軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

想定以上は、大体こうなる

「……あの」

副官が、珍しく少しだけ言い淀んだ。

「……クラウス様?」

「……」

クラウスは、無言だった。

正確には——言いたい事は、分かっていた。

だからこそ。

「……みなまで言うな」

ぽつり。

前方の煙。もう煙。とにかく煙。

立ち込める、などという表現が少し上品に思える程。

もくもく。もくもく。もくもく。

「……」

見えない。敵がというより“前が”視界がほぼ、無い。

「……」

クラウスは、静かに煙を見ていた。

見ていたが。見えない。煙で。

「……」

実験はした。したのだ。

何度も。小規模で、安全確認。

燃焼確認。煙量確認。風向き確認。

毒性無し、葉の類似枝。乾燥差。圧縮差。

投げた。燃やした。咳き込んだ。改善した。

その結果。

“いい感じ”だった。

そう。“いい感じ”

「……」

しかも本物でも、試した。

当然ながら小規模で。慎重に段階的。

似た様な結果。

よし問題無し!実戦投入可能。

そこまでは、良かった。

理屈上。

「……」

クラウスは、少しだけ遠い目になった。

実戦、規模、投石器、連続投擲、複数地点。

北風。

「……」

掛け算。

「……そうだな」

副官が、何とも言えぬ顔で前方を見ている。

「……思ったより」

一拍。

「煙が」

更に一拍。

「多いな」

「……はい」

控えめ。非常に控えめ。

多い、などという話ではない。

「……」

もはや、“敵がどうなっているか確認”以前に。

“敵がどこに居るか”も怪しい。

「……兵を、少し後退させろ」

冷静に、極めて冷静に。

副官。

「……」

数秒。

「……恐らく」

「……?」

「既に、察して退避しているかと」

「……」

だよなぁ。そう。そうなる。

偵察隊は、前方潜伏中、距離測定し、着弾確認。

そして今。

「うわぁぁぁぁぁ!!」

「煙来た!!」

「近い近い近い!!」

「全速!!全速!!」

偽装布を翻し草原を全力撤収。

「……」

速い。凄く速い。

昨夜、敵騎兵を怯ませた偽装精鋭達が。

今。味方煙幕から、全力で逃げている。

「……」

クラウスは、少しだけ額を押さえた。

「……風向き」

「北です」

「……変わってないな?」

「今の所」

「……そうか」

つまり計算通り。計算通りなのだ。

ただ“想定煙量”が。

少し、かなり、だいぶ、盛大だっただけで。

「……」

副官が、ぼそり。

「……成功、ですな」

「……」

成功。そう成功。

敵には、かなり効いている筈。

喉。目。混乱。中心崩壊。

その筈。だが。

「……こちらも、若干、距離感を誤るな」

「若干……?」

「……」

若干では、ない気もした。

前方に、煙。横にも、煙。少し後ろにも、煙。

「……」

見事なまでに“嫌がらせ性能”は、高い。

「……改良点」

ぽつり。

「次は、少し減らす」

「量を?」

「……いや」

クラウスは、真顔だった。

「“こっちが見える程度”にはしたい」

「……」

副官は、少しだけ思った。そこなのか、と。

敵被害。毒性。殺傷ではなく。

“見えなさ過ぎる”

「……」

だが、確かに重要だった。

見えないと、戦果確認も、次段階も、少し困る。

「……」

その時の遠方。煙の奥から悲鳴、混乱と咳。

クラウスは静かにそれを聞いた。

効いている。かなり。

「……」

なら、まあ。

「……成功、か」

思った以上に、盛大だったが。

成功は、成功。

春の北風。

煙。初実戦。理論上は、完璧だった。

そして、現実は“想定以上に、完璧過ぎた”

クラウスは、その日。

新兵器運用において、極めて重要な事を学ぶ。

“威力確認と実戦規模確認は——微妙に別物である”と。