作品タイトル不明
量産の壁
工房の中央。木材の匂いと、削る音。
慌ただしく動く職人達の中で、クラウスは腕を組んでいた。
現状は、三割。まともに使える物は、それだけだった。残りは不具合。
詰まり。湿気による動作不良。噛み合わせのズレ。原因は見えている。
木材のばらつき。加工精度。
そして——構造そのものの無理。
「……」
クラウスは試作品を手に取り、軽く動かす。
一度で分かる。このままでは、増えない。
時間を掛ければ六割。だが——遅い。
人は足りない。
増やしても、技術が追いつかない。
資材も足りない。
良質な木材。金具。
カートリッジは消耗が激しく、歪む。
維持にも手間が掛かる。
「……」
指で机を叩く。
結論は明確だった。
作れない。配れない。維持も出来ない。
それで終わる話ではない。
「……いい」
クラウスは顔を上げる。
問題は、全て分かっている。
なら——潰すだけだ。
まず資材。
領内の良質な木材を優先的に回す。
遠方でも構わない。運ばせる。
足りなければ、建物を壊してでも確保する。
金具は専属化。
鍛冶を集中させる。他は後回し。
人は——増やさない。
増やせば質が落ちる。
ならば分ける。
工程を分解し、作業を限定する。
一人に一つ。確実に出来る事だけをやらせる。
分業。それだけで、精度は上がる。
「……」
空気が変わる。やる事が見える。
カートリッジは消耗品として扱う。
再利用に拘らない。
新しく作る前提で回す。
量を回すなら、そこを削るな。
「……」
クラウスは一つを持ち上げる。
完璧を求めるな。最低限、動く物。
それだけを揃える。
基準を下げるのではない。
目的を絞る。数を出す。
それが、今の答えだった。
職人達の目が変わる。
試作ではない。量産。
削る音。叩く音。組み上げる音。
流れが出来る。
「……」
クラウスはそれを一瞥する。十分だった。
「間に合わせろ」
短い一言。戦いは待たない。
その現実だけが、工房に残った。