軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

敵線、初めて割れる

北部侵攻軍本隊——天幕。

「本国より、伝令!!」

荒い息。

泥に塗れた伝令が、天幕へ飛び込んだ。

「……何だ」

敵将は、既に嫌な予感を抱きながら顔を上げる。

「前進を止め、待機せよ!!」

「――ッ!!」

机へ、拳が叩き付けられた。鈍い音。

「そんな事は、解っておる!!」

天幕内の空気が、震える。

「本国より、更に!」

「……まだあるのか」

「一部部隊を戻し、防衛せよ!との事です!」

「……は?」

数秒。理解が、遅れた。

「……馬鹿な」

低い。

怒声より、冷えた声。

「主力は、既に敵地の半分以上へ達しておるのだぞ」

ここで、本線を戻す?今更?

補給再編ならまだしも、本隊分割?

「……」

有り得ない。普通なら。

「本国より、再度伝令!!」

「今度は何だ!?」

半ば、怒鳴る。

「侵攻状況を報告せよ……と」

「――ッ!!」

再度、机が鳴る。

「本国へ返せ!!」

低い。

だが、怒気は隠れない。

「伝令を、無闇に飛ばすな!!」

「……!」

「馬を潰し!兵を割き!現場を乱すな!!」

伝令が凍る。

だが——敵将は、既に別を見ていた。

「……まずい」

ぽつり。

副官が、即座に問う。

「……どうしました?」

「……」

敵将は、机上の地図ではなく。

“その向こう”を見ていた。

「動揺が」

一拍。

「……本国で、拡がっている」

「……!」

そこだった。

村の炎上。噂に誇張。

敵が来た。村が燃えた。もっと居る。

それらが——現場より先に、本国中枢を揺らした。

本国は、現場を見ない。

報のみで、判断する。だからこそ。

「……過剰になる」

副官が、慎重に言う。

「……無視してよろしいのでは?」

現場判断優先。

合理的。だが——

「……いや」

敵将は、即座に否定した。

「本国は、遠い」

「……」

「だが」

さらに。

「後方補給隊は、本国に近い」

「……!」

「本国命令が飛んだと知れば、噂が更に膨らむ」

「……」

「補給隊連中は、動揺し始める筈だ」

つまり——命令そのものより。

“命令が飛ぶ程、本国が揺れている”

その事実が、線を崩す。

「再命令」

「はっ!」

「全補給隊、その場で待機」

「……!」

「勝手な後退も、前進も許すな、護衛再編、混乱抑制優先」

「承知!!」

副官が、更に問う。

「……しかしこのまま、攻撃続行でしょうか?」

そこだった。

天幕内。全員が、その答えを待つ。

進むか?戻るか?止まるか?

「……」

敵将は、数秒だけ沈黙し。

そして。

「……いや」

低く。

「部隊を、二つに割る」

「……!?」

どよめき。

「一部は、攻撃続行、主線維持」

「……」

「一部は、後方再制圧」

さらに。

「敵が、後ろを焼くのなら、こちらも南下して…」

視線が、鋭くなる。

「……我々も、焼く」

「!!」

中継に後退線。

敵が、こちらの後方を揺らすなら。

こちらも敵の“線”を焼く。

副官が、思わず言葉を漏らす。

「……しかし全体計画が」

机上の本国、侵攻予定図。それら全て。

「……」

敵将は、鼻で笑う様に吐き捨てた。

「現場を知らん連中が」

一拍。

「机の上で書いた作戦だ」

さらに。

「……そんな物」

視線は、前。

今、燃えている戦場そのものへ。

「大して、意味は無い」

静寂。

つまり——ここで敵軍もまた、変わった。

最初の侵攻計画は、太い一本線。

それは、グレゴールによって揺らぎ。

そして今——敵将自身の判断で、割られる。

「命令伝達!!」

「第一群!侵攻継続!」

「第二群!後方再制圧!」

「補給隊!停止維持!」

「本国へ!現場判断中と返せ!!」

「はっ!!」

伝令が散る。線が割れる。

春。

前へ進むだけだった侵攻線は。

火によって、疑念によって、本国動揺によって。初めて——“前”と“後ろ”へ、裂かれた。

その瞬間。

敵将は、理解していた。

これは、単なる後方放火ではない。

“戦場そのものを、増やされた”のだと。

そして——割れた線は、細い。

細い線は、噛み千切られやすい。