軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

止めた先に置く物

「……成る程な」

クラウスは、高所からその地を見下ろしていた。

風が抜ける。春先の冷たさは薄れたが——まだ乾き切らぬ土。

その下、工兵達が動く。

掘る。積む。運ぶ。

平地。

本来なら、ただ開けているだけの場所。

遮る物も少なく。

騎兵に押し切られれば——脆い。

だが。

「……変わるか」

ぽつりと漏れる。

溜池。補助水路。土塁。

エドワルドの案に、工兵の手が加わり。

平地そのものが——少しずつ、別物へ変わっていた。

「……」

横には、グレゴール。

「道標は」

「予定通り」

短い返答。

「領都周辺から順次撤去。偽装分は、既に搬入中です」

「……そうか」

小さく頷く。

クラウスは、地図を開く。

本物の街道。偽装道標。泥濘予定地。

線を重ねる。

「……」

敵は、進む。

北部方面の旧領都。あるいは——南下。

どちらにせよ。

「……選ばせるな」

低く呟く。

正しい道を、進ませる必要は無い。

少しズラす。少し遅らせる。

少し信じ込ませる。

それだけで——十分。

泥へ。クラウスの指が、泥濘予定地で止まる。

「……ここだな」

「……」

グレゴールも、理解する。

「……止まりますな」

「ああ」

即答。

「騎兵は鈍る。荷馬車は沈む。歩兵も乱れる」

なら。俺はその先。

「……止めるだけでは、足りん」

ぽつりと漏れる。

グレゴールが、視線を上げる。

俺は、配置予定の地帯の“窪み”を指した。

「——ここだ」

「……!」

「俺は、敵を窪みに誘い込み、そこで一斉に倒す」

低く、淡々と。

「視界を奪い、身動きが取れなくなるまで煙を撒く」

理に適う。

さらにクラウスの指が、別地点を叩く。

トン。

「火は、ここ」

「……」

風向き。地形。退路。

「……乱れた所へ——火」

「……」

グレゴールの表情が、僅かに固まる。

「……逃げ場が減る」

短い。

「……」

完全包囲ではない。

だが——

「選べる退路を、減らす」

それでいい。恐慌し混乱し誤進。

それだけで、十分壊れる。

クラウスは、さらに地図へ線を足す。

偽装村。補給。伏せ拠点。

エドワルドは、止める。

なら——

「……俺は、その先だ」

低く言う。

止まった先。崩れた先。

そこへ——壊す物を置く。

防衛ではない。受けるだけでもない。

「……形になってきたな」

ぽつりと漏れる。

父は、防ぐ。

エドワルドは、止める。

俺は——壊す。

「……」

ようやく。

点だった物が——一つの罠になる。

「……兄弟、か」

小さく鼻で笑う。

昔なら——考えもしなかった。

「……悪くない」

その一言。

「……」

グレゴールが、静かに問う。

「更に、偽装を増やしますか」

「……ああ」

即答。

「補給跡。車輪跡。野営跡」

一拍。

「“正しい”と思わせる物を増やせ」

「はっ」

「……」

クラウスは、再び地を見下ろす。

まだ、泥ではない。

まだ、火も無い。

「……置くべき場所は、見えた」

止めた先に壊す物を。

それだけで——戦は、ただ守るだけではなくなる。