作品タイトル不明
足りる内に動かす
一本。また一本。
道標が、抜かれていく。
エドワルドは、額の汗を拭った。
今まで——気にしていなかった。
だが。
「……思ったより、多いな」
ぽつりと漏れる。
領都内の街道沿いに、分岐点、主要道。
そこかしこに。当然の様に立っていた道標。
普段は、景色で全く気にしてはいなかったが。
抜き始めれば、数が見える。
想像以上。
「……これは」
腕を組む。
「……全部抜いてから、では遅いな」
そうだった。抜く、植える。
それだけではない。
「……使う」
抜いた道標。今度は——偽装の為に打ちこむ。
兄と打ち合わせた地域。
平原の配置予定地へ敵誘導。
つまり。抜いた分から、即座に運ぶ必要がある。
「……」
手引き台車。人員。限界がある。
「……回らなくなるな」
低く呟く。なら——
「……分けるか」
即断。自分は、抜く。領都で、自ら植樹する。
違和感は薄い。坊ちゃんが、また何かしている。それで済む。
平原側。
「……俺より、別働だ」
運搬に設置し、偽装のため。
エドワルドは、その場で指示を飛ばす。
抜いた道標。順次、輸送し、再設置。
抜く手。運ぶ手。打つ手。それらを止めない。
戦は、準備速度だ。
ふと。
「……苗木」
手が止まる。
本数が足りるか?そこまで、確認していない。
育てていた。増やしていた。
「……足りるのか?」
胡桃。李。栗。無限ではない。
無ければ——別を考えるとするか。
いや。
「……確認が先か」
無駄に焦っても意味がない。
一度、戻るか。
苗木管理地。
「……」
そして。
「……うお」
思わず、漏れる。予想以上。並び、育っている。十分な本数。増えている。多い。かなり。
「……ここまで、か」
森からの移植に、発芽、挿木。
自分が不在の間も——続いていた。
助かる。本当に。
本来ならまとめて、区域分けして。
胡桃林。果樹区とかに、そうしたかった。
「……だが」
今は——戦前。理想より、優先。
「……使う時だ」
ぽつりと漏れる。
本数は、足りる。少なくとも——今は。
なら迷う理由は無い。
「……掘り起こせ」
短く指示。
根を傷めぬ様に、運搬前提。順次輸送。
作業員達が動き出す。
土の付いた根。各種の苗。台車。
今度は——領都中心へ。
戦の為。増えるのは、木。
奇妙だな。そう思いながらも——悪くない。
エドワルドは、小さく頷く。
足りる内に。動かせる内に。使える内に。
「……今は、それでいい」
準備は——止まった時に、遅れるのだから。