軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

見捨てる重さ

「……また偵察ですか」

準備を整えながら、レオンは半ば呆れた様に言った。

「そうだ」

即答。

「レオンも付き合え」

「……」

小さく息。

「よろしいですが」

一拍。

「指揮官が、余り動き回りますと……」

「……」

分かっている。

本来なら、地区司令官自らが前へ出過ぎるのは良くない。

捕まれば終わる。死ねば終わる。

それだけではない。全体指揮そのものに穴が開く。

「……解ってはいる」

短く。

「だが——許せ」

「……」

レオンは、数秒だけ沈黙し。

「……仕方ありませんな」

そう返した。今更だった。止めても行く。

少数で偽装布を被り低姿勢。

春の草地を、影の様に進む。

「……」

そろそろ、接敵可能性が高い距離。

敵速度は落ちた。だが——進んではいる。

なのに。

「……見当たりませんな」

レオンが、低く漏らす。

「……そうだな」

予定より静か。

「……もう少し進むぞ」

慎重に更に前。そして。

「……いましたな」

遠方に敵影。

「……後方部隊、か?」

先鋒ではない。

補給寄り。あるいは、後方整理。

数は——そこまで多くない。

だが。

「……何だ?」

エドワルドの目が、細くなる。

「……様子が」

おかしい。進軍列。補給確認。

そういう空気ではない。止まっている?

「……」

視線を凝らす。

「……あれは」

レオンの声が、僅かに沈む。

「……どうやら」

一拍。

「逃げ遅れた住人、ですな」

捕らえている。縄。囲み。怒声に子供の泣き声。老人。女。子。恐らく、後退し切れなかった者達。

エドワルドの中で、何かが一瞬で熱を持つ。

「……あの敵兵数なら」

小規模。奇襲、射撃、偽装。

やりようは——ある。

剣を手にかけ……

「エドワルド様?」

レオンの声。

「……何をするつもりですか?」

「……?」

何を、とは。

「……何って」

低く。

「捕らわれた住人を、解放する」

「……!」

即座。

「お辞めください!!」

「……は?」

空気が凍る。

「……レオン?」

珍しい。ここまで強い制止。

だが——レオンは、一歩も引かなかった。

「よく、お考え下さい」

低い。だが——切実。

「今は」

一拍。

「敵を奥まで引き込んでいる最中です」

「……」

「ここで、我々の存在が露見すれば」

さらに。

「全体作戦に影響します」

……正論。分かる。だが——

「……しかし」

目の前に居る。住人。領民。

「……」

「この奥には」

レオンの声が、更に重くなる。

「何千、何万の住人がおります」

「……」

「数十名と」

一拍。

「数万」

「……」

「天秤に、お掛けするのですか」

「……」

言葉が——止まる。

風が吹き草が揺れる。遠く、捕らわれた者達。

「……」

分かっている。

本当に。ここで助ければ、敵は知る。

伏兵。奇襲。潜伏。何かが居ると……

そうなれば。警戒し進軍変化。補給再編。

最悪——全体計画そのものがズレる。

泥。道標。誘導。全て。

だが。

「……見捨てるのか」

搾り出す様に、そう漏れた。

「……」

レオンは、即答しなかった。

数秒。

そして。

「……見捨てる、とまでは言いません」

低く。

「……目を、瞑って下さい」

「……」

重い。あまりにも。

敵兵を、一人残らず消せば?

出来る。自信もある。

だが——

“消えた”時点で、それもまた異常。

部隊消失。住人消失。

結局、敵は警戒する。なら——結果は同じ。

「……」

どうする?数十。数万。

「……」

答えは——出ている。

理屈では。

「……」

胸の奥で、別の何かが、それを拒む。

エドワルドは、歯を食いしばった。

領民を守る。

その為に、今は——切るのか?

守る為に、救わない。

それが。

「……これが」

ぽつり。

「……指揮官、か」

草の陰。偽装布の下。

エドワルドは、ただ前を見た。

動けない。

いや——動かない。

それを、自分で選ばねばならなかった。

春風は、優しい。

だが——その日。

エドワルドが背負った判断は、あまりにも重かった。