作品タイトル不明
第168話:3rdジョブ
「げっ、肉がほとんどなくなってる」
「ご主人様、お酒も高いのからなくなっています」
屋敷に戻ったユウは、肉やワインを保管している地下室を確認すると、いくつかにわけて熟成させていた肉はほぼなくなっており、ワインも高いものから消費されていた。ジョゼフの仕業であった。
「あのゴリラ……食っていいって言ったが、熟成日数でどれくらい肉の旨味が変わるか調べている最中のまで食いやがって」
「所詮ゴリラ、人語はわからなかったのでしょうか? ああ、ゴリラと一緒にしてはゴリラに失礼ですね」
屋敷の炊事を預かるマリファもお冠であった。ジョゼフは見た目とは裏腹に、行儀良く飲食をしていたようで、台所は無駄に綺麗に整理整頓され、地下室の肉やワインを保管している場所には、ジョゼフの手書きのメモが残されていた。メモには旨かったぜと、ゴ……大男のジョゼフからは想像できないほど、綺麗な筆跡で書かれているのが、逆にユウとマリファの怒りが増す結果となる。
地下室の入口では、ニーナ達が様子を見ていたのだが、静かに怒る二人に怯えていた。
「まあいい。朝食の準備だ」
「かしこまりました」
怯えるニーナ達の横を通りすぎて、ユウとマリファは台所へ向かう。
「ひえぇぇ……怖かったね?」
「……あの二人は同時に怒らせない方がいい」
「お、俺は良い子だから大丈夫なんだぞ!」
ナマリの肩に座るモモが、ほんとに? という視線をナマリに送る。ナマリは自信がないのか、モモから目を逸らした。
ユウとマリファの二人は、怒りながらも朝食はちゃんと作ったようで、テーブルには朝からボリュームのある食事が並ぶ。バゲットに切れ目を入れた間に、各種野菜と甘辛いタレを絡めた鶏肉やハムなどを挟んだバゲットサンドイッチ。屋敷の庭で栽培しているとうもろこしを裏ごしして作ったコーンポタージュ。飲み物は紅茶に水生樹が創りだす水、その水と果汁を混ぜて作ったジュース。サラダも庭から採ったばかりの新鮮な物が皿に盛られる。レナの皿に盛られたサラダは特に量が多かった。
「……わ、私のだけ野菜が多い気がする」
「多くしてるんです」
「あははっ。レナはちっちゃいから、お野菜一杯食べないとなー」
「……ちっちゃくない。あと、レナお姉ちゃんでしょ」
旋毛のアホ毛を逆立てながらナマリをジト目で睨むレナであったが、当のナマリはご飯を早く食べたいのか。モモと一緒にそわそわしていた。
「もう食べていい?」
「ナマリ、手は洗いましたか?」
「マリ姉ちゃん、洗ったよ! ほら、ほらー!」
ナマリとモモが、マリファへ手の平と甲を交互に見せて洗ったアピールをする。
「ご主人様、宜しいでしょうか?」
「いや、ニーナはもう食ってるぞ」
「ニ、ニーナさんっ!?」
「ふぇ? だって冷めたら勿体ないもん。美味しいよ?」
「あーっ! ニーナ姉ちゃん、ずるい~!」
ナマリが負けじと熱々のバゲットに齧りつく。モモはユウの顔を窺うように見詰める。ユウがいいよっ、と目で合図すると、顔を綻ばせ小さな口でサラダにかぷっ、と可愛らしく齧りつく。
「食事のあとに転職するからな。俺はもうなにに就くか決めてるから、お前ら順番決めとけよ」
ニーナ達には事前に水晶作成に関しては説明しているので、どうやってなどの質問は出てこなかった。ただ、冒険者ギルドにある水晶で転職した際に、レベル、ステータス、スキル、諸々の情報が抜き取られているのには驚きを隠せなかったようで、ステータスカードのみしか注意していなかった自分達が甘かったと、反省していた。
「ユウはなにに就くの?」
「言わない」
「え~、ユウのケチっ。いいもん! 勝手に見るもんね~」
頬を膨らませたニーナは、サラダにフォークを突き刺すと、口を大きく開けて放り込む。
「俺も見たい!」
「ナマリ、食事中ですよ」
マリファに窘められると、ナマリは素直にごめんなさいとマリファへ謝る。モモはナマリが食事中に騒いで、ユウから何度も食事中のマナーについて叱られているのを見ていたので、同じ轍を踏むことはなかったのだが。
「モモ、口の周りが汚れてる」
モモの口の周りはコーンポタージュ塗れになっていた。その様子を見ていたナマリが、にやりと笑みを浮かべる。
「や~い。モモも叱られたー」
ユウに叱られたわけではないのだが、ナマリには自分と同じに見えたのだろう。モモは慌てて、ユウお手製のモモのサイズに合わせて作られたハンカチで口を拭うと、ナマリの頭の上へ飛び上がる。
「モモ、やめろー」
モモに髪の毛を引っ張られたナマリが、情けない声でユウに助けを求めるが。
「今のはナマリが悪い」
「えー」
「……ふふ。ナマリはおバカさん」
「レナ、サラダを食べなさい。食べるまで転職できるとは思わないように」
「……ぐっ」
「レナがマリ姉ちゃんに怒られてるー」
「……私の方がお姉ちゃんなのに」
賑やかな朝食であった。行儀よくと注意しながらも、マリファはどこか楽しそうであった。
最後までサラダを食べるのに手こずっていたレナであったが、完食すると一仕事終えたかのように額を拭った。
食事後の後片付けが終わると、ユウは早速転職をするために水晶をテーブルの上に出す。
「お前らなんなんだよ」
