軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4話 二人の作戦

その日の放課後、ミレイユはアルヴィンと共にバークライト侯爵家の馬車に乗り込んだ。

今朝、侯爵領のことで意見が聞きたいと、侯爵から招待を受けたのだ。ついでに、夕食もご馳走になる予定になっている。

「「あの」」

馬車が動き出したところで、ミレイユとアルヴィンの声が重なった。

まあ、とミレイユは口元に手を充てる。

「アルヴィン様からどうぞ」

話題を譲ると、向かいに座るアルヴィンは可笑しそうにくすりと笑みをこぼしてから、表情を引き締めた。

「実は本日、僕たちの婚約のことで、あまりよくない話を耳にして……」

「もしかして、私がアルヴィン様との婚約を呑んだのは、オスカー様への未練があってのことだという……?」

「それです。ミレイユ様の耳にも届いていたのですね」

思っていたより、噂はかなりの生徒の耳に入っていそうである。

「どうやら、キャスリーン様がそのような解釈を広めていらっしゃるようなのです。ご自身でそうおっしゃっていました」

ミレイユはほう、とため息を吐く。

「……困った人だ」

アルヴィンもまた、悩ましげに嘆息をこぼした。

「それで私、考えたのですけれど。私たちの婚約披露パーティの日程を早めるというのは、どうでしょうか?」

両家のあいだで、婚約披露のパーティを行うことは決定事項。ただ、具体的な日取りは未定。学院に通いながらパーティの準備に追われるのもあれなので、漠然と、夏季休暇中がいいかもね、なんて話になっていた。

「パーティでは、アルヴィン様が家督を継ぐことも発表する予定になっております。アルヴィン様が侯爵家の後継であることが判明すれば、私との婚約は政略的なものだと伝わるはず。妙な憶測も生まれなくなるでしょう」

要は、アルヴィンとの婚約のメリットが見えないから外野が下世話な憶測をするのである。ならば、さっさとこの婚約の両者のメリットを公にしてしまおう。

「確かに……そう、ですね。今夜、父様に相談しますか?」

「はい。日取りをなるべく早められないか、お父君に相談してみます」

噂に関してはこれで鎮静化するはず。

侯爵が了承してくれたらこれからしばらく忙しくなる。準備すべきことの算段を立てていると。

「ミレイユ様」

意を決したように、アルヴィンに呼ばれた。

「なんでしょう?」

「……僕からも一つ、不愉快な噂への対処法で、案があるのですが」

「まあ。お聞かせくださいな」

背筋を伸ばしたアルヴィンからは、なんだか緊張感が漂っている。彼はちょっと躊躇うような間を置いてから、瞳に真剣な色を乗せて言った。

「パーティであまりに他人行儀過ぎても、あらぬ憶測を生むと思うのです。逆に、僕とミレイユ様の仲睦まじい姿を見せれば、ミレイユ様が兄様に未練があるだなんて誤解は消えるのではないかな、と。それこそ、本物の恋人同士のように映れば」

ぱちりと目を瞬かせる。言葉の意味をゆっくりと呑み込んで。

ミレイユはパッと瞳を輝かせた。

「それは名案です……っ!」

政略結婚とはいえ、周囲に仲睦まじいと思われて損はない。少なくとも、オスカーを慕っていると勘違いされるより、アルヴィンと想い合っていると信じられる方が遥かにいい。

ミレイユが納得していると、なぜか発案者のアルヴィンは困惑したように眉根を寄せた。

「あの、ミレイユ様? 僕の提案の意味を正しく理解していますか?」

「もちろんです」

誤解などなく、きちんと伝わっている。

「つまり」

アルヴィンの隣に移動しようと、ミレイユは腰を浮かせる。すると、タイミング悪く、馬車がガタン、と大きな揺れに見舞われた。ミレイユは態勢を崩し、ふらりとよろける。

「危ない……っ」

慌ててアルヴィンが手を伸ばし、ミレイユの身体を抱き込むようにして支えてくれた。

危うく窓に頭をぶつけるところだった。

「大丈夫ですか?」

心配そうに覗き込んでくる瞳に、ありがとうございます、と応えて。

アルヴィンの腕の中で、ミレイユはにっこりと微笑み掛けた。

「この距離感が、日常かのように振る舞えばよいのでしょう?」

息が掛かるくらいの至近距離。アルヴィンの瞳が揺らめいた。

ミレイユは視線を逸らすことなく、彼を見つめ続ける。

そうして、見つめ合うこと――数秒。

「……すみません、僕が限界です」

耳までほんのりと赤く染めたアルヴィンが、困りきったという声と共に項垂れ、ミレイユの肩口に顔を埋めた。

「言い出したのはアルヴィン様ですのに」

微笑ましくて、ミレイユはくすくすと笑ってしまう。

「半分くらいは冗談のつもりで……ミレイユ様がここまで前のめりに賛同してくれるとは思っていなかったから」

「利のあるお話には乗るのが、私ですよ?」

「……理性的なのはミレイユ様らしいですけど、まったく意識されていないのはちょっと悔しいな」

後半の囁きは、ミレイユの耳には届かなかった。

なんて言ったのだろうと疑問に思いつつ、首を捻る。

「やめておきますか?」

「……いえ」

顔を上げたアルヴィンがそっと、ミレイユの髪を一房手に取り、優しく口づけた。

上目遣いに見上げてくる瞳に浮かぶのは、なんだか挑戦的な色。

「ミレイユ様が乗り気なら。ミレイユ様が兄様を慕っているなんて噂は面白くないですから。やれるだけのことは、やりましょう」

「ではお互いに、がんばって仲睦まじい婚約者を演じましょう……っ!」