軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第151話:逃走

セット 十二魔屠(じゅうにまと)

セット共和国が誇る六軍団の中から選ばれた上位十二名で構成される。文字通りセット共和国最強の部隊である。

初任務は属国であるアルフォン公国の反乱の鎮圧。僅か二日で二万を擁する反乱軍を完膚なきまでに叩きのめし、勝利を治める。

雪龍スノウノヴァの討伐、古の巨人ラエインダーンの討伐、天魔グノウプスの討伐など国家戦力で対応すべき魔物らを少数で討伐。

その後もミキスリゥの森を巡っての獣人達との戦争では十二魔屠からは五名が参戦し、セット共和国軍を勝利へ導く。十二魔屠が参戦した大小合わせて百を超える戦争の全てにおいて勝利。

つまり――常勝不敗

セット十二魔屠、『 蠱蟲鏖殺(こちゅうおうさつ) のヤーコプ』と名乗った老人は、おぼつかない足取りであった。腰は曲がっており、杖に頼っての歩行であったが、老人の背中はいくつものこぶが見えた。こぶはまるで生き物のようにローブの下で蠢いていた。

「このよぼよぼの爺が、かの十二魔屠じゃと? 噂倒れとはこのことじゃな」

ドルムはユウとの戦いを邪魔されたことから、不快感を露わにしていた。

「ふぇっふぇ。人を見た目で判断するとは、ドワーフは相も変わらず愚かな種族のようじゃな」

「ならば攻撃の一つでも――」

ドルムは視界内のユウが、先程の倍以上距離を取っていることに違和感を覚える。

ヤーコプと名乗った老人がにやりと嗤った。

「攻撃ならもうしとるわい」

「なにを言っておる……ぐふっ!?」

ドルムの全身の穴という穴から血が流れ落ちる。膝をつきながらヤーコプを見るが攻撃をした様子はなかった。ドルムは物理攻撃でないと判断し、解毒剤のポーションをアイテムポーチより取り出し飲み干すが。

「その程度の解毒剤では儂の毒は治せぬわ」

「やはり毒かっ! アーゼロッテ、結界を解くでないぞ!」

「わかってるよー。それより 上の(・・) 蝶々をなんとかするか毒を解除しないとおじいちゃん、死んじゃうよー」

アーゼロッテの言うとおり。ドルムの頭上には、いつの間にか赤色の禍々しい蝶々が飛び回り鱗粉を振りまいていた。ドルムの目、鼻、口、耳、毛穴からはなおも血が流れ続け、意識が朦朧とする。

「これが長年国々を荒らし回っていたイモータリッティー教団の死徒か、たわいないのぅ。まさに 噂倒れ(・・・) じゃな」

すでに致死量を超える毒に侵されたドルムは、固有スキル 藥?盧摂(やーくると) を発動。腸内で飼っている数百の菌が宿主を守るために毒を分析し、抗体を作り出す。同時に全身の傷を癒やし、ドルムは何事もなかったかのごとく立ち上がる。

「 蠱蟲鏖殺(こちゅうおうさつ) 、なるほどのぅ。毒蟲を使役しよるか」

「むぅっ!? 儂の毒に耐えよるか。じゃが儂の攻撃はこれで終わりではないぞ」

ヤーコプの背中の瘤が激しく蠢くと、ローブの足元から大量の蟲が這い出る。

「出血、腐敗、爛れ、溶解、麻痺、好きな死に方を選ぶがよい」

ヤーコプの周りにはすでに数万匹の蟲が、今か今かと合図を待っていた。ヤーコプが指を弾くと、一匹の百足に羽が生えた蟲がドルムへ襲いかかる。

「ふんっ」

ドルムは高速で飛来する蟲を緋龍の槌で横薙ぎに迎撃するが、槌と蟲が衝突した際に金属でも叩いたかのような甲高い音が鳴り響いた。吹き飛ばされた蟲は地面に激突するが、しばらくすると穴から這い出てくる。

「厄介な蟲じゃのぅ」

「おじいちゃん、もう帰るよー」

アーゼロッテはナマリの横を通り抜けドルムの横までくると、飽きたとばかりに欠伸をする。

「この状況で逃げられると思っているのかのぅ?」

ヤーコプの操る蟲達がドルム達を取り囲む。

「簡単だよー」

アーゼロッテが不思議そうにヤーコプを見詰めると同時に、ユウの展開している結界内を蒼い雷が駆け巡った。アーゼロッテの詠唱破棄による黒魔法第6位階『 雷鳴迅嵐(らいめいじんらん) 』が所狭しと暴れ、雷はユウへも迫るが結界で防ぐ。一瞬にしてユウの結界六枚が破壊されるが、結界から魔力の糸が次々と大地へ突き刺さると、雷を大地へ逃がす。ナマリにも同様の結界が張り巡らされており、暴れ狂う雷が収まるとそこにはドルム達の姿はすでになくなっていた。

「やれやれ。無茶しよるわい」

蟲達が球状にヤーコプを覆っていた。雷刃蟲、羽に雷を貯めることができる蟲だが、アーゼロッテの莫大な魔力が込められた 雷鳴迅嵐(らいめいじんらん) によって、許容量を超えた雷刃蟲は役目を終えたかのように息絶えていた。

