作品タイトル不明
雪解けの先、侵攻開始
北部方面——旧領主邸。
冬は、終わった。
白く閉ざしていた地は、緩み。
雪解け水が土を湿らせ、
開き始めた街道へ——
遂に足音が、来た。
「急報!!」
扉が、勢いよく開かれる。
「敵!」
荒い息。泥。汗。
「大規模な部隊!」
「……」
部屋の空気が——変わる。
「侵攻を開始!一部国境隊は、既に接触!」
「……」
「現在、後退を開始しております!」
沈黙。
だが——それは、動揺ではない。
「……遂に、か」
静かに呟いた。遅いくらいだった。
斥候。物流変化。雪解け。
兆候は——揃っていた。
なら。
「……各方面に、早馬を」
低く。だが、一切の迷い無く。
「はっ!」
「後退作戦——開始」
「……!」
「各村落、予定通り時間を取れ、焼ける物は、焼け、持てる物は、持て残すな」
「……はっ!!」
伝令が、走る。部屋の地図。
北部街道。旧領都。中間地点。
「……」
指が、北から南へと滑る。
敵は——来る。問題は。
「……どう来る」
直進?南下?分散?
数。速度。兵種。
まだ——全ては見えない。
「……」
だからこそ。
「……クラウス」
ぽつり。中間。
「……エドワルド」
さらに、その先。
「……グレゴール」
二本街道。
既に——置いた。
盤上の駒は、動き始める。
「……」
文官が、再確認する。
「北部国境守備隊には、無理な交戦回避を再通達しますか」
「……ああ」
即答。
「英雄になるな!生きて、下がれ」
「……!」
それでいい。
今、必要なのは——勝利ではない。
“削りながら、誘導する事”
前で潰す必要は無い。
奥へ深く。予定地へ。
それが——今まで積んだ準備。
「偽情報は、既に一部、流しております」
「……」
「北部街道一部崩落、補給混乱」
「……良い」
迷え。急げ。焦れ。
敵が急ぐほど——粗くなる。
窓の外を見る。雪解け春。
本来なら——命が戻る季節。
だが——
「……今年は、違うな」
ぽつり。
その頃。各村では。
「後退命令だ!」
「急げ!」
「食料を持て!」
「井戸は埋めろ!」
「残すな!」
「……!」
農民、兵、村長。混乱しながらも——動く。
訓練通り。全てを守るな。残すな。遅らせろ。
敵が得る物を、減らす。
そして三方向へ、早馬。
クラウスへ。
エドワルドへ。
グレゴールへ。
「敵、大規模侵攻開始」
短いが——十分。
旧領主邸。静寂。
「……さて」
地図を見る。
「……どうなるか」
それは、不安ではない。
確認。積み上げた物。子らの準備。
地。時。全てが——試される。
敵は、動いた。なら——
こちらも、動く。
春。雪解けの先。
遂に——戦が、始まった。