作品タイトル不明
灰の都
王都へ向かったのは、夜明け前だった。
連れていくのは最小限。
レオン配下の精鋭五名。
元騎士団から二名。
そしてエドワルド自身。
「……少なすぎませんか?」
若い民兵が不安そうに言う。
「多ければ目立つ」
レオンが即答する。
「今回は戦じゃない。影だ。影になれ」
その一言で全員が黙った。
道中。
かつて“王都街道”と呼ばれた石畳は荒れていた。
荷馬車の轍は無い。商人の鈴の音も無い。
代わりにあるのは——
風の音だけ。
「……死んでるな」
誰かが小さく呟いた。
本当に、死んでいる様だった。
街道そのものが。
途中。
朽ちた荷馬車が一台。中身は空。
骨が、二つ。親子か。夫婦か。
もう判別もつかない。
エドワルドは視線を逸らした。
「止まるな。進め」
声が少しだけ低くなる。
立ち止まれば、飲み込まれる。
そんな空気だった。
昼前。
丘を越えた瞬間。それは見えた。
「……」
誰も声を出さない。
遠く。巨大な黒い塊。
王都。だったもの。
「……あれが」
民兵の一人が、喉を鳴らす。
「王都……?」
違う。
もう王都じゃない。
巨大な焼け跡だ。
城壁は崩れ。塔は折れ。
煙の跡が今も黒く残っている。
生き物の気配が、ない。
「近付くぞ」
レオンの声がやけに冷静だった。
門は、開いていた。破壊されていたし焼かれ蹴破られた痕跡。
「内側から……か」
「暴動でしょうな」
つまり、敵ではない。民が壊した。
王都は、外から落とされたんじゃない。
中から崩れた。その事実が、やけに重い。
中に入る。臭いが来た。
焦げた木、腐臭、灰。
そして——静寂。
「……静かすぎる」
本来なら、人の叫びや商人の声。
馬の嘶きに鍛冶の音。
それらが混ざり合って、うるさい程だった街。
今は。風が瓦礫を転がす音だけ。
コロ……コロ……やけに響く。
建物はほぼ全焼。屋根は落ち。壁は崩れ。
通りの真ん中には——
白骨。
数。十。いや、百。
途中で数えるのをやめた。
「……」
若い兵が吐いたが責められない。
エドワルドも、胃がひっくり返りそうだった。
「見るな」
短く言う。
「足元だけ見ろ」
「は、はい……」
城へ向かうが、いや。王城だった場所へ。