軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第112話:雷鳴の魔女

都市カマーの西門を出て道沿いに暫く進むと大きな屋敷が見えてくる。屋敷の大きさに見合うだけの庭があり、 つい(・・) 最近までは草木の手入れも行き届いていた。しかし今では……庭は貴重な薬草やよくわからない樹木が生い茂り、屋敷を囲う外壁からは木々の枝が飛び出し、外にまで根を張り始めていた。

森林と化した庭ではブラックウルフ達が朝食を食べており、食べ終わった者は毛繕いや背中を地面に擦りつけていたりしている。中にはだらしなく腹を見せた状態で寝ている者もおり、柔らかそうなブラックウルフの腹には同じく朝食を終えたピクシー達が寝そべっていた。ちなみにピクシー達の朝食は最近仲良くなったジャイアントビーから分けて貰った蜂蜜だったりする。

「それにしても連絡がないわねぇ」

「モモちゃんが大丈夫って言ってましたよ」

ピクシーの独り言にドライアードが指に付いた蜂蜜を舐めながら返事をする。

「へ? ち、ちょっと初耳なんですけど!」

「あれ? 言ってませんでした? それに今度ユウさんが、えへへ」

「何へらへら笑ってるの~」

ニヤニヤしているドライアードの頭に別のピクシーがポスっと着地する。

「えっとですね。ユウさんが私の~えへへ」

「気持ち悪いわね。ハッキリ言いなさいよ」

「ひ、ひどい。いいもん。ユウさんが私の名前を考えておくってモモちゃんが言ってたもん」

ドライアードの頬を染めながらの発言にその場の空気が固まる。ドライアードと話していた2匹のピクシーだけでなく、周囲のピクシー達もドライアードをじっと見詰めていた。ピクシーの視線に晒されたドライアードは周囲の気温が下がったかのように錯覚する。

「え、えっと。どうしたのかな? 皆、顔が怖いかな~って思ったりして」

ピクシー達は無言でドライアードの周囲に浮かびながら、徐々に輪を狭めていく。ブラックウルフ達は危機本能が働いたのかすでに避難していた。

「ご、ごめんなさい~」

その日農作業に向っていた農夫達は、ピクシー達に髪の毛を揉みくちゃにされるドライアードの悲鳴という大変珍しい叫び声を聞くことになるが、数日で森林と化したお化け屋敷からの悲鳴に、怯えるようにそそくさとその場を後にするのだった。

「何やら騒がしいですね」

「……朝から煩い」

「ニーナさんの様子はどうですか?」

「……大分マシになってきた」

ユウが居なくなる前は食事時になれば賑やかな居間だったが、現在はレナとマリファが静かに朝食を摂っていた。

「……今日も出かける」

「わかりました。夜までには帰って来て下さい。昼食はどうします?」

「……サンドイッチがいい」

「わかりました」

ここ最近のレナはニーナの容態が落ち着いたからなのか、ふらっと外に出かけては夜になると帰ってくるという日々を繰り返していた。

マリファからお弁当を受け取ったレナはそのまま箒に乗ってどこかへ飛び去って行く。レナを見送ったマリファは屋敷の掃除などを手際よく済ませると、迷宮へ向かう準備をする。

少し前までは、マリファが出掛ける際には急かすように前を走っていたコロと臆病でマリファの足にベッタリ引っ付いていたスッケが居た時のことを思い出し、門に向っていたマリファの足が立ち止まる。

「いけませんね。今の私には物思いに――」

門の前には少し痩せ細ったコロが座っていた。コロはマリファと目が合うと元気よく吠える。マリファの視界がぼやけるが、ハンカチで拭うといつもの表情に戻る。

「コロ、遅れた分を取り戻す為にもいつもより厳しくしますからね」

言葉とは裏腹に声には隠し切れない嬉しさが滲み出ていた。

ウードン王国王都には周辺にAランク迷宮『悪魔の牢獄』、Cランク迷宮『鉱石砦』、Dランク迷宮『バルロッテの園』の3つの迷宮がある。この日もD~Eランク冒険者の多くがDランク迷宮『バルロッテの園』へ潜るべく、各々のパーティーでクエストや準備の確認をしていた。

