作品タイトル不明
三者、動く時
遂に——始まった。
北部方面。大規模侵攻開始。
その報は、三方向へ。それぞれの元へ、ほぼ同時に届いていた。
クラウス。
元領境中間地点。
風は、まだ冷たい。だが——冬の終わりではなく、春の始まりを告げていた。
「急報!北部国境、大規模侵攻開始!」
クラウスは、文を受け取る。短い。十分。
「……いよいよか」
ぽつり。
周囲は、僅かに張り詰める。
副官。騎兵。工兵。
だが——
「……さて」
クラウスは、地図ではなく前を見る。
「……どうなるか?」
低く。不安ではない。
確認。敵が——どう動くか。
直進か。南下か。分散か。
「……」
そして僅かに、口元が上がる。
「……早く、来い」
試したい。偽拠点。配置。投石器。偽装布。
準備した物が——どこまで通じるか。
「全軍、予定通り、迎撃ではない。まずは——見る」
「はっ!」
クラウスは、待つ。
焦らず。だが——既に、牙は研がれていた。
エドワルド。
泥濘予定地。
「急報!」
「敵、大規模侵攻開始!」
「……」
遂に。
「……来たか」
短く。視線は——前。平原。泥、川、堰。
高揚はある。だが——それ以上に。
確認。
「……再度、堰の確認を」
「はっ!」
「補助水路も水量、流路、崩落点、再確認!」
「はっ!!」
「……」
一度で良い。一度。
その“一度”が——遅れれば意味が薄い。
早過ぎても。遅過ぎても。駄目。
エドワルドは、目を細める。
「……焦るな」
敵が来た。だからこそ——確認。
偽道標。泥。偽装布。大型クロスボウ。
全ては——繋がってこそ。
「……」
「前線、無駄に動くな!敵を見てからだ!」
「……!」
兵が、頷く。
遂にだが——
「……まだ、俺の番じゃない」
敵を、ここへ。そこからだ。
グレゴール
偽装村。
「……始まりましたか」
報を受け、グレゴールは静かに目を閉じる。
敵侵攻開始。想定通り。
「……」
だが報告が、無い。
「……偽装村方面からは?」
「現状、特に」
「……」
二本街道。陽動程度か。あるいは——まだか。
グレゴールは、小さく息を吐く。
「……しかし」
何も無い。それが、逆に気になる。
「……私も、向かいますか」
「……!」
護衛が、姿勢を正す。
「警備強化は継続、変化があれば即報」
「はっ!」
「……」
グレゴールは、前を見る。
最前線ではない。だが——油断出来る場所でもない。
敵が本命でなくとも。“使える”と思えば、使う。それが戦。
「……」
「さて」
短く。
「こちらは、こちらの仕事を」
静かに——動く。
同じ報。同じ敵。
だが——
兄は、待ち。
弟は、備え。
グレゴールは、見極める。
「……」
遂に——始まった。
雪解けの先。準備は、終わった。
なら——
次は。それぞれが積み上げた物が、“本当に使えるか”を知る時だった。