軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二本折れ、一本揺らぐ

北部方面——旧領主館。

「急報!!」

再び。扉が、開かれる。

今日だけで、何度目か。

だが——その度に戦場は変わる。

「エドワルド様より!!」

「……」

領主は、顔を上げた。

「申せ」

「はっ!!」

伝令兵は、泥を纏っていた。

クラウス報の、土埃とは違う。

水。泥。流木片。

それだけで、ある程度を察する。

「敵南下補給部隊——」

一拍。

「……ほぼ壊滅!!」

「……」

室内。再び、沈黙。

だが今度は、先程とは違う。

三千。

補給壊滅。

それぞれ単独でも、十分過ぎる。

「護衛部隊、多数流失!!」

更に。

「荷馬車及び馬、多数鹵獲!!」

「自軍損害、軽微!!」

「……」

文官の手が、止まる。

地図役が、顔を上げる。

側近が、今度こそ言葉を失う。

「……」

領主は、報告書を受け取る。

読む。一度。二度。そして。

地図へ、視線を落とす。

クラウスは、南下枝。破壊。

エドワルドは、補給線。壊滅。

「……」

指が、二箇所へ置かれる。

南下。西寄り補給、二本。

「……そうか」

誰へでもなく。小さく。

「……二本、折れたか」

「……!」

その言葉。

旧領主館全体へ、意味として落ちる。

一本ではない。二本。つまり——

敵は、南下しながら戦力と継続力。

両方を失った。

「……」

領主の視線が、更に動く。

北本線は、まだ太い。だがもう、先程までの太さではない。

「……線が、揺らいだな」

クラウスが枝を折り。

エドワルドが根を沈めた。

ならば——

「伝令」

「はっ!!」

「クラウスへ」

「……!」

「横腹継続。敵再編を削れ」

「はっ!!」

「エドワルドへ」

「……!」

「鹵獲補給、即時転用」

さらに。

「泥濘端より無理をするな。沈めたままにしろ」

「はっ!!」

一拍。そして。

「グレゴールへ」

「……!」

「後方炎上、継続」

「……!!」

三方向。前、横、後。

「……」

領主は、そこで初めてほんの僅かに、息を吐く。

「……繋がったな」

線が守る為だけの線ではない。

削り。止め。折り。逆流させる線。

その瞬間、旧領主館は、理解する。

防衛線は、まだ防衛だ。

だが——もう受けるだけでは、ない。

「……我々も、動くぞ」

「「……はっ!!」」

その頃——敵北部侵攻本陣。

「……何だと?」

敵将の声は、低かった。

怒声ではない。理解確認。

「もう一度、言え」

「はっ……!!」

伝令は、青褪めていた。

「南下分派部隊!!」

「……」

「壊滅的打撃!!」

「……」

「補給分派部隊——」

喉が、鳴る。

「……ほぼ、壊滅」

「……」

沈黙。副官すら即答出来ない。

敵将の前には、地図。太い一本線。

そこから、分けた枝。

南下。補給。

「……」

二本が消える。

「……馬鹿な」

誰かが、漏らした。

だが。敵将は、怒鳴らない。

ただ静かに理解する。

「……違う」

「……?」

副官。

「……これは」

一拍。

「局地敗北ではない」

視線が、地図全体を刺す。

後方は炎上。

南下は消失。

補給は壊滅。

「……侵攻計画、そのものが崩されている」

「……!!」

前、横、後。別方向で別手段。

火、煙、泥。

「……」

敵将は、そこで初めて理解した。

“守る側”

そう、思っていた相手は。守るだけでは、ない。

「……包囲、されているのは」

ぽつり。

誰にも、届かぬ程。

「……我々か?」

副官が、息を呑む。

「本国は!?」

「動揺拡大中!!」

「後方再防衛要求、多数!!」

「補給再編、難航!!」

「……」

止まれば、削られる。

進めば、折られる。

戻れば、燃える。

敵将の拳が、机へ置かれる。強く。

だが、叩かない。叩く段階では、ない。

「……本隊速度、再調整」

「……!」

「全軍へ」

低く重く。

「……この戦、予定通りと思うな」

「……!!」

「既に——別物だ」

春。

その日。

父の地図では、二本が繋がった。

敵将の地図では、二本が消えた。

そして。その差こそが——

領を残す線と、侵攻を崩す歪みとして。

静かに、だが決定的に。戦場全体を、変え始めていた。