作品タイトル不明
鎖の重さと責任の重さ
朝の空気は冷たく澄んでいた。
元領主館の町――
臨時司令部の外で、エドワルドは地図を広げ、補給線と警備配置を確認していた。
コン、コン。
「エドワルド様」
振り向くと、レオンが立っていた。
「どうした?」
「捕えた野盗どもですが……」
ああ、と小さく息を吐く。
昨日の夜、偵察隊が捕まえた連中だ。
略奪の痕跡あり。逃げ遅れた民からも証言が出ている。
間違いなく“敵”だ。
「……保護民を近づけさせるな」
「確かに」
レオンが苦笑する。
「顔を合わせりゃ、感情が爆発しますな。石どころか、刺し違える奴も出るでしょう」
「そうだな」
助けた側と奪った側。
同じ場所に置けば、何が起きるか分かりきっている。
少し黙る。
「しかし……」
エドワルドは眉間を揉んだ。
「ただ牢に入れて飯を与えるのも癪だなぁ……」
「……」
「食料は余裕がある訳じゃない」
「はい」
「守るべき民の分を削って、野盗を養う理由は無い」
沈黙。
やがてエドワルドは言った。
「レオン」
「はっ」
「錘を付けた足枷を作らせろ」
「……足枷?」
「そうだ」
視線は地図のまま。
「野盗どもの足に付けさせろ。そして労働力として働かせる」
レオンの眉が僅かに上がる。
「宜しいのですか?」
「ただ飯を与える程余裕は無い」
淡々とした声だった。
「道の補修、瓦礫撤去、堀掘り、木材運び……いくらでも仕事はある」
「……」
「働けるなら働け。働けないなら食う資格は無い」
自分で言っておきながら。
胸の奥に、少しだけ引っかかる。
——昔の自分なら、こんな発想はしなかった。
「……エドワルド様がそう言うのなら」
レオンは小さく頷く。
「承知しました」
「ああ、頼む」
そして、付け加えた。
「きつめの仕事を与えてくれ」
「……はっ」
「これで少しは役に立てるだろう」
視線の先には、復興途中の町。
「迷惑かけた分、少しは自分達で取り戻せ」
それが罰であり。
同時に——最後の機会でもある。
「逃げれば?」
レオンが聞く。
「撃て」
即答だった。
レオンが苦笑する。
「厳しくなりましたな」
「……そうか?」
「前なら“更生させる”とか言ってましたよ」
少しだけ、言葉に詰まる。
確かに。
前は、もっと理想を語っていた気がする。
だが今は違う。
「理想だけじゃ守れないって、ようやく分かっただけだ」
静かに言った。
「守る側が潰れたら、全員終わりだ」
そのための線引き。
そのための冷酷。
「……」
レオンはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「嫌いじゃありません」
「何がだ」
「領主の顔になってきたってことです」
そう言って去っていく。
一人残されたエドワルドは、遠くで引きずられていく鎖の音を聞いた。
ガシャン……ガシャン……
重い音。足枷の音。
そして。
「……俺も、同じ鎖かもな」
小さく呟く。守るために選んだ判断。
だがその一つ一つが、少しずつ。
自分の足にも重く絡みついていく気がした。
鎖は、野盗だけのものではない。
——責任という名の鎖は、既にエドワルドの足にも巻き付いていた。