「儂の手塩にかけて育てた蟲をこんなに殺しおってからに」

「お前っ! オドノ様の敵か?」

結界を解かれたナマリが、ヤーコプの前で臨戦態勢をとっていた。

「こりゃっ! 目上の者に対してその口の利き方はなんじゃ」

ヤーコプに叱られたナマリはしばし考えこむと。

「おジジはオドノ様の敵か?」

「ふぇっふぇ。まあ、いいじゃろう。主らのような童子を手にかけるほど、儂は落ちぶれておらんよ」

ユウはアーゼロッテとナマリが睨み合っていた場所に移動していた。

「オ、オイラの役目は……終わった……だ、ろ? なん……で助け……た!?」

ユウはアーゼロッテの雷からナマリだけでなくゴーリアも守っていた。

「お前は 八匹目(・・・) だ」

ユウの言っている言葉の意味はわからぬまま、ゴーリアは終わりがこないことを悟り。さらなる絶望に顔を歪ませた。

ヤーコプによって空けられたユウの結界から二人の人影が入ってくる。

一人は赤い肌に額から生える立派な角、鬼人族の男。もう一人は一言で言えば肉塊であった。転がるように移動し、時折豚のような鳴き声が聞こえた。

「ヤーコプの爺さんよ。そこにいるのが死徒か?」

「ぶひひ。馬鹿だな。そんなわけないじゃん」

鬼人の男の問いかけを、横にいた肉塊が嘲笑すると同時に拳が飛んでくる。鬼人の男が放った拳撃が肉塊にめり込む。それだけで並の魔物なら即死と思われるほどの風圧がナマリにまで届いた。

「豚野郎っ、うるせえぞ! 殺されたいのか?」

「今頃のこのこきおって、なにを言っておるんじゃ。死徒なら逃げて行きおったわ」

「僕の予想だとね。そっちの子達と死徒が戦ってて、ヤーコプさんが乱入したんじゃないかな?」

「なんだよ。死徒ってのはガキ二匹と争うレベルなのかよ」

肉塊がこめかみに人差し指を根本まで突っ込むと、ぐりぐりと捻る。その度にあっ、あっ、と喘ぎ声を漏らす。

「そっちの子はよくわからないけど、あっちの人族の子はユウ・サトウっていう名のBランク冒険者だね。

ぶひひ。その子すごいすごい。冒険者になって一年も経たない内にBランクだよ。あっ、あっ、それだけじゃない。へえ、アンデッドとはいえ黒竜まで倒してるんだ」

「お前のそれなんとかならねえのか? いちいち情報引き出すのにこめかみ弄るのがうぜえ、キモい、あと臭い。

んで、Bランク? どっちにしても雑魚じゃねえか」

「オドノ様を馬鹿にするなっ!」

ユウを馬鹿にされたナマリが鬼人の男を殴り飛ばす。鬼人の男は数十メートル吹き飛ぶが、ほぼダメージはないようで立ち上がり口元の血を拭うと、顔が怒気に染まった。

「このクソガキがっ! ぶっ殺してやる!!」

「ぶひ。子供相手に大人気ないな~」

鬼人の男が手に金棒を握り締め猛然と突っ込んでくるが、ユウが行く手を阻むように立っていた。

「まとめてぶち殺してやるっ!」

「レンナルト、儂の前で童子を殺す気か?」

レンナルトと呼ばれた鬼人の男の身体には、ヤーコプの放った蟲がまとわりついていた。奇っ怪な鳴き声を上げる蟲達によってか、レンナルトの頭に昇った血が下がったのか、不貞腐れた顔でヤーコプを睨む。

「なんだよ。ヤーコプの爺さんはガキの味方かよ」

「儂らの役目を忘れるでない」

「ちっ、クソガキ共、ヤーコプの爺さんに感謝するんだな」

「俺はどっちでもいいぞ」

「ばーかっ! お前なんかがオドノ様に勝てるもんかっ!」

「あ゛っ?」

ユウとレンナルトの間で殺気がぶつかり合い。一触即発の状態になるが、その空気を壊したのはヤーコプであった。二人の間に入ると、杖でレンナルトの脛を叩く。

「儂が止めいと言ったら止めんか」

渋々引き下がるレンナルトであったが、怒りが収まらぬのか肉塊の男を殴りつける。

「ヤーコプさん、死徒の行方はわかってるの?」

レンナルトに殴られて転がってきた肉塊が、ヤーコプへ問いかけた。

「心配せんでも行方はわかっておるわい。

童子、うちの馬鹿が迷惑をかけたのぅ」

馬鹿と言われたレンナルトがヤーコプを睨むが、逆に凄まれると引き下がる。ヤーコプが二人を伴って去ると、ユウは砕け散った骸骨騎士の復活させられる者だけを回収する。

「オドノ様、殺さなくてよかったの?」

「今はな。それより死徒はどうだった?」

「あいつら、強いね。でも俺の方がもっと強いよ!」

「ナマリ、チョウシニノラナイヨウニ」

「ナナはほんとうるさいなー」