作品タイトル不明
静寂の先に何を見る
数日。
いや、体感ではもっと長く感じる。
報告が——来ない。
それが、これほど落ち着かないものだとは思わなかった。
元領主館の町。
臨時司令部の机に肘をつき、エドワルドは地図を睨んでいた。
赤い印。
偵察済みの村。
確認済みの町。
保護完了地点。
そして——その全てに同じ文字。
「無人」
「……また、何も無しか」
伝令が首を振る。
「はい。北西の二村、南側の小集落、全て人の気配はありません」
「そうか。ご苦労」
下がらせる。
扉が閉まる音が、やけに響いた。
あれから。偵察の報告は、変化がパッタリと無くなった。
敵も。野盗も。難民も。
何も来ない。
ここから偵察可能な村や町では——
全て、何も無し。
「……最早ここまでか」
ぽつりと漏れた。助けられる者は助けた。
拾える命は拾った。
地図の空白が増えていくほど、胸の奥が冷えていく。
これは「終わった」のか。
それとも——
「……もう、残っていないのか」
口にした瞬間、嫌な重みが乗った。
外を見る。町は落ち着いている。
炊き出しの煙。巡回する兵。子供の声。
最近では、襲撃も無くなった。
野盗も来ない。略奪者も来ない。
落ち着いたと言えば、落ち着いた。
「……静かすぎる」
レオンが隣で呟いた。
「嵐の後、って感じですな」
「後……か」
「前、かもしれませんが」
苦笑する。どちらでも同じだ。
嫌な予感しかしない。
椅子にもたれかかる。
「さて……」
天井を見上げた。
「この後、如何する」
保護は一区切りし防衛は整った。
兵も増えた。なら——
次は?
「このまま拠点化を進めるか」
「あるいは」
レオンが言う。
「もっと外へ出ますか?」
その言葉に、視線が地図の中央へ落ちた。
焼け焦げた印。
元王都。
「……遅まきながら、王都か」
口にするだけで重い。あそこは。
俺の記憶の中心だ。
処刑台。崩壊。終わり。
今は、もう何もない。ただの焼け殻。
「もしかしたら……」
無意識に呟く。
「まだ誰か、残っているかもしれない」
レオンは黙る。否定もしない。
肯定もしない。
「数万人が暮らしてた街だ」
声が低くなる。
「全員が死ぬなんて……そんな馬鹿な話、あるかよ」
希望か。未練か。自分でも分からない。
「行きますか?」
静かな問い。
エドワルドは、しばらく答えなかった。
窓の外。空。
煙はもう上がっていない。
だが、何かがまだ燻っている気がした。
「……確認しないと」
ゆっくり言う。
「俺の中で、終わらない」
レオンが小さく笑った。
「性分ですな」
「悪いか」
「いえ」
肩をすくめる。
「そうでなきゃ、ここまで来てません」
立ち上がる。地図に手を置く。
元王都へ伸びる道。
「小隊規模で行く」
「了解」
「戦闘目的じゃない。あくまで偵察と生存者確認だ」
「はい」
「だが——」
視線が鋭くなる。
「最悪、何があっても撤退優先だ」
あそこは未知だ。敵より怖いのは——
何も無い事かもしれない。
静寂の町。整った防衛。落ち着いた日常。
それでも。
エドワルドの胸の奥には、妙なざわつきが消えなかった。
「……終わったのか」
それとも。
「まだ始まってもいないのか」
答えを確かめる為に彼は、再び外へ目を向けた。