作品タイトル不明
死都の中に
巨大な石造りの城ですら、半分崩れていた。
黒焦げ。壁は割れ、窓は溶け、塔は途中から折れている。
かつて王国の象徴だった建物は、今やただの瓦礫だ。
中庭に出る。
「……処刑台」
誰かが呟いた。一つじゃない。
いくつも。
急造の木台。縄。焼け焦げた柱。
血の跡が、黒く乾いて残っている。
「……民が、貴族を吊ったんでしょうな」
レオンの声は低い。
「逆もあったでしょうが」
復讐。報復。私刑。暴走。
命令も法も無い。統制なんて無い。
ただ感情だけ。
怒りだけ。
「……地獄だな」
エドワルドの口から、自然と零れた。
これは戦争じゃない。
崩壊だ。
文明そのものが壊れた跡だ。
剣で勝った負けたの話じゃない。
ただ、全部が壊れただけ。
胸の奥が、妙に冷える。
——もし、自分の領地で同じ事が起きたら?
南町が。曙町が。父が。兄が。
この処刑台に立つ光景が、頭をよぎる。
「……」
無意識に拳を握っていた。
その時。
ガサ……ガサ……
瓦礫の陰から物音。
「……!」
全員が同時に武器を構える。
「誰だ!」
反応はない。レオンが前に出る。
ゆっくり。慎重に。
そして、瓦礫の裏を覗き込んだ。
「……子供だ」
そこに居たのは、痩せ細った少女だった。
ぼろ布。泥だらけ。
頬はこけ、唇は割れ、目だけが異様に大きい。
後ろには、老人が二人。
互いに支え合うように座り込んでいる。
「……まだ、生きてたか」
エドワルドは小さく息を吐いた。
完全な死都じゃない。
まだ。
まだ、人が残っている。
「水を」
すぐに水袋を渡す。
少女は奪うように飲んだ。
喉を鳴らしこぼしながら震えながら。
「……よく、ここまで」
自然と漏れた言葉。レオンが小さく笑う。
「しぶといのが、人間です」
「ああ……」
本当にそうだ。国は死んだ。王も死んだ。
人はまだ生きている。それだけが、救いだった。
夕暮れ。灰色の空の下。
エドワルドは崩れた城壁の上に立ち、王都を見下ろしていた。
灰。瓦礫。静寂。
風が吹くたび、焦げた木片が転がる音だけが響く。
ここが。
かつて何万人も暮らしていた、王国の中心。
今は——ただの墓場だ。
「……これが、王国の末路か」
誰にも聞こえない声で呟く。
王も。貴族も。権力も。
一瞬で消えるし守れなければ。
全部、灰になる。
「……他人事じゃないな」
自分の領地も同じだ。少し歯車が狂えば。
少し手が遅れれば。同じ景色になる。
南町も。曙町も。父も。兄も。全部。
一瞬で。拳を強く握る。
「……絶対に、同じにはさせない」
誓いというより。祈りに近かった。
灰の都で。エドワルドは静かに立っていた。
王都は終わった。もう、王国は戻らない。
そして——
自分の戦いは、
「領地を守る」ではなく、
「世界の崩壊と戦う」段階に入ったのだと。
その事実だけが、はっきりと胸に残っていた。