作品タイトル不明
濡れるという壁
空が重い。
低い雲。湿った空気。日が当たっているところは、雪が溶けた地面はぬかるみ、靴底に絡みつく。
「……やる」
クラウスは短く言った。
止める理由は無い。
むしろ——この条件こそ必要だ。
束ねられた土瓶。
縄と網で固定され、中には布と枯葉。
いつもと同じ構成。
違うのは——空気だけ。
火を入れる。
じゅ、と鈍い音。
燃えはするが、だが——弱い。
そのまま、放る。
弧を描く——落ちる。
割れる。
炎が、上がらない。
一瞬、赤く揺れるだけ。
すぐに——消える。
沈黙。
「……もう一度」
低く言う。
別の束。同じ手順。火を入れる。
今度は、やや強い。
投げる。割れる。
煙。
それだけだ。
炎は、広がらない。留まらない。消える。
それでもクラウスは動かない。
ただ、見ている。
「……」
一歩、近づく。
割れた土瓶。
中身は——濡れている。
指で触れると湿り気。重さ。
「……そうか」
ぽつりと呟く。
空を見る。
「……当たり前だが、湿気や水だな」
短く言う。
空気。地面。全てが、水を含んでいる。
火は、奪われる。
「……通らんか」
小さく零す。
乾いた時は、燃える。
濡れた時は、消える。
単純で当たり前だ。
「……使えんな」
静かに言う。このままでは。使い所か。
一度、目を閉じる。
思考が回る。燃えないのではない。
「……燃える前に、消える」
使う順序だ。目を開ける。
ぽつりと落とす。土瓶の破片を見る。
「……割れるから、濡れる」
次の土瓶を手に取り、重さを確かめる。
まだ、足りない。
だが——口元が、僅かに歪む。
「……いい」
低く言う。
問題は、出た。静かに呟く。雪は、まだ止まない。
雪は、止んでいない。
地面は黒く濡れ、踏めば沈む。
空気は重く、冷たい。
「……やる」
クラウスはそれだけ言った。
並べられた土瓶。
前回と違う点は、一つ。
中身。布を詰め、油分を多く含ませている。
濡れにくく、火を保つ為の調整。
火を入れ、じっと音がする。
前よりは、強い。
放ると弧を描き、落ちる。
——割れると炎が上がる。
一瞬。確かに、燃える。
だが——弱い。広がらない。留まりも浅い。
すぐに、消える。雪に叩かれ、火が削られる。
クラウスは動かない。
ただ、見ている。もう一度、同じ構成。
火を入れる。放る——割れる。
今度は、やや強い。だが——消える。
長くは、持たない。
沈黙。
一歩、踏み出す。割れた土瓶の中。
布は燃えている。だが、弱い。
外側は濡れている。
指で触れると冷たい。水を含んでいる。
「……そうか」
ぽつりと呟く。
「……守れていない」
火はある。
だが——
「……保てていない」
短く言う。
燃える瞬間はある。だが、続かない。
空を見上げる。
雪。一定ではないし強弱がある。視線を戻す。
「……足りん」
低く言う。中身ではない。
「……外だな」
ぽつりと落とす。
外側の構造。割れるまでの“過程”。
もう一つ、土瓶を手に取る。重さと形。
そのまま、置く。
「……順番が違う」
小さく呟く。燃やすのが先ではない。
「……守るのが先だ」
沈黙。
「……まだだな」
短く言う。出来ていない。
だが——
「……方向は、合っている」
それだけは確かだ。
「……」
クラウスは背を向けた。次は——構造だ。