作品タイトル不明
扱えない力
「——始めろ」
短い一声。それだけで、空気が張り詰めた。
並ぶ兵の手には、異様な長さの槍。
四メートル。通常の倍の槍。
それが横一線に揃う。
「構え!」
一斉に前へ突き出される。
エドワルドは動かない。ただ、見る。
「……届くな」
低く呟く。間合いが違う。
踏み込まずとも届く距離。
それだけで、圧が生まれている。
「前進!」
隊列が動く。一歩。また一歩。
槍の穂先が揃い、前へと押し出される。
最初の数歩は——問題ない。
むしろ、強い。
だが。
「——止まれ!」
号令。一斉に停止。その瞬間。
「構え直せ!」
「……っ!」
鈍い音。ガツン、と。
「あっ——」
槍同士が絡む。長さが、互いを邪魔する。
「間隔が詰まりすぎだ!」
「下げろ!」
「引け——!」
指示が飛ぶ。が、遅い。槍が絡む。抜けない。
隊列が歪む。
エドワルドは動かない。視線だけが動く。
「……続けろ」
短く落とす。兵たちは無理に体勢を整える。
「前進!」
再び動く。だが、先ほどの滑らかさは無い。
槍が重いし、長い。
それだけで、動きが鈍る。
「……遅いな」
明確だった。
「突け!」
号令。
「……っ!」
一瞬、遅れる。
踏み込みと、突きの動きが合わない。
穂先が揃わない。ばらつく。
「戻せ!」
引く。だが——
「ぐっ……!」
重い。長い。引きが遅れる。
次の動作に繋がらない。静かに、崩れる。
形が、流れが。
「……やめろ」
低い声。
「——中止だ」
すべてが止まる。
「……」
兵たちの荒い息。誰も口を開かない。
結果は、明白だった。
エドワルドは歩き、一本、槍を取る。
「……長いな」
軽く振るが鈍いし、重いし、動きが遅い。
だが——
「……届く」
そこだけは、変わらない。絶対に。
槍を地面に立てる。
ドン、と重い音。
「レオン」
「どう見る」
短い問い。
「……」
レオンは槍と兵を見比べる。
崩れた隊列に、乱れた間合い。
噛み合わない動き。
「……強い、とは思います」
静かに言う。
「ですが——扱えません」
「……だろうな」
即答だった。
「密集では使えない」
「はい」
「隊列が死ぬ」
「……はい」
エドワルドは槍を見下ろす。
「……だが」
小さく続ける。
「弱くはない。問題は、武器じゃない」
一拍。
「人間の方だ」
「……」
その言葉は、重かった。
「使い方が無い」
レオンが頷く。
「なら——」
エドワルドは槍から手を離す。
地に立つそれは、もはや“道具”ではなく——“未定義の力”。
「決めればいい」
視線が上がる。
「密集で使えないなら、散らせ」
「……!」
「間隔を取れ」
「突くな」
一拍。
「止めろ」
意味が、すぐには伝わらない。
だが——空気が変わる。
「壁を作れ」
低く、続ける。
「前に出すな。置け」
槍は“突く物”ではない。
“入らせない物”になる。
「……面白いな」
わずかに口元が歪む。
「使えない、か」
首を振る。
「違うな」
視線が鋭くなる。
「まだ“使っていない”だけだ」
誰も、言葉を返せない。だが理解する。
これは失敗ではない。途中だ。
「……もう一度やる」
背を向ける。
「今度は、やり方を変える」
風が抜ける。長槍が揺れる。
それはまだ——完成していない力。
だが確実に、“形”になり始めていた。