「わかってると思うがフレイムファンガスには魔法で対応しろよ」

「わかってるって。フレイムファンガスの花粉を一度喰らったら二度と近接戦をしようとは思わねぇよ」

「確かに。ボッシュはバカだから斧で攻撃してえらい目に遭ったからな」

「うるせぇよ! そういえばさ。俺の知り合いに都市サマンサで冒険者やってる奴が居るんだけどよ。この前王都に来てたから一緒に酒を飲みに行った時にさ」

「サマンサって言えば、Dランク迷宮『猛獣の楽園』『死霊墓地』の2つの迷宮があるとこだよな」

「そうそう。んでさ、そいつが魔女を見たって言うんだよ」

「出たよ。ボッシュはすぐ嘘吐くからな」

「違いねぇ」

「ば、ばかっ! 嘘じゃねぇんだよ。話を戻すぞ。そいつが言うには『猛獣の楽園』の下層で狩りをしてたらよ。迷宮の中なのに雷鳴が聞こえたんだとよ。気になったそいつはさ、仲間と一緒に恐る恐る見に行ったら」

「見に行ったら?」

「ストームタイガーが皆殺しになってたんだとよ! そこには箒を持った魔女が1人で立ってたそうだ」

ボッシュが山場とばかりに声に力を込めて話し終えると同時に、全員が大笑いしだす。

「ぎゃははははっ! やっぱり嘘じゃねぇか!」

「嘘じゃねぇって言ってんだろうがっ!」

「魔女様はその後どうしたんだよ?」

「……箒に乗って……だよ」

「ああん? なんて?」

「だから……箒に乗って飛んでいったんだとよ」

さすがに最後は言い難そうにボッシュは明後日の方向を向いて言うと、再度爆笑が起こる。ボッシュの顔は怒りか恥ずかしいのか真っ赤に染まっていた。

「笑うんじゃねぇよ!」

「いやいや。ボッシュ、いくらなんでも無理があるだろうが、ストームタイガーは虎のくせに群れで襲い掛かってくる魔物だがよ。箒に乗った魔女が雷魔法で倒すってのはな? 大体ソロでDランク迷宮の下層までいけるとなると、ぷぷ、魔女様のランクはいくつなんだよ。魔女ってからには後衛職だろうし、仮に高ランクだったとしても後衛職がソロで最下層までとなるとやっぱ無理があるんじゃねぇか?」

「くそっ! 嘘じゃねぇんだよ。そいつ等はさ、気味が悪いってんで次の日は『死霊墓地』の方に行ったそうなんだよ。そしたらそこでも魔女がハングリーレイスやボーンナイトを雷魔法で倒してたんだってよ!」

「わかったわかった。お前等、ボッシュが緊張を解してくれたからって迷宮内で油断するんじゃねぇぞっ!」

ボッシュはもういいやとばかりに拗ねてしまう。仲間達はボッシュの肩を叩きながら迷宮へ入ろうとしたその時――

「……どいて邪魔」

「あ? 誰に……って魔女っ!?」

ボッシュ達の背後には箒に乗ったレナが空中から見下ろしていた。その姿に先程までボッシュを笑っていた仲間達の顔が青くなっていく。

「ほ、ほら見ろ! 居たじゃねぇか!」

「待て……お前、冒険者か?」

レナはアイテムポーチからギルドカードを取り出すと無言でボッシュ達に見せる。

(シルバーのギルドカード、こんな少女がCランクだとっ!?)

「……どいて」

「お前等、俺に謝れよ! 魔女は居たじゃねぇか!」

「ボッシュ、悪かったな。でも魔女ってより少女……いや幼女じゃねぇか」

「ぷぷっ」

謝れと言っていたボッシュも思わず笑ってしまう。ボッシュの笑い声に釣られて残りの男達も一斉に笑い出す。

「確かに! こりゃ魔女じゃなくて幼女じゃねぇか! こういう場合はあれか魔法幼女か?」

「ぎゃはははっ! やめろよ俺を笑い殺す気か――ひっ!?」

この日ボッシュ達は、見た目で人を判断してはいけないということを骨の髄まで教えられる。

「……死ね」

「ぎゃあ゛あ゛あああっ!!」

レナの雷魔法によってボッシュ達は気絶し、一日中晒し者となった。この日の出来事により、王都のD~Eランク冒険者の間では箒に乗った幼――魔女には絶対に手は出してはいけないという暗黙の了解ができる。