軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第149話:小手調べ

何もない空間に禍々しい黒い靄が出現した。黒い靄を掻き分けるように、吐き気を催す手のようなモノが次々に飛び出す。一旦飛び出せば最早止めることは叶わぬかの如く、生ある者への妬み、嫉妬、憎悪、あらゆる負を内包した亡者の群れがドルム目掛けて襲い掛かる。

「なんじゃとっ!?」

ドルムにしては珍しく驚きを隠しきれなかった。

突如現れた少年と小さな子供、どのようにして自分に気付かれずに近付いてきたのか。そして少年から発される殺気は、かつて激戦を繰り広げた好敵手と比較しても遜色のないものであった。

少年の髪が黒色と気付くと同時に放たれたのは、暗黒魔法第7位階『 飢餓鬼暴界(きがきぼうがい) 』。

場所が悪いとドルムは心の中で舌打ちをした。唯でさえ凶悪な暗黒魔法だが、生ある者への恨み辛みが蔓延る腐界のエンリオの中でその威力は更に増していた。

「まともに喰らうわけにはいかんのぅ……」

迫り来る亡者を前にドルムは緋龍の槌を大地へ叩きつける。大地が盛り上がり壁を形成する。槌技『 大地割壁(だいちかつへき) 』LV5の槌技であるが、通常の使い手であれば精々二人が身を隠すことができる壁を創り出す技なのだが、ドルムが今創り出した壁は高さ十メートル、幅三十メートル、壁の厚さは一メートルほどに達していた。更にドルムの4thジョブ『金剛士』、鉱物を操ることのできるスキルを使用し硬度の高い鉱物が壁には混ぜられていた。

要塞の壁と言われても納得するであろう堅牢な壁と亡者の群れが激突する。数千の亡者の群れが次々と壁に衝突し、潰されていく。

「ふむ。流石に儂の壁を貫くことは……むっ!?」

壁の一部が盛り上がり亀裂が走り出す。亀裂は瞬く間に壁全体に拡がると盛り上がった部分から飢えた亡者の顔が抜け出した。壁に大きな穴を穿つと亡者の群れはドルムへ襲い掛かろうとするが、そこにドルムの姿は既になかった。壁を形成する際にできた穴へ身を隠していた。亡者達はそのままドルムの後方で見守っていたアーゼロッテへ殺到した。

「あらまぁ」

数千の亡者が迫っているにもかかわらず、アーゼロッテの反応は呑気なものであった。空から降ってくるドルムが壁を形成する際に巻き上げた土砂を、フリルのついた可愛らしい傘で受け止めながら人差し指を唇に当て首を傾けた。

亡者達が醜悪な笑みを浮かべアーゼロッテを飲み込んだと思われたその時、亡者達が消し飛んだ。文字通り消し飛んだのだ。アーゼロッテの周りに残る紫電から雷系の魔法を使ったのだと思われたが、実際は結界で防いだだけであった。ドルムの壁を安々と突破した亡者達を結界で受け止め木端微塵に消し飛ばしたのだ。

「ナマリ、お前はエルフの女を抑えておけ。ナナ、 四匹(・・) まで許可する」

「オドノ様、俺だけで大丈夫だよ!」

「マスター、カシコマリマシタ」

「ナナ、わかっているとは思うが」

「ソレゾレノコタイカラヒキダスチカラハ、ニワリニトドメマス」

「それもあるが、ナマリに支配権を奪われるなよ」

ナマリが纏う黒いスライムは、ユウが倒した高位の魔獣、天魔、巨人、龍を錬金術で別種の生物へと変え、ナマリが纏えるようにしたモノであった。高位の魔物を身に纏いその力を振るうのだから、相手は堪ったものではない。事実ラスがユウと最初に出会った際に、ユウへ攻撃を仕掛けたラスにナマリが激怒。ユウの制止を振り切ったナマリの攻撃をまともに喰らったラスは存在が消失しかけた。

強力無比であるが操るナマリが未熟であった。感情の起伏によって暴走するのだ。いや、誰であろうと一匹一匹が小国を滅ぼすような力を持っている魔物達を思うがまま操るなど不可能であった。

しかし、ユウはラスの錬金術の知識を基に改良を加える。解決策は第三者に制御を任せることであった。幸いにも その(・・) 第三者はすぐに手に入った。日々ユウの周りを雲霞の如く飛び回る各国の諜報員の中でも特に優秀な者を捕らえることに成功したからだ。

「黒い髪……お主がユウ・サトウか」

ドルムが穴の中から身体に付いた土を払いながら出てくる。

「これ返事をせぬか。儂は年長者じゃぞ」

「今から殺すのに呑気に話をしてどうする」

「殺す? 儂をか?」

ドルムはその強面の表情を崩しニカッ、と笑った。

「悪いことは言わぬ。大人しく儂等に付いてくるんじゃ。なに悪いようには――」

ドルムの言葉が言い終わるのを待たずにユウが仕掛ける。

鋼竜のハンマー、かつてユウを苦しめたゴーリアの槌を手に、ドルムの脳天目掛けて振り下ろす。対してドルムはさして慌てもせずに緋龍の槌で迎撃する。緋龍の槌と鋼竜のハンマーとの間で火花が散る。

「人の話は最後まで聞くもんじゃぞ?」

ユウの攻撃を容易く受け止めたドルムが、左手で髭を撫でる。すぐにでもユウは攻撃を仕掛けたかったが、右腕の痺れがそれを許さなかった。見た目は互角の攻防に見えたが、軽くあしらったドルムと未だ痺れが取れぬユウ。

「うむ。まだ若いのに出来とるな……それにその槌はゴーリアのじゃな」

次は自分の番とばかりに動こうとしたドルムであったが、それよりも速くユウは動いた。天高く飛び上がると前方向へ回転しだす。放たれたのは槌技『暴威鋼虐圧潰』、ドルムは「おぉ」と短く声を漏らすと凶悪な笑みを浮かべ、槌技『暴凶破壊槌』を放つ。ユウの放ったのはLV7の槌技、対してドルムが放ったのはLV5の槌技。まともに打つかればどちらが勝つかは明白であったのだが……。

「ふふ、君はあっちに混ざらなくていいのぅ?」

「俺はお前を見張っとくのが役目だ!」

「死んじゃうよ? あの子じゃ、おじいちゃんには勝てないと思うなぁ」

「オドノ様が負けるか!」

アーゼロッテの安い挑発であった。興奮したナマリに呼応するかのように、ナマリの角から黒いスライムが溢れだす。一匹、二匹、次々溢れ出すが四匹目の時に制止がかかる。

「ナマリ、オチツキナサイ。ワタシガコントロールシマス」

「おっかし~んだ。君ってレベル1なのにどうやって私を抑えるのかな?」

アーゼロッテは解析でナマリのステータスを確認していく。

LV:1

種族:不死者

パッシブスキル:なし

アクティブスキル:なし

あまりの弱さに吹き出してしまうアーゼロッテであったが、固有スキルを見た際に笑みが消えた。

固有スキル:七死八生

:魔王殺し

アーゼロッテは固有スキルを更に解析する。

七死八生:日に七度死んでも生き返ることができる

魔王殺し:魔王に対してダメージ10%UP

「あれぇ? おかしいなぁ。どうして君みたいな弱いのがこんな強力な固――」

そこでアーゼロッテの言葉は止まった。

黒いスライムを身に纏い異形の姿と化したナマリから異音が鳴り響く。

「ナ、ナマリ……ワタシカラシハイ……ウバワナイヨウニ」

「お前等なんかオドノ様の敵じゃないんだからな!!」

ナナにも余裕はないのか、言葉が所々で止まる。

ナマリの内部では凄まじい支配権の奪い合いが繰り広げられていた。四匹の黒いスライムをコントロールしようとするナナ、呪縛から抜け出しユウへ復讐を果たしたい黒いスライム達、それら全てを力尽くで支配しようとするナマリ。

アーゼロッテは再度ナマリのステータスを解析で確認する。

「へぇ……おまけじゃないんだ♪」

アーゼロッテは傘を閉じてアイテムポーチへ仕舞うと、座っていた岩からぴょんっ、と飛び降りた。