ユウが水晶に手を置くと、ユウの背後からニーナとレナが覗き込む。マリファは奴隷ですからと背後に立っていたが、やはり気になるのかニーナ達を羨ましそうに見ていた。ナマリとモモはあまり理解していないのか、物珍しそうに水晶に表示される文字を見てた。水晶に表示されたジョブは、前回と同じ内容であった。ユウはその中から『剣聖』を選ぶ。全ての剣技を使いこなせると言われている上級職である。
「わわ。すっごい強そうな名前だね」
「オドノ様は強いんだぞー!」
「ナマリ、静かにしなさい」
「……後衛の方が強いのに」
レナはユウが前衛職を選んだことに不満そうに呟く。
「試してくる」
ユウはそう呟くと出かける用意をする。マリファも当然のようについて行こうとするが、ユウからジョブを選ぶように言われると従わないわけにはいかなかった。
「あ、あ、待ってー! オドノ様、俺も行く~」
ナマリとモモが慌ててユウのあとを追いかけた。マリファもすぐにでも追いかけたいので、次は自分が転職したいと主張するが。
「……次は私」
「なっ!? 私はご主人様の奴隷です。その私がご主人様の側にいないのはおかしいです。ですから一刻も早く私は転職しなければいけないのです」
「……私はなりたいジョブを決めてる。表示されればすぐに転職できる」
レナは、マリファにあなたはジョブを決めてるの? と問いかける視線を送った。
「むっ、レナのくせに中々言いますね。いいでしょう。そこまで言うのであれば、ここは先に譲りましょう。ニーナさんは?」
「私? 私は最後が・・・いいな~」
「……酷い言われよう。妹は反抗期」
「だ、誰が妹ですか! 早くしなさい」
レナはわかっていると、水晶に手を置く。表示されたジョブは、『司祭』『付与士』『教師』『調香師』『魔導師』『アークビショップ』『アークウィザード』『大魔女』『魔導書士』『司教』『大司教』……後衛職が次々と表示される。そして――『賢者』。
「やった! レナっ! 『賢者』があるよ!!」
ニーナの方が興奮してレナに抱きつく。幼き頃より憧れていた『賢者』になりたかったレナより、ニーナの方が嬉しそうな顔をしていた。レナはあまりのニーナのはしゃぎように恥ずかしくなったのか。小さな声で「……うん」と呟くと、俯いた。
「……私は『賢者』になる」
レナは『賢者』を選択し、転職する。『賢者』とは、白魔法、黒魔法、付与魔法を使いこなし、本人の努力次第では召喚魔法、精霊魔法を覚えることができる魔法の専門家である。
「おバカなレナが『賢者』ですか、これもご主人様のおかげですね」
「……おバカじゃない。試してくる」
平静を装っているつもりのレナであったが、腕試しをしたいのは顔を見れば明らかであった。マリファに遅くならないようにと言われる。レナは「……そんな子供じゃない。マリファはお母さんみたい」と、マリファに言い返す。顔を真赤にしたマリファから逃げるように、レナは箒に跨って飛び去っていく。
「ほんとに! レナは手のかかる子供と変わりませんね」
「あはは。レナが言う通りマリちゃんは、お母さんみたいだね~」
「もうっ! ニーナさんまで」
「怒らないでよ~。ほら、次はマリちゃんの番だよ」
マリファは早くユウを追いかけたいのを思い出したのか、慌てて水晶に手を置く。水晶にマリファが転職できるジョブが表示されていく。『魔術師』『精霊術士』『メイド』『召喚士』『大召喚士』『弓士』『精霊弓士』『ビーストテイマー』『魔眼士』『蟲使い』『蠱毒士』『蠱毒師』『人形使い』『樹霊術士』……前半に表示されたジョブはともかく。後半に表示されたジョブは、普通の冒険者ではまず就くことができないモノが多数表示される。
「わ~、マリちゃん一杯だね。これじゃどれにするか、決めるのに時間かかっちゃうね?」
「ふ……ふふ。いいえ、ご心配には及びません。これでヒスイさんより私の方が、ご主人様の役に立てることが証明できます」
マリファが選んだジョブは『樹霊術士』。冒険者ギルドですら情報を持っていないジョブであった。
「ニーナさん、私はご主人様を追いかけますので失礼致します」
「う、うん。いってらっしゃい」
不敵な笑みを浮かべたまま、マリファはスカートの端を掴みながら駆けていく。残されたニーナは紙を取り出すと、ユウ達の就いているジョブを記していく。
「目当てのジョブはあるかな~」
独り言を言いながら、ニーナは水晶に手を置く。『ハイシーフ』『シーカー』『布術士』『軽剣士』『トレジャーハンター』『隠者』『軽拳士』『忍者』『ハイアサシン』『アークアサシン』『影法師』。ジョブに『シーフ』『暗殺者』を持つ、ニーナに相応しいジョブが表示される。
「あっ、あった。良かった」
ニーナは迷いなく『影法師』のジョブに転職すると、そのまま外へ出ていく。ニーナが向かった先は都市カマー。しかしユウを探しに来たのではない。細道や林の中、追手を巻くかのようにカマーの中を移動していく。着いたのは都市カマー地下道の奥、ニーナの秘密の隠れ家であった。
「オリヴィエ様に会うの何年ぶりだろう。やだな。でも会わないとね」
ニーナは『影法師』に就いて覚えたスキルを確認する。
『影転移』、対象者、対象物の影を登録することで、影を通じて転移できる。登録できる数は 三つ(・・) まで。
ニーナは部屋の中に入ると、品種改良されたベナントスの口の中を潜る。オリヴィエ・ドゥラランドが緊急のときのみ使用していいと、ニーナ宛に暗号で書かれた書き置きを握り締めながら。