軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

引き込む戦

前線拠点。

雪解けの泥が、足元を重くする。

乾ききらない地面に、兵の足跡が深く残っていた。

エドワルドの元へ、早馬が到着する。北部方面から。そこから来る文の意味は、一つしかない。

「……父上か」

短く呟く。

封を切り、紙を広げ目を通す。

書かれているのは——防御戦計画。

「……後退か」

ぽつりと漏れる。

段階的に引く。拠点を絞る。住民を集める。

指が紙の上をなぞる。

「……ここだな」

重点拠点となる町。そこへ集める。

人も、物も、兵も。

視線が細くなる。

「……引き込む気か」

低く呟く。

敵を奥へ。補給を伸ばさせる。

そして——

「……叩く」

短く言い切る。理にかなっている。

兵力差や地形。現状。

「……正しいな」

小さく頷く。

だが——紙を見たまま、動かない。

「……村は」

ぽつりと漏れる。

放棄される。敵に渡り、荒らされる。

最悪は、焼かれる。

視線が落ちる。

「……仕方ない、か」

低く言う。

守る為に、捨てる。それが戦だ。

一度、息を吐く。

だが、思考は止まらない。

「……北はいい」

ぽつりと呟く。

「……では」

ゆっくりと顔を上げる。

「領都近郊の防御は、どうする」

静かに言う。

北で引き込む。ならば——こちらは、受けるのか。それとも。

「……別に動くか」

地図を引き寄せる。

北部方面。領都の街道。

指が動く。

「……繋がっていない」

ぽつりと漏れる。

北の戦と領都。

「……いや」

首を振る。

「……繋げていない、か」

父は、防御を組んだ。

ならば……こちらは。

低く呟く。

「何をする」

答えは、まだ無い。

エドワルドは紙を折る。

その表情に、迷いは少ない。

戦は、始まが——全ては揃っていなかった。

領都。

雪はまだ、石畳の隙間に残っている。

踏み固められた白は黒く濁り、季節の終わりを引きずっていた。

扉が開く。グレゴールが入る。

「戻りました」

短い報告。

クラウスは一度だけ視線を向ける。

「……北は、思っていたより、雪が深く」

それだけで十分だった。

「……そうか」

労いの言葉は、続かない。

差し出された文を受け取り、封を切り目を通す。

拠点の集約。住民の移動。小村の放棄。

「……引き込む」

紙の上で指が止まる。

補給を伸ばさせ、疲労を積ませる。

そして反撃。

「……悪くない」

評価は短い。

紙が閉じられる。

「……来るか」

視線は落ちたまま。

「はい」

それだけの返答。

冬の間も、向こうは止まっていない。

名目は備えだが実態は準備。

沈黙。

「……こちらは」

今度は顔を上げる。

「……動きはありません」

一拍。

「隔離に近い状態です」

理由は、言うまでもない。

「……」

クラウスは窓の外を見る。

溶けかけた雪。露出した地面。

「……南は、閉じた」

小さく落とす。

「なら」

視線が戻る。

「北だけだ」

それで十分だった。

机に文を置く。指先で軽く押さえる。

「……いい形だ」

それ以上は、何も言わない。