軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第122話:歴史のお勉強

「え~!」

ウッズの工房内にニーナの声が響き渡る。

「なんだ? 不満でもあるのか?」

ウッズは倉庫から両手一杯に抱えて持って来た装備から、ニーナには『腐喰甲殻のガントレット(4級)』『黄金糸のスカーフ(4級)』、レナには『強命の指輪(3級)』、マリファには『グレーターデーモンのレザージャケット(4級)』『獣魔の指輪(4級)』のみ渡した。全ての装備、アイテムを渡して貰えると思っていたニーナが思わず声を上げてしまったのだ。

「不満はないけど……」

「一週間頑張ったくらいで全部渡すと思ってたのか? それに採集した素材だがお前達だけの力じゃないだろう? あと渡された装備からユウの居場所を探ろうとしても無駄だからな」

ウッズの指摘にニーナとレナが「うっ」と声を揃えて唸る。

「えへへ~、バレちゃったね。うん、ジョズ・ボランって人に教わってるんだよ~」

(『双剣のジョズ・ボラン』、ムッス伯爵の食客か)

「……タダで教えては貰っていない。相応のお金を支払っている」

「そうか、ジョズ・ボランなら知っている。優秀な冒険者で戦闘より探索、罠の解除などに秀でているから、しっかり学ぶんだぞ」

ジョズ・ボランはAランク冒険者、Cランク成り立てのニーナやレナの稼ぎで雇うことなどまず不可能であった。ユウかムッス伯爵が絡んでいると睨んだウッズはそれ以上突っ込んで聞くことはなかった。

「レナ、何か言いたいことでもあるのか?」

レナはウッズから渡された強命の指輪をじっと見詰めていた。

「……ある」

「言ってみろ」

「……ニーナとマリファは二個なのに私だけ一個」

数に不満があったようだ。先程から黙っているマリファは、ウッズから受け取った装備を大切そうに胸に抱き締めながら妄……瞑想していた。

「自分の装備を見てから物を言え。この中でお前の装備が一番金が掛かっているのを理解しているのか? 装備だけならCランク冒険者の中でも上位と変わらんぞ。

それにお前に渡した強命の指輪のランクは3級だ。3級と言っても物によっては値段に幅があるが、その指輪は小国であれば国宝扱いになってもおかしくないほどの指輪だぞ」

「……ぐぬぬ」

「何がぐぬぬだ。あと強命の指輪は、お前が持っている生命の指輪を先に嵌めてから装備するんだぞ。その方が効果が高くなるとユウから伝言を預かっている」

「……わかった。髭モジャ」

「レナ、お前とは後でゆっくり話をしないといけないようだな」

腐界のエンリオ60層のとある場所ではムッスとユウが会談をしていた。

60層は腐肉喰兵隊蟻、腐肉喰騎兵蟻、腐肉喰近衛隊蟻などの蟻達が支配する層であった。蟻達は生者であろうが死者であろうが、貪欲な食欲で見境なく襲い掛かる。一番弱い蟻単体でもランク5、仮に倒せたとしても蟻達の体内にある臭い袋を誤って傷付けると、臭い袋内の誘引剤が周囲の蟻達を引き寄せ瞬く間に数十、数百の蟻達に囲まれてしまうであろう。そうなってしまえば、如何に屈強な冒険者であっても蟻達の数の暴力によって挽き肉になるのは避けられないだろう。

「久し振りだね」

「この前も会っただろうが、それよりギルド長に素材は渡してくれているんだろうな」

「伯爵に使い走りさせるなんて君くらいなもんだよ。素材はちゃんとモーフィスに渡したよ、それにニーナ達には僕の食客の一人、ジョズ・ボランを紹介してあげたよ」

「ふ~ん、そっちは別に頼んでないけどな」

「ユウ、君がジョゼフにニーナ達の護衛を頼んでいるのを僕が知らないとでも? それにしても意外だったなぁ」

「何がだよ」

「ユウが僕に時空魔法を隠さなかったことだよ」

「恍けるなよ。とっくに知ってただろうが、俺が言う前から時空魔法も死霊魔法も錬金術のこともな」

「どうだったかな? 今更だけど、ここ安全なんだろうね?」

ムッスはわざとらしく首を傾けて紅茶を口に含む。

「さっき皆殺しにしたばかりだから暫くは大丈夫だ」

ユウとムッスがテーブルを挟んで座っていると、ムッスの側に駆け寄る影があった。

「お前、オドノ様をイジメに来たのか! もしそうなら俺が許さないぞ! シュッ、シュッ、俺は強いんだぞ!」

「あはは、魔人族の子供じゃないか」

口で風切音を出しながら、ムッスに向かって拳を突き出す姿にムッスとヌングの頬が緩む。

調子に乗っている魔人族の子供の頭にユウの拳骨が落ちる。

「痛っ! オ、オドノ様、なんで~」

「ナマリ、調子に乗るな、ムッスは伯爵の爵位を持つ貴族だ。お前が調子に乗っていい相手じゃない」

「うぅ……だって……」

「ほら、これやるからあっちでモモと遊んでろ」

ユウはテーブルの茶菓子を皿ごとナマリと呼んだ魔人族の子供に渡すと、受け取ったナマリは涙目から途端に笑顔になってモモを引き連れて行ってしまう。

「あはは~、やっぱりユウと居ると飽きないなぁ。それにしても君だって大概だよ。

そうだ、僕の貴重な食客を格安で貸しているんだ、何か面白い話でもしてくれないか」

「面白くはないが、ここ最近色んな商人が俺に会いに来たぞ。あいつ等、どこから情報を仕入れたのか高ランクの冒険者を雇ってまで会いに来るんだから、貴族よりよっぽど厄介な相手だな」

