軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第224話:反撃開始

「キリンギリン、面倒なことになってきたぞ」

キリンギリンの仲間の男が周囲へ目を配る。見れば雑木林を覆うように、ランの固有スキル『雲海』が今も範囲を拡げ続けているのだ。

「わかってる。

俺がダークエルフの相手をするから、お前らは残りを頼む」

「なんだよ。キリンギリンは一人だけかよって言いたいところだが、火力はともかく厄介さはダークエルフの方が遥かに上だからな」

「そういうことだ。

情報は頭に入っているな? 間違っても霧の中には入るなよ」

「言われなくたって入るかよ。霧の中で魔獣が手ぐすね引いて待ってるってのによ」

軽口をたたくキリンギリン達であったが、周囲への警戒を少しも怠ってはいなかった。

図らずもレナとマリファに挟撃される形となったキリンギリン達は、他にも敵が潜んでいないかを戯けながら窺っていたのだ。

一方、窮地に陥っていたアガフォン達は突如現れたレナとマリファの姿に、戦闘中にもかかわらず口元が緩む。

それほどキリンギリン達に追い詰められていたということなのだが、レナの表情はアガフォン達とは正反対に強張っていく。普段、感情表現に乏しいレナとは思えないほど、それは第三者から見ても怒っているのが一目瞭然であった。

「レナさん、俺ら……あいつらに、盟主から貰ったアイテムポーチを……まんまと盗まれちまったんだ」

「……そう」

レナは敵がいるにもかかわらず、アガフォン達から視線を外さない。その視線の先には、急所こそ免れているものの、身体には無数の切創や打撲による内出血で赤黒く染まったアガフォン達の姿があった。また外見からではわからないが、全身の至る所の骨が骨折ないしヒビが入っており、いまだ倒れていないのが信じられないほどのダメージを負っていた。その中でも特にフラビアの有り様は酷いもので、身につけている衣服や装備で辛うじてフラビアだと判断できるほど顔は腫れ上がっていた。

戦闘によるものではない。相手の尊厳を貶め、女に屈辱的な思いをさせるようわざと嬲ったものだ。

「危ないっ!!」

アガフォンが叫ぶ。

レナの背後より風の刃が迫り来る。放ったのはキリンギリンの仲間である。先ほどから隙だらけのレナを攻撃する好機だと、精霊魔法第2位階『 風刃花片(ふうじんかへん) 』を無詠唱で放ったのだ。

無数の風の刃が花びらのごとくレナへ殺到する。不可視の小さな刃が強固な鎧を纏っていようが、わずかな隙間から侵入し対象を斬り刻むのだ。

しかし、レナは振り返るどころか、アガフォンの声にすら反応を示さなかった。ただ、杖を握る手に力を込めた。押さえきれない怒りを力尽くで封じ込めるかのように。

「マジかよ……」

精霊魔法を放った男が思わず呟いた。今の攻撃で仕留められるなどと、男は楽観視はしていなかったのだが、まさか無傷でやり過ごされるとは思ってもみなかったのだ。

「……あなた達を許さない」

地面には無数の傷跡が刻まれていた。レナの纏う結界に弾かれた『 風刃花片(ふうじんかへん) 』によるものである。通常、後衛職が使用する結界は魔力を身体の一部を護るように展開する。なぜならば全身を覆うほどの結界を展開すると、その範囲に比例して消費するMPも増量する上に、強度も一部分だけ展開する結界に比べてどうしても劣ってしまうからだ。つまり消費されるMPは大量で、しかも強度も頼りない。これでは戦闘で使い物にならない上に、肝心の攻撃魔法に回す分のMPが確保できないのである。

しかし、レナの纏う結界は自身を球状に覆っている上に強度もキリンギリン達が驚くほどであった。消費されるMPは莫大なものとなるはずなのに、レナは疲れる素振りすら見せない。痩せ我慢ではないのは、歴戦の冒険者であるキリンギリン達には十二分にわかっていた。

「結界を球状に展開している上に、あの強度かよ……。伊達にアールネ・フォーマの血を引いてはいないな。それになんだあの結界、回転してねえか?」

「昔、高位の結界師が同じ技を使っているのを見たことがある」

「お前が見た高位の結界師って、あんなガキが赤き流星の先代盟主『氷血断空』と同じ強さだって言ってんのか?」

「そこまでは言っていない。だが、近い技量を持っているかもしれないな」

いまだ自分達に背を向けたままのレナの姿に、警戒心が高まり続けるキリンギリンの仲間達であったが、そのときレナが杖で地面を強く叩いた。杖の先端から六本の魔力の糸が、アガフォン達のもとへと伸びていく。

アガフォン達にとっては見慣れた光景であるのだが、それを初めて見る者達にとっては未知の技である。どのような効果があるのかわからずに、迂闊に飛び込むことは危険と判断して様子を見ていたキリンギリンの仲間達であったのだが。

「なっ!? ありゃ魔力の糸を通して回復魔法をかけてんのかっ」

「こりゃ呑気に見てる場合じゃねえぞ。見ろ! 凄まじい勢いで回復してやがる!」

「ちっ。ドミニクの馬鹿がくだらねえ真似してなければ、今頃は王都に向かって帰っている最中だったのによ!」

レナの展開する魔力の糸を通して、アガフォン達の傷が見る間に回復していく。あとはトドメを刺すところまで追い込んでいた敵が、全快していく姿にキリンギリン達の仲間が動き出す。

「あなたは加わらなくて宜しいのですか?」

マリファが対峙するキリンギリンに問いかける。本来であれば、レナと向かい合っているキリンギリン達を後ろから攻撃するところなのだが、それをキリンギリンが許さなかったのだ。

その証拠に、キリンギリンの周囲には無数の虫の死骸が転がっていた。全てマリファが放ったモノである。

「お前のような危険な奴を放っておくわけにはいかないからな」

キリンギリンの構える槍の穂先はマリファの眉間を狙い定めていた。

二人の距離は十二、三メートルほどである。とてもではないが槍が届く距離ではないのだが、キリンギリンは腰を捻ると、上半身が消えたかと思うほどの速度で突きを放つ。

同時にマリファの周囲で火花が散り、後方の木が弾け飛んだ。役目を終えたかのように、鋼の硬度を持つ数十匹の黒霧羽蟻の死骸が地面へ落ちていく。

「厄介な虫だ」

「それはこちらのセリフです。

槍の範囲外から攻撃しようにも、どうやらあなたの槍は伸びるようですね」

キリンギリンが持つ槍は、名を『メッサリナの槍』という。この槍にはスキル『伸縮』が付与されており、槍の穂先を文字通り伸び縮みさせることができるのだ。このスキル『伸縮』にキリンギリンの槍の腕を以ってすれば、相手は槍の間合いに入っていないにもかかわらず、気づけば心の臓を貫かれているのである。

その突きの速さと軽やかな身のこなしから飛燕の異名を持つキリンギリンの刺突を、自身の身体能力では躱せないと判断したマリファは、躱すのではなく虫を纏いあえて受けることによって、キリンギリンの隙を見出そうとしていた。

「ガウ゛ッ!!」

短い唸り声とともにコロがキリンギリンに飛びかかる。大きく開けた顎の中は刃物と見紛うような牙が並ぶ。多少の攻撃を受けようが噛み殺してやるというコロの気勢に、キリンギリンは確実に屠れる方法を選択する。真正面から打つかり合わずに、半身でコロの飛びつきを躱したのだ。

難なくコロの噛みつきを躱したキリンギリンの目の前には、無防備な胴体を晒すコロの姿が。その横っ腹に槍の突きを放とうとするのだが『雲海』の中より棘のような尻尾がキリンギリンの首を目掛けて迫り来る。

「もう一匹の従魔かっ」

キリンギリンは槍で尾を弾くのだが、ランは姿を見せずに『雲海』の中に身を潜めたままである。

そしてランに気を取られたその瞬間をコロは見逃さない。先ほどより大きく顎を開くと、そこから高熱のブレスをキリンギリンに向けて思いっきり放つ。線状に放出された高熱のブレスがキリンギリンを捉える。まともに喰らえば骨も残らぬ高熱のブレスである。コロはブレスを緩めることなく、勝ちを確信するのだが。

「ガア゛ッ!?」

線状のブレスがキリンギリンのいる場所で渦を巻いていた。槍技『大車輪受け』である。槍を高速で回すことにより攻撃を弾く技なのだが、キリンギリンはその技でコロのブレスを受け止めていたのだ。

息が続かなくなったコロがブレスを止めると、そこにはキリンギリンが平然と立っていた。

「どうした? もう終わ――」

技を解いたキリンギリンの眼前に、マリファの射った黒い矢が迫っていた。完全なる虚を突いた攻撃であるにもかかわらず、キリンギリンはその矢を槍でいとも容易く弾いた。しかし、マリファの狙いはそこにあった。

マリファの弓術レベルは3である。並の者が相手であれば十分に通用するレベルなのだが、キリンギリンのような高位冒険者に通用するなどとは、マリファは微塵も思ってなどいなかった。

マリファの本当の狙いは矢を当てることではなく、矢に纏わりつかせていたバレットアントの毒で攻撃することであった。

キリンギリンが弾いた矢より、黒い粉が宙に漂う。黒い粉の正体がバレットアントと知っているマリファは、すでに次の矢を射つ準備に入っていた。毒でもがき苦しむ相手を射抜くことなど、造作もないことである。

「しっ!」

かけ声と槍が空気を貫く音とともに、地面に次々とバレットアントの死骸が落ちていく。

恐るべきことに、キリンギリンは矢に纏わりついていた数百匹のバレットアントを全て槍で撃ち落としたのだ。

バレットアントの攻撃が失敗した以上、次の一手も無駄となる。マリファは弓の構えを解いて、コロを呼び戻す。

「一匹一匹ならどうとでもなる魔物なんだが、お前が操ることによって三位一体となるわけか。

本当に厄介な相手だ」

「先ほども申しましたが、それはこちらのセリフです」

歴戦の強者を前にしても、攻撃が全く通用しなくても、マリファの心には些かの揺るぎもなかった。主人であるユウの敵は誰であろうと必ず殺す。

マリファは右目に手を添えると魔眼の力を解放した。