証言により確認されている。その伝説の古龍マグラナルスの角が目の前にあるのだ。

珍しい物をこれでもかと見て、手に入れてきた会場中の権力者たちが騒ぎ立てるのも無理はなかった。

「お静かに、お静かにお願いします! 私もサザティーズでオークションの司会を務めて十年になりますが、これほどの逸品を競売するのは初めてのことです。

この古龍マグラナルスの角を扱える鍛冶士がいれば、間違いなく一級以上のモノができるでしょう。剣であれば、岩を、鉄を、いいえ! 龍の鱗すら造作もなく斬り裂き! 鎧であれば火を、雷を、龍の息吹ですら弾き返すでしょう!! 装飾であれば、どれほどの加護を与えるか!! 今、私たちは伝説を目の前にしているのです!!

古龍マグラナルスの角、百億から開始させていただきます!!」

一斉に掲示板が赤く強調表示された番号で埋め尽くされ、誰がなにを言っているのかわからないほど、言葉が飛び交う。

『千億じゃ』

デリム帝国の皇帝が先手を打つ。その金額にどよめきが起こり、手が出ない多くの商人が、悔しそうに肩を落とす。

『こちらは千百億です』

次に動いたのは八銭が一人、ウォーレンである。さらに――

『千二百億だ』

八銭のジョージも動いた。

『千三百億じゃ』

『千四百億です』

『千五百億だ』

『なら千六百億じゃ』

『こちらは千七百億です』

『ならば千八百億だ』

百億刻みという信じられないような金額で競売が進行していく。

『二千五百億だ!!』

「おおっ」と会場内がどよめく。ついにバリューが参戦したのだ。この金額にはデリム帝国の皇帝も苦虫を噛み潰したかのように、皺くちゃな顔をさらに歪ませる。

『三千億で』

「三千億、三千億が出ました!!」

三千億、その金額を言ったのはムッスである。

「あれはどこの貴族だ? それともどこぞの王族か」

「いや、ウードン王国の貴族だ。名はムッス伯爵だったか」

「そのような貴族の名は初めて聞きましたわ。それほどの財力を誇る者が、私の耳に届かないとは驚きですわね」

苦々しげにバリューがムッスを睨みつけた。

『三千五百億だっ!!』

どうだと言わんばかりに、バリューが上乗せする。

『ハッハ。このビクトル、四千億を出しますぞ!』

「四千億……四千億です!!」

ユウとムッスがビクトルを見ると。

「 私も(・・) 協力しようかと」

いつもの胡散臭い笑みを浮かべて、ビクトルは会釈する。

ユウは軽くため息をついて、赤いボタンを押すと。

『ウードン王国どころか、レーム大陸一の財力を誇ると聞いていたが、ビクトルより金を持ってないんだな。あっ、間違ってボタンを押してた』

明らかにワザとで、後半に至っては棒読みである。

「バ、バリュー様……」

恐る恐る執事が声をかけるのだが、その声はバリューの耳には届いていなかった。

「お、おのれっ! 私が、私がビクトルなどより金を持っていないだとっ!? ゆ、許さんぞ!! どいつもこいつも、教えてやる!! 誰が一番かということをっ!!」

バリューは赤いボタンが壊れるかと思うほどの勢いで、拳を叩きつける。

『八千億だ!! 私は八千億で入札するぞっ!!』

八千億という金額は、小国の――いや、中堅国家の国家予算に匹敵する金額であった。

誰もが声を失っていた。オークションの進行を務める司会者ですらも。

『どうした? 私の金額を読み上げぬか』

バリューに言われて、我に返った司会者は慌てて金額を読み上げる。

「八千億です! ただいまの入札額は、八……八千億マドカとなっております!」

誰もバリューに続いて入札する者はいなかった。掲示板から番号が次々に消えていき。最後にはバリューの番号だけが残った。

『フハハハッ!! 誰もおらぬのか? そうだ! 私が一番金を持っているのだ!! 下賤な連中が、高貴なる血筋である私を罵りおって!! これで誰が一番かわかったであろう!! グハハーッ!!』

勝ち誇ったバリューの大笑いが会場内に響く。

その笑い声の中、ゆっくりとユウが中央のステージに降りていく。最初、バリューはなにをしているのか理解できなかった。

「それでは古龍マグラナルスの角の出品者であるユウ・サトウ様より、落札者であるバリュー・ヴォルィ・ノクス様へ賛辞の言葉をいただきたいと思います」

司会者の説明を聞いても、バリューの頭の中は真っ白である。

「出品者のユウ・サトウだ。

この度は古龍マグラナルスの角を落札していただき、バリュー財務大臣には感謝と祝福の言葉を送りたい。

そして先ほどの言葉を撤回し、謝罪する。

八千億マドカという大金を、それも現金で一括。普通なら支払えるわけがないと誰もが思うだろう。だけど、バリュー財務大臣なら余裕なんだろうな。ふふっ、なにしろレーム大陸一の金持ちなんだから。

最後にもう一度言わせてほしい。バリュー財務大臣、本当におめでとう。ハハっ、高額での落札を感謝するよ」

賛辞の言葉を述べると、ユウはもといた席へ向かって歩き出す。それでもバリューの頭の中は真っ白のままであった。

「ぶはっ」

ビクトルの噴き出した声に、バリューが反応する。

「これは失礼」

口を手で押さえながら、ビクトルが謝罪する。次にバリューがムッスを見ると――。

ムッスは微笑んでいた。そして、バリューに向かって優雅に一礼する。

「ユウ、このあと少し話があるんだけどいいかな?」

「ああ、いいよ。今日は儲かったからな。気分が良いんだ」

ユウたちが会場から姿を消しても、バリューは固まったままであった。