「へぇ~、商人が会いにねぇ。用件は?」

「俺の創るポーションが欲しいんだとよ。それもどの商人もだ。戦争、それも大きな戦争でもあるんじゃないのか?」

「大きな戦争か……小さな戦争ならあったんだけどね」

「ロプギヌスとモーベルだろ」

ムッスを含めまだ一部の貴族しか知らない情報がユウの口から出てきたことに、驚いた表情をムッスは浮かべる。

「どこでそのことを?」

「俺に会いに来た商人の中にモーベル王国の第3王子が居たんだよ。中々、面白い奴だったぜ」

ヌングはムッスの空になったカップに紅茶を注ぐ、淹れたての紅茶からは何とも言えぬ香りが立ち昇り、ムッスの鼻腔をくすぐる。

「わざわざ商人達に頼み込んでユウに会いにね」

ムッスは面白くなさそうな顔をする。まるで自分のおもちゃに手を出された子供のように見えた。

「他に面白い話だと……ムッス、 言語(・・) についてどう思う」

「どうとは?」

「竜魔法なら竜言語、妖精魔法なら妖精言語を唱えるのに、人間、獣人、ドワーフ、エルフ、小人、何故言語が一つに統一されていることに疑問を持たないんだ?」

「言語が……統一されている……?」

「本当に知らないんだな。それなら人間が自分達以外の種族を亜人と呼んで迫害するのは?」

「あまり僕を馬鹿にしないで欲しいな、歴史のお勉強かい? 人間が亜人達を迫害するのは聖暦三年に亜人達が人間の国、ゴート王国を滅ぼしたのが原因だね。何の罪もないゴート王国は王族、国民全てが亜人達によって虐殺された」

ムッスは貴族達が学ぶ、いや 人間(・・) であれば 必ず(・・) 教えられることを当然のように話す姿に、ユウは笑いが堪え切れないように声を漏らす。

「何にも 知らないんだな(・・・・・・・) 」

「僕が知らないことを色々と知っているみたいだね。それはあちらの彼、彼女? が教えてくれたのかな」

ムッスの視線の先にはローブで顔を覆っている人物が立っていた。ローブの隙間から見えるのは骨が剥き出しの素顔、恐らくアンデッドで間違いないであろう。

「俺だって馬鹿みたいにレベリングしてたわけじゃないんだぜ。そりゃ勉強くらいするさ」

「是非、今度詳しく聞きたいな。それと、この前言っていた件は本気なのかな」

「ああ、土地は見付けてシロとヒスイに頑張って貰ってるよ」

「シロ……腐肉芋虫だったよね? ヒスイは?」

「家のドライアードだよ。今、家で一番働いているのはシロとヒスイだな。

もうそろそろ時間だな。これが今回の分だ」

「預かるよ。そうそう、ユウのランクがBランクに上がったことをモーフィスから伝えてくれって頼まれていたんだ」

「へぇ……あの程度でBランクになれるのか」

ユウはテーブルに素材の入ったアイテムポーチを置くと、別れの挨拶もせずにナマリ達の下へと向かう。ムッスはいつものことなのか、アイテムポーチを受け取るとユウの創り出した門へヌングと共に向かう。

「ヌング、ユウの話はどう思う?」

「はて、私にはあまりにも突飛な話でしたので……ですがユウ様はご冗談ではなく、真剣に見えましたな」

ムッス達が門の手前に差し掛かるところで、先程のローブを被ったアンデッドが立っていた。

「僕に何か用かな」

ヌングの立ち姿は普段と変わらぬように見えたが、見る者が見れば何かが起こればすぐにでも動ける態勢だと気付いただろう。

「貴様等がマスターを利用するつもりで近付いたのであれば、死すら生温いほどの苦痛を与えてやるから覚悟しておけ」

声帯のないアンデッドが放つ魔言には恐ろしいまでの魔力が込められており、常人であれば身体が竦み上がり、暫くは動けなくなるほどであった。

「肝に銘じておくよ」

ムッスは何事もなかったかのようにアンデッドに軽い返事をし、門を潜り抜ける。

門を抜けた先はムッスの館の一室であった。

「いや~、驚いたね。でも流石にジョズが一緒に居たことには気付いてなかったみたいだね」

ユウとムッスの会談の場には、ヌングの他にジョズも気配を消して居たのであった。ジョズの隠形の技は見えていても認識させないほどの腕前であった。

「ムッスさん、あいつ等気付いてましたよ」

「気付いてた?」

「ええ、騙されないで下さい。あいつ等、気付いていたのに気付いていない振りをしていたんです」

ジョズの言葉に普通であれば冷や汗でも流しそうなものだが、ムッスは嬉しそうに笑みを浮かべた。