作品タイトル不明
割れた線、向かう先
元領境中間——クラウス仮陣。
「クラウス様!!」
伝令が、馬ごと滑り込む様に駆け込んだ。
「……何だ」
短い。
だが——その声には、既に構えがあった。
「急報!!」
息を整える間も惜しむ様に。
「敵が、二手に分かれました!!」
「……!」
副官達の空気が、一段張る。
「主線、一部継続!!」
「……」
「そして——」
一拍。
「南下!!」
「……」
その瞬間。クラウスの目が、鋭く細まった。
「……そう来たか」
ぽつり。敵将は、割った。
そして——使った。
南下。つまりグレゴールが、敵後方へ入れた火。その返答として——こちらの南、避難線、後退線。“焼き返す”気だ。
「……よし」
短い。
迷いは無い。
「我々も、動くぞ」
「はっ!!」
副官達が、一斉に応じる。
「作戦、開始します!!」
地図。北の主線。南へ分岐。
敵は、こちらの線を焼くつもりだろう。
だが——
「……」
クラウスは、逆に見ていた。
「……都合が良い」
ぽつり。
副官が、一瞬だけ視線を上げる。
「敵の動きを見る限り」
クラウスの指が、南下線をなぞる。
「グレゴールがやった事を」
一拍。
「敵も、やる気だ」
なら、当然“急ぐ”後方再制圧、焼却、威圧。
それらは、時間勝負。
つまり——
「……予定より、速い」
父の後退線。
本来なら、もう少し時間を掛けて、深く引き込み。削り、場所を選ぶ。
だが——
「……若干、速くはなるか」
短く。
問題は、そこではない。
「……まあ、良い」
副官が、僅かに目を見開く。
「……?」
クラウスは、前を見たまま。
「こっちに向かってくるなら」
さらに。
「……対応するだけだ」
そう。南下。つまり——“こちらの担当線へ、近付く”敵は、焼き返すつもり。
だが——その為には、通る。
「……」
偽装拠点、放棄村、投石、火、地形。
既に——ある。
「投石器」
「はっ!」
「最終確認」
「……!」
「配置、偽装、射角」
さらに。
「“慌てて向かった敵”に、最も噛む位置を再確認しろ」
「承知!!」
伝令が、走り。工兵が、動く。偽装布が、草へ沈む。
クラウスは、空を見た。
春の風向きも悪くない。
「……急ぐ者ほど、見落とす」
ぽつり。
敵は、今の本国の補給線。更に、机の上で戦さを指揮すること奴等の動揺。逆侵攻。本線。
複数の火種を抱えている。
そこへ——南下。
焦る。あるいは、急ぐなら。
「……尚更、良い」
副官が、静かに問う。
「……噛みますか」
クラウスは、即答しなかった。
数秒。そして。
「……いいや」
「……?」
「先ずは、“来させる”」
南下部隊。
それが、本当に焼き返し主力か。
陽動か。あるいは、急造か。
「……急いで動く枝ほど、折れやすい」
だから誘う。焦っているなら、尚更。
「偽装撤退線、南寄りに調整」
「……!」
「“追えば、焼ける”と」
一拍。
「思わせろ」
副官の口元が、僅かに上がる。
「……成る程」
焼き返しに来る者へ。“焼けそうな物”を、見せる。
追う。進む。踏み込む。
その先、投石に火。あるいは——更なる綻び。
「伝令!!」
「はっ!!」
「エドワルドへ」
「敵南下開始」
「……!」
「“焼き返し警戒”と伝えろ」
泥の道。あちらもまた、意味を持つ。
「父上へも敵線分割、加速」
「承知!!」
三者の線が再び動く。
春。敵は割れた。そして、南へ向かう。
だが——その枝は、本当に牙か。
それとも焦りによって伸びた、折れる為の枝か。
クラウスは、静かに前を見た。
「……来い」
短く。
「割れたなら」
その先は。
「……噛み千切るだけだ」