軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

浮かぶ敵影

一度、エドワルドは宿営地へ戻った。

前へ出て直接見るべき物は見た。

なら次は——各方面へ放った偵察の報告を待ち、それらを繋ぎ合わせる段階だった。

仮宿営地。

次々と偵察隊が戻る。

泥に塗れ、疲労を滲ませながらも、それぞれが持ち帰るのは断片的な敵の姿。

地図が広げられる。

報告が重なる。

位置。数。速度。編成。

時間が経つにつれ、朧げだった敵影が少しずつ輪郭を持ち始めた。

やはり——まず目立つのは騎兵。

自分が直接見た通り、かなり深くまで食い込んでいる。

速い。前へ。広く。恐らく、敵軍の“目”。

地形確認。街道確認。反応確認。

先を見る役割としては、極めて理に適っている。

その後方の歩兵。

数も厚い。

押し込む力として不足は無い。

騎兵だけの強行ではなく、明確に地を進む意思がある。

だが——本当に厄介なのは、その更に後ろだった。

補給隊と思われる列。

荷馬車。物資。輸送。

そこまでは想定内。

問題は、その守り。

護衛として付けられた騎兵と歩兵の数が、通常より明らかに厚い。

倍近い。

単に物資を運ぶのではない。

補給そのものを極めて重視している編成。

エドワルドは地図を見下ろしたまま、静かに思考を巡らせる。

雑な指揮官ではない。

速さだけを求めている訳でもない。

兵站を理解している。

兵が進み過ぎれば補給が死ぬ。

補給が死ねば進軍も死ぬ。

それを理解した上で、前と後ろの両方を成立させようとしている。

中々に厄介だ。

敵全体を指揮している者は、恐らく慎重でありながら大胆でもある。

進軍速度を保ちつつ、継戦能力を落としていない。

嫌な相手だった。

だが——同時に。

読み甲斐もある。

手に入れた情報は即座に共有される。

兄上へ。

グレゴールへ。

騎兵突出。

歩兵本隊。

補給重視。

必要な物は、全て。

グレゴール方面からは、現状何も無し。

つまり——少なくとも今の時点では、二本街道方面に大きな動きは無い。

なら。

現状、本命は北部方面。

そこは、ほぼ間違いない。

だが、問題はそこから先。

直進。

南下。

あるいは両方。

この三つ。

旧領都を真っ直ぐ目指すなら、北部正面。

南下なら、側面圧迫。

両方なら——最悪。

どれも有り得る。

補給を重視する相手ならば、単純な猪突猛進だけとも思えない。

先頭に見える騎兵が、そのまま意図そのものとは限らない。

見せている前。

隠している本命。

その可能性もある。

だからこそ——待つ。

早く答えを決めれば、その分だけ誤る。

敵が優秀なら尚更だ。

必要なのは、補給の流れ。

進軍幅。

枝分かれ。

南への兆候。

それが揃ってから——判断する。

エドワルドは静かに地図へ指を走らせた。

騎兵は目。

歩兵は腕。

補給は血。

なら——頭は何処だ。

指揮官。

その意図。

何を狙い、何処で決めるのか。

そこが見えれば。

崩し方も見える。

春の風が、仮宿営地を抜けていく。

敵は強い。

だが——少しずつ、見えてきた。

なら次は。

どう止めるかではなく——どう崩すか。

戦は、確実に次の段階へ進み始めていた。