軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

溶け込む者

「……どうだ?」

春風の吹く平原。そこは仮宿営地。

低くクロスボウを構えた。マントには、草、布。

「……見えるか?」

一拍。

「……いや」

少し、口元を上げる。

「……溶け込んでるか?」

「……」

周囲の視線。

そして——

「溶け込んでおります!」

即答。

「……ほう」

エドワルドの目が、細くなる。

確かに完全ではない。

だが——遠目、視線、草地。

「……消えてるな」

先程まで、そこに“兵がいる”と分かっていた。だが今は——薄い。輪郭が、崩れる。

「……」

マント。布。草。その場の材料。即席。

それでも——変わる。

「……」

「よし」

ぽつり。

「……ここにある材料でも、いけるんだな」

「はい!」

絵描き——徴兵兵が、緊張気味に頷く。

「……」

そして。

「……失礼ながら」

「……?」

「申し上げても、宜しいでしょうか」

「……何だ?」

「……」

兵は、一瞬迷う。

だが。

「マントに、溶け込む様、色や布、その辺りの草を使いました」

「……ああ」

「ですが」

一拍。

「……クロスボウ本体」

「……?」

「そして……お顔」

「……」

エドワルドの眉が、僅かに動く。

「……続けろ」

「……本体にも、黒や緑を少し入れれば——更に目立ちません」

「……」

「お顔にも色を肌色は、やはり浮きます」

「……」

沈黙。だが——次の瞬間。

「……なるほど!」

即答。

「……塗れ!」

「……!」

「失礼します!」

少し後。

「……」

鏡。

「……ほう」

思わず、漏れる。確かに——違う。

顔。輪郭。肌。布。浮かない。

「……更に、いいな」

ぽつり。

「……」

レオンも、思わず感心する。

「……これは……使える」

即断だった。

「……」

エドワルドは、振り返る。

「おい」

「はっ!」

「大至急、領都へ戻れ」

「……へ?」

「この“溶け込む布……偽装布”」

一拍。

「大量に作らせろ」

「……!」

「少しでも完成次第、順次ここへ輸送。お前が、そこの指揮を取れ」

「……え?」

「布を扱える者、総動員だ」

「……」

徴兵兵——いや、絵描き本人が、完全に固まる。

「……」

そこへ大隊長が、思わず口を挟む。

「い、いやいや!」

「……?」

「こいつは徴兵で、普段はただの絵描き……!」

「……」

エドワルドは、平然と問う。

「名は」

「……え?」

「名前だ」

「あ、アルトであります!」

「……」

「階級は?」

「下から二番目です!」

小さく頷く。

「なら」

一拍。

「今から、偽装装備臨時指揮官に任命する」

「……!?」

「命令書も出す。領都へ戻れ!布だ」

「……!」

「は、はっ!!」

アルトの声が、裏返る。

「エドワルド様!」

大隊長は、困惑半分。驚愕半分。

「……良いのですか?」

「……何がだ」

「……」

「絵描き、ですぞ?」

エドワルドは、小さく肩を竦める。

「……いいぞ」

「俺も知ってる」

「……?」

「大隊長でありながら」

一拍。

「潜入を楽しんでた奴をな」

「……」

レオンが、少しだけ吹き出しそうになる。

「……」

大隊長は、言葉に詰まる。

「し、しかし……!」

まだ言う。

「地区司令官ともなれば!立派で格好良い制服を着てこそ、士気が——」

「要らん」

即答。

「……!」

「格好良ければ、勝てるのか?」

「……」

「勝てるなら、興味はある」

一拍。

「勝てぬなら——要らん」

「……」

沈黙。

大隊長が、まだ何か言いかける。

だが横から。

「……大隊長殿」

レオン。

「エドワルド様は」

少しだけ、笑う。

「これだ、と決めた事は——変えませんよ」

「……」

完全に沈黙。

「……はい」

「……」

エドワルドは、再び鏡を見る。

消える。兵。布。顔。クロスボウ。

「……」

妙。だが——

「……勝てるなら、それでいい」

春の平原。また一つ。“普通”ではない物が——戦場へ加わろうとしていた。