軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

届いた逆牙

北部方面——旧領主館。

「急報!」

扉が、勢いよく開かれる。

「偽装村北より騎兵隊出撃確認!」

「……」

「敵国内南部!」

「複数村落、倉庫群炎上!」

「……」

「補給線混乱!」

「侵攻軍各隊、停止拡大!」

静寂。

だが——今度の沈黙は、違った。

領主は、ゆっくりと目を閉じ。

「……やはり」

ぽつり。

「……お前か」

偽装村北。そこから東へ。繋ぐ者。

補給、再編、物流。

その全てを最も理解する者なら。

“何処を焼けば、線が止まるか”

知っている。

「……見事だ」

短く。

「だが」

目が開く。

「戻し過ぎるな。敵を、混乱させろ。崩し過ぎるな」

「……はっ!」

元領境中間——クラウス仮陣

「クラウス様!」

「……何だ」

「偽装村北より騎兵出撃!」

「敵国内南部炎上!」

「補給線停止理由、判明!」

「……」

数秒。そして。

「……は」

小さく笑った。

「……罠ではないか」

「……後ろを、焼いたか」

地図上の太い線。その根元。

「……そう来たか」

ぽつり。

自分は線を割る。だが——グレゴールは。

“線そのものを細らせた”

「……悪くない」

いや。

「……かなり良い」

副官が、思わず苦笑する。

「クラウス様」

「何だ」

「嬉しそうですな」

「……当然だ」

短く。

「前が硬いなら、後ろを焼く」

一拍。

「合理的だ!伝令!」

「はっ!」

「偽装撤退案——継続!敵は、必ず薄くなる!そこを噛む」

「承知!」

前線仮宿営地——エドワルド

「エドワルド様!!」

「……何だ!?」

「停止理由、判明!」

「……!」

「グレゴール様です!!」

「……は?」

「偽装村北より、逆侵攻!」

「敵国内南部炎上!」

「補給線停止!」

「……」

沈黙。

「……そっち!?」

思わず、素で出た。

レオンですら、一瞬だけ言葉を失う。

「……」

「……成る程」

エドワルドは、額を押さえた。

「いや……確かに、解る。解るが……」

さらに。

「そっち行くかぁ……」

泥と道。自分達が侵攻軍を“迎える”側なら。

グレゴールは——“帰らせる”側。

「……」

数秒後。

口元が、僅かに上がる。

「……流石だな」

「レオン」

「はい」

「敵停止理由、確定」

「なら——」

視線が、泥予定地へ向く。

「……こっちは、こっちで仕上げるぞ」

「……はっ」

少し前——敵国内南部

夜。

静かだった。だからこそ。

火は、よく見えた。

「……第一倉、確認」

「第二集積所、目視」

「田地、乾燥強」

偽装布と騎兵。荷馬車には土瓶発火武器。

グレゴールは、静かに手を上げた。

「……全部を焼く必要はありません」

低く。

「戻らねばならぬ場所だけで、十分です」

橋、倉、集積。外縁。“止まれば困る場所”そこだけでいい。

「投擲準備」

「……」

「放て」

夜空。弧を描く、土瓶。

そして——破裂。

火。一つ、二つ、三つ。

倉が燃える。荷が燃える。

乾いた外縁が、走る。

「敵襲だ!!」

「火だ!!」

「どこからだ!?」

「……深追い不要」

グレゴールは、静かだった。

「捕虜も不要。逃がしなさい」

「……!」

逃げる者は、走る。叫ぶ。

見た物を、何倍にもして伝える。

敵が来た!燃えた!また東へ!もっと居る!

噂は、火より早い。

「次、あの倉へ」

「……はっ!しかし、クラウス様の土瓶発火は、便利ですな〜」

「素晴らしいです。種火から導火線に火を付けて、投げるだけですからね」

騎兵が走り抜けるとたちまち火が上がる。

後方の荷馬車が補充する。

火が点ではなく。線になる。

その夜。

最も多くの線を繋いでいた男は。

敵の線を、最も正確に断ち始めた。

春。

前へ進む筈だった侵攻線。

だが——その日。三者の元へ届いた報は、

同じ意味を持っていた。

“グレゴールが、後ろを焼いた”

届いたのは、ただの報ではない。

それは——敵を進ませぬ為、最も静かに、

最も深く差し込まれた。逆牙だった。