軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閉じ込めるという発想

「……そう言えば」

エドワルドはふと顔を上げた。

そういえば、カモの小屋が完成した、と言っていたな。

書類から視線を外す。

途中の様子も見たかったが——時間が無かった。

……忙しかったな。小さく息を吐く。指が机を叩く。

トン、トン。

「……少し抜けるか」

立ち上がる。

外は冷たい空気。白くなり始めた地面。

簡素な囲いと小屋が見える。

「エ、エドワルド様……!」

農夫が慌てて頭を下げる。

「どうした」

視線だけ向ける。

「そ、その……」

言い淀む。

「数匹、入れていたのですが……逃げられました」

「……そうか」

短く返す。

「どこからだ」

「それが……分からず……」

エドワルドは小屋を見る。

一歩、近づく。なるほど。

「上か」

ぽつりと落とす。

「飛ぶからな」

「……!」

農夫が顔を上げる。

「天井の網を細かくしろ。隙間を減らせ」

「は、はい!」

すぐに動く。

網を見上げる。これで抜けられないはずだ。

「飛ぶ、か……」

小さく呟く。厄介だな。

数日後。

同じ場所。同じ顔。

「……逃げたか」

「は、はい……」

「……」

沈黙。

「どこからだ」

「……やはり分からず……」

エドワルドは小屋を見上げる。

網は張られている。隙間も無い。

それでも、逃げる。

……それでも抜けるか。低く漏れる。

顎に手を当てる。

なら——。一瞬、考える。

「屋根を付けるか」

完全に覆う。外へ出る余地を消す。

「……確かにですが……」

農夫が困った顔をする。

「外に出した時、飛び立ってしまいませんか?」

エドワルドの目が細くなる。

「……そうだな」

一拍。結局、同じか。

視線が落ちる。

「……そもそも」

ぽつりと漏れる。

「カモを“飼う”という前提が間違いか」

「……?」

農夫が戸惑う。

「飛ぶものを閉じ込める。それ自体が無理なのかもしれん」

腕を組む。思考が巡る。

「……面白い」

小さく笑う。

「逃げるなら」

一拍。

「逃げない形にすればいい」

「……?」

理解は追いつかない。だが、何かが変わる。

「……考え直すか」

視線が鋭くなる。

前提から、な。その言葉だけが残る。

数日後。

「エドワルド様」

レオンが声を掛ける。

「農夫から報告が」

「……何だ」

「カモの羽の一部を切ったところ、飛べなくなり——逃げなくなったと」

一瞬、静止する。

そして。

「……ふふ」

小さく笑う。

「なるほどな」

肩がわずかに揺れる。

「確かに、その通りだ」

「……?」

レオンは首を傾げる。

飛べるから、逃げる。ぽつりと落とす。

なら、飛べなくすればいい。

「前提を変える、か」

静かに息を吐く。

「見事だな」

短く言う。

「その農夫に銀貨を渡せ。礼だ」

「はっ」

レオンが頷く。

エドワルドは小さく笑う。

「こういう考えが、一番使える」

「……?」

まだ腑に落ちない様子。

「覚えておけ」

軽く言う。

「問題は、力で押さえるものじゃない」

一拍。

「形を変えればいい」

レオンは静かに頷いた。

「……」

風が吹く。小屋の中で、カモが静かに動く。

逃げない。

それだけで——全てが変わっていた。