作品タイトル不明
統治の重さ
「……セリユーも苦戦しておるか」
父は報告書から目を離さずに呟いた。
「はい。その様子でございます」
控えていた文官が答える。
「村の反発、依然として強く……訓練も一部で停滞しております」
「……そうか」
紙を机に置く。
「まあ、無理も無い……か」
静かに息を吐いた。
「私とて同じだ。民に理解させるには、時間が掛かる」
「……はい」
文官も頷く。
「ましてや今回は、“来るかも分からぬ脅威”です。なので実感が薄い」
「だろうな」
父は短く返した。
「だが——」
視線がわずかに鋭くなる。
「やらせねばならん」
「……」
「セリユーに、だ」
文官は言葉を挟まない。
「私が前に出れば」
父はゆっくりと続ける。
「余計な反発を招く」
「……はい」
「下手をすれば」
一瞬、言葉を止める。
「私は“征服者”だ」
部屋の空気がわずかに重くなる。
「今は食料を回している。だから抑えられているだけだ」
「……」
「それが無くなればどうなる」
文官は答えない。
答えは分かっている。
「反発は、私に向くそして——崩れる」
静かに言い切った。
「ふぅ……」
小さく息を吐く。
「中々に厳しい統治だな」
ぽつりと漏れる。
「……」
「嫌な言い方になるが」
父は椅子にもたれた。
「占領した方が、早い場合もある」
文官の肩がわずかに揺れる。
「……それは」
「分かっている」
父は遮った。
「分かっているが——」
目を閉じる。
「現実としてそういう場面もある。勝者と敗者」
ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「勝者は押し付ければいい。力で従わせる。敗者は従わなければ——」
言葉を止める。
それ以上は言わない。
目を開く。
「今回は違う」
低く言った。
「……はい」
「これは“支配”ではない。維持だ。立て直しだ。共に生かす形だ」
「……」
文官は黙って聞いている。
「だから厄介だ」
父は苦く笑った。
「押し付ければ早い。だが、それでは続かん。反発は残る。いずれ崩れる」
「……」
ゆっくりと前を向く。
「時間が掛かる。理解させる必要があるが時間は無い」
矛盾。
それをそのまま抱えている。
「……」
しばらく沈黙が続く。
やがて父は言った。
「セリユーに任せる」
「はい」
「奴は“この地の人間”だ。だから届く。私よりも、な」
「……承知しました」
父は窓の外を見た。
民は動いている。
日常は続いている。
「……この形は」
小さく呟く。
「初めてだ」
支配でもない。
放置でもない。
その中間。
「……だからこそ、難しい」
静かに言った。
「やるしかない」
その一言で、全てを押し切る。
統治とはそういうものだった。