軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

届いた三千、浮かれるには多過ぎる

北部方面——旧領主館。

「急報!!」

張り詰めた空気を裂く様に、扉が開かれた。

土埃に荒い息。外には、潰れかけた馬。

それでも、その伝令兵は。

転ぶ様に膝をつく。

「クラウス様より!!」

「……」

領主は、地図から視線を上げた。

「申せ」

「……はっ!!」

息を整える間すら惜しむ様に。

伝令は、叫ぶ。

「南下中の敵主力級!!」

一拍。

「約三千以上——破壊!!」

「……」

沈黙。部屋全体が止まった。

「……」

文官、副官、側近、地図役、全員。

一瞬だけ理解が遅れた。

三千。

「……おぉ」

誰かの口から、思わず漏れる。

「……!」

「領主様!!」

別の側近。抑え切れぬ様に。

「勝利です!!」

「……」

その瞬間、空気が少しだけ浮いた。

だが——

「……浮かれるな」

低く短い。

だが一瞬で、室内を現実へ引き戻す。

「……多過ぎる」

沈黙。喜色が凍る。

領主は、報告書を受け取る。

読む。もう一度、読む。

「……」

三千以上。破壊。

クラウス。お前にしては——珍しいな。

心中でぽつり。戦果を盛る。

あの男は、基本削る。止める。割る。

誤認はやむ得ず使う。

だが“報告”で盛る事は少ない。

士気向上。あるいは、現場が混乱。

その可能性はある。

逆に言えば。そこまで言う以上——

“何か”は起きた。

完全数値は、まだ疑う。当然だ。

それなりどころではない戦果。

少なくとも。

“南下枝”

それは——折った。

まだ、詳報は無い。敵死傷、行動不能、補給損耗。全ては後。

重要なのは、そこではない。

南下は止まった。あるいは壊れた。

それだけで——十分、線は変わる。

領主の指が、地図上を滑る。

南下枝。クラウス担当。そこから。第二、第四、第七、更に。

エドワルド泥濘線。南下圧減、なら。

「……線が、一つ生きたな」

誰に言うでもなく。本当に、小さく。

「……」

側近達は、次の言葉を待つ。

喜ぶ者、震える者、まだ半信半疑の者。

だが——領主だけは、既に。

“次”を見ていた。

「伝令」

「はっ!!」

「クラウスへ」

「……!」

低く明確に。

「戦況を見極めつつ」

一拍。

「敵の横腹をつけ」

「……!」

南下枝が折れたなら次は、本線。あるいは、補給再編、横腹、脇、乱れた線。

そこを更に削る。

「深追いはするな」

さらに。

「目処が付いた時点で——」

視線が、北本線へ移る。

「……我々も、動き出す」

「……!!」

旧領主館。空気が、変わる。

守るだけではない。受けるだけでもない。

“動く”

それは領主自ら防衛線そのものを、次段階へ進めるという事。

「それと」

「……!」

「報告を、密に」

「はっ!!」

伝令が走る。クラウスの元へ。

現場確認、戦果精査、横腹、次段。

「……」

領主は、再び地図を見る。

三千。

本当か?まだ、断定はしない。

だがもし仮にその半分でも十分、過ぎる。

クラウスは、何をやった?煙か?火か?投石か?

あるいは——全部か?

「……」

口には、出さない。

だがほんの僅か本当に僅かだけ。

その目が、細くなった。

「……よくやった」

誰にも、届かぬ程、小さく。

そして次の瞬間には、もう消える。

「次報」

「はっ!!」

春。

その日。

父の元へ届いたのは、単なる勝報ではない。

“折れた枝”という、線そのものの変化だった。

そして領を残す為の戦は——守る段階から。

“動く段階”へ、静かに移り始めていた。