作品タイトル不明
救うための刃
「偵察隊、編成完了しました」
朝靄の残る町門前。
レオンが報告する。選ばれたのは二十名。
団員八、民兵十二。
多すぎず、少なすぎず。
見つかれば逃げ、戦える最低限の数。
「半日圏内、北東の町だったな」
「はい。地図上では“ベルド”と記されています」
「……“あった”町、だな」
「その可能性が高いでしょう」
軽口も出ない。皆、昨日の光景を見ている。
空の家。干からびた井戸。置き去りの玩具。
「生存者が居れば救助。敵が居れば排除。
無理はするな」
エドワルドは全員を見回す。
「必ず戻れ」
短い命令。それが一番大事だ。
「出るぞ」
門が開く。偵察隊は静かに町を出た。
道中は静かだった。静かすぎた。鳥も少ない。風の音だけ。
「……嫌な静けさですな」
レオンが呟く。
「ああ。生き物の気配が無い」
半刻ほど歩き。丘を越えた瞬間。
町が見えた。
「……」
誰も言葉を出さない。半壊していた。
家は焼け落ち、壁は崩れ、門は壊されている。煙は無い。
つまり——終わった後だ。
「……遅かったか」
「いや」
レオンが目を細める。
「門の前、足跡があります」
地面を見ると複数、しかも最近のもの。
「野盗か」
「十……いや二十以上」
「まだ居るな」
俺は頷く。
「二列警戒。音を出すな」
ゆっくり侵入する。
家の中は空。食料も家具も無い。
完全な略奪跡。
「胸糞悪いな……」
民兵の一人が呟く。
その時。
――ガタン。
奥の通りで音。レオンが手を上げる。
止まれの合図。影が動いた。
「……人だ」
三人。
剣と槍。粗末な装備。笑いながら袋を担いでいる。
盗品だ。
野盗。
「どうします?」
「……放置すれば、次の町が同じ目に遭う」
「ですな」
「やるぞ」
レオンが口角を上げる。
「久々の仕事だ」
次の瞬間。
――ダッ!
団員が一斉に飛び出した。
「なっ!?」
野盗が振り向く。遅い。
一人、喉に短剣。
一人、脚を斬られて転倒。
最後の一人が叫ぶ。
「て、敵——」
槍が腹に突き刺さった。
静寂。
「……終わりだ」
だが。
「まだです」
レオンが地面を見る。
「足跡、多い。巣があります」
「建物内か」
その瞬間。
――ギャアアア!!
悲鳴。
かすかに。
子供の声。全員の顔色が変わった。
「……生きてる」
俺は走り出していた。
「倉庫だ!あそこ!」
大きな石造りの建物。
扉の前に野盗が三人。
「中にまだ居やがるぞ!女は後だ!」
「開けろ!」
怒鳴り声。間に合う。
「突撃!」
今度は隠れない。真正面から叩く。
「なんだお前ら——」
レオンの剣が一閃。
首が飛ぶ。
団員が盾で叩き倒し、喉を突く。
民兵も必死に槍を突き出す。
恐怖より先に、怒りが動いていた。
「どけえええ!」
最後の一人を蹴り倒し。
扉を開けるが中は暗い。
臭い。この臭い。血と汗と飢えの臭い。
「……!」
壁際に。
老人。
女。
子供。
十数人。
痩せ細り、怯え、武器代わりの棒を握っている。俺たちを見て。震えながら。
「……来るな……」
「殺さないで……」
敵だと思っている。当たり前だ。
「違う!」
俺は剣を捨て、両手を上げた。
「助けに来た!」
沈黙。誰も動かない。
「……本当だ」
レオンが静かに言う。
「もう、終わった」
その言葉で。一人の子供が泣き崩れた。
張り詰めていた糸が切れたみたいに。
次々と。
嗚咽が広がる。
俺は奥歯を噛んだ。
「……間に合ったな」
レオンが頷く。
「ええ」
短く。だが確信を込めて。
「今回は、間に合いました」
町の外で。縛り上げた野盗が転がっている。
救助した住民を背負いながら歩く民兵たち。
さっきより、皆の足取りが強い。
戦った意味がある。
守れた。初めて。
「……悪くない初陣だな」
「はい」
レオンが笑う。
「やっと“軍”らしくなってきました」
遠くに、拠点の町の煙が見える。
帰る場所がある。守る場所がある。
そして。助ける相手がいる。
「次も行くぞ」
俺は前を見る。
「まだ、終わってない」
偵察はもう“戦場”になっていた。