軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遅滞の牙、国境防衛線

「さて……では、如何するか」

地図の上に置かれた重石を指で弾く。

王都崩壊。隣国侵攻の可能性。

もはや仮定ではない。

「守る」では足りぬ。「削る」必要がある。

「両街道の森の中に伏兵を置く」

低い声で告げる。

集まった家臣たちが顔を上げた。

「一撃加えては後退を繰り返せ」

「……遅滞戦術、ですな」

グレゴールが頷く。

「ああ」

地図上の街道を指でなぞる。

「敵が進めば進むほど、森から矢が飛ぶ」

「姿は見えず、休めず、補給も減るし精神も削れる。戦う前に疲弊させる。それが狙いだ」

正面衝突は愚策。数では恐らく負ける。

ならば。

数を意味の無いものにする。

「街道の出口には各二箇所、野戦用の砦を築城させる」

「四砦ですか」

「ああ」

「伏兵で削り、最後にここで叩く!そこで初めて“本格的な戦”だ」

家臣の一人が唸る。

「……侵攻軍にとっては地獄ですな」

「その為の準備だ」

静かに言い切った。

「グレゴール」

「はっ」

「大人用……いや、最早軍用のクロスボウだな」

「あれを量産させろ」

「やはり来ましたか」

老臣が苦笑する。

「矢も大量に作らせろ。鍛冶場は昼夜問わず回せ」

「承知」

「そして、害獣対策クロスボウの取扱いに慣れた者を呼べ」

「国境の猟師や森番ですね」

「ああ。あいつらは既に“当てる技術”を持っている」

兵士より、よほど信用できる。

「軍用の訓練を念の為、行う」

「隊列射撃、交代装填、連射体制……ですな」

「国境兵にも装備させる」

「了解」

「国境兵は敵侵攻と同時に遅滞戦術を行わせる。森へ消え、撃って、消える。絶対に正面から戦わせるな」

「はい」

命令が次々と積み上がる。

もう完全に戦争準備だった。

「……クラウス!」

扉の外で待機していた男が入ってくる。

長身。鎧姿。

この家の長男。

「話は聞いておったな」

「はい、父上」

落ち着いた声。

既に覚悟は決まっている顔だった。

「二箇所の築城を命じる」

地図を指差す。

「この街道出口と、こちらだ」

「はい」

「半月以内に最低限の防御力を持たせろ」

「土塁、木柵、櫓、矢倉、全て揃えます」

「兵の宿営地と補給庫も忘れるな」

「承知」

「敵が来たら、ここが最前線だ」

「……必ず、食い止めます」

短い言葉。だが重い。父は小さく頷いた。

「解りました!直ちに行います!」

踵を鳴らし、クラウスは部屋を出る。

すぐに怒号と指示が飛び始めた。

もう動いている。

あの男は、そういう性格だ。

静かになった部屋。

グレゴールが呟く。

「……これで、しばらくは耐えられますな」

「ああ」

「だが“来ない”保証はない」

窓の外。遠い北の空。

「王が消えた国は、餌と同じだ」

誰かが必ず食いに来る。

「ならば」

拳を握る。

「牙を剥いて待つだけだ」

次男は東で戦い。

長男は西で砦を築く。

そして自分は、この領を支える。

「……忙しくなるな」

だが。その目は、どこか楽しげだった。

戦乱の時代。それでも。

この家は、まだ立っている。

そして簡単には倒れない。

国境に、静かに、牙が並び始めていた。