軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

消える目印、残る実

決まれば——早い。

エドワルドは、兄上の提案も含め即座に動いた。

まず。領都内も含めて周辺。

街道沿いの主要な道。

そこに当然の様に立っていた道標を——片端から抜く。

王国管理。

本来なら、勝手に弄るなど論外。本来なら、抜いた時点で首が飛ぶ。

だが——今は管理する側が居ない。

しかも、領都に住み慣れた者にとって。

道標など——ほぼ、景色。気にする者は、少ない。

毎日、使う者ほど、道そのものを知っている。

曲がり。距離。目印。

今更、石の杭一本に頼らない。

だからこそ。抜く。

静かに、少しずつ違和感なく。

そして——抜いた後は、ただ放置はしない。

ぽっかりと空いた穴。そこへ植える。

苗木。胡桃、李、栗、実の成る木。

自分が領都を離れていた間も他の者が、森から移植し、発芽させ、挿木をし、少しずつ増やしていた苗。

それを、今使う。一本ずつ。黙々と。

貴族の嫡男が、自ら土を触る。

普通なら——妙だ。

だがエドワルドは、知っている。

今まで散々、変な事をしてきた。

農地。作物。保存食。改良。

その度に——最初は妙な顔をされ。後で——理解された。

だから、今回も同じ。今は——変わった事。

それでいい。

胡桃の苗を植え、土を被せ、手で押さえ、水をたっぷりと与える。

久々の感触。

悪くない。むしろ——少し、懐かしい。

通りすがりの老人が、足を止める。

胡桃か。

その程度、驚きは、無い。不審より先に——実り。食えるか、役立つか。

そこを見る。それでいい。

胡桃なら、分かる。皆が知っている。

また、別の場所。

李だ。煮詰めれば、美味いわよね。

そんな反応。エドワルドは、小さく土を均す。

間違っていなかった。

これまでやってきた事。

食。備え。不作対策。

少しずつじんわりと領民の中へ、入っている。

奇行ではない。

「……役に立つか」

そこを見られている。

つまり今、彼らの目には——役に立たぬ道標を抜き。食える木を植えている。

ただ、それだけ。

本当の意味は——違う。それでいい。

敵にとっては、目印を減らす。

領民にとっては、実りを増やす。

一つで、二つ。悪くない。

土を触る。植える。並べる。

そう言えば——久々だった。

こうして、土を弄るのも。

少しだけ口元が、緩む。

戦の準備。その筈なのに——どこか、穏やかだった。

消える目印。残る実。

それだけで——十